もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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いざ行かんゲヘナの旅!

「電車に揺られるのも久し振りですねー♡」

 “ここ最近はシャーレの執務室に缶詰だったからね”

 

 

 ガタンガタンゴトンゴトン、とのんびり電車に揺られながら先生の隣で駅弁を取り出す。

 今回は卵黄とニンニクとゴボウの味噌漬け弁当、イワシの蒲焼き弁当、ハイパー牛すき丼の三つ。

 先生は鮭フライ弁当にだし巻き玉子を追加で買っていた。

 

 

 “相変わらずのお弁当三つ!”

「ユウカさんのお陰で好きなだけ好きなものを食べられるの最高ですよね♡」

 “それは確かに。天井叩いてもご飯が食べられるの良いよね”

「また天井叩いたんですか……よしよし♡」

 “うわーん、フミママー”

「良い子良い子♡ おっぱいのむ?」

 “…………呑まないよ?”

「葛藤が長い♡」

 

 

 おっぱいの代わりにペットボトルの濃い緑茶を取り出して備え付けのテーブルに乗せる。

 そう、備え付けのテーブルに!

 何を隠そう、今日のお出掛けは何とお値段の張るスーパーでハイパーな一両まるまる貸切特別席なのだ!

 ミレニアムでの用事を終わらせてからの移動だったので、折角だからと豪華な旅行用の席を窓口で購入してみた。

 滅多に乗らないだろうし、何事も経験だからね。

 旅行用という事で寝台付なのはもちろん、四人掛けの座席を取っ払った事で大きなテーブルとふかふかソファーでのんびり駅弁も食べられる。

 車窓にはカーテンも付いていてプライバシーもバッチリ。

 

 

「電車とは思えないくらい豪華ですねー♡ いただきまーす♡」

 “外で乗る機会は無かったから、私も初めて乗ったよ。いただきます”

「せんせーも初めてだったんですか?」

 “うん、フミとお揃いだね。私が知ってる移動用の手段は電車かバスで、電車はいつもフミと乗ってるのとそう変わらないけど、バスは結構ピンキリでね”

「もぐもぐ……ぷふー♡ バスでそんなに変わるんですか? D.U.で乗った時は普通って反応でしたけど」

 “深夜バスって種類が有ってね。文字通り深夜に移動して半日かかる移動を寝てる間に済ませてしまおうってバスなんだけども”

「なんだけども?」

 “カーテンで仕切りはあるけど基本三、四人掛けの座席で座ったまま身動き取れなくて、せいぜい座席傾けるくらいしか出来ないから降りる時にはもう身体がバキバキでね。うなされたり悪夢を見たり……そもそも眠れなかったり。一部の深夜バスはアナウンスが『不幸行きです』って聴こえるくらい過酷なんだよ”

「なにそれこわい♡」

 

 

 新手の拷問器具みたい。

 外の世界は怖いので先生はキヴォトスで一緒に末永く仲良しするしかないよね。

 

 

 “いや、キヴォトスはキヴォトスで銃弾飛び交うのが怖いんだけど”

「せんせー専用のバリアフィールド発生装置をエンジニア部に頼んであるから暫く待って♡」

 “もう発注済みだったらしい”

 

 

 そりゃ先生の安全の為だからね。

 手は抜かない訳ですよ♡

 

 

「んー、ゴボウ美味しいー♡」

 “だし巻き玉子と交換しない?”

「良いですよ♡ んー♡」

 

 

 ゴボウの端を唇で咥えて先生に差し出す。

 ほらほら、フミちゃんの口移しですぞー♡

 一瞬ぴくりと固まる先生。

 いやぁ反応が可愛いですにゃー、とか考えていたら眼前に先生の顔が迫ってきた。

 え、先生顔良すぎ。

 そのままぱくっとゴボウを持っていかれた。

 

 

 “うん、味がしっかりしててご飯が進むね。お返しあーん”

「あ、あーん……?」

 

 

 混乱冷めやまぬ間に続けて玉子をあーんされた。

 あ、出汁が美味しい。

 カニの出汁かなこれは?

