もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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三十三話目

「フミちゃん!!!」

「ぐえっ」

 

 

 帰還した私を待っていたのは熱烈な鯖折りだった。

 感極まったはーちゃんが全力で抱き着き背骨がミシミシ言ってる。

 ぺしぺしとはーちゃんの背中を叩いてギブアップを伝え、どうにか解放してもらうまでたっぷり五分は掛かった。

 もう少しで寝たきり生活になるところだったよ。

 

 

「あわわわ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」

「うーん、懐かしいはーちゃんの謝罪連打♡」

「ハルカ、落ち着きなさい。それでフミ……大丈夫なのね?」

「危うく大丈夫じゃ無くなりそうだったけど♡」

「あわわわ……!」

「フミ」

「にしし、はぁーい♡ 私もせんせーも大丈夫♡」

 

 

 代表して話を聞きに来たアルさんへ両手でピースサインを向ける。

 私が倒れて先生が撃たれた、と言う情報は各メディアで報じられていたらしい。

 シャーレの先生と職員が同時に倒れたと言うのは中々ショッキングな報道だったらしく、付き合いのある所からはひっきりなしに連絡が来ていたみたい。

 現地でアリウス生や聖徒会を蹴散らしてある程度の安寧を取り戻してくれたみんなには頭が上がらないね。

 セナさん達が動きやすいように露払いをしたり、救護騎士団や救急医学部の詰める施設の警護や戦場に取り残された生徒の救出なんかもやってくれたらしく、お陰で多くの生徒が無事に回復したらしい。

 

 

「八面六臂の大活躍♡ みんなすごい♡」

「二人の無事が分かるまでは気が気じゃなかったけどね……! 全部終わったら改めて揉みくちゃにされなさいよ?」

「うーん、どんどん予定が詰まっていく♡」

 

 

 はーちゃんに抱っこされつつアルさんにほっぺをもちもちされる。

 ムツキさんとカヨコさんは仮眠室で休憩中。

 起きてきたらもちもちされるんだろうなぁ。

 ほっぺたが伸び伸びになっちゃいそう。

 自警団のみんなも交代交代で休みながらトリニティの混乱を収めに行ってて、ワカモさんは先生が撃たれたと聴いて烈火の如く怒りながらアリウス生をなぎ倒していたようだけど、さっき先生からのモモトークを受けて飛び出して行ったらしい。

 先生も今頃鯖折りされてるかもしれない。

 

 

「ともあれ、何とか私も先生も復帰しました。ここからは反攻作戦と行きましょう」

「と言っても、大手を振ってカチコミって訳にも行かないんでしょう? やった事は大規模なテロでも、経緯を紐解くとトリニティの内乱と言うか、過去の紛争が元になってるから他学区の干渉はしにくいってカヨコから聴いたんだけど……」

 

 

 途中までは感心して聞いてたけど、どうやらカヨコさんの解説付きだったらしい。

 まぁ、謀はアルさんには向かないからね。

 我らが愛しき社長の役目は、舵取りと号令だからね。

 

 

「ええ、なので事に当たるのは少数精鋭、名目は他学区の友人の力になりたくてやってきた一生徒。組織立った動きは出来なくても問題はありません。普段、便利屋68がやっている事と変わりませんので♡」

「そう? なら問題ないわね! 作戦は任せたわよ、フミ!」

 

 

 ぺかーっと眩しい笑顔を見せてくれるアルさん。

 この笑顔の為に頑張ってると言っても過言ではない。

 ……さてー、そろそろ鬼電されてるスマホにも対処しないとなー。

 さっきからひっきりなしに連絡が届いている。

 モモトークにはシロコさんのスタンプ爆撃、電話はユウカさんから連続着信。

 心配されてるのは凄く嬉しいけどこの勢いはちょっと腰が引けちゃうぞぉ。

 逃げないように先生に腰を持ってパンパンしてほしいところさん♡

 

 

「取り敢えずビデオ通話でぽちー」

『繋がった!? ちょっとフミ、大丈夫なの!?』

「んんー、押してないのにスピーカーモード並みの音量♡」

『あっ、ご、ごめんなさい!』

「ユウカさんの心の妹、フミちゃんだお♡ せんせー共々無事でーす♡ ぶぃぶぃ♡」

『えっ、繋がったの!? ユウカ私にも見せて!』

『うわーん、ユウカが画面に近過ぎます!? 画面からは離れて部屋を明るくしないとダメなんです!』

 

