もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
昼間は仕事と課題作り、夕方は小テストとお勉強、夜はマッサージと情報整理。
そんな風に過ごした一週間はあっと言う間に過ぎ、今日は第一回目の試験日。
朝一番の時間帯からのテストだけど、みんな眠そうな様子もなく気合いは充分。
後は思い切り実力を出せるように頑張って欲しい。
焦るとすぐ公式とか単語とかもやもやになっちゃうし。
“それじゃ、試験開始!”
先生の声に一斉にペンを取る三人。
ハナコさんは、うん。
二回目の試験前には話し合う機会も来るかな。
今回でみんなが合格点を叩き出したら後々まで引きずるエグい事になっちゃうけど⋯⋯まぁ、それは本人が選んだ結果だからとやかく言うまい。
私に出来るのはあくまでサポート。
本人が進む意思を持たないといくら足場を整えてもしょうがないからね。
そういう意味では、アズサさんとコハルちゃんの姿勢はすごく私好みだ。
与えられた知識をどんどん吸収して繋げていくアズサさんと、理解出来るまで反復して着実に一歩ずつ成長するコハルちゃん。
特にコハルちゃんは、同じ一年生だけど成長して喜んでいる姿にこっちまで嬉しくなってくる。
口ではツンデレなセリフを言うけど、性根が真っ直ぐで善性の人だから、私がどこかに落としてきたひたむきな眩しさを持っている。
それが羨ましくもあり、嬉しくもあるんだろう。
⋯⋯なるほど、ハナコさんがコハルちゃんを気に掛けているのはコレが理由か。
となるとあの仕草の原因は⋯⋯。
“そこまで、試験終了!”
物思いに耽っていたら試験が終わった。
みんなの答案を回収して先生の元へ。
みんな受かってるといいなぁ。
一先ずみんなを労う為、カバンに入れていた袋を取り出す。
「みんな試験お疲れ様♡ 今日は贅沢にガトーショコラを作ってみたよー♡」
「やったっ、フミのお菓子!」
「フミのお菓子は美味しくて、心があったかくなるから好き」
「このお陰でモチベーションが保ててる所があります!」
「いつも美味しいお菓子をありがとうございます、フミちゃん♡」
「よせやい♡ 照れちゃうぜ♡」
「これは本気でちょっと照れてる時の反応ですね!」
「解説するなー♡」
「きゃー♪」
「ふふっ、お二人は仲良しさんなんですね♡」
「い、いくら仲良しでもえっちなのはダメなんだからねっ!」
「そうなのか、コハル?」
「仲良しなのは良いけど、その、他の人がいる所でするのは犯罪なの! 家とかホ、ホテルとか、他の人が居ない二人っきりの所でなら、その、お互いに合意が有れば⋯⋯」
「ふむ⋯⋯えっちとはかくも難しいものなんだな。ありがとうコハル、また一つ勉強になった。コハルは一年生なのにすごい」
「そ、そんなに褒めても何も出ないんだから! ⋯⋯で、でも、ありがと⋯⋯」
あら〜♡
コハルちゃんとアズサさんのやり取りに思わずほっこりしちゃうね。
可愛い女の子を見ながらのケーキは最高でおじゃるな!
