もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

41 / 67
三十四話目

「……なんだ、お前は」

「普通の、トリニティの生徒です」

 

 

 突如現れた生徒へ問い掛けるサオリちゃん。

 そいつ嘘付いてますよ。

 

 

「ヒフミ……それに、みんなも」

 

 

 驚いた様子で目を輝かせるアズサちゃん。

 やっぱりいつものメンバーがいないと心寂しいようだ。

 にわかに活気付いたアズサちゃんを見て鼻を鳴らしたサオリちゃんは、ヒフミンを見てその戦力を推し量る。

 いやぁ、見る限りは特筆する所無いの詐欺だよね。

 

 

「たかだか普通の生徒風情が、邪魔出来ると思ったか」

「サオリ……! 撤回しろ、ヒフミはただの生徒なんかじゃ」

「……はい、確かに私は普通で平凡です」

「えっ」

「はいアズサちゃん、今ちょっと良い所だからしー♡」

 

 

 友達を馬鹿にされて憤るアズサちゃんだったけどヒフミンのセリフに真顔になる。

 気持ちは分かるけど今は見守ってあげて♡

 

 

「たまに見せてくれていたガスマスクの姿が、本当のアズサちゃんなのだと。そのことも理解しました。そんなアズサちゃんは本当なら、私なんかには手の届かない世界に生きてるのだと……そう言いたいのも分かりました」

(随分濃いイベントこなしてたんだ?)

(色々あって、単独行動してて。ヒフミ達みたいに可愛い子と一緒だと目立つからな)

「でも!!! アズサちゃんは一つ、大きな間違いをしています!!!」

「えっ」

 

 

 突然の大声にびくんっ、とするアズサちゃん。

 困惑しつつ助けを求めるように私を見てくるけど、すまん私にもわからん♡

 解るのはヒフミンが今最高に良い空気を吸ってる事だけ。

 

 

「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!! 私の正体、それは……」

 

 

 そう言うとヒフミンは懐から紙袋を取り出した。

 覗き穴二つと、額の辺りにマジックで大きく《5》と書いてある。

 それを装着して天高く拳を突き上げる。

 

 

「そう、私こそが『覆面水着団』のリーダー、ファウストです!!」

「……え?」

 

 

 混乱したアズサちゃんがヒフミンと私を交互に見てくる。

 やめて♡

 救いを求める瞳で見詰めないで♡

 ファウストなのは知ってたけど未だに意味分からないんだから♡

 そんな私とアズサちゃんを尻目にファウストと化したヒフミンは高らかに声を上げる。

 

 

「見てください、この恐ろしさ! アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう! こっちの方が恐ろしくて怖いと言う人だっているはずです!」

「どうしようフミ……! ヒフミがおかしくなってしまった……!」

「元から定期♡」

「ファウスト……聞いた事が有ります! ブラックマーケットに現れた謎の人物で、華麗に銀行強盗を決めて鮮烈なデビューを飾り、瞬く間に一帯を支配したと言われている今最もホットなアウトロー……!」

「……そうなのか、ヒヨリ?」

 

 

 いつの間にかやってきていたアリウススクワッドの他のメンバー。

 スナイパーライフルを背負った子、ヒヨリちゃんがファウストについて説明してくれた。

 戦々恐々とした反応に満足したのか、ヒフミンはますます調子付く。

 

 

「だからっ!! だから私たちは、違う世界にいるなんてことはありません! 同じです! 隣にだっていられます! 布団だって、お風呂だって一緒です!! お互いに背中を流したり、肌をくっつけたりもしました!!」

「そ、そんな大声で言わないで……!」

「だから世界が違うなんて、一緒にいられないだなんて……そんなことを言わないでください! 拒絶されても、すぐ近くに行ってみせます! 私は……! 私は、アズサちゃんの側にいます! こうやって、すぐ触れられるところに……!」

「フミ、ヒフミが話を聴いてくれない……!」

「この場は諦めてもらって♡」

 

 

 謎の勢いで迫ってくるヒフミン。

 こら、ハナコちゃんもコハルちゃんも後ろで何とも言えない顔して黙ってないでヒフミン止めて♡

 

 

「それに、私だけじゃありません!」

「まだ来るの♡」

「とうっ!!!」

 

 

 ヒフミンの声に答えるように、近くの瓦礫の上に四人の覆面を被った戦士が降り立った!

