もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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拝啓、グラウンドの上から

「という訳で、フミにも協力して欲しいんだよ!」

「待って♡」

 

 

 色々と端折りすぎてて何も分からない。

 今日は土曜日。

 シャーレの業務はお休みなので、ミレニアムに遊びに来ている。

 エンジニア部、セミナー、C&C、ヴェリタスに顔を出して最後に訪れたゲーム開発部。

 入ってきた私をみんなでむぎゅむぎゅして大歓迎した後、私をソファーに座らせたモモイちゃんが言い放ったのがこのセリフである。

 

 

「流石の私でも理解出来ないから説明が欲しいかな♡」

「え、お姉ちゃん説明まだだったの?」

「……あ、言ってなかったっけ?」

「無いでーす♡」

「ちょっと、お姉ちゃん!」

「あう、ご、ごめん!」

 

 

 いつものように姉妹漫才を繰り広げる二人。

 それを眺めながら、左右に座るアリスちゃんとユズちゃんの髪の毛をお揃いにする。

 相変わらず甘えん坊さんで良き♡

 

 

「で、ご用命は借金の相談?」

「借金ではないです。その、近くはありますけど……」

「なら……ユウカさんへの口添えかな? 活動資金の臨時援助、みたいな」

「うえぇ!? な、なんで解ったの!?」

「解らいでか♡」

 

 

 目を丸くするモモイちゃんにぴしゃりと突き付ける。

 部室にはこないだまで無かったプライステーションの新型が鎮座している。

 現行機のスペックを引き上げた限定品で、ミドルスペック帯のゲーミングPCと遜色無いゲームプレイが可能となったマイナーチェンジ版だ。

 当然現行機よりも二割くらいお値段が上がっている。

 周りには最近発売されたゲームのパッケージも数本転がっており、ここ数日は寝る間も惜しんでがっつりプレイしていた事が分かる。

 総額は……ギリ十万円いかないくらいかな。

 

 

「フミは流石です! 名探偵みたいです!」

「にしし、ありがと♡」

「え、えっと、マズイとは思ったんだけど初回限定版とか纏め買いでポイント五倍キャンペーンもやってて……」

「部長なんだからストッパーにならないとダメでしょユズちゃん♡ うりうりー♡」

「ひゃぁんっ!? く、くすぐったいよぉ……」

「あっ、ユズズルいです! フミ、アリスもこちょこちょしてください!」

「一応お仕置きなんだけど♡ アリスちゃんもこちょこちょ〜♡」

「きゃぁん♪」

「で、部費の残りはいくらくらい?」

「ええっと……」

「その……十一円です」

「駄菓子も買えない♡」

 

 

 取り敢えず全員ほっぺたをもちもちしておいた。

 部費の使い方に関してはユウカさんにじっくりお説教してもらおう。

 

 

「で、具体的に私に何をさせようと?」

「ふぃー、ほっぺたが伸び伸びになっちゃう所だった……あ、フミの出番はユウカの籠絡だよ!」

「私たちを虜にしちゃうフミさんの魅力で、ユウカを口説き落として欲しいんです」

「部費追加して欲しいって? 普通にアルバイトとかじゃダメなの?」

「うぅ……ひ、人が多いのは、まだ怖くて……」

「アリス知ってます! フミはお金持ちさんなのでアリスが愛人になってお金をもらいます!」

「待って♡」

「ふ、フミちゃんになら、体で払うのも……」

「どこでそんなの覚えたの♡」

「新作のダークファンタジーでそんな展開が有ったよ」

「吸収が早い♡」

「アルバイトだと時間拘束が厳しくて本来のゲーム開発に支障が出るので……」

「だからってゲームに注ぎ込んで部費使い果たしたら本末転倒でしょー♡」

「も、もっともなお説教はさておいて! 実際問題お金が無いのはホントなんだよ! と言うか調子に乗ってみんなでお金も出し合ったから、食費も明後日までの分しか無くて……!」

「お待ち♡ 食費まで削って買ったの?」

「うわーん! もやしだけの食事で三食切り抜けても三日も保ちません!」

「おバカたち♡ ちょっとそこに正座しなさい♡」

「え、あ、フミちゃん……!?」

「正座♡」

「「「「は、はぃぃ!!?」」」」

 