先生も腕を組んで満足げに笑っている。
さて、一同の緊張もほぐれたところで採点結果の発表だ。
第一回補習授業部本試験 採点結果
──阿慈谷ヒフミ:72点 合格
──白州アズサ :51点 不合格
──下江コハル :49点 不合格
──浦和ハナコ :04点 不合格
という結果になった。
点数は大幅に伸びたが、残念ながら不合格である。
それぞれが落胆の溜息をこぼす中、ハナコさんの額に一筋の冷や汗が流れていた。
今回は二人の点数が良いところまで迫ってたからね。
完全に分からなかった問題を運で突破していたら合格ラインに手が届いていた点数だ。
ともあれこれで補習授業部の合宿は決定。
第二回の試験はまた一週間後となる。
“結果は残念だったけど、みんなの点数は着実に伸びてるんだ。合宿でさらなる学力アップをして、二回目の試験を突破出来るように先生も全力でサポートするよ”
「さ、せっかくの合宿なんだし切り替えて行こー♡」
みんなを励ましつつ、荷物を持って一週間お世話になった空き教室を後にする。
向かう先はここから徒歩とトホホとスキップで一時間近く、トリニティ郊外に程近い場所にある、今は使われていない合宿所だ。
体育会系の学園の部活で使われてそうな、結構しっかりとした作りで敷地の広さも申し分ない。
利用に当たって最低限、水道や電気、ガス周りのチェックは行われていたらしく、それらの使用は問題なさそうだ。
代わりに全体的に埃っぽく、私達が荷物を部屋に下ろして最初にした事は窓を開ける事だった。
「寝具周りは綺麗になってて変えのシーツなんかもバッチリ用意されてますね」
「ええ、しばらく使われていない別館の建物と聞いていたので、冷たい床に裸で寝ないといけないのかと思っていましたが⋯⋯大丈夫そうで一安心ですね♡」
「はっ、裸っ!?」
「結構広いですし、ベッドも大きくて人恋しくなったら潜り込んでこっそりお話も出来ちゃいますね! 裸で♡」
「さっきからなんで裸を強調するのよ! ちゃんとみんなの分のベッドが有るんだから一人一つで良いでしょ! あとちゃんと服は着なさいよ!?」
鼻歌を歌ってご機嫌なハナコさんがコハルちゃんにちょっかいをかけながら部屋の中を見て回る。
真っ直ぐな反応で小さなボケも拾ってくれるので、ついつい刺さりに行っている。
思ってたよりも重症で構ってちゃんな子だねハナコさん。
「でもせっかくの合宿ですし、そういったお勉強もしてみたいと思いませんか? 邪魔の入らない合宿所で、密やかにしっぽりと⋯⋯♡」
「えっちなのはダメ! 死刑!」
「まぁ、今はまだ明るいですし、お楽しみは夜になってから、ですね♡」
「え、ちょっ、どどど、どういう意味よぉっ!?」
「あはは⋯⋯これから一週間みなさんで寝食を共にするんですから、仲良くやりましょう」
「なっ、仲良くヤる!? えっちなのはダメだから!」
「うーん、コハルちゃんが思春期♡」
ここ一週間で結構打ち解けたのか、最近はハナコさんの意味深なセリフにコハルちゃんがツッコミ、ヒフミンが宥めつつ話を進めるのが定番になってきた。
そうなるとアズサさんがコハルちゃんに今のは何がどういけなかったのか質問して、コハルちゃんが恥ずかしがりながらも解説をしてくれるんだけど、そのアズサさんの姿が見えない。
ヒフミンもそれに気が付いたようで部屋をキョロキョロと見回している。
「あれ、アズサちゃんはどこに⋯⋯?」
「ただいま、ヒフミ。偵察完了した」
「おかえりなさいアズサちゃん♪ 偵察、ですか?」
ひょこっと入口から出てきたアズサさん。
愛銃を片手に真剣な表情で報告する姿に、思わず聞き返すヒフミン。
「うん、トリニティ本校舎からここまではかなり距離が離れているし、流石に狙撃の危険は無さそう。外からの入り口が二つだけというところも気に入った。いざという時は片方の入り口を塞いで、襲撃者達を一階の体育館に誘導した上での殲滅戦が有効になるかな」
「流石アズサさん♡ 脆くなっていたり、外側から侵入出来そうな窓は有りました?」
「全館回ってチェックしてきた。数カ所脆弱なところを発見したが、簡単な処置で何とか出来そう。入口や合宿所周囲の進入路には簡易な鳴子を設置したし、誰かが近付いてきてもすぐに分かるようになってる。本当はブービートラップも仕掛けたかったけど、先生を巻き込んでしまう危険が有ったからやめておいた」
「しっかりとせんせーの事を考えててえらい♡ そんなアズサさんにはマカロンをあげちゃいます♡」
「良いのか? ⋯⋯やった♪」