 

 両手の指をチョキチョキして見せる。

 画面に映ったユウカさんはものすごいドアップだったけどモモイちゃんやアリスちゃんに引き剥がされていった。

 背景はなんか機械がいっぱい……あ、モニター切り替わった。

 ゲーム開発部、エンジニア部、セミナー、ヴェリタス……わぉ、勢揃い♡

 心配そうに見てるみんなに手を振って無事を伝える。

 

 

「あ、ウタハさん。簡易シェルターのデータ取れなくてごめんなさい。多分消し飛びました」

『いや、キミと先生が無事ならそれが一番の良い知らせだよ。少なくとも大事な人を守る、と言う主目的は達成出来たんだからね』

「やーん♡ ウタハさんにきゅんきゅんしちゃう♡」

『ウタハ先輩がフミを口説いてます!? ライバルが強力すぎます!?』

『おや、フミは先生のハーレム仲間なのだからライバルというよりは家族じゃないかい?』

『……なるほど! ぱんぱかぱーん、ウタハ先輩がハーレム仲間になりました!』

「な、なな、なんですってー!?」

 

 

 アルさんがいつものお家芸、白目絶叫を披露してくれる。

 ハーレム計画は順調ですわぞ♡

 と、ちょっぴり嫉妬してくれたのかはーちゃんがむぎゅっと抱き竦めてきた。

 はーちゃん可愛い♡

 いっぱい好き♡

 わいわいと賑やかになった所をユウカさんが落ち着かせてくれる。

 みんなにも現状の報告しておかないとね。

 という訳で早速報告。

 解ってる事、今後の対応、考えてる事、追加支援についてのお願い。

 今回の騒動でミレニアムは外様だ。

 けれど、外様だからこそ出来る戦い方というのもある。

 偶然を装った不幸、友人に対する個人的な支援、前に出ない事を活かした情報収拾。

 何より全部終わった後の打ち上げの準備は是非ともお任せしたい。

 お疲れでぐったりしてるだろう先生の癒し卑しのマッサージとかね♡

 

 

『支援の準備は良いけど……実際に物資を届けるのはどうするの? トリニティの大元へはシャーレ名義でフミが行くとしても、その、アズサさん? にはどうやって届けるつもり?』

『私たちやドローンを使ったりはできないんですか?』

『……セミナーの立場としてはあまり賛成は出来ないわね、支援したいのは当然なんだけど、かといって私たちの関与を示す証拠を残すのも避けたいし』

「支援したいのは当然、なんて言っちゃうユウカさん優しくて好きー♡ 流石お姉ちゃん♡」

『褒めても何も出ないわよ?』

『ユウカ、だらしない笑みが出てる出てる』

 

 

 モモイちゃんの指摘におっと、とよだれを拭うユウカさん。

 いや、よだれ垂らさないで♡

 

 

「そこは別の方の力をお借りしようかと。実は私、忍者のアテがあるんですよ♡」

『は? 忍者??』

『アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?』

『ちょ、お姉ちゃんうるさい』

『忍者ですか! アリスも会ってみたいです!』

「じゃあ打ち上げの時に紹介するね♡」

 

 

 テンションの上がるモモイちゃんとアリスちゃんに手を振りつつ、モモトークでイズナちゃんに連絡を送る。

 すぐに了承のスタンプが返ってきた。

 これで孤軍奮闘しているアズサちゃんへ物資を届ける事が出来る。

 しっかしヒフミンを振り切って一人戦う事を選ぶとは……ヒフミンも愛されてるねぇ。

 ま、後で補習授業部のみんなにもちもちされるんだろうけど。

 そこは甘んじて受けてもらおう。

 

 

「それとアビドスのみんなにも救援要請を出しました。現地への移動や物資補給、作戦支援はお任せしますね♡」

『うん、作戦支援は私達の一番得意とするところ。大船に乗ったつもりで安心して』

 

 

