もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
「とうちゃーく♡」
“この時間でも賑わってるね”
補習授業部御一行、トリニティの街へ。
着いた頃にはそろそろ夜更けと言っていい時間になっていたけど、思いの外開いているお店が多い。
もちろんシャッターが降りている店もあるけど、通りには人通りも多くまだまだ静まり返るには早いと言っているようだった。
先頭を行くハナコちゃんは後ろからでも解るくらいにご機嫌ステップ、続くアズサちゃんが興味津々にあちこち覗いたり止まったりするのをヒフミンがカバー、最後尾で先生を真ん中に私とコハルちゃんで手を繋いでいる。
休日の親子って言ったら怒るゾ♡
いやしかし、親子プレイというのも案外イケるか⋯⋯?
その場合先生は何と呼ばれるのが刺さるんだろうか。
お父さん、父さん、パパ、おとーさん、とーたん、お父様、父上⋯⋯候補が多い。
今度聴いてみよう。
それとも義兄妹プレイとかも有りか⋯⋯いや、いっそロリママと息子というのも悪くないかもしれない。
え、先生はイメージプレイの相方じゃない?
そんな事を言うな、生徒の夢が壊れてしまう。
「どうですかみなさん、既に楽しくないですか? 禁じられた行為をしているという背徳感、そしてそれを同時に行っている仲間がいるという安心感、この二つが合わさり最高に楽しくありませんか?」
「なるほど⋯⋯夜の街というのはこんなにも明るく活気があるものなんだな。確かにハナコの言う通り、ちょっと高揚感がある」
「でしょう! 二十四時間営業しているお店も多いので、この時間でも目一杯楽しめますよ♡」
「二十四時間も営業しているのか⋯⋯ん、あれはスイーツショップ? こっちにはお洒落な喫茶店も」
「ここからもう少し先に進むとモモフレンズのグッズを取り扱う専門店、その向かいには限定グッズだけを取り揃えた隠れた名店が有りまして」
「本当かヒフミ! 行こう、スカルマンが待っている!」
「待ってくださいアズサちゃん! そのお店は平日の昼間しか開いていないので⋯⋯」
「そうか⋯⋯」
“しょんぼりしちゃった!”
「⋯⋯何で平日の昼間にしか開いていないお店に詳しいのかしらね」
「しーっ♡ それは言わぬが花♡」
一応ヒフミンがファウストだと言う事は対外的には伏せられている。
なのでコハルちゃん達もヒフミンがこっそり抜け出してペロキチを発揮しているだけだと思っている。
まぁそれだけでもだいぶロックというかファンキーな行動なのだけども。
「あーあ、結局フミの口車に乗せれちゃったわね。これで誰かに見付かったら責任取ってもらおうかしら」
「んぅ? 何をお望み?」
「そうねぇ⋯⋯貸し一つにしておくわ」
「いやん♡ 一番高く買われちゃった♡」
“フミに貸し一つはすごいね。キヴォトス征服も夢じゃないかも”
「持ち上げすぎ♡ 天井崩落しちゃう♡」
「そう言えば私達一応財布は持ってるけど、ここ観光地でもあるからそれなりに高いわよ?」
「大丈夫♡ 名目上シャーレの活動に組み込んであるから今日はこっち持ち♡」
「ホント? 大丈夫なの先生?」
“私だけだったら怒られるかもしれないけど、フミが居るからね。そうだ、私もこっそり何か買おうかな⋯⋯?”
「せんせーの支払いはチェックされてるから、私の方で支払っておくね♡」
「それってヒモ⋯⋯?」
“否定したいなぁ!”
「するんじゃなくてしたいなのね⋯⋯」
「にしし♡ せんせーのサポートが私の役目だから♡ あっ、せんせっ、超剛性カイテンジャーロボ海上戦仕様だって♡ 買ってあげるね♡」
“ママ⋯⋯!”