いつものように袋からマカロンを取り出して差し出す。
受け取ったアズサさんはそれまでのキリッとした顔から年相応、いやそれよりも幼く見える可愛らしい笑顔でマカロンを味わった。
やん、可愛い♡
みんなもお掃除前にお一つどうぞ♡
「お掃除前ですか?」
「そそ。なんだかんだ埃も溜まってるし、これから一週間過ごすんだからキレイな場所にしておきたくない? それに館内の様子なんかも把握しておかないと、夜中トイレに起きた後で迷子になっちゃうかも♡」
「それは確かに。迷ってフミちゃんのお部屋に突撃しちゃうかもしれませんし!」
「あんたは迷わなくても突撃してくるでしょ♡」
「てへぺろろ様♪」
「さり気なく混入させるな♡」
「が、合宿中は二人でもえっちな事しちゃダメなんだからね! 禁止!」
「えっちなの禁止だってヒフミン♡」
「添い寝はセーフですよね?」
「どう思うコハル裁判長♡ 多分脚絡めてすりすりちゅーしてくるけど♡」
「あ、脚を絡めてすりすり!? ちゅー!? だっ、ダメよっ! えっちすぎるわ! 禁止ーっ!」
「ええっ、そんなぁ!?」
“あはは⋯⋯私とフミはそれぞれ斜向かいの部屋で寝起きするけど、何か用事があったら訪ねてきて良いからね。添い寝はしてあげられないけど”
「それじゃ荷解きが終わったら汚れても良い服、まぁ体操着辺りに着替えて玄関前に集合で♡ ほらせんせ、私達もお部屋に荷物置きましょ♡ それともここでみんなの生着替えを見守るつもり?」
「あらあら♡ 私は構いませんが⋯⋯♡」
「は、早く出て行きなさいよーっ!?」
“おっと、バレてしまっては仕方がない! スタコラサッサだ!”
「あはは⋯⋯」
「先生は私達の着替えが見たかったのか?」
賑やかになる部屋を後にして私達も自分の部屋へ。
こちらは教員用だろうか、一人部屋ではあるけど普通に広くて豪華だ。
観光用のお高い一人部屋って感じ。
これは持て余しそうだなぁと思いつつ、荷物を置いて部屋の設備を眺めていると、ふと違和感が。
壁に固定されている鏡台の、光の加減が少し違和感。
んー⋯⋯あっ、なるほどなるほど♡
先生にモモトークを飛ばしてから、鏡台の前で横を向きゆっくりと着替えだす。
制服の上着を脱いで、ブラウスのボタンを一つずつ外してベッドの上にぱさりと落とす。
続いてスカートのジッパーを下ろして脱ぎ、下着姿に。
今日は黒のシースルーのブラとフリルが付いた黒紐パン。
先ずはブラを外してギリギリぽっちが見えない角度になるようにして、ブラをベッドの上へ。
そのまま紐パンの結び目を解き、ぱさりと足元へ落とす。
拾い上げてベッドに置き、ぐぐっと背筋が伸びるポーズを取って鏡台から全身が良く見えるように。
バックから着替えを取り出しつつ、鏡台へ向けてお尻を左右にふりふり。
黒のシンプルなショーツとスポーツブラを、ちょっと時間を掛けて履く。
その上に白のTシャツと赤のブルマを着て準備完了。
スマホで先生に『布を掛けて鏡を隠しておいてね♡ みんなには連邦生徒会からの連絡をチェックしてる、って言っておくから♡』とモモトークで送り、玄関前へ向かう。
「みんなおまたせー♡」
「遅いわよ、フミ」
「先生はご一緒ではないんですか?」
「連邦生徒会から連絡が来てたみたいで、チェックしてから来るそうです。先にみんなでお掃除始めちゃいますか♡」
「わかった。まずはどこから始めようか?」
「最初は玄関から、廊下、階段、各部屋、体育館とやっていきましょうか。掃除が終わった部屋は一度扉を開けておいて目印にするのはどうですか?」
「良いアイデアですハナコさん♡ 早速始めましょうか♡」
「頑張りましょう!」
「「おー!」」
「おー♡」
「ふふ、おー、です♡」
みんなちりとりや雑巾、モップを片手にやる気充分。
早速掃除を始めていくとあっと言う間に雑巾が黒くなっていく。
バケツに水を入れて用意してあるけど、この分だと数回は水を変えないとダメかも。
箒で石ころや葉っぱを外に出しているとようやく先生が現れた。
普段のスーツ姿から、上下緑色のジャージになってる。
うーん、消臭剤の香り♡
嬉しい♡
先生に使ってもらえた♡
“おまたせ、みんな”
「先生、遅いわよ!」
“ごめんごめん、ついでにトイレにも行ってたから。男子用トイレは無かったから来客用のトイレを使ったけど、みんなはそのまま宿舎側のトイレを使えるようにね”
「あっ、そこまでは気が回りませんでした。お手数をお掛けします、先生」
“いやいや、大丈夫だよハナコ。さて、私は何をしたら良いかな?”