 

 という訳で一人ずつ頭を丸めたチラシでぽんぽこ。

 チラシはその辺に散らばってたスーパーのやつ。

 これでもやしを探していたらしい。

 いじらしいやら情けないやら。

 じっくりお説教しつつどうしようかと思考を巡らす。

 確かに私には考えるのも怖いくらいの資産がある。

 それこそゲーム開発部四人を侍らせて愛人にしても資産はびくともしない。

 三億円宝くじで当たった人が募金箱に一円玉を入れるくらいのものだ。

 いや本格的に怖いのでユウカさんはそろそろ手加減してくれても良いのよ?

 とは言えこのまま資金援助しても問題は解決しない。

 お金の大切さを教えるにはお金の価値を教えるのが一番早く、それは大半の場合アルバイトなどの労働の対価として受け取るのが良い。

 自分で苦労して稼ぐ、という経験が有れば支払うのと同じ金額を稼ぐのにどれだけの面倒があるのかを理解出来るはずだ。

 そうすれば欲しいもの以外への浪費はぐっと抑えられる。

 私とてユウカさんに逢うまでは血反吐を撒き散らし脳を焼き焦がしながら書き上げた文で賞に応募し、箸にも棒にもかからない時期を乗り越えて入賞賞金を得て生計を立ててきた。

 大金持ちとなった今でも、その時に培った金銭感覚は魂に染み付いている。

 まぁ、最近エンゲル係数が凄まじい事にはなってるけど♡

 

 

「やっぱ何かしらの苦役……もとい労働は必要かなぁ」

「苦役って言った!?」

「おっと♡ まぁ労働なんて面倒で辛いものだし♡ だからみんな不労所得を目指して頑張るのよ♡」

「そ、それは確かに……?」

「うぅ……で、でも私たちが働くなんて、出来るかなぁ……」

「フミの愛人ではダメなんですか?」

「んー、少なくとも愛人いっぱいいるからねぇ」

「ええっ!?」

「初耳なんですけど!?」

 

 

 ユズちゃんとミドリちゃんが声を上げる。

 そんな衝撃だったかな?

 今の所しっかり愛人枠なのははーちゃん、ヒフミン、アズサちゃん、コハルちゃんの四人かな。

 そう考えるとまだ私も全然大人しい部類なのでは?

 

 

「いやいやいやいや、フミ、普通に愛人四人は多いって。資産家のドスケベ当主とか悪どい政治家先生とかのポジションだよそれ」

「まことに遺憾です♡」

「遺憾なのはそれを聞かされる先生なのでは?」

「ぬぅ、モモイちゃんに言われるとは不覚♡」

 

 

 チラシ棒の先でモモイちゃんの足をつんつんしつつ、解決策は相談して考える事にしよう、と決めた。

 最後に全員の足をつんつん流して正座を解除し、テーブルに持ってきたお弁当箱を並べる。

 

 

「本当に持ってきて良かった♡ もやしだけじゃ身体に悪いし、今日と明日のご飯は面倒見てあげるから神妙に沙汰を待て♡」

「わぁい、フミのご飯です♪」

「おお、女神よ!」

「フミさんのご飯、楽しみ♪」

「えへへ……フミちゃん、ありがと……!」

「ちゃんと手を洗ってねー♡」

 

 

 

 

 

 

「ってな事が有りまして」

「……あの子達は本当に……」

 “食費まで行っちゃったかぁ……親近感が湧くね”

「湧かさないで♡」

 

 

 一先ずご飯を食べさせた後、私はユウカさんの所へ行って先生と電話を繋ぎ事態の報告と相談を行なっていた。

 私一人だとなんだかんだ甘い判断を下してしまいそうだったので。

 

 

 “でも私達三人全員甘い判断しか下せない気もするけど”

「それは確かに♡」

「あの子達を気にかけてる時点で甘いのに変わりはありませんからね……」

「こう言う時にしっかりぴしっと判断出来そうなのって誰か居ますかね? ヴェリタスのチヒロさんとか?」

 “確かにチヒロはヴェリタスを纏めてるだけあって、お母さんみたいな安心感があるね”

「エンジニア部はものづくり以外はあの子達に甘々ですし……他の部活の人に任せるのも調整が大変ですね」

「普通のアルバイトも日当のものじゃないと月曜日から飲まず食わずになりそうですし、結構喫緊の課題なんですよねぇ♡」

 “そう言えば結局ゲーム開発部の資金は幾らだったの?”