「こらっ、路上で倒錯的なプレイしない! 主文後回しよっ!」
すみませーん、とプラモ店の店主さんに声を掛けてサクッとお買い物。
正直この辺のお店を土地ごと買い漁ってもまだまだ余裕があるくらいには資産が有り余っている。
根が小市民の私には怖すぎるので、悩まなくて良いくらいいっぱいお金が使える、といった辺りで思考を停止させているのだ。
カツアゲしようとしてきた娘を纏めて養う事もやろうと思えば出来てしまう。
いけない、深く考えると精神の壁がガリガリ削れてしまうので一旦頭を真っ白にして、大好きな先生の事で埋め尽くさないと。
「はい、せんせ♡ いつもお仕事お疲れ様♡ 頑張ってるせんせーにご褒美♡」
“やったー! フミ、ありがとう!”
「えぇ⋯⋯いや、本人が幸せなら良いかしら⋯⋯」
コハルちゃんからなんだか呆れたような視線を感じる。
私は先生を甘々にする派だから、コハルちゃんみたいにピリッと引き締めてくれる子が居るとハーレムもバランス取れて良い感じだね。
というかコハルちゃんもママの適性高い気がする。
愛が深い子は良いぞぉ♡
そうしてしばらく歩いていると、甘い香りにアズサちゃんが足を止めた。
「なんだか甘い匂い⋯⋯むっ、ヒフミ! こんな所にスイーツ店がある」
「ここは限定パフェが人気のお店ですね。二十四時間やっていて、限定パフェも一日二回朝と夕方に分けて販売しているのでもしかしたらまだ有るかも?」
「聞いていたらなんだか食べたくなってきましたね♡ せっかくですし入ってみましょうか?」
「限定パフェ⋯⋯! 行こう、みんな。補習授業部、出撃だ!」
「おぉ〜っ♪」
「ふふ、では行きましょう♡」
“のりこめー!”
「わぁい♡」
「アズサもすっかりノリノリなんだから」
仕方ないわね、と優しく微笑むコハルちゃんの背中を押しながら入店。
やはりママでは?
明るい店内には結構人も多く、流れるお洒落なジャズも実に良い雰囲気。
八人は座れそうな大きめの席へ案内されて、手前から私、アズサちゃん、ヒフミン。
向かい側にコハルちゃん、先生、ハナコちゃんが座る。
メニューを開くと、スイーツだけでなくドリンクや軽食も充実している。
「お決まりになられましたらお声がけください」
「あの、限定パフェってまだありますか?」
「申し訳ございません、先程別のお客様が八つご購入されたのが最後となりまして⋯⋯」
「あら、残念ですね」
「この時間でも注文が入るなんて⋯⋯流石限定」
「では飲み物を先に注文しましょうか♡ 私はホットココアでお願いします」
「ブラックコーヒーを二つで♡」
「私はオレンジジュースにしよう。ヒフミはどうする?」
「じゃあ私もオレンジジュースにします」
「私はジンジャーエールを」
「かしこまりました、ただいまお持ち致します」
店員さんを見送ってメニュー表を眺めながらあーだこーだと頭を悩ませていると、ふと斜向かいのテーブルが目に入った。
テーブルの上には豪華に盛り付けられていたであろうパフェの器がいくつも並んでおり、ちょうどもう一つ、空になった器が追加された。
合計八つ。
限定パフェを食べ尽くして満足そうに口元を拭く、黒いセーラー服を着た長身の生徒が、ふと私の視線に気付く。
途端にピシリと固まる生徒。
小さく手を振ってみるも、固まったまま微動だにしない。
よく見れば冷や汗が噴き出し始めている。
と、先生が私の視線に気付いてそれを追い。
“あれ、ハスミ?”