「それじゃせんせーには電灯回りの乾拭きや棚の上とかの高いところをお願いしちゃいます♡」
“おっけー、任せて! ⋯⋯それはそうと、みんな体操着姿もステキだね、思わず見惚れちゃうよ。あとハナコはそれ下にちゃんと水着着てるんだよね⋯⋯?”
「あ、あはは⋯⋯先生とフミちゃんが来る前に、コハルちゃんのチェックが入ったので大丈夫です」
「しっかりチェックしたから大丈夫よ! 私がいる間はえっちな格好なんてさせないんだから!」
「あら♡ 先生は何も着ていない方がお好みでした?」
“水拭きとかで濡れちゃうかもしれないから、風邪を引かないか心配でね。今日も温かいとはいえ、女の子があまり身体を冷やしたらダメだよ?”
「あら⋯⋯ふふ、はぁい♡」
“さ、頑張って綺麗にしようか!”
意気揚々と雑巾を手に掃除を始めるせんせーに近付いて、そっと囁く。
「せんせー♡ 私の身体どうでしたか♡ せんせーが望むならいつでもどこでも、好きなだけ触って弄って良いんですからね♡ もちろん、寂しがり屋さんですぐに涙で濡れちゃう私のお口に、せんせーの大人みるくをいーっぱい♡ とぷとぷ♡ とぷとぷ♡ って注いで頂いても構いません♡ 私はせんせーの雌、ですから♡」
“⋯⋯シャーレに戻ったら、たっぷりお仕置きだよ”
「にしし、楽しみにしてます♡」
ふぅ、と一息吐いて汗を拭う。
大方は掃除し終えたと思う。
玄関、廊下、各部屋、教室代わりの会議室、キッチン兼食堂、体育館、ロビー、大浴場、そして合宿所周囲の草むしりも終えた。
大きなゴミや埃を私が掻き集め、ヒフミンが汚れやカビにシュッとスプレー、ハナコさんが丁寧に磨き上げ、最後の乾拭きをコハルちゃんとアズサさんが担当。
先生はみんなの手が届かない所や頑固な汚れ、現れた虫なんかの対処をやってくれた。
驚いたコハルちゃんが抱き着いてきたので全力で撫でて落ち着かせたら、なんだか懐いてくれた気がする。
ははぁん、ツンデレ?
「だいたい綺麗になりましたかね?」
「うん、ぴかぴかになったと思う。周囲の草も無くなったし玉砂利も敷いたから侵入者対策もしやすい」
「コハルちゃんもお疲れ様♡」
「うん、ありがとフミ」
「あらあら、まだ一箇所残ってますよ♡」
その言葉にみんなでおやっと首を傾げる。
はて、やり忘れた場所はあったかな?