 ハレさんが妖怪エナジー片手に胸を張る。

 相変わらずのカフェイン中毒らしい。

 

 

「……後でカフェインと砂糖控えめにした新発売のフレーバー、ケースでお送りしますね♡」

『えっ、良いの?』

『ちょっとフミ、甘やかしちゃダメよ?』

「にしし、はぁーい♡ 直接の戦闘はこっちでやるんで、みなさんには通信傍受と位置情報の共有を主にお願いしますね」

『解ったわ。フミも怪我しないように頑張ってね!』

 

 

 通信を終えて一息吐く。

 いやー、気を抜くと頬がすぐ緩んでくるね。

 みんなに心配掛けちゃって申し訳ないんだけど、それと同じかそれ以上に心がふわふわぽかぽかしてくる。

 

 

「フミ、鏡持ってくる?」

「んぅ?」

「今の貴女、すっごく良い顔してるわよ」

 

 

 アルさんがからかうように小さく笑う。

 はーちゃんもこくこく頷いて、私のほっぺをつんつん押してくる。

 ……なんだか恥ずかしくなってきたぞぉ。

 

 

「フミちゃん、写真、撮っても良いですか?」

「良いわね、ムツキやカヨコにも見せてあげましょ♪」

「……うにゃーっ♡ やめろー♡」

 

 

 ちたぱた暴れてどうにか写真は勘弁してもらった。

 全く、油断も隙もないんだから♡

 

 

 

 

 時間は過ぎて翌朝。

 シャワーを浴びていつもの制服に着替え、コートを羽織りホルスターを付けて準備万端。

 作戦は先生にも通達済み、イズナちゃんのこっそり配達任務も無事完了したと連絡があった。

 後はアズサちゃんの元へみんなで駆け付けるのみ。

 

 

「さて……ヒフミンの好きなハッピーエンドを目指して、頑張っていきますかね、っと♡」

 

 

 駐車場に止まっていたミレニアム印の装甲車へ乗り込む。

 遠隔操作で目的地まで自動運転してくれる最新のシステムが組み込まれた、エンジニア部とヴェリタスの共同開発の車だ。

 当然のようにBluetooth付きで、車内にはウタハ先輩イチオシの演歌が流れている。

 いやミスマッチ♡

 

 

『ちなみに運転はこっちでユズが画面を見ながらコントローラーで操作しているよ』

「待って♡」

『安全運転で、頑張るね……!』

「自動運転って話じゃなかったの♡」

『普段の運転なら信号や歩行者のデータを取り込みながら走行する事も出来るが、今回のように障害物を避けたり悪路を走破しながら都度ルートを変更したり道なき道をジャンプで越えたりするには、まだ人力でないと厳しくてね』

「モモフレンズカートだと思ってます?」

『アイテムの代わりに、私達の中で一番適性のあったユズを抜擢したと言う訳さ。コントローラーを持たせたら彼女の右に出る操作精度を持つ人は居なくてね』

「確かに♡」

 

 

 ウタハ先輩の説明に思わず納得しちゃう。

 D.U.地区から移動しているけど、思いの外スムーズに移動出来ている。

 変にドリフトもしないし、交通ルールも守っていて安心出来る運転と言えるだろう。

 モモイちゃんだったらドリフトで赤信号に突っ込んでいたんだろうなー。

 普通街中にジャンプ台は無いのよ♡

 

 

「思いの外快適でびっくり♡」

『えへへ……♪』

『ユズ、ずるいです! アリスもフミにアピールして褒めてもらいたいです!』

『ダメだよ……! アリスちゃん、こないだアビドスでフミちゃんとデート行ったでしょ……!』

『あれは誘っても外に出なかったユズが悪いです! 自分から行かないとデートイベントは完遂出来ません!』

『うっ……!』

「論破されてて草♡」

『こ、今度一緒にお出掛けしようフミちゃん……!』

「良いよー♡ 朝帰りしちゃう?」

『あ、あああ朝帰りっ!?』

『おおぅ、フミが大胆だぁ……』

『フミさん、是非私とも……!』

『アリスはフミと朝帰りしました! 一緒のお布団で気持ちよかったです!』

『ふふふフミちゃんっ!?』

『えっ!? アリスちゃんが一足先にオトナへ!?』

「うーん、激しく語弊♡」

『あ、凄い笑顔をしたユウカが来た』

『詳しく聞く必要が有りそうねフミ?』

「違うんすよユウカおねぇちゃん♡」

『……あら、いつの間に姉を増やしましたの?』

『えっ、誰!?』

「あ、ワカモさん♡ お疲れ様でーす♡」

 