残念、ゲームオーバー♡
瞬間ぶわっと解るくらいに汗を垂らすハスミさん。
先生の声にみんなが振り向き、豪快に限定パフェを平らげたハスミさんの姿を視界に収めた。
あ、コハルちゃんが色んな感情を滲ませて顔を両手で覆っちゃった。
外出がバレたのがよりによって尊敬してる先輩、しかも先輩がなんかパフェを貪ってる現場を抑え、ついでにこないだダイエットするみたいな宣言をしていたのを思い出し。
「⋯⋯おぉ、もう⋯⋯」
「⋯⋯元気出して♡」
見かねて身を乗り出しなでなでしちゃった。
テーブルを挟んで無かったらコハルちゃんに思いっ切りむぎゅむぎゅされていたであろう事は想像に難くない。
補習授業部入ってからイベントの振れ幅が大きすぎて、もうコハルちゃんの情緒はめちゃくちゃだ。
帰ったら一緒に寝る約束だし、いっぱい慰めてあげよう。
「えぇと、自分の事を棚に上げるようで心苦しいのですが、みなさんは何故こちらに? 確か補習授業部は合宿中の外出は余程の理由が無いとダメだったと記憶していましたが⋯⋯」
“私が気分転換に街へ出たくなってね。でも夜のトリニティを歩くのは初めてだから迷子になってしまわないように、護衛兼案内役として補習授業部の四人へ要請したんだ”
「⋯⋯なるほど、シャーレからの要請であれば他の制約に縛られず動けますね」
「まぁ出歩くに値するめでたい事も有りまして♡ 試験対策の小テスト、何と全員が合格ラインを突破したんです♡ そのお祝いも兼ねてまして♡」
「本当ですか? コハル、頑張りましたね」
「あ、はい! ⋯⋯えへへ」
「という訳で、今回はお互いナイショでどうでしょう」
「⋯⋯⋯⋯そうですね、ナイショにしましょう」
両手を合わせて首を傾げてお願いすると、ハスミさんもふっと息を吐いて納得してくれた。
やん、流石ハスミさんは話が解る♡
次のシャーレ当番の時は腕をふるってお菓子作りますね♡
ハナコちゃんは弄りたそうに口をもにゅもにゅさせてたけど、先生がハナコちゃんの手をこっそり握って押し留めていた。
ぐっじょぶ先生♡
その後ハスミさんもこっちのテーブルに移って一緒にお喋りを楽しんだ。
届いたケーキはどれも美味しそうで、なんか開き直ったハスミさんが追加でケーキを注文してた。
うぅん、明日から運動頑張ってくださいね?
補習授業部の様子や正義実現委員会での活動を話し合って楽しいティータイムを過ごしていると、電子音が鳴った。
はて、聞き馴染みの無いメロディ。
なんじゃらほいと思っていると、どうやらハスミさんの端末へ着信がきたみたい。
会話も一旦ストップしてハスミさんの邪魔にならないように。
すると必然、ハスミさんの声にみんな耳を傾ける。
襲撃、ゲヘナ生、四人⋯⋯。
おっとお、なにやら匂い立ってきたねぇ?
チラと先生を見ればあちゃーと頭を抑えていた。
「は? ゴールドマグロ?」
はい。
美食研究会の四人でした♡
展示品を食べようとしないで♡
美味しいご飯を求めてキヴォトスを縦横無尽に駆け巡り、店員の横暴な態度や産地偽装など、食に対して真摯に向き合っていないと判断したお店を次々爆破していく事で有名なテロリスト。
反面、彼女達のモモッターでは良質な食事を提供してくれる素晴らしいお店の紹介をしているので、他の自治区へ遊びに行った時には非常に参考になるので意外とファンも多かったりする。
柴関も紹介されており、アビドスがちょっと賑わったとか。
そんな功罪併せ持つスタイルの四人だけど、今回は罪の方らしい。