 

 

「って違う♡ せんせーいつの間に反撃覚えたの♡」

 “ふっふっふ、忘れていないかいフミ。私だってフミが好きだからイタズラの一つや二つ身に付けて当然だよ”

 

 

 してやったりとニヤニヤ笑う先生。

 くそぅ、これが惚れた弱みか♡

 

 

「というか私がそのままちゅーしたらどうするつもりだったんですか♡」

 “その時は、まぁ。事故って事で。いやぁ電車だから予期せぬ揺れとかあるよね!”

「ヘタレなのに度胸有るの凄い♡」

 “ヘタレじゃないですー教師として守るべきラインを越えてないだけですー”

「今までやってきた事思い出してもまだ言える?」

 “鮭フライ美味しいなぁ!”

「せんせーのそんな所も好き♡ 食べ終わったらイチャイチャするから覚悟するよーに♡」

 

 

 しっかり宣言してから牛すき丼の白滝を啜る。

 味が染みて色が濃くなってるのとか最高だよね。

 つゆが染み込んだご飯と一緒に搔き込むともう飲み物なんじゃないかって勢いでお腹に消えていく。

 タマネギもくたくたで甘みと塩気のバランスがもう堪りませんわー♡

 と、先生の視線を感じる。

 

 

 “ああいや、フミが幸せそうにご飯食べてる姿を見て、やっぱりこの娘を好きになって良かったなぁ、って”

「……ふっ、不意打ち禁止ー♡」

 

 

 ほにゃっとした顔でなんて事言うの♡

 初めては電車プレイがお好みなのかー♡

 予期せぬ攻撃に思わず頬が熱くなる。

 全くもー♡

 もーもーもー♡

 

 

 “普段はフミが私に好きって言ってくれるからね。私の方からも伝えないと”

「くぅ、破壊力ヤバ♡ 他の子にもそんな事言ってないですか♡」

 “ゆくゆくは言うかもしれないけど……今はフミだけだね”

 

 

 おっ♡

 ヤッベ♡

 ちょっと至る♡

 

 

 “すっかり骨抜きだね、私のフミ”

「ゆるして♡」

 “とろとろになってるフミも可愛いよ”

「ぬぅ〜♡ 鬼畜♡ いじわる♡ 絶倫クソボケ足舐め太郎♡」

 “謎のバリエーションでなじられた!”

 

 

 折角の駅弁なのに幸せ過ぎて味が分からなくなるでしょうがー♡

 もう、そんな先生も好き♡

 その後も先生に攻撃されながら何とかご飯を食べ終えて先生の膝に寝転がる。

 頭を撫でられたり顎をくすぐられたりしつつ、お互いの好きな所を言い合っていたら、思いの外早く目的地であるゲヘナに到着した。

 駅弁食べてる時はまだ正午前だったのにもう午後三時。

 おかしい、まだベッドにも行ってないのに。

 時間が経つのが早すぎる。

 消毒液や包帯なんかを詰め込んだお出掛け用セットから念の為に入れておいた替えの下着を取り出し履き替えて、車両備え付けのゴミ箱に空の弁当箱や飲み終わったペットボトルを入れてお片付け。

 ダメになった下着はジッパー付きの袋に入れて密封。

 試しに先生へ恭しく差し出してみたら何故か受け取ってそのままコートの胸ポケットにしまい込んでいた。

 お守り代わりにしないで♡

 どこかキリッとした顔をする先生と手を繋いで駅へ降りる。

 

 

「やって来ましたゲヘナ自治区♡」

 “私はちょいちょい来てるけどフミはまだ数回目だっけ?”

「今回で三、四回目ですかね♡ なのでまだ地理には疎くて。案内よろしくお願いしますね?」

 

 

 繋いだ指をきゅっきゅっと握る。

 先生の手、やっぱり大きいなぁ。

 

 

 “それじゃ、ゲヘナ学園に向けて出発ー”

「おー♡」

 

 

 

 

 

 

 はい。

 何とか辿り着いたゲヘナ学園。

 流れ弾やら見境無いカツアゲやらの対処でたっぷり一時間掛かった。

 降りた駅からは徒歩二十分って話じゃ無かったっけ。

 何かえらい疲れたんですケドー。

 自由と靴下の左右は履き違えてナンボのゲヘナらしく、みんな引き金が軽い軽い。

 私とアロナちゃん居なかったらもう五回は危ない事になってそうだ。

 

 

「コートの下に着られる防弾チョッキや耐弾ヘルメットとか買いません?」

 “出来ればこのままが良いんだけど……二人の心配も解るからね。エンジニア部のみんなに期待させてもらおうかな?”