 いやアビドス勢♡

 ご丁寧に番号が振られた色別の覆面を被って思い思いのポーズを取っている。

 ここにはいないけどアヤネちゃんも覆面でしょこれ。

 

 

「ん、この世に悪が蔓延る時……」

「うへぇー、真のアウトローが現れるよー」

「無法の輩に天誅を!」

『無辜の民に天恵を!』

「我ら覆面水着団、参上ですよ〜♧」

 

 

 ちゅどーん、とカラフルな爆炎が上がる演出付きだ。

 恐らく打ち合わせしたのであろう、ぴったり息の合った前口上を披露してくれる。

 見えないけど多分アヤネちゃんもノリノリでポーズ取ってるでしょこれ。

 なおアズサちゃんは更に困惑を深めて私の袖をギュッと握っている。

 可愛いね♡

 こんな状況じゃなきゃ愛で回すんだけどねぇ。

 

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……」

「ん、それが私たちのモットー」

「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです♧」

「別にそれ私たちのモットーじゃないから!? あと変な設定勝手に付け足さないで!」

『覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!』

「え、えっ!?」

「実在したんですね……?」

 

 

 余りのインパクトに思わずコハルちゃんとハナコちゃんも驚きの声を上げている。

 対峙するアリウススクワッドの三人も突然の乱入者に困惑した空気を滲ませている。

 

 

「あいつらは……」

「……分からない、詳細なデータは無し」

「ふ、覆面水着団……噂に過ぎないと思っていましたが、本当にいたんですねえ……」

「……リーダー、あいつらヘラヘラしてるけど注意した方が良さそう。少なくとも舐めてかかると痛い目に遭う」

「……」

 

 

 困惑しつつもしっかり警戒して相手の戦力を分析している。

 その目に油断は無く、いつでも駆け出せるように重心も揺らしていない。

 まさにプロフェッショナルな体勢だ。

 それに比べてこっちはどうだろう。

 

 

「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかな〜? ねぇ、そこの君たち? どこの誰なのか知らないけど、知らないよ? うちのファウストさんは怒ると怖いんだから」

「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ♧」

「えっなにそれ聞いてない♡」

「ブラックマーケットの銀行だって襲える。朝飯前みたいに」

「それにこの間なんて、カイザーPMCを砲撃で吹っ飛ばしたんだからね!」

「そうだよ、恐ろしいんだよ〜? 生きて動く災いと言っても過言じゃないし、暗黒街を支配するボスみたいなものなんだから」

「うん、それがファウスト」

「後で問い詰めないと♡」

 

 

 とんでもない話が出て来た事に頭痛を覚えていると、興が乗ってきたのか四人がファウストを囲んで右手を突き上げて声を張る。

 

 

「ファウスト! ファウスト!! ファウスト!!!」

「ファウスト! ファウスト!! ファウスト!!!」

「ファウスト! ファウスト!! ファウスト!!!」

「ファウスト! ファウスト!! ファウスト!!!」

 

 

 熱烈なファウストコール。

 最初は両手を腰に当てて堂々としていたヒフミンだったけど、恥ずかしくなってきたのか両手を振って四人を落ち着かせてから紙袋を取った。

 あははじゃないのよ♡

 

 

「ああっ、ファウストちゃんが紙袋を取ってしまいました!?」

「あ〜、流石に恥ずかしかったのかなー……?」

「せ、せっかく乗っかってあげたのに!」

「私は何も恥ずかしくないけど」

「シロコ先輩も、堂々としてないで早く取って!」

 

 

 それを見てみんなも覆面を取り払う。

 いや、何で乗ったの♡

 アリウスとアビドスで温度差激しすぎでしょ♡

 水星の表面温度か♡

 

 

『改めまして……対策委員会、今度はヒフミさんのことを助けに来ました!!』

「ありがとうございます、対策委員会のみなさん……」

「……如何にそいつらが強かろうと、戦力の差は覆せまい。その抵抗も虚しく終わる」

「果たしてそうでしょうか」

「……!」

 

 

 新たな声が戦場に響く。

 何の前触れも無しに、先生の両脇を固めるように二つの人影が現れた。

 白と黒、対照的な色合いの狐の面を被った生徒。

 ワカモさんとイズナちゃんだ。

 音も無く立っていた二人にコハルちゃんがガチビビりしている。

 

 