アクアリウムに展示されていた希少な魚ゴールドマグロを食べてみたいと襲撃、強奪したのだと。
既に四人と面識のある私と先生はともかく、他の面々はぽかんとなっている。
こういう時は解る所だけ説明してあげるのがいい。
「ちょっとテロリストが暴れて逃げてるから鎮圧してほしいんだって♡」
「なるほど、それなら得意だ」
納得したアズサちゃんがむふん、と胸を張る。
可愛かったからほっぺにちゅーした。
「ひゃんっ」
声まで可愛い♡
私がアズサちゃんにデレデレしている間に通話は終わったらしく、ハスミさんは頭痛を堪えるように頭に左手を当てていた。
と、その時外から爆発音が響いてきた。
「近いな⋯⋯一キロ圏内か。銃声も交じっているようだ」
「⋯⋯みなさん」
アズサちゃんにほっぺたを仕返しつんつんされていると、ハスミさんがこちらを見て頭を下げた。
「突然の事で申し訳ありませんが、どうかお力を貸していただきたいのです」
「え、わ、私達の、ですか?」
「そうです、ヒフミさん。私達トリニティはゲヘナとのエデン条約を目前に控え、様々な対応に追われています。それこそ過敏な反応を示すほどに。今回の騒動をエデン条約反対派や外部のフィクサー気取りに《トリニティの正義実現委員会とゲヘナの部活動による武力衝突》と捉えられてしまうのは、あまり望ましくありません。どんな口実で横槍を入れてくるか、またその対処も新たな面倒事を引き込んでしまうかも分かりません」
政治的な意図を含んだ説明にハナコちゃんが数度頷く。
いや、やっぱりハナコちゃんが居ると話が早くて良いね。
「学校間での小競り合いではなく、ちょっとやんちゃな一部活へシャーレからお叱りが与えられた。そう対外的に見せれば良い訳ですね。ちょうど、シャーレの先生がいらっしゃいますし、その要請を受けて私達補習授業部も暫定的にシャーレ部員として扱われている。派閥がどうこう言うよりも、ずっと分かりやすい構図になりますね」
「その通りです。先生、お願い出来ますか⋯⋯?」
“もちろん。他でもないハスミからの頼みだしね。みんなも良いかな?”
当然、とばかりに先生へ笑みが向けられる。
一先ずハスミさんの分も会計を済ませていつでも動けるように準備。
先生もシッテムの箱を取り出して周囲のマップを表示させた。
興味深そうにみんなが画面を覗き込む中、ヒフミンはタブレット本体に視線を向けていた。
「それが先生の相棒なんですね。ええと、ガッデムの豚箱、でしたっけ?」
「あんたヴァルキューレに取っ捕まった事あるの?」
「ま、まだ無いですよぉ!?」
“シッテムの箱だよ”
思わず素で突っ込んでしまった。
まだ、って言うな♡
ヒフミンのせいで緊張感が無くなったけど、取り敢えず作戦を立てていく先生。
ふむふむ⋯⋯あ、今回は給食部の車は強奪されてないのね。
そこは不幸中の幸いかな。
でもまぁ、やっぱりフウカさんは拐われているかぁ。
うん、ゲヘナの給食部の部長さんでね。
先生と同じくらい優しくて立派な人だよ。
料理の腕前も私より上だから、ゴールドマグロを調理させる為に拐ってきたんだと思う。
多分活け造りかなぁ⋯⋯マグロ捌くのって難しいし、鮮度が大事だからね。
追跡振り切ったらすぐ料理してもらえるように、って無理やり連れてきたんだよ。
で、四人は徒歩で移動中、と。
じゃあ足止めして分断して各個撃破?
にしし、先生と以心伝心だね♡
それじゃ出発する?