「ワンタッチで展開出来る防弾ドームとかで身を隠す場所を作るのも良いかも」

 “透明なら即席の塹壕代わりに、不透明なら野外でのテント代わりに良いかもしれないね”

「どこでもラブホテル〜♡」

 “下のお世話ロボットはちょっと扱いに困るかな!”

 

 

 しょうもない会話をしながらぽてぽて歩いていくと見覚えの有るツインテールが揺れている。

 私と先生の心をくすぐってやまない魅惑の生足娘、銀鏡イオリちゃんである。

 イオリちゃんは私達を見付けると、両手を腰に当ててぷりぷり怒る。

 

 

「二人とも遅いぞ! いったい何をしていたんだ!」

「やぁイオリ!!」

「お待たせイオリちゃん!!」

 

 

 どちらかともなく繋いでいた手を離し、とことこ近付いてきたイオリちゃんを左右から挟んで手をにぎにぎ。

 今日もすべすべ!

 良い肌してんねぇ♡

 

 

「わぁっ!? 何急に手を握ってるんだ!」

 “イオリへの好意が隠しきれなくて……”

「いっぱい仲良ししたくって♡」

「まだ良いって言ってないだろ! 一回離れろ!」

 

 

 顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振るイオリちゃん。

 余りの可愛さにほんわかしつつ手を離す。

 先生とともに期待を込めた視線を向けてみると、イオリちゃんはウッと後退る。

 

 

「ええい、そんな目で見るな! と言うか別に手なんて繋がなくても良いだろ!」

「えー、でもイオリちゃんと手繋ぎたいよねー?」

 “ねー”

「二人で繋げよ! 私を巻き込むんじゃない!」

 

 

 もう、とすたすた先に行ってしまうイオリちゃん。

 いやぁ、こう、打てば響く反応やらちょいロリボイスやら心に刺さるのが多過ぎて思わず弄っちゃうよね。

 最初は先生が足を舐めたとか落とし穴に埋まった所を写真に収めたとか聞いて困惑したけど、会ってみれば納得のサキュバス具合と言うか先生ホイホイだった。

 二人でイオリちゃんの小学校の卒業アルバム眺めてニヤニヤしちゃったもんねぇ。

 激カワでした♡

 そんなイオリちゃんを示し合わせた訳でも無いのに先生と立ち止まって眺めている。

 しばらく歩いていたイオリちゃんだったけど、返事が無いのに気付いて左右を見渡し私達が遥か後方に居るのを見て素で困惑の表情をした後、猛烈に怒ってずんずん駆け寄ってきた。

 

 

「こらー! 何で二人とも付いてきてないんだ!!!」

 “どこまで行ったら気付くのか気になっちゃって”

「なんなんだよもう! 二人ともキライ!!」

「ごめんごめん♡ お詫びに良いものあげるから♡」

 

 

 そう言ってコートの内ポケットから袋詰めにしたチョコ掛けプチクロワッサンを取り出す。

 バターとチョコが良い感じに効いたやつだ。

 それを見てイオリちゃんは目をキラキラさせながら口の端を懸命にへの字にしている。

 

 

「ふ、ふんっ! 美味しいもので釣ろうとしても無駄だからな!」

「いらない?」

「もらうっ! ありがとっ!」

 

 

 しっかりお礼を言って優しく受け取る所がまた可愛いよね。

 嬉しそうに尻尾がゆらゆらしてるのもポイント高いよイオリちゃん。

 

 

 “あ、そのクロワッサン私もまだ食べた事ないやつだ!”

「え、そうなの? ……ふふーん、羨ましいだろー♪」

「新作でーす♡ 中に棒状にしたチョコブロックも入れてあるから、コーヒーや牛乳と一緒に楽しむと良いかも♡」

「後でアコちゃんにコーヒー淹れて……いや、自分で淹れるか。何にせよありがとフミ!」

「どういたしましてー♡ その代わりって訳じゃないけど、イオリちゃんとお手々繋ぎたいなー?」

「ウッ……仕方ないな、ほら」

「きゃーイオリちゃん好き好きー♡」

 “良いなぁ!!!!”

