もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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二十一話目

 コハルちゃんと手を繋いで一時間ほどの距離を移動。

 先生は額に汗を浮かべていたけど、私達はまだまだ元気いっぱい。

 タオルと水筒に淹れたスポーツドリンクを渡しておいたけど、帰りはいっそ背負って行こうかな?

 

 

「大丈夫、せんせ?」

 “ふぅ、ふぅ、老骨には堪えるわい”

「そんなお爺ちゃんじゃないでしょ先生。日頃運動不足なんじゃない?」

 “つい最近までデスクワーク中心だったからね⋯⋯ふぅ、自転車でも持ってくれば良かったかな?”

「もう少し手軽に持ち運び出来る移動ツール、今度エンジニア部に頼んでみましょうか♡」

「あんまり先生を甘やかしちゃダメよ、フミ!」

「にしし♡ よく言われる♡」

 “フミには色々甘えちゃってるからね⋯⋯”

 

 

 もう、と唇を尖らせるコハルちゃん。

 そんな彼女に身体を近付けて、先生には聴こえないくらいの声量で話し掛ける。

 

 

「で、コハルちゃん♡」

「なによ、小声で急に?」

「あぁいうえっちな本、興味ある?」

「なっ⋯⋯!?」

 

 

 慌ててぱっと振り向き先生の様子を窺うコハルちゃん。

 先生はちょっと首を傾げて微笑みを返す。

 気付いていないフリだ。

 いくら小声とはいえ周囲には誰も居ないのだから、聴こえてて当然。

 ハンドサインで先生には《ナイショ♪》と送ってあるのでコハルちゃんとの会話には反応しないようにしてもらっている。

 

 

「⋯⋯な、何を言い出すのよっ」

「いやぁ、コハルちゃんだから話すんだけどね。あっ、他の三人やせんせーにはナイショだからね?」

「う、うん⋯⋯私だけ⋯⋯」

「そーそー♡ コハルちゃんだけ♡ 実はね、私もいくつかえっちな本、持ってるの」

「えっ、そうなの?」

「うん、でもあまり大っぴらには言えないじゃない? だからナイショにしてたんだけど⋯⋯コハルちゃんは押収品とかで見た事もあるだろうし、もしかしたらこっそりお話出来るかなって♡」

「そっか⋯⋯で、でも、えっちなのはダメよ⋯⋯?」

「もちろん、みんなの前で読んだりはしないよ。こっそり誰も居ない時に楽しんでるの。人に迷惑をかけないように楽しむんなら、どんな趣味が有っても良いと思うし♡」

 

 

 私の言葉にコハルちゃんは考え込むように俯いた。

 歩く速度を落として歩幅を合わせていると、本当に小さな声で尋ねてくる。

 

 

「⋯⋯その、えっちな事に興味が有っても、良いのかな⋯⋯?」

「私達の年齢なら、普通の事だよ。だから押収品にもそういう本があったりするんじゃないかな? みんな興味はあるけど、恥ずかしかったりダメだと思って隠してるの。でも、興味を持つのは自然な事。悪い事じゃないんだよ♡」

「⋯⋯そっか、そうなんだ」

 

 

 コハルちゃんの顔から曇りが晴れる。

 これまで興味は有っても羞恥心や道徳心から強くダメだと思い込んで、他人だけじゃなく自分の心にも強い戒めを科していたんだろう。

 でも、それ自体は悪い事じゃないと言われて少し心が軽くなったみたい。

 コハルちゃんに見えない角度で親指を立てると、先生もこっそりウインクを返してくれた。

 

 

「それで、もしコハルちゃんが良ければなんだけど、今度私の持ってるコレクションを一緒に読んでみない?」

「フミのを、い、一緒に?」

「こういう話が出来る友達ってなかなか見付けられないから、ぜひコハルちゃんと一緒に♡」

「⋯⋯うん、私も、人には言えなくて、でも話はしてみたくて、なんかもやもやしてたから」

「じゃあ、約束だね♡」

「ち、ちなみにどんな系統のやつなの⋯⋯?」

「んー、最近のお気に入りは《教師と生徒の秘密のレッスン、放課後の個人授業編》かな♡」

「ほっ、放課後の個人授業⋯⋯!?」

「そうそう♡ 生徒が教師の膝の間に座ってね、後ろから問題の解き方を教えてくれるんだけど」

「ごくり⋯⋯」

「間違えたら胸の周りをゆっくりとなぞってゾクゾクさせられちゃうんだけど、正解したら胸のぽっちを摘んでくりくり弄ってくれるの♡」

「はぅ⋯⋯! え、えっちだわ⋯⋯!」

「そして小テストをするんだけど、もし満点を取れたら⋯⋯」

「と、取れたら⋯⋯?」

「その生徒が満足するまで、いっぱい幸せを注ぎ込んでくれるの♡ 後ろからぽっちをくりくりしながら、たくさんとぷとぷって♡」

「ひゃわわ⋯⋯えっちすぎるわ、死刑⋯⋯いや、もう主文後回しよ⋯⋯!」

「主文後回しは強い♡ 先に説教が入るやつ♡」

 