ハナコさんは楽しそうに微笑みながら答えを告げる。
「屋外プール、です♡ あとはそこだけなので、せっかくですし全部綺麗にしちゃいませんか?」
「そう言えばプールもあるんでしたっけ」
ハナコさんに連れられてみんなで移動。
合宿所の裏手、フェンスが巡らされたその奥へ向かうと競技練習にも耐え得る立派な大きさのプールがあった。
けど、プールの浴槽もプールサイドも汚れやら生い茂った植物やらで埋め尽くされていた。
風で飛んできたのかそこそこ大きな木の枝もあり、いっそ火炎放射器で薙ぎ払った方が早いんじゃないかと思うほどの荒れ具合。
「だいぶ大きいな、それに汚れもひどい。掃除するにしてもどこから取り掛かれば良いのか⋯⋯いや、そもそも補習授業の内容に水泳は無かったはず?」
「関係ないなら放置でも良いんじゃないの? 無理して掃除しなくても」
「いえいえ、良く考えてみてくださいコハルちゃん♡」
荒れ放題のプールを前に、ハナコさんは両手を広げて思いを馳せる。
「キラキラと太陽の光に輝き夏色の宝石に染まった水いっぱいのプール、笑顔と楽しさで溢れる合宿、はしゃいで水を掛け合い追いかけっこをする生徒達⋯⋯ほら、なんだか楽しくなってきませんか?」
「え⋯⋯? なに⋯⋯? 分からない、何か私に分からない高度な話をしてる? 考古学?」
「ンフッ」
ハナコさんの語る楽しげな想像を考古学と判断したコハルちゃんに、ヒフミンが耐え切れずに噴き出した。
夏の青春は人類史に埋もれていた⋯⋯?
アズサさんはイマイチ良く分かっていないのか、ツボに入ったヒフミンを不思議そうに見ている。
コハルちゃんが本気で分かっていないのを悟り、ハナコさんは先生に水を向けた。
「いかがですか、先生♡ 可愛い生徒達が水着姿で戯れる光景、見てみたくは有りませんか?」
“みんなが楽しんでいる姿は、見たいかな”
「うふふ、そう言って頂けると思っていました♡」
「でもまぁ、ハナコさんの言うようにせっかく綺麗にしたのにここだけ放置っていうのは、ちょっと気が引けますね」
「ふぅ、ふぅ⋯⋯た、確かにこうして放置されてしまったプールを見ていると、どこか物悲しい気持ちになるのも分かります」
「これだけのサイズだし、昔は授業や休憩時間にも使われていた時期もあったんだろう。⋯⋯元々はそうした楽しげな声に包まれた場所だったのかもしれない」
どこか寂しげに呟くアズサさん。
足元には掠れたロゴが印刷された浮き輪の破片が枯れ葉の下に埋もれている。
ビート板の欠片や割れた水泳メガネなんかもちらほら見付かり、ここで流れ、過ぎて行った年月の長さを静かに物語っていた。
「それでもこんな風に変わってしまう。⋯⋯vanitas vanitatum」
「え⋯⋯?」
「それが世界の真実なのかもしれない」
「古代の言葉ですね。全ては虚しいものである、確かに、そうなのかもしれません」
「栄枯盛衰諸行無常、ですねぇ」
どこか寂しそうに視線を落とすアズサさん。
この光景に思う所があるのだろう。
⋯⋯私はそれよりも、その
「⋯⋯それでも」
「アズサちゃん⋯⋯?」
「それでも、例え全てが虚しくても、最善を尽くさない理由にはならない。私は、そう信じてる」
「⋯⋯やん♡ アズサさんカッコいい♡」
力強さを感じる言葉。
真っ直ぐな目でそう言葉を締めたアズサさんに後ろから抱き着く。
「フミ、ちょっと重い」
「せんせー曰く、幸せの重みらしいですよ♡」
「えっ、先生どういう事!?」
“身体を預けてくれるくらい仲良くなった証とも言えるからね。それだけ誰かに信頼されている、って分かるのは幸せな事だよ”
「そ、そっか⋯⋯じゃあ無罪⋯⋯?」
「なるほど、そういう捉え方があるのか」
「コハルちゃんも乗ってあげよっか?」
「わっ、私は別に⋯⋯!?」
「うふふっ、コハルちゃん、アズサちゃん、フミちゃん、ヒフミちゃん!」
呼び掛けに、みんながハナコさんを見る。