じゃ、ヒフミン号令お願い。
「それじゃあ、補習授業部、出撃です!」
「「「おおーっ!」」」
はい。
まぁ先生の指揮が有ったら勝てるよね。
むしろ先生の指揮もらってるアビドス勢に善戦してた便利屋のみんながおかしい♡
強くてアウトローで好き♡
という訳で、正義実現委員会の護送車には美食研究会の四人が仲良く転がっている。
解放されたフウカさんは何度も頭を下げてお礼を言ってた。
なおゴールドマグロは砲撃の熱で炙られイイ感じに焼けたらしい。
こっそり齧ろうとして怒られた子が居たとか。
わんぱくさんだね♡
「いやもう本当、何とお礼を言えば良いのか」
“気にしないで、フウカ。無事で良かったよ、もし君に何かあったら、って心配してたんだ”
「うぅ、先生⋯⋯!」
向こうでは先生がフウカさんを慰めつつ口説いていた。
毎度の事ながら息を吐くように誑すのすごいよね。
その辺の台詞回しは是非参考にしたい。
絶倫先生後宮計画の為にも。
それにしてもハルナさんも変な所で不器用だよね。
どうせ真の美食がなんたらかんたら言って、本当の欲望に向き合って無いんだから。
⋯⋯んー、モモッターの名店紹介にはお世話になってるし、ちょっとくらいはお節介してみるかな。
トテトテ歩いてフウカさんの所へ向かう。
「フウカさーん♡」
「あ、フミ! フミもありがとね、いつも助けてもらっちゃって」
「いえいえ、フウカさんの為ならいつでも♡」
「うぅっ、先生もフミも優しい⋯⋯」
「よしよし♡」
正面からフウカさんをむぎゅっと。
実は身長159cmとユウカさんより大きいので、ちょっと背伸びしないと色々届かない。
ぐいーっと背伸びして背中を撫でていると、フウカさんは屈んで目を合わせてくれた。
「ありがと、元気出てきたわ」
「にしし、それはなにより♡」
「フミは良い子よねぇ⋯⋯それに比べてハルナときたら」
「そんなフウカさんにぜひ試して頂きたい事が」
「ん?」
「今度ハルナさんが会いに来た時に、言ってみてほしいセリフがあるんです。言えば多分、その日はもう拐われる事は無いと思います」
「え、そんな魔法の呪文が?」
「ただ、その後はどうなるのか分かりませんし、使えるのも一回切りなのでそこはご了承ください」
「一回でも充分すぎるわ! 早速教えて!」
「ではハルナさんに『アンタは私が嫌いで、嫌がらせのつもりで拐っていくの? それとも、一緒に美味しいものを食べて、幸せ──アンタの言う美食ってやつを私と分かち合いたいから拐っていくの?』と聞いてみてください」
「⋯⋯え、それだけ?」
「はい♡ たったそれだけです♡」
「え、ホントに? ウソでしょ?」
「ホントホント♡ フミちゃんウソつかない♡」
「えぇ⋯⋯? にわかには信じ難いけど、やってみるわね。上手くいったらまた新しいレシピ教えてあげるわ」
「やったー♡」
フウカさんのレシピげっとだぜ♡
これでハルナさんも少しは大人しく⋯⋯いや、心配になってきたな。
淡い恋心を自覚して余計ハッスルする可能性もある。
でも嫌われてると思うよりは好かれているからこその暴走だと分かった方が、フウカさんの精神衛生上は良いかも。
好きな子にちょっかいをかける典型的なアレだからね。
それで一先ず騒動も決着したので、先に補習授業部は合宿所へ戻る事に。
コハルちゃんに私のベッドで寝てて良いよー、と伝えてお見送り。
私は先生の護衛で残っておく。
ハスミさん達実働部隊の正義実現委員会のみなさんも撤収したので、後は護送車を運転する子と先生と私だけ。
フウカさんと先生は後部座席に乗ってもらって、私は助手席へ。
「よっと、それじゃあ運転よろしくお願いしま⋯⋯あれ? チハヤちゃん?」
「こんばんはー♪ ぶぃぶぃ♪」
“チハヤ、こんばんは”
運転席でシートベルトを着けて待っていたのはにへ顔ダブルピースをするチハヤちゃんだった。
思わぬ再会にびっくりだね。
「チハヤちゃん、弾薬管理係じゃなかった?」
「ちょうどみんな出払ってたのと、先生と面識も有るし適任だろうって」
「そうなんだ♡」
「あと大型免許持ってたのが私だけで」
“そうなんだ!?”