 

 そんな雑談兼猥談を交わして歩いていくと、ようやく正義実現委員会本部が見えてくる。

 おっと、そろそろ取り繕わないと♡

 後ろで先生も頻りに《フミさん?》のサインを送ってきている事だし。

 という訳で無事到着しました正義実現委員会本部。

 ついこないだみんなを迎えに来たばっかりなのに、なんだか懐かしく感じちゃうね。

 まだ残っている生徒も居るらしく、普通に人の出入りがある。

 

 

「あれ、コハルちゃん?」

 

 

 コハルちゃんと同じ、正義実現委員会の制服と帽子を付けた子が話し掛けてきた。

 私と同じくらいの身長で、黒髪ぱっつんロングの可愛らしい女の子。

 ちょっと眠そうな目と右目の小さな泣き黒子が印象的。

 一瞬びくっとするも知り合いだと解ったのかすぐに落ち着いたみたい。

 

 

「久し振りね、チハヤ。元気?」

「うん、元気だよー。コハルちゃんも元気そうで良かった。ええっと、隣の子と後ろの人は?」

 “初めまして、シャーレの先生だよ”

「初めまして、連邦捜査部シャーレ所属、一年の脇野フミです。よろしくね♡ コハルちゃんとはお友達になりました♡」

 

 

 握ってた手を掲げると、コハルちゃんはすっかり忘れていたのかわたわたとし始めた。

 でも手は握っていてくれるの嬉しい♡

 好き♡

 

 

「わ、シャーレの先生とプリンの人! いつもありがとうございます!」

「どういたしまして♡」

 “やっぱり認知はプリンの人なんだね”

「えへへ、プリンもサンドイッチも毎回すごく美味しくて一人一つまで、って取り決めがあるくらいなんですよ♪ あ、私は正義実現委員会弾薬管理係の一年、掛藤(かけふじ)チハヤです!」

「よろしくチハヤちゃん♡」

「はい! よろしくお願いします♪」

「そうだ、私の荷物に押収品が紛れ込んでて、気付いたから保管庫に収めようと思って持ってきたの。補習授業部に所属してる間は正義実現委員会の活動は控えるように言われてるけど、押収品持ったままってのもなんか気が引けちゃって」

「あー、そうだったんだ。そういう事なら先輩方も良いって言ってくれるよ! ささ、おもてなしは出来ませんがどうぞー♪」

「ありがと、チハヤ!」

 “ありがとうチハヤ。今度また何かお土産持ってくるね”

「リクエストがあったら教えてね♡ あ、これ私のモモトーク♡」

「え、リクエストして良いんですか! やったー♪」

 

 

 チハヤちゃんに案内されて受付横の扉を通り、二階奥の押収品管理室と書かれた部屋に到着。

 一応管理の都合上、私と先生は外で待機。

 コハルちゃんが中に入っていくのを見届けて、早速チハヤちゃんと交流。

 

 

「ではお近付きのしるしにコレを♡」

「わ、クッキーの詰め合わせですか!?」

「うん、暇を見て作ったやつ♪ チョコチップとかドライフルーツとか色々入れたから、もしアレルギーの子が居たら注意してあげてね?」

「はい、ありがとうございます♪ ⋯⋯バレないうちに一個食べちゃお♪」

「にしし、お主もワルよのう♡」

「いえいえ、お代官さまには敵いませぬ♪ わぁ、美味しいー♪」

 “キヴォトスにもそのお約束あるんだ⋯⋯?”