「先生はダメ!」

 “そんなぁ”

「後でクロワッサン分けてあげるから、それで我慢するんだな♪ ほら二人とも、今度こそ行くぞ」

 

 

 ガチめにしょんぼりしてる先生に空いている左手を差し出して、三人仲良く並んで歩く。

 数歩進んだ所でイオリちゃんが声を上げる。

 

 

「いや、なんでこんな仲良し家族みたいな体勢で移動してるんだ!?」

 “あ、気付いた?”

「でも振り解かずにしっかり手繋いでくれてるのイオリちゃん優しくて好きー♡」

 “良い子だよね、イオリ”

「小っ恥ずかしいからその反応やめろ!」

 

 

 わいわいきゃいきゃい、賑やかに歩いて風紀委員会へ。

 校舎の一角を丸々使って風紀委員会棟にしているので腕章を付けた子が忙しそうに走り回っている。

 でもみんな私達に気付くと微笑ましそうに手を振ってくれる。

 私は両手塞がってるから先生代わりに挨拶してね。

 

 

「ただいま。先生とフミ連れてきたぞ」

 

 

 執務室の扉を開けると先ず目に入るのは重厚な黒塗りの机とその上に山と積まれた書類の束。

 その書類の間で揺れるふわふわした白いモップのような何か。

 相変わらずの仕事量である。

 

 

「せんせー、ごー!」

 “ちょっと労ってくるね”

 

 

 手を離して先生を突撃させる。

 書類から顔を上げたこの部屋の主、空崎ヒナさんは勇ましく駆け寄ってくる先生を見て呆気に取られたような表情を浮かべた。

 そのまま先生にハグされてぽんやりしていた顔が徐々に紅く染まっていく。

 

 

「うむうむ♡」

「いや、良いのかアレ」

「当人は喜んでるから問題ナシ! と言うか相変わらず仕事量やタスク割り振りが改善されてないみたいですけど?」

「如何せん、委員長以外に決裁出来る書類が少なかったりそもそもの業務量が多かったりと、根本的な解決には至らない状況でして」

 

 

 私の声に答えたのは火宮チナツちゃん。

 奔放な人の多いゲヘナにおいて、割と珍しい常識的な感性を持つ子だ。

 先生ファンクラブ会員の一員でもある。

 今度先生を温泉旅行に招待するらしく、色々と相談にも乗ってあげたりもした。

 まぁ混浴して一緒の布団で寝ても先生からは手を出さないだろうから、そんなに気負わない方が良いとは伝えてあるんだけど。

 

 

「万魔殿の嫌がらせ込み?」

「込みですね。以前頂いたアドバイスに沿ってイブキちゃん経由で交渉したので多少減ってはいますが」

「鎮圧とか武力関連は各人の成長に期待するとして、事務作業はもっと変えて行かないとダメだねぇ。ヒナさん卒業したら二年生、特にイオリちゃんとかが同じだけの書類仕事を捌くんだし♡」

「あの量、私には無理だぞ……?」

「だから無理じゃなくする為にテコ入れするの♡ 先ずは委員長以外に権限を分けて本当に必要なもの以外は部署ごとで決裁するようにするとか、細かく刻んで確認している項目は一週間や一ヶ月に一度委員長が確認すれば良いように変えるとか。毎日確認するのも大事だけど、その確認をトップにやらせるのは効率的じゃないからね。いつもとそう変わらない報告なら纏めて後で確認、普段と違う時は特記事項として別途確認、ってするだけで委員長の負担は減るから」

「なぁフミ、いっそゲヘナに来ないか?」

「面倒くさそうなのでいやでーす♡」

「他人事だと思って!」

「他人事なんだよなぁ♡」

 

 

 現実逃避を始めたイオリちゃんの手をにぎにぎしつつ、チナツちゃんに改善案と組織改編のやり方をぽいぽい投げ付けておく。

 マニュアル化は大事だよ。

 特に手を抜いても回るように効率化させる時はね。

 アホみたいな業務量に埋もれていた委員長ことヒナさんは先生セラピーで存分に癒やされている。

 心なしか髪の毛も若干艶を取り戻した気がする。

 

 

 “いつも頑張っていて偉いね。流石はヒナだよ。今度気分転換にデート行こうね”

「うん……うん……うん!?」

 “疲れたらいつでも甘えに来て良いからね。私もヒナと一緒に居ると楽しいんだ。あ、また頭の匂い嗅いでも良いかな?”