「先生の紡いできた絆、その一端を貴女達は垣間見る事になるでしょう」

「何を言うかと思えば絆だと? そんなものが……」

「……南門の部隊から連絡。正義実現委員会、委員長と副委員長が揃って復帰したらしくて押されているって」

「に、西門側でゲヘナの風紀委員長が風紀委員を連れて暴れてるみたいです!」

「何……東門に特攻服を着た連中が襲撃を?」

「うわぁん、北門にシスターフッドがやってきました!」

「それだけじゃない、各地で小型のロボットと一緒に変な四人組が攻撃を仕掛けてきたって。エリア一帯にジャミングもされて部隊同士の通信が妨害されてる……!」

「……包囲、されてしまいましたねえ……」

「これはちょっと厳しいんじゃない、リーダー?」

「知ったことか。無限に増殖する《ユスティナ聖徒会》の前では等しく無意味。……むしろ好都合だ。アズサだけでなく、この場の全員に知らせてやれ。この世界の真実を……殺意と憎しみに満ちたこの世界で、あらゆる努力は無駄なのだと。足掻こうと何の意味もない、全ては無駄なのだということを!!」

 

 

 いやぁシリアス。

 ごめんねサオリちゃん、ファウスト陣営がぽんこつゆるゆるで。

 でも付き合ってシリアスやっちゃうとワカモさんがガンギマリで頸狙いに行っちゃうから。

 と言うかイズナちゃん一言も喋らずに立ってると忍者というより暗殺者みたいでちょっと怖いかもしれない。

 と、ヒフミンが何やら先生と頷き合っている。

 こっちにも眼を向けられたので、隠れるようにくっついていたアズサちゃんを前にずいっと押し出す。

 

 

「え、あ、フミ……?」

「アズサちゃんっ」

「あ……ヒフミ?」

「アズサちゃん、私は今凄く怒ってます。すっごくです。ですが……それ以上に、無事で良かったです」

 

 

 そっとその場を離れて先生の側へ寄る。

 

 

「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です……。そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです」

 

 

 軽く笑みを浮かべて互いの健闘を称えつつ、最後の仕込みを終わらせるべく懐のスマホに手を伸ばす。

 

 

「それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!」

 

 

 モモトークで合図を送れば、了解のスタンプが返ってくる。

 

 

「私には、好きなものがあります! 平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません! 友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……! 苦しい事があっても……誰もが最後は、笑顔になれるような! そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!」

 

 

 それを確認して、先生の背を押す。

 

 

「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます! 私たちの描くお話は、私たちが決めるんです! 終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです! 私たちの物語……私たちの、《青春の物語(Blue Archive)》を!!」

 

 

 さっきまでしとしと振り続けていた雨は上がり、見上げれば青空が広がっていた。

 ヒフミンの熱い宣言に呼応したのか、はたまた別の要因か。

 気象の変化にヒヨリちゃんともう一人──確かミサキちゃん、も驚きを隠せない。

 そこへ畳み掛けるように、先生の厳かな声が響く。

 

 

 “ここに宣言する”

 

 

 その言葉に、全員が先生へと視線を向ける。

 それら一つ一つを受け止めて、厳かに言葉を紡ぐ。

 

 

 “私たちが、新しいエデン条約機構”

「なっ……!?」

 

 

 サオリちゃんが初めて驚愕の声を漏らす。

 そこへ畳み掛けるように、空中へ映像が投影される。

 浮かび上がるのはエデン条約の調印式に出席する予定だったメンバー、それと来賓枠の生徒。

 

 

『ゲヘナ学園風紀委員会、風紀委員長空崎ヒナ。調印に賛成するわ』

『トリニティ総合学園正義実現委員会、委員長剣先ツルギ。賛成だ』

『トリニティ総合学園シスターフッド、歌住サクラコ。賛成いたします』

「連邦生徒会連邦捜査部シャーレ、脇野フミ。賛成♡」

『来賓より、ミレニアムサイエンススクールセミナー、早瀬ユウカ。見届け人として調印式を認めるわ』

「来賓、アビドス高校対策委員会、小鳥遊ホシノ。調印式を見届けたよ〜」

「来賓枠、百鬼夜行連合学院忍術研究部、久田イズナ。調印式、見届けさせていただきました!」

 “──これを以て調印式を終わり、過去の認証を破棄し、新たなエデン条約機構を正式な認証の元執行する。これに異議の有るものは十日以内に連邦生徒会長へと届け出ること”

 

 

 その宣言と同時、イヤホンにハレさんから報告が届く。

 

 

『各地で動いていたユスティナ聖徒会が動きを止めて消えていったよ。何とかなったね』

「ありがとうございます♡ 全部終わったらお土産持って遊びに行きますね♡」

 