 

 

 思ったよりノリが良いよチハヤちゃん。

 先にこっそり一個食べちゃうイタズラっ子なところも可愛くて好みのタイプ。

 追加でダイスチョコの袋もあげちゃおう。

 

 

「チハヤちゃん可愛いからもう一つサービスしちゃう♡ こっちはダイスチョコで、中身はナッツ類だからこれもアレルギーの子が居ないか気を付けてね?」

「わぁ、ありがとうございます♪ ホワイトチョコでサイコロの目が描いてある! おしゃれー♪」

 “えっ、それ私もまだ食べた事無い”

「にしし♡ チハヤちゃんには特別♡ 案内のお礼って事で♡」

「えへへ⋯⋯フミさん優しいー♪」

 

 

 ほんわかまったりとしていると、扉を開けてコハルちゃんが出てきた。

 無事にミッションは完了したらしい。

 と、階段を登ってくる足音が一つ。

 

 

「おや、チハヤ? それに先生にフミさん、コハルまで⋯⋯どうかされましたか?」

 

 

 やってきたのはハスミさんだった。

 見回りの帰りなのだろう、額にはうっすらと汗を搔いていた。

 

 

「ハスミさん、やほやほー♡」

 “やぁ、ハスミ。今日もお疲れ様”

「ハスミ先輩、お疲れ様です! 見てください、差し入れもらっちゃいました♪」

「あら、ありがとうございます。後でみんなで頂きましょうか。それはそうと、コハルも連れて何故こちらへ?」

「えっと、私の私物に紛れて押収品が入っていたんです。流石に押収品を持ったまま行動するのはマズイと思って、今しがた管理室に収めてきました」

「なるほど、それなら致し方ないですね。むしろ勉強で忙しい中、押収品の管理の為に来るとは、えらいですよコハル」

「あ⋯⋯えへへ、はい!」

 

 

 褒められたコハルちゃんはちょっと照れた顔で喜んだ。

 でも理由を言う時にこっそり私の袖を握ってきたので可愛いポイントをプラスしておこう。

 

 

「そうだコハル、少し時間をもらっても?」

「えっと、はい! 行ってきて良いですか先生?」

 “うん、まだ時間もあるし、ゆっくり話してきておいで”

「ありがとうございます先生。それでは少々コハルをお借りしますね」

「じゃあ先生、フミさん! 私達は待機室で待っていましょうか! 帰ってきたみんなにも紹介したいので♪」

「おっけー♡ 行こっか、せんせ♡」

 “それじゃお邪魔しようかな”

 

 

 という訳で再びコハルちゃんと別れて待機室へ。

 何人か椅子や机にもたれてぐてーっとしていたけど、私達の姿を見て背筋を伸ばした。

 

 

「先輩方は⋯⋯今は居なさそうですね。では、控えい控えい、こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くもシャーレの先生と、プリンの人こと脇野フミさんにあらせられるぞ!」

「えっ、先生!?」

「リアルプリンの人!?」

「あっ、チハヤがクッキーの袋持ってる!」

 

 

 わいわいがやがやと賑やかになる待機室。

 あっと言う間に取り囲まれて、私はお礼攻めに、先生は質問攻めにあった。

 みんな勢いがすごい♡

 取り敢えず纏まらないので一人ずつ先生に質問して頭を撫でてもらい、次に私の所へ来てお礼を言いお疲れ様とハグしてもらい、最後にチハヤちゃんからクッキーかダイスチョコを選んでもらう事とした。

 待って♡

 知らない間に先生の撫で撫でと私のハグが追加されてる♡

 まぁ別にウェルカムなので順番にむぎゅむぎゅ。

 正義実現委員会に所属している子は、逆恨みした違反者達が徒党を組んできても返り討ちに出来るような実力者以外は、出来るだけ容姿を揃えて個人への仇討ちを回避しているらしい。

 なので黒髪ぱっつんロングの子は結構多い。

 それでもこうしてハグしてみると、結構個人差というかそれぞれ個性が分かって楽しい。

 あ、この子は照れ屋さんだね。

 お、こっちの子は積極的に抱き着いてくる。

 あんっ、この子はイタズラっ子ね♡

 返り討ちに首筋ちゅー♡

 そんな風に捌き切り一息吐いた所でコハルちゃんが帰ってきた。

 様子を見るに叱責とか訓告とか、そういうネガティブな事では無かったようで一安心♡

 

 

「おまたせ、先生、フミ」

 “おかえり、もう良いのかな?”

「ええ、大丈夫。用事も済んだし戻りましょ」

「コハルちゃん帰っちゃうのかー」

「気を付けてねー」

「今度はちゃんと一年生用受けてね?」

「ばいばいコハルちゃん」

 

 

 帰ろうとしたらみんな見送りに来てくれた。

 良い仲間じゃないコハルちゃん♡

 私も手を振って挨拶し、元来た道を辿って合宿所へ帰る。

 途中でコハルちゃんから手を握ってくれたので恋人繋ぎにしてにぎにぎ♡

 

 

「ひゃあっ、フミ!?」

「にしし、仲良し仲良し♡」

 “私の両手も空いてるけどなぁ!”