「うん……うん……うん!?」

 

 

 労りつつしっかりヒナさんで遊んでいる先生。

 なんだかんだ先生からの信頼も厚いし、吹っ切れて先生ラヴァーズに入ってくれないかなーとは思う。

 妙に自己評価低いんだよねヒナさん。

 今度アリスちゃんやアズサちゃんあたりの純真組と引き合わせていっぱい褒めてあげるか。

 

 

「そう言えばアホさんは?」

「アホちゃんなら万魔殿に文句と書類届けに行ってる。そろそろ戻ってくる頃だけど」

「誰がアホですか誰が!」

「アホちゃん……アコちゃんおかえり」

「イオリ、今素で間違えましたね?」

 

 

 執務室の扉を開いて現れたのはゲヘナの横乳の異名を持つ天雨アコさん。

 相変わらず今日も側面を大胆にカットした横乳がはみ出る改造制服を着ている。

 寒くないのかな?

 

 

「お邪魔してまーす♡」

「忙しいんですから邪魔しないでください。ただでさえあのタヌキどものせいで無駄な仕事が多いんですから」

「ある程度自動化とか脳死処理出来るようにシステムこねくり回した方が良さそう♡ あ、これお土産のチョコクロワッサン♡」

「ありがとうございます。休憩の時にいただきますね」

 

 

 柔らかい笑みを浮かべるアコさん。

 アビドスの時のキンキン具合とはだいぶ違って、たおやかな仕草をしていたら普通の美人さんだ。

 生来の挑発誘い受けドMな所が出て来なければ割と先生を早期に攻略出来るだけのポテンシャルは備わってる。

 先生もアコさんが屈服趣味を持ってると気付いてからは粗雑な対応を織り交ぜてご機嫌を取ってるらしい。

 お姉さんぶって色々小言を言ってくる小学生みたいで可愛いよ、と言っていた。

 

 

 “や、お待たせ”

 

 

 先生が戻ってくる。

 ヒナさんを見るとどこかシャキッとして肌や髪の毛も艶々になっていた。

 どういう生態♡

 ストレス解消されただけでこの漲りようはちょっと良く分からない。

 まぁ幸せなら良いか!

 

 

「いらっしゃい、フミ。もてなしは出来ないけどゲヘナを楽しんで行って」

「はーい♡ と言うか先生セラピーの効果に若干引いてるんですけど♡ ヒナさん先生好き過ぎでは?」

「……ノーコメント、よ」

 “ヒナが元気になってくれて良かったよ”

「それはそう♡ 鎮圧される美食研究会や温泉開発部が不憫になるレベルで、ヒナさんの闘気やら活力やらが満タンなんですけどー♡」

「確かに、身体も軽いし頭もスッキリしてる。今日はパトロールで慣らしてみるのも良いかも」

 

 

 キリッとするヒナさん。

 その様子にアコさんもご満悦だ。

 

 

「フミからクロワッサンの差し入れをいただきました、後でコーヒーと一緒にお出ししますね」

「あら、楽しみね。ありがとうフミ」

「どういたしましてー♡ もっと色々食べたくなったらシャーレまでどうぞ♡ せんせーに執事服着せて伊達メガネも掛けさせておくので♡」

「詳しく聞かせてもらおうかしら」

 “知らない間にコスプレの予定が!?”

「あら、執事になった先生を顎で使うのも悪くないですね」

 “みんな聞いてあげて! アコが顎で使うって!”

「ちょっと!? なんで私がスベったみたいにするんですか!?」

「寒いジョークにして反撃しつつ否定させて無かった事にしようとするとか無駄にテクニカル♡」

 “分析しないで!”

 

 

 

 

 

 

 賑やかな風紀委員会執務室を後にして、私と先生は食堂へとやってきた。

 昼下がりという事もあり混雑のピークは過ぎ去って、そこそこ人は居るけど落ち着いて食事をするにはちょうど良い感じの空間になっている。

 厨房では給食部の二人が激務を終えて身体を休めている。

 と、長身の方の子──牛牧ジュリちゃんが私達に気付いて手を振ってくれた。

 

 

「先生にフミさん、こんにちは」

「やほやほー♡ ジュリちゃんお疲れ様♡」

「いらっしゃいフミ。先生も元気そうで何よりです」

 “やぁ、ジュリ、フウカ。こんにちは”

 

 

 ゲヘナの数少ない良心であるフウカさんが頭を下げる。

 今日は拉致られていないみたい。

 いや選択肢に拉致があるのがおかしいんだけど♡

 

 

「フミが手配した材料、冷蔵庫にしまってあるわよ」

「ありがとうございます♡ 早速作っちゃおうかな?」

 “何か作るの?”