 

 余裕綽々な私とは対照的に、ミサキちゃんは慌てた様子で手元の端末を弄っている。

 各所からの相次ぐ報告に目を疑っているのだろう。

 

 

「リーダー……! ユスティナ聖徒会が、姿を消したって……!」

「!!」

「ま、周りのユスティナ聖徒会も次々に消えていきますぅ!?」

「っ、知ったことか!!!!」

 

 

 何かが逆鱗に触れたのか、それまでの冷静な態度をかなぐり捨ててサオリちゃんが激昂する。

 

 

「ハッピーエンドだと!? ふざけるな! そんな言葉で、世界が変わるとでも!? それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!? 何を夢のような話を……!」

 “生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だから”

「……っ!」

 

 

 先生へありったけの暗い感情を乗せて睨み掛けるサオリちゃん。

 邪魔された苛立ちか、妄言を口にする事への嫌悪か、あるいは自分達が一番欲しい時にその言葉をくれなかった事への憤りか。

 なんにせよ、今のサオリちゃんにはどんな言葉を紡いでも届かないだろう。

 手元のスマホへ残った幾人かのアリウス生徒の撃破状況が次々と伝えられる。

 大勢は決した。

 近場に寄ってきていた子達もアビドス勢や戦線を突破してきたシャーレ自警団、便利屋のみんなに取り押さえられていく。

 たまに流れ弾が飛んできても、シッテムの箱のアロナちゃんバリアを張るまでもなく、ワカモさんやイズナちゃんの小刀で切り払われていく。

 いや何それカッコいい♡

 普段はのんびりお人好しーな先生が、凄まじくカッコいい護衛二人を侍らせてるせいでファウストさえ顎で使うくらいの真の大悪党首領みたいに見えてくる。

 ワルな先生もステキ♡

 

 

「リーダー……」

「サオリさん……」

「もうユスティナ聖徒会は使えない。調印を上書きされたせいで戒律は機能を喪失した……」

「残った子達も次々制圧されて、もう……」

「手札が無いね……私たちの負けだ」

 

 

 流石にここから逆転を狙える手は無いらしい。

 諦めを滲ませたミサキちゃんとヒヨリちゃんを前に、サオリちゃんは何も言わない。

 そんな彼女へアズサちゃんが声をかける。

 

 

「サオリ……もう諦めて」

 

 

 恐らく私が合流する前にアズサちゃんへ投げ掛けていたであろうセリフ。

 それを受けて、サオリちゃんは顔を歪めた。

 

 

「ふざけるなっ!! どうして、どうしてお前だけ……!! 私たちは一緒に苦しんだ、絶望した! この灰色の世界に! 全てが虚しいこの世界で、お前だけが意味を持つのか! お前だけがそんな、青空の下に残るのか! 全て否定してやる! お前がトリニティで学んだこと、経験したこと、気づいたこと! 全て、その全てを!! 全ては虚しいのだから!」

 

 

 慟哭。

 アリウス生徒が口にする『vanitas vanitatum』の教義に圧し潰されていた、彼女が秘めていた思い。

 ズルい、どうして、何で。

 ()()()()()()()()()

 嫉妬と羨望。

 それを口にした瞬間、サオリちゃんが被っていた仮面がヒビ割れたような気がした。

 そこへ、別の言葉が差し込まれる。

 ハナコちゃんとコハルちゃんだ。

 

 

「いえ、そんなことはできません」

「私たちが合格したのも、そこまで頑張ったのも、無かったことにはならない!」

「……たとえ虚しくても、私はそこからまた足掻いてみせる。サオリ……私は、もう負けない」

 

 

 その言葉を引き金に、各々が銃を引き絞る。

 咄嗟に展開前のシールドを放れば、ワカモさんが先生を物陰に隠しながら片手でキャッチする。

 流石ワカモさん♡

 イズナちゃんと共に先生の護衛に回るようなので、アリウススクワッドの相手は私と補習授業部でする。

 ミサキちゃんにはハナコちゃんとコハルちゃんが、ヒヨリちゃんには私が、サオリちゃんにはヒフミンとアズサちゃんがそれぞれ当たる。

 他二人は実力が拮抗してるみたいだけど、ヒヨリちゃんは不運だったね。

 

 

「ヒヨリちゃんだっけ、私さ」

 

 

 両手でリボルバーをくるくると回して弄ぶ。

 ガンアクションで遊んでいたからジャグリングも得意になった。

 頭上、背中、反対側の脇の下から銃をくるくる放り投げては受け止めて回す。

 