「なので運転はご安心を! 安全運転で参りますー♪」
ぺちっ、と敬礼してみせるチハヤちゃん。
動作が可愛くて困っちゃうね。
道中まったりとお話をしながらトリニティ自治区の端っこへと向かう。
フウカさんが私より料理上手と聞いてキラキラするチハヤちゃん、チハヤちゃんがめっちゃフレンドリーなのでちょっと驚いてるフウカさん。
こういうほんわか平和なやり取りが増えるなら、エデン条約も悪くは無いんだけどね。
楽しい会話に包まれる車内。
護送席からはイズミさんのいびきが聞こえてくる以外は割と静かだ。
いや、道端に睡眠薬入れたハンバーガー仕掛けてたら引っ掛かったんですよ。
冗談みたいでしょう、本当なんですよ。
そんな話をしているうちに、護送車はトリニティとゲヘナを繋ぐ大橋まで辿り着いた。
この時間には行き交う車も無く、遠くに街の光がある以外に特筆する事も無い、静かな場所だった。
外に出て少し待つと、ゲヘナ側から一台の救急車両がやってくる。
だいぶ装甲車染みた改造をされているけど、あれはれっきとしたゲヘナの救急医学部の車両だ。
運転席から降りてきたのは、顔馴染みの生徒さん。
「お待たせしました、死体はどこですか?」
「待って♡」
“まだピチピチだよ?”
「その言い方もなんか語弊がある♡」
「失礼しました、負傷者でしたね」
銀髪クールなナースのお姉さん、氷室セナさん。
なんと救急医学部の部長さんである。
フットワークが軽くすぐに現場へ駆け付け適切な応急処置を施し、邪魔する相手にはグレネードをぶち込む無表情系素直クールと、色々濃いゲヘナ生徒の中でも割と目立つ人でもある。
美食研究会や温泉開発部を始め、やんちゃな生徒の多いゲヘナでは数少ない安心して先生を任せられる人だ。
先生がゲヘナへ赴いた時に何度かお世話になったりもした。
なお先生ラブ勢でもあるので、ハーレムにはスカウト済みだ。
セナさんが降りてきたのを見て、フウカさんが後部ドアを開けて美食研究会の四人を文字通り蹴り出していく。
「オラッ、とっとと歩け!」
「あんっ、フウカさんに乱暴されてしまいましたわ♪」
「誰よりもガラが悪い♡」
“日頃振り回されてるからねぇ⋯⋯”
「ピチピチな負傷者四名、ピチピチな人質一名。リストの通りですね」
「フウカさん人質枠だったんだ♡」
“あんな元気な人質初めて見たよ。⋯⋯久し振り、セナ”
「はい、先生。お久しぶりです。フミさんも」
「セナさんお久しぶりです♡」
先生と顔を合わせ、セナさんの口元がわずかにほころぶ。
初対面だとほぼ気付けないかもしれないけど、あれはアルさんでいうとぺかーっと満面の笑みを浮かべているのに等しい。
普段他の人と話す時より二歩くらい距離が近いのもポイントだ。
割となんでもズバッと口にするセナさんだけど、先生に対しては上手く心を言語化出来ないらしく、察して欲しそうに甘えていく姿も見せてくれる。
「出来ればこのまま先生との仲を深めていきたい所ではありますが、喜ばしい事に負傷者がおりますので。先生との逢引は次回以降、ですね」
“喜ばしいって言った?”