「イブキちゃんにプリンでも作ろうかなって♡」

「フミさんの料理も参考にして、ゆくゆくは私も色んな料理を作れるように……!」

 “うん、私も応援してるよジュリ”

 

 

 という訳で早速プリンを作っていく。

 スタンダードなやつにみかんやイチゴ、キウイやぶどうも乗せてホイップクリームを添えて、プリンの上にさくらんぼを置いたらフミちゃん特製プリンアラモードの完成だ。

 レシピ通りに作ってるからさほど目新しい所は無い。

 むしろ裏で作ってた茶碗蒸しの方がフウカさんの食い付きが良かったくらいだ。

 

 

「炙った鯛の脂を出汁に混ぜるのは思い付かなかったわね……!」

「やりすぎると臭くなっちゃうので塩梅が難しいんですけど、上手いことハマるとこれが美味しいんですよ♡ 同じ白身の鱈と合わせても良いですし、海老や椎茸なんかとも相性抜群ですね♡」

「何かに応用出来ないかしら……」

 “フウカとフミが居たら毎日の食事が凄い事になりそうだなぁ……”

「カロリー抑えないと成人病になっちゃう♡」

 “食べ過ぎちゃうもんね”

「そう言えばフウカさん、あれからハルナさんの襲撃とかどうですか?」

 

 

 ふと思い出して聞いてみた。

 以前、トリニティで補習授業部の勉強を手伝っていた時にフウカさんへアドバイスを送っていた。

 果たして結果や如何に。

 

 

「あぁ……うん。大人しくはなったわ。大人しくは」

 

 

 (눈ᇫ눈)な顔をして遠い目をするフウカさん。

 聞けば以前のように無理矢理拉致って行く事は無くなったらしい。

 代わりにちょっとした時間で一緒に食べ歩きをしたり持ち込みで料理を頼んできたりと、顔を合わせる機会は増えたとの事。

 いやそれ普通にハルナさんに愛されてるやん。

 モテモテじゃんフウカさん。

 

 

 “仲良くやってそうで一安心だよ”

「いやまぁ、仲は以前より良くなったんですけど、こう釈然としない感が」

「ラブラブで羨ましいですにゃー♡ 私もせんせーとラブラブして対抗するしか!」

「コラッ、抜け駆け禁止よ!」

「わ、私も興味が有ります!」

 “わぁい、モテモテだぁ”

「遠い目しないで♡」

 

 

 そんなこんなでプリンを箱詰めして手提げ袋に入れて食堂を後にする。

 今度当番で二人が来る時が楽しみだね。

 ゲヘナ学園で一番大きくて立派な建物を目指して歩いていると、道中に金ピカの像が立っている。

 台座のプレートに書いてある『偉大なるゲヘナバカマコト様の像』の文字が笑いを誘う。

 極太マジックで落書きされてんじゃん。

 愛されてるのか疎まれてるのか判断に困る。

 まぁ殆どのゲヘナ生徒がマコトさんの事知らないからそこまで深刻なやつではなさそう。

 アビドスみたいに家族な所とは対照的だね。

 

 

「あっ!」

 

 

 なんだぁこの可愛らしい声は!

 振り向くと袖をぱたぱた振り回しながら丹花イブキちゃんが駆け寄ってきていた。

 腰を落としてバッチコイの構えを取った私を見て、イブキちゃんは満面の笑みを浮かべて飛び付いてきた。

 

 

「おっとと♡ イブキちゃんこんにちは♡」

「フミ先輩、こんにちは♪ 先生もこんにちは♪」

 “こんにちはイブキ。今日も元気いっぱいだね”

 

 

 抱き上げてくるくる回ってから先生と私でむぎゅむぎゅサンドイッチ。

 ふははー、勇者をも堕としたこの圧迫祭りには敵うまい♡

 

 

「せんせーと一緒にむぎゅむぎゅアタックだー♡」

「きゃー♪ 潰れちゃうー♡」

 “イブキは温かくてふわふわだねぇ”

「そこの変質者ーレ二人、イブキに変な事教えないでください」

「あ、イロハさんやほやほー♡」

 “変質者ーレとはいったい”

 

 

 どこか呆れたような目をした棗イロハさんもやってきた。

 相変わらず凄い毛量だ。

 髪の毛だけでお米一袋分有りそう。

 シャンプーの消費も早そう……お風呂大変じゃない?