ハナコさんは笑顔を浮かべて、楽しげに提案した。
「みんなで遊びましょう!」
「え、ええっ!?」
突然の提案に困惑の声を上げるヒフミン。
勉強という名目で合宿に来たのに、いきなり遊び始める訳にはいかない。
基本的には真面目なヒフミンの事だからそんな風に考えているのかもしれない。
いや、ペロロが絡まなければ真面目ではあるのよ。
ちょっと普通とは言えないくらいにやる事が派手だったり極端だったりするだけで。
「今から掃除をして、プールに水を張って、みんなで一緒に飛び込んだりしましょう!」
「ハ、ハナコちゃんっ? 私達はここへ勉強をしにやって来ているんですよ?」
「そうですね。ですが今日は掃除でみんなお疲れですし、このまま勉強しても効率は良くありません。逆に言えば、今日が最後のチャンスなんです。明日からは毎日試験に向けて勉強の日々が続きます。なので、やるなら今日しかないんですよ!」
「ハナコ、何をするんだ?」
「それはもちろん、合宿の思い出作りですっ♪ せっかくみんなとこうして一緒に集まれたんですから、勉強だけじゃなく楽しい思い出も欲しいんです!」
その言葉に、みんなは感じ入るものがあったようだ。
真っ先に賛成したのはアズサさん。
「うん。もしかしたら、こうやってみんなと集まる機会はもう無いのかもしれない。もしそうなら、今この瞬間を逃してしまうのは──もったいない、と思う」
「⋯⋯そうね、勉強ばっかりじゃ疲れちゃうし、せっかくの合宿だもの! 楽しい事だってしたい!」
「ええっと⋯⋯先生⋯⋯?」
コハルちゃんも続いた事で、ヒフミンは良いのかなとおろおろして先生に視線を向ける。
ゲリラライブで試験ブッチしたクセに、ホント変な所で真面目なんだから♡
そーゆーところが好きなんだけど♡
“これまでの頑張りで合格点は十分狙える位置にあるし、元々余裕を持って予定を組んであるから、一日くらいなら大丈夫だよ”
「な、なら⋯⋯?」
“その代わり、明日からはちゃんと頑張ってもらうよ。先生とのお約束”
茶目っ気たっぷりにウインクして見せる先生。
もうカッコいいんだから♡
「だってさ、ヒフミン♡ 諦めて大人しく私が持ってきた金のマイクロビキニに着替えて掃除するよ♡」
「うぅ、そうですね⋯⋯ん? え? いやいやいやいや!? 何ですか金のマイクロビキニって!?」
「普通のスク水とは別にせんせーが喜ぶかなって持ってきたやつ♡」
「あらあら♡ ヒフミさん、随分と刺激的な格好になるんですね♡」
「き、金のマイクロビキニ!? えっちなのはダメっ、死刑!」
「コハル、マイクロビキニとはどんな水着なんだ?」
「うぅっ、その、布面積がすごく少なくて、む、胸が半分以上見えちゃうくらいの⋯⋯」
「それはもう下着⋯⋯いや、下着よりも防御力が低そうだな。ヒフミはそれを着るのか」
「着ませんっ! もう、フミちゃんっ!」
「着ない!? 全裸はもっとダメ! ヒフミのえっち!」
「普通のスク水を着ますよ!?」
「えー♡ せんせーも見たいですよね?」
“そりゃもう”
「即答しないでくださいっ!?」
「先生もダメ! えっちなのはダメーっ!」
「マイクロビキニを着ても着なくてもえっち⋯⋯なるほど、つまりヒフミは何もしなくてもえっちなんだな」
「アズサちゃん!?」
「⋯⋯うふふ♡」
“お、良いねハナコ。普段の落ち着いた様子と違って、今のハナコの笑顔もすごくステキだったよ”
「⋯⋯先生はお世辞も上手なんですから」
“本心だよ。見惚れるところだった”
「⋯⋯も、もう⋯⋯♡」
わいわいがやがやと、プールサイドに喧騒が戻る。
楽しげな声を残して全員水着に着替え、プール掃除に取り掛かる事になった。
それとマイクロビキニは今度先生と二人っきりの時に着て上げる約束をした。
これは先生陥落の日も近い♡
ところでさり気なくハナコさん口説いてたけど、やっぱり先生って女誑しなのでは?