「失礼、先生との会話で舞い上がっておりまして」
“セナは可愛いなぁ”
「ありがとうございます、先生。もっと貴方好みの女になってみせます」
「うーん、強い♡」
“ちょっとキュンてきた”
フウカさんから四人を受け取りそのまま後部座席へと次々投げ込んでいくセナさん。
扱いが乱暴♡
ゴミ袋みたいに投げないであげて♡
「全く。ゴミ袋みたいに格納する癖は直ってないのね」
“あっ、ヒナだ”
「こんばんは、先生。それと、フミも」
「こーんばーんはー♡」
助手席から降りてきたのは空崎ヒナさん。
まさかの風紀委員長の登場である。
「久し振りね、先生。まさかここで会えるとは思っていなかったけど」
“美食研究会の確保の為にね”
「ヒナさんは念の為の制圧要員ですかね?」
「ええ、表向きは政治色の薄い救急医学部が引き渡しの担当で、私はただの付き添い」
「なるへそ。そう言えばヒナさんはエデン条約推進派でしたもんね」
「⋯⋯そうね。上手くいけば仕事も減るし、そしたら風紀委員長なんて辞めて、フミみたいにシャーレ専属になれるから」
羽をぱたぱた揺らして先生の隣に立つヒナさん。
本人は隠しているつもりだけど、彼女も立派な先生ラブ勢である。
たまにヒナ吸いと称して先生に頭の匂いを吸われている姿が目撃され、その度に横乳おばけこと天雨アコさんが先生に呪詛を撒き散らしているらしい。
と、四人を格納し終えたセナさんがこちらを見る。
正確には先生の隣に居るヒナさんを。
ふむ、と一つ頷いたセナさんはヒナさんとは反対側から先生にくっついた。
「んなっ!?」
“セナ?”
「少々暖を取りたくなりまして」
“そう言えば少し冷えてきたね。大丈夫かい?”
「先生が暖めて頂けると嬉しいのですが」
“あはは、私で良ければ”
うーん、クソボケ♡
ヒナさんは目を開いて凝視してるし、フウカさんはなんか⋯⋯こう⋯⋯
なんだろう、三白眼で逆三角な口?
あっ、ヒナさんもくっついた。
“両手に花だね。いやぁ照れちゃうな”
うーん、クソボケ♡
これはシャーレに戻ったら緊縛下着越しすりすりの刑に処さねばならぬ♡
秘蔵本に描いてあったようにリボンで縛って副担任の噴火を堰き止められるのか確認しなくてはならない。
しかもあろう事か、あの体勢のままヒナさんとエデン条約について色々話し始めた。
いつの間にかフウカさんは救急医学部の車両に乗り込んでいたらしく、この寒空の下で先生のイチャイチャな会話を見守るのは私だけである。
護衛の名目で居るので助手席に戻れないのがお辛いさん。
この隙にチハヤちゃんを口説き落としてしまいたかった気もする。
とは言えヒナさんも激務で先生分は不足していただろうしこの機会を使って存分に補給していってほしい。
あっ、セナさんがさり気なく胸に腕を挟んだ。
あっあっ、ヒナさんぷくーってしてる。
どうする、まさか対抗して太ももに⋯⋯?
あぁーっと、挟めない!
流石に恥ずかしい様子!
そこで攻められないからダメなんだゾ♡
ピュアピュア委員長を見てほっこりした所で会話も終わったらしく、二人は先生にお辞儀をして車に戻っていった。
おつでーす♡
先生と手を振ってお見送り。
ただいまチハヤちゃん。
「じゃ、帰りも運転お願いね♡ どっか寄って夜食買っても良いけど♡ 奢っちゃうよ♡」
「良いんですかやったー♪」
“私もホットコーヒーが恋しいかな”
「それじゃあお疲れ会と称してコンビニでホットスナックでも買いますか♡」
“いいね、この時間のフライドチキンは罪の味だよ”
「えへへ、楽しみー♪」
という訳で帰り道にあるコンビニで仲良くフライドチキンを食べ、温かい飲み物で打ち上げもして、ついでにお菓子の大袋を買い込んでお土産にチハヤちゃんへ押し付けた。
ハスミさんが食べてたら私の代わりにぺちぺちしといて♡
ありがたい事に合宿所まで送ってもらい、空が明るくなる前には帰って来れた。
チハヤちゃんに手を振って別れ、合宿所へ。
⋯⋯そう言えばトラップが全部発動済みになってたけど誰か引っ掛かったのかな?
自分の部屋へ戻ると、コハルちゃんがベッドの中でうにゃうにゃしてた。
頑張って起きてようとしてくれていたらしい。
着替えてベッドに潜り込んで軽く抱き寄せると、コハルちゃんは安心して眠りに着いた。
やーん、可愛すぎる♡
おやすみ、コハルちゃん♡