 

 通信に入ってきたのは呆れと安堵を織り交ぜた笑みを浮かべるワカモさんだった。

 突然の乱入にモモイちゃんが目を丸くして驚いている。

 

 

『え、ワカモって……七囚人の?』

『あら、私も有名になったものですね』

「今はせんせーの正妻目指して花嫁修行中の可愛いお姉さんですけどね♡」

『帰ったら心配させた事込みでお説教ですわよ?』

「いやん、ゆるちて♡」

『えーと、良く分からないけど先生の味方で頼れる先輩って事でおっけー?』

「おっけーおっけー♡ ワカモさん、自警団の展開はどうですか?」

『トリニティの古聖堂跡へ向かって南南西から侵入中、青白いガスマスクの連中を倒しながら前進中です。撃って消えないのは捕虜として武装解除させてから後方の拠点に転がしてますけど、構いませんわね?』

「アリウス生なんでお手柔らかにお願いします♡ 後々問題になっちゃう♡」

『自警団の子達が手足を縛って濡れないよう天幕に押し込んで、抵抗しないなら解放するし食べ放題と言って貴女が作り置いたおにぎりと豚汁を見せ付けてましたわね。全員懐柔してみせると張り切っていましたわよ?』

『うーん、拷問だねぇ』

『フミさんのおにぎりと豚汁かぁ……』

『即時降伏待ったなしだね……』

『フミ、捕虜への虐待は条約で禁じられています!』

「待って♡」

 

 

 別に私が指示した訳じゃないから♡

 みんなの支援用に作っただけで、その振る舞い方は予想外なんだから♡

 いやでも、前回トリニティで保護した子達も栄養状態は良くなかったし意外と食料で攻め立てるのはアリか……?

 いきなり派手なものだと尻込みするかもしれないし、デフォルメしたどうぶつバタークッキーあたりで甘味の誘惑をぶつければ……あ、消化系が弱ってるかもしれないし、ポタージュ系の優しい甘みも良いかもしれない。

 

 

『その辺は事後処理として好きになさい。それより、先生を撃った下手人について知りたいのですけど』

 

 

 ワカモさんのその言葉に、ミレニアム組のみんながひゅっと息を呑む。

 通信越しに伝わる底冷えするような冷気と、一歩間違えば先生を失っていた恐怖が去来したようだ。

 ただ、それを捨て置く先生じゃない。

 分かれる間際に伝えられた言葉を胸に、ワカモさんの説得と行きますか。

 

 

「ワカモさん」

『なにか?』

「せんせーから言伝を預かっています」

 

 

 その言葉に、ワカモさんの空気が和らぐ。

 出来る事なら直接耳に囁いて欲しかった、と言いたそうな気配すらある。

 愛されてるねぇ先生♡

 

 

「私が傷を負った事を気に病む必要はないよ。心配掛けちゃってごめんね。そして、一つお願い。あの子を許してあげて。怒りを向けるべきは、あの子達じゃなく、あの子達にそんな手段しか選べないようにした大人なんだ。一人でも多く、その大人の手からあの子達を救い出す為に、君の力を貸して欲しい。──との事です」

 

 

 先生からの言伝は正しくワカモさんに伝わった。

 僅かな逡巡、小さな溜息。

 様々な思いを詰め込んだ息を吐き出して、ワカモさんは小さく笑う。

 

 

『あの方は本当に……』

「そう言う訳ですので振り上げた手は先生の頭でも撫でるのに使ってください♡ ママー、って甘えてくれるかもしれませんよ?」

『ちょっとそこ詳しくお願いします』

「今までで一番食い付きが良い♡ あ、中枢まで辿り着いたら牽制しつつ待機で。先生が何かやりたい事あるそうなので♡」

『やりたい事、ですか』

「多分出番となる瞬間はあるから格好良く登場したら先生喜ぶんじゃないですかね♡」

 