「せんせーは後でにぎにぎしてあげるから♡」

「むむ⋯⋯まぁ、行きも先生は手を繋いでなかったし、見逃してあげるわ!」

 “きゃーコハル裁判長ー”

「コハル裁判長やさしー♡」

「うっさい! 主文後回しにするわよ!」

「死刑からアップグレードしてる♡」

 “ちょっと気に入ったの?”

「うん⋯⋯これまで気軽に死刑、って言ってたけど、ちょっと思うところがあって⋯⋯」

「良いと思うな♡ 言葉自体も柔らかいし、ちょっとガチ感もあってお叱りの雰囲気が出てる♡」

 “凶悪犯の更生が期待出来ないとか世間に与えた不安が大きすぎるとか、割とネガティブな判決の時に出るから実際の言葉の重みは凄まじいんだけどね”

「でもコハルちゃんが言うと、手をグーにしてぽすぽす背中を叩いてきそうな可愛さがある」

「なによ、それは? 言われたらちゃんと反省しないとダメなんだからね!」

「にしし、はぁーい♡」

 

 

 行きと同じく賑やかに帰り道を行く。

 繋いだ手は行きの時よりも少し温かく感じた。

 

 

 

 

 晩ご飯を終えてまったりとした自由時間も終わる頃。

 明日のご飯支度やらシャワーやらを終えて、試作のお菓子をお土産に先生のお部屋でごろごろ。

 いつぞやのウェーブキャット着ぐるみパジャマを着ているので湯冷めとは無縁のフミちゃんです。

 

 

 “フミ、今日もお疲れ様”

「せんせーもお疲れ様♡」

 “なんだかシャワー室の方で楽しそうだったけど、聴いても良いやつ?”

「私が入ってたらみんなが突撃してきて、なんかみんなで背中洗いっこしてました♡」

 “いいなぁ”

「シャーレのお風呂にエアーマット用意しておきます?」

 “違う楽しみ方になっちゃう!”

「多分二人でお風呂入ってる時点でもういっぱいしちゃってると思うんですケド♡」

 “それはそう”

 

 

 ベッドの上を転がって、端の方に腰掛けている先生の背中にフミちゃんあたっく。

 そのままむぎゅむぎゅ抱き着いてみる。

 

 

 “ぐわー”

「ふっふっふー、無駄な抵抗はやめておくんだな♡」

 “くっ、私には愛する生徒達がいるんだ! 屈しないぞ!”

「これを見てもそう言えるかな?」

 “なっ、こ、これは!?”

「老舗食器取り扱い店との期間限定コラボガチャのペロロ箸置きだ!」

「言い値で買いましょう!」

 “うわぁヒフミ!?”

「どっから湧いて出た♡」

 

 

 先生とイチャイチャしてたと思ったら湯上がりパジャマのヒフミンが部屋に居た。

 ホントにどこから湧いた♡

 取り敢えずこれはヒフミンに進呈しよう。

 これからも私に仕えるが良いゾ♡

 

 

「えへへ、欲しかったんですけど全然当たらなくて困ってたんです」

 “レアものなんだね”

「二回目で出たけど♡」

「フミちゃんは運勢バグってるんです!」

「否定はしない♡」

 “牛丼食べた時もシークレット当ててたね”

「きっと幸運の女神様も手籠めにしたんですよ!」

 “それだ!”

「待って♡」

 

 

 酷い風評被害が誕生する瞬間を見た。

 先生の背中をぺちぺちして、ヒフミンは捕まえて抱き枕ごろごろの刑に処す。

 

 

「おらー♡」

「ひゃぁぁ~!?」

 “二人が仲良しで先生嬉しいよ”

「「混ざります?」」

 “シンクロしないで!”

 

 

 ヒフミンのほっぺたをもちもちして遊んでいると、部屋の扉がノックされる。

 どうぞ、という先生の声に続いて扉が開くと薄い水色のパジャマを着たハナコさんが顔を覗かせた。

 

 

 “いらっしゃい、ハナコ”

「夜分遅くに失礼します⋯⋯あら?」

 

 

 ハナコさんは私とヒフミンを見ると、良い笑顔になって先生を見た。

 

 

「もしかしてお邪魔でしたか♡」

 “ハナコも良ければ混ざるかい? フミの試作お菓子の品評会”

「あらあら♡ そちらもすごく興味深いです♡」

「え、お菓子あったんですか?」

「あんた本当にペロログッズしか見てなかったのね?」

「あ、あはは⋯⋯」

 