 

 

「そうそう、さっき食堂でプリン作ってきたから良かったらみんなで食べてね♡」

「フミ先輩の手作りプリン!?」

「しかもアラモードになってまーす♡」

「はわぁ……♪」

 

 

 おめめをキラキラにして手提げ袋を見ている。

 激カワ過ぎて浄化されそう。

 

 

「二人分しかないのでイロハさんと二人で食べちゃって♡ 他のみんなへはこっちのクロワッサンをどうぞー♡」

「おや、ありがとうございます」

「ありがとーございます!」

「どういたしまして♡」

「この後お二人はどうされるんですか?」

 “シャーレに戻って追加の書類があれば処理、何も無ければ前倒しで幾つかの案件を進める感じかな”

「先生とフミ先輩、帰っちゃうの?」

「帰っちゃうのー。今度シャーレに遊びにおいで♡ 一緒にお菓子作って万魔殿のみんなにお土産渡そ♡」

「わぁ、楽しそう♪」

 “当番じゃなくても気軽に来てくれて大丈夫だからね。シャーレは生徒の為の組織だから”

 

 

 イブキちゃんにプリンを渡してミッションコンプリート。

 二人に手を振って別れ、これにて今日のゲヘナでやる事は終わり。

 各生徒達との顔見せ交流とヒナさんへのちょっとした依頼が目的だったからもう少し早く終わる予定ではあったんだけど、空を見上げれば太陽がビルの陰へと落ちていく。

 行きと同じように先生と手を繋いで駅へ向かっていると、聴き慣れた声が届いた。

 

 

「良い事をすると気分が良いわねー!」

 

 

 アウトローの欠片もない善人の鑑みたいなセリフに、思わず先生と二人で吹き出した。

 向こうもこちらに気付いたようで、元気に駆け寄ってきた。

 

 

「あら、先生にフミじゃない!」

 “お疲れ様、アル”

「アルちゃん社長もお疲れ様ー♡ 仕事帰り?」

「ええ、また一つ依頼を完璧にこなしてきたわ!」

「流石ー♡ よっ、敏腕社長♡」

「うふふ、もっと褒めて良いのよ!」

 “アルは凄いなぁ、私も見習わないと”

「これほどの逸材がまだ学生な事に世間はもっと震えるべき♡ 卒業後のキヴォトスの勢力図が一気に塗り替えられる♡」

 

 

 やんややんやとアルさんを褒めそやしながら、寄ってきたはーちゃんを捕まえてむぎゅむぎゅ。

 すっかり抵抗しなくなっちゃったねはーちゃん?

 

 

「えへへ……フミちゃんになら、何をされても大丈夫ですから……」

「おっとぉ、そんな可愛い事言っちゃうとわるーいフミちゃんに襲われちゃうぞぉ? ほれほれ♡」

 

 

 心の副担任が立ち上がったので、はーちゃんのほっぺたにちゅーしちゃう。

 くすぐったそうに受け入れるとか私以上に淫婦の素質有るなこれは!

 可愛いよはーちゃん♡

 そんな風に戯れていると、カヨコさんが呆れたように息を吐く。

 

 

「遊んでないで帰るよ。タイムセール間に合わなくなっても知らないからね」

「ハッ!? そうだったわ、今日は卵と白菜が安くなるのよ!」

「卵と白菜かぁー……すき焼き、はこないだ食べたから餡掛けオム焼きそばでも作る?」

「わーい、フミっちの手料理楽しみー♪」

「デザートに眼鏡を掛けたせんせーでも出す?」

「そっちがメインじゃない?」

 “食べようとしないで!”