 

 私一人しか居ないけど車中賑やかに、目的地を目指して走り続ける。

 外はにわかに雨が降り始めていた。

 トリニティ自治区似入ってからは各所で銃撃や戦闘の音が聞こえてくる。

 装甲が流れ弾を弾く回数も増えてきた。

 

 

『も、目標地点到達……!』

『お疲れ様でしたユズ。フミ、装甲車はここで指揮車代わりとなって、私達ヴェリタスが支援を行います』

「お願いしますね、コタマさん♡ オフラインで厳重に保存するなら先生の声録っても良いですから♡」

『ふっ……今の私は阿修羅すら凌駕する存在です』

『あら、今から前線に出る?』

『ろ、録音が出来ないので後衛で……』

『まったく……フミ、いってらっしゃい。怪我しないでね』

「はぁーい、ユウカおねぇちゃん♡」

『ウッ』

『そう言えばユウカ、フミにお姉ちゃんって呼ばせてるの?』

『ちょ、誤解よ!』

『五回もですか! ユウカは欲しがり屋さんです!』

『違うってば!』

「この緊張感の無さ好き♡」

 

 

 小型イヤホンを左耳に付けて車外へ。

 向かう先は銃声が響く場所。

 崩れた瓦礫を踏み越えて角を曲がり、噴水の残骸から溢れる小川を飛び越えてその先へ。

 哨戒中のユスティナ聖徒会がこちらに気付く。

 けど、私の予想通りならこの場は。

 

 

「……にしし♡」

 

 

 良い角度の生脚を堪能しつつ横をすり抜ける。

 何事も無く、ユスティナ聖徒会は私を見送った。

 その様子をモニターしていたマキちゃんが戸惑ったように声を上げる。

 

 

『え、ええっ!? 素通り!?』

『エンカウントしないで切り抜けました! フミ、どんな魔法を使ったんですか?』

「私は何にもしてないよ♡ 何にもしてないからこそ、ユスティナ聖徒会の排除対象になってないの♡」

 

 

 アリウススクワッドがエデン条約機構になったと言ったあの時。

 紛争の原因として排除すると名指しされたのはトリニティとゲヘナだった。

 その中に、()()()()()()()の私は含まれない。

 そして撤退時、私は直接的な攻撃を加えていない。

 やったのは誰にも銃口を向けず、地面に一発撃っただけ。

 もちろん先生も敵対行動を取っていないので、この戦場においては逃げ惑う一般市民と同じような扱いをされているのだ。

 

 

「こっちが手を出すまでは相手も攻撃してこない。ノンアクティブエネミー、ってやつだよ♡」

『なるほど! 流石フミです!』

「にしし♡ もっと褒めても良いのよ♡」

『フミ凄いです! いっぱい好きです♪』

「照れるぜ♡ 私もアリスちゃん好き好きー♡」

『わ、私もフミちゃん好き……!』

「ユズちゃんもありがと♡ 私も好きだよ♡」

『すっかり二人が骨抜きに……』

『ユウカ、フミをゲーム開発部に所属させる方法って何か無いの? ほら、ゲストユニットみたいな感じで』

『それを言うならセミナーに欲しいくらいよ。……後で校則見直してみようかしら』

「ガチで検討しないで♡」

 

 

 踏み付けるように瓦礫の道を進みユスティナ聖徒会の陣営を抜けて。

 少し高い位置の壁をよじ登ると、お目当ての二人が見えた。

 他の子は周囲に展開しているのだろう。

 居ないなら楽になるのでどんどん離れていっていただきたいところさん。

 手始めに左手のリボルバーを頭上に抜き撃ち、同時に右手でシールドを展開させて前へ踏み出す。

 

 

「っ!」

「新手か!」 

 

 

 物陰を狙って投げられたグレネードは跳弾に弾かれて何も無い空間へ転がり爆発した。

 シールドを構えながらその物陰へと滑り込み、驚いた顔で私を見る子へ笑顔を向けた。

 

 