 

 誤魔化すように笑うヒフミンと、先生の隣に腰掛けたハナコさんに試作のお菓子を差し出す。

 寒天で固めた四角い水槽の中を白餡や栗餡で色付けした親指サイズの羊羹の魚が泳いでいる、そんな様子を表した水羊羹。

 

 

「わぁ、可愛いです♪」

「まるでアクアリウムを切り取ったみたいですね♡」

 “暑い季節には良いよね、見た目も涼しげで”

「これで試作なんですか?」

「羊羹はあまり作る事が無いからお試しですね。アズサさんとコハルちゃんには明日の朝ご飯の時に出そうかと。そうそう、明日の朝食は和食です」

「フミちゃんは何でも出来ますね♡」

「まだまだ修行中ですよ、出来ると言うには熟練度が足りてません」

 

 

 ポットのお湯で緑茶を淹れて出し、ハナコさんの緊張を解いていく。

 さて、今日はお話してくれるかな?

 しばらくは水羊羹を味わったり他愛も無い雑談を交わしていたけど、不意に会話が途切れる。

 

 

「⋯⋯みなさん、お優しいのですね」

 

 

 ポツリと零すようにハナコさんが呟いた。

 

 

「直接言わせようとしてるんですから、どっちかと言えば意地悪な方ですよ」

「それでも、急かさず待ってくれましたから。⋯⋯先生とフミちゃんは既に知っていて、ヒフミちゃんも恐らく気付いたと思います。私の過去の成績を」

「⋯⋯はい。ハナコちゃん、一年の時に三年生までの全ての試験を満点で突破していたんですね。過去問の模範解答例に、いくつもハナコちゃんの名前が載ってて」

「そう、でしたか。⋯⋯では、問わないのですか? 何故、と」

 “無理に聞き出すつもりは無いよ。ハナコが納得して、私達に話しても良いと思えるまで、待つさ。そしてそれは今じゃなくても良い。もっと後、それこそみんなが卒業して、同窓会で集まった時にポロッと話したって良いんだ”

 

 

 先生の言葉にハナコさんは少し俯いて目を閉じる。

 美人さんはどの角度でも絵になるなぁ、なんて暢気に眺めているとハナコさんの纏う空気が変わった。

 なんというか、ピリッと引き締まった感じ。

 顔を上げたハナコさんは笑顔を浮かべていたけど、どこか芯が一本通ったような印象があった。

 

 

「先生、フミちゃん、ヒフミちゃん。ありがとうございます。ご存知の通り、私はわざと点数を低く取っていました。ですが明日からはちゃんと、全力でテストに挑むと約束しますね」

 “ありがとう、ハナコ”

「良かった、これでコハルちゃんとアズサちゃんが合格ラインに達したら無事に退学は免れますね!」

「⋯⋯退()()?」

「え? あっ」

「このおバカ♡」

 

 

 喜びすぎて思わずポロッと言ってしまったヒフミンに、ハナコさんが笑顔を向ける。

 目が笑っていなかった。

 

 

 “あちゃー”

「これはやってしまいましたなぁ」

「ヒフミちゃん、詳しく説明をお願い出来ますか?」

「え、ええっとぉ⋯⋯」

 “がんばえー”

「がんばえー♡」

「ふ、ふえぇぇ⋯⋯っ!?」

 

 

 情報一つ取っても伝え方というものがある。

 どんな風に切り出し、どんな風に表現するかで、相手の受け取り方は大きく変わる。

 ハナコさんの心情を(おもんばか)った私と先生が、いつ切り出そうかタイミングを計っていた《三回の試験で全員揃って合格する事が一回も出来なかった場合は全員退学とする》という情報を何の手心も無くバラした罪は償ってもらおう。

 笑顔のハナコさんにガン詰めされて涙目になりながら、ヒフミンは今回の補習授業部にまつわる事を洗いざらい吐く事となった。

 

 

「いやー、いつかやると思ってましたよ」

 “ヒフミって巻き込まれ体質でもあるけど、同じくらい迂闊な所有るよね”

「そのせいで昔からアクシデントには事欠きませんでしたよ」

 “なるべくしてなった訳だね、ファウストに”

「素質しか有りませんでした」

 “これで普通で平凡を自称するのはもうギャグだよね”

「本人も半分持ちネタみたいに思ってそうですね」

「い、言いたい放題言わないでください〜!」

「ヒフミさん? 説明がまだ終わってませんよね?」

「ひえぇぇぇ〜っ」

「がんばえー♡」

 “がんばえー”

 

 

 

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