 

「スナイパー相手に負けた事、まだ一度も無いんだよね♡」

 

 

 先ずは挨拶代わりに一発。

 跳弾させて銃口に弾をぶち込んで見せる。

 右前の物陰から「うわぁん!?」と声が聴こえてくる。

 続けて間隔を置かずに二発。

 ダンダン、と連続した銃声は左右別々の方向に飛び、撃ち出された当初とは全く違う角度で襲い掛かる。

 一発は頭上から安全装置を掠めて。

 もう一発は腰元に付けてあった弾薬入れの紐の結び目に。

 

 

「えっ!? 勝手に安全装置が……わぁぁ!? なんで紐が千切れてるんですかぁ!?」

「うーん、悪い事してる気分♡」

 

 

 一発、更に時間を開けてもう一発。

 ヒヨリちゃんの背後から、スコープの覗く側を破壊する。

 驚いて後ろを振り返ったであろうその瞬間に、再び銃口へ入り込む弾丸。

 これで分解掃除をしないともう撃てないねぇ♡

 また物陰から「うわぁん!?」と聴こえてきたのを確認してから援護に回る。

 先ずはミサキちゃんの無力化。

 一発だけ特殊弾をリロードしてから、二発続けて撃つ。

 距離は開いているけど、その分こっちの動きを読まれ辛いのは利点だね。

 最初に届いた一発が耳元を擦り上げる。

 流れ弾だと思ったミサキちゃんは気にせずミサイルランチャーを構えるけど、体勢を変えた事で口元を覆っていたマスクがはらりと外れる。

 そこへ特殊弾頭へと切り替えた一発が飛ぶ。

 ランチャーの側面に当たった弾丸はその身を弾けさせパッと小さな粒子をばら撒く。

 目の前を粉塵が舞い、訝しげに眼を鋭くするミサキちゃんだったけど。

 

 

「は、は、はっくしょん!!」

 

 

 うむ♡

 無事に効いたみたい♡

 中身は胡椒の粒をエンジニア部特製の粉砕機で更に細かく粒子化させたものだ。

 非殺傷でガスグレネードよりもずっと身体に優しいクリーンな兵器だ。

 試しに持ってきたんだけど無事活躍の場が有ってなにより♡

 くしゃみを連発して身動きが取れなくなったミサキちゃんは無事制圧された。

 さてヒフミンとアズサちゃんの方は……お、もう終わってた。

 良いねぇ、アズサちゃんは元よりヒフミンの成長が著しいのがなんか誇らしい気分。

 

 

「……ぇっぐし!」

 

 

 めっちゃ睨まれてる♡

 涙と鼻水でえらい事になってたから、洗浄用のきれいな水と目洗いキャップ、ポケットティッシュと携帯くずかごも渡してご機嫌窺い。

 一通りキレイにしてから、まだ赤みの残る目を向けられております。

 ごめんて♡

 

 

「ぐす……今度こそ終わりかな」

「そうですね……これ以上はもう「いぃーっぎし!」きちゃない!?」

「あ、ごめんヒヨリ」

「うう……踏んだり蹴ったりですぅ……」

 

 

 すっかり戦意喪失している二人。

 対してサオリちゃんはまだ諦めていない様子でギラギラとした目を周囲に走らせている。

 

 

「まだだ……。まだ古聖堂の地下に……あれが……」

「サオリ……!?」

 

 

 一瞬の隙を突いてサオリちゃんはヒフミンの横をすり抜けて走っていった。

 凄いね、まだ動けるんだ。

 

 

「古聖堂の地下へ……! 何か手段が残っているような言い方でした、止めなくては!」

「私が行く!」

「アズサちゃん、私も行きます……!」

「ヒフミは待ってて。その怪我だ、安静にしてて。心配しなくても大丈夫。サオリを止めて、すぐに戻ってくる」

 “私も行くよ”

「私も行ってくる♡ この二人をお願いね♡」

「ありがとう、先生、フミ。さぁ、行こう!」

「アズサちゃん、気を付けて……!」

「うん、ヒフミ、コハル、ハナコ。行ってくる!」

 

 

 三人の激励を背に受けて走り出す。

 アズサちゃん、先生、私。

 それにワカモさんとイズナちゃんもこっそり付いてきてくれている。

 戦力は十二分。

 はてさて、あの口ぶりだと厄介な何かが待ってそうだけど……まぁ何とかなるか!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。