「お待たせアズサちゃん♡ 助けに来たよ♡」

「フミ……!?」

「相手はサオリちゃんだけかな?」

「……っ、ああ! 他のスクワッドは襲撃してきた部隊の迎撃に行ったところだ」

 

 

 話が早い♡

 色々聞きたいだろうに必要な情報だけ出してすぐ意識を相手に向けるのカッコいいぞ♡

 ちょっと顔や髪の毛は煤けているけど、目立った外傷は無さそうだ。

 きっとゲリラ的に継続して戦闘を行なっていたんだろう、タフが過ぎる。

 対するサオリちゃんは冷静に私を眺めていた。

 

 

「……あの時ワイヤーで離脱していった生徒か。逃げ出す手腕は中々だったが、一般生徒がどうこう出来るほど私は甘くない」

「んー、確かに♡ 一般生徒だから、ユスティナ聖徒会のみなさんも見逃してくれたしねー♡」

「なに……そうだ、お前一体何処から」

 

 

 一瞬眉を顰めたサオリちゃんがスマホを通して各所へ確認を飛ばす。

 同時にアズサちゃんが物陰から飛び出し斉射を行う。

 併せてリボルバーを右前方へ撃ち、跳弾で折れた建材を狙う。

 元々ヒビが入っていて脆くなっていた建材はあっさり崩れてサオリちゃんの頭上に降り注いだ。

 大した威力は無い。

 必要なのは帽子のつばに瓦礫を落として視界を僅かに封じる事。

 

 

「なっ……!」

 

 

 思わぬ邪魔に声を上げたところへ、アズサちゃんがグレネードを投げ込む。

 角度が甘く横へ逸れたと思わせたそれをリボルバーの跳弾が弾き飛ばし、サオリちゃんの背後へと飛んでいく。

 轟音と一瞬の熱波。

 破片を撒き散らすタイプではなく、炎を散らして周囲の酸素を奪いつつ延焼させるタイプのものだったらしい。

 すぐに転がるように駆け出して場所を移すサオリちゃんに、アズサちゃんが追撃を加える。

 数発ヒットしたのを見送ると、苛立ったように声が飛ぶ。

 

 

「なんなんだ、お前は……!」

「アズサちゃんの恋人でーす♡」

「ふざけるな……っ!」

「フ、フミ、そんなに大声で言われると、少し、恥ずかしい……」

「……なにっ?」

 

 

 予想外の反応だったのか、思わず聞き返すサオリちゃん。

 いやぁごめんね、シリアスが続かなくて♡

 しかし相手もさるもの、すっかりふわふわ愛されキャラになったアズサちゃんへ激昂してみせた。

 

 

「腑抜けた事を……! 忘れたのかアズサ! vanitas vanitatum. et omnia vanitas. 全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ」

「……そうだな、サオリ。全ては虚しい……」

 

 

 声のトーンを落とし答えるアズサちゃん。

 リロードの音が大きく響く中、その声が続きを紡ぐ。

 

 

「だがそれは、全てを諦める理由にはならない。サオリが姫を大事に想うように、私も大切なヒフミを想う。サオリがミサキを気に掛けるように、私もコハルを気に掛ける。サオリがヒヨリを見守るように、私もハナコを見守る。本当に全てが虚しいなら、みんなとの絆も捨て去るのか? 私は……嫌だ。みんなを、未来を、自分を、諦めたくなんてない」

「……戯言を……!」

 

 

 熱い想いを吐露するアズサちゃん。

 ちょっと前までアリウスに居たとは思えない煮え滾る魂の持ち主であった。

 でもごめんね。

 すっごい良いセリフなのに、ハナコちゃんが見守られる枠なの気になって頭に全部入ってこなくなっちゃった。

 当初の余裕あるお姉さん感はどこへ……?

 今ではすっかり末っ子に。

 

 

「アズサちゃんっ!」

 

 

 そこへ、声が届く。

 瓦礫を掻き分けるようにして現れたのはヒフミン、コハルちゃん、ハナコちゃん、そして先生。

 姿は見えないけどワカモさんとイズナちゃんも側に控えている筈だ。

 どうやら時間稼ぎは出来たらしい。

 ならここからはヒフミンの出番だ。

 一世一代の大舞台、そこで大見得を切る姿を見届けよう。

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