「真顔で言わないで♡」

 

 

 わいわい盛り上がりながら駅へと向かう。

 行きと違ってD.U.地区への帰りだから豪華な席じゃなく普通の横並びタイプの座席だけど、今度便利屋のみんなと豪華列車に乗ってプチ旅行とか行きたいねぇ。

 混浴可で大部屋の所を押さえないとアレかな?

 まぁ資金はいっぱい有るからそれぞれ一人部屋とかでも良いし、その辺は実際行く時に話してみよう。 

 

 

「茶碗蒸しとか味玉仕込んでも良いかもねー♡ 一人一パックで大量に卵が手に入る♡」

 “それこそプリン作っても良いかもね。プリン!”

「催促が激しい♡ じゃあ愛情込めて作っちゃう♡」

「わ、私も、フミちゃんのプリン、食べたいです……!」

「はーちゃんのは特に愛情たっぷり入れちゃう♡ 甘々スイートな愛情で血糖値が五千超えるくらい♡」

 “それはもう何かしらの兵器なのでは”

「フミっちの愛がドバドバだね♪」

 

 

 はーちゃんへの愛情はそれこそアルさん相手だって負けないつもりだからね。

 これからもどんどん愛を伝えていきたい。

 それこそはーちゃんが一人の夜でも寂しくならないくらいに。

 ……まぁ、そんな時は布団に潜り込みに行っちゃうけど♡

 と、何かを感じ取ったのかはーちゃんがぶるりと身体を震わせる。

 ふっふっふー、逃さないぞぉ♡

 そんな感じで電車に乗り他愛も無い事を喋りながらスーパーへ寄ってお買い物。

 他の献立を考えつつ色々とカゴにぽいぽい放り込んで……こらムツキさん、こっそり食玩入れないの♡

 眼鏡っ子セレクション、って何コレ♡

 

 

「フミっちも眼鏡掛けてみない?」

「すっごいタレ目型のサングラスなら有りますよ♡ 何故か執務室の備品入れに入ってたやつ♡」

 “あ、それ私が買ったやつ”

「どういう趣味なの♡」

 “あれ掛けてアロハシャツ着て執務室の窓際でココア飲んでたらフミの腹筋ムキムキに出来るかなって”

 

 

 想像してみた。

 朝の日差しを受けながらココア入りのマグカップを傾ける、アロハシャツにジーパン姿のタレ目サングラスを掛けた先生の姿……。

 

 

「んぶふっ」

「あら、フミが撃墜されたわね」

「あははっ、似合いそうー♪」

 “遅かったじゃねぇか……冷めちまうぜ? 仕事への情熱が、このココアのようによ……”

「ぷっは♡」

「最初からココア冷めてるんだ……?」

「猫舌でも飲めるように、ですかね……?」

「と言うか先生、仕事への情熱なんてあったっけ?」

「ひー、ひー♡ ま、待って♡ くるしい♡」

「あ、フミが笑い過ぎて酸欠になった」

「先生、たまにフミに対してとんでもない火力叩き出すわね……?」

 “さっさと片付けちまうか。知ってるかい? 納期とチャンスは待ってくれねぇんだぜ”

「ぷひゃあっ♡ げっほげっほ♡」

「あ、フミっち崩れ落ちた」

「あわわ、だ、大丈夫ですかフミちゃん!?」

 

 

 大丈夫じゃないです。

 先生覚えてろ♡

 笑いが収まるまでたっぷり五分使ってどうにか買い物を終え、シャーレへと戻ってきた。

 ご飯を作ってる間、カヨコさんにお願いして先生をシメてもらった。

 ここで自由にさせてたら配膳の時にしれっとサングラスとアロハシャツでソファーに座っててもおかしくないからね。

 いやその姿はどの角度から見てもおかしいんだけど。

 粗熱を取った茶碗蒸しを冷蔵庫に入れて冷やしていると、何やら賑やかな声が。

 なんじゃらほい、と覗いてみれば先生のコートから女性の下着が出てきたと大騒ぎだった。

 あ、それ私の。

 思わず声に出しそうになったけどお口チャックしておく。

 言わぬが花ってやつなのだ。

 はーちゃんが凄い勢いで振り向いてきたけど、取り敢えず配膳を進める。

 というかはーちゃん、よく私のだって気付いたね?

 え、匂いで分かる?

 ヒフミン染みてきたの怖い♡

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