「全員のお財布合わせて六百十二円ですって♡」

「えぇ……?」

 

 

 四人合わせての金額にユウカさんがドン引きしている。

 学食のかけそばが百五十円だから四人で一食食べたら終わりだもんね。

 みんな気付いてなかったけど普通に崖ギリギリのピンチである。

 

 

「普段ならいざ知らず、この状況下で外部の仕事をさせるのはちょっとリスキーですよね。コントロールしやすいようにこっちが出す課題をクリアしたら賞金、ご褒美って形で支援出来たら良いんですけど」

 “それだと短時間でクリア出来るものが良いね。学力テストとか課題レポートはもう少し時間かかりそうだし、やるなら学内のお手伝いとか?”

「うーん、部活のお手伝いは専門性もあるから邪魔になるかもしれないし、雑務は用務員の方やお掃除ロボットで事足りますから」

「…………いや、流石にアレかな……?」

 “フミ?”

「何か良い案でもあった?」

「お二人にも判断して欲しいんですけど……労働だと相手方の事情も有りますから、いっそ肉体を酷使させようかと思いまして♡」

「肉体を……」

 “酷使……?”

「そうです♡ ユウカさん、一定の運動ノルマを達成したらクエストクリアって事で部費を出すって形でどうでしょう?」

「クエストクリアって……ゲームで区画の草むしりを終えたらお駄賃を受け取る、みたいな?」

「そうです♡ 労働の代わりに腕立て伏せ百回で百円、腹筋百回で百円、みたいな感じで運動メニューをこなしたら支給されるイメージで♡」

 “なるほど……ツライと感じる強度の運動を課して、擬似的に労働の疲れを体験させるんだね”

「…………確かに、それなら良いかも。でも、肝心のメニューはどう設定するの?」

「やですよぉユウカさん♡ 適任が居るじゃないですか♡」

 

 

 続く私の言葉に、ユウカさんは顔を引き攣らせて笑った。

 先生は感心しつつも苦笑いを浮かべた。

 妙案だと思うんだけどナー♡

 

 

 

 

 

 

「では改めまして。トレーニング部部長の乙花スミレです。本日はみなさんのトレーニングのお手伝いをさせていただきます」

「うわぁーっ!? もうダメだぁーっ!!」

 

 

 モモイちゃんの悲鳴がグラウンドに響き渡る。

 ミドリちゃんは絶望しているしユズちゃんはぷるぷると震えている。

 アリスちゃんはスミレさんと交友が有るらしく、元気に挨拶を交わしている。

 私も含めて全員ジャージ姿で首にタオルを巻いてある。

 気温は暖かく吹き抜ける風が心地よい、運動日和と言える良い天気だ。

 隣では同じくジャージに身を包んだ先生がスタンバイ。

 あの後監督の為に電車で来てくれたのだ。

 

 

 “私も運動するんだね”

「日頃デスクワーク中心ですからね♡ ゲーム開発部のみんなとは別メニューで、私とマンツーマンなので安心してください♡」

 

 

 それを聞いて少しほっとする先生。

 スミレさんの高負荷トレーニング、継続してやるなら良いんだけど一般人には辛いからね。

 いきなり高負荷で怪我したら目も当てられないので、先生には柔軟を中心としたメニューを組んでもらった。

 私はその補助役。

 四人は容赦なく動いてもらうのだ。

 まぁアリスちゃんは楽しんでこなしそうだけども。

 

 

「では最初は身体を解す為にトラックを五キロ、ランニングしますよ。走るペースは私が調整しますから、追い付かれてタッチされないように頑張ってください」

「えっと、スミレ先輩。タッチされたらどうなるんですか?」

「追加でトラック一周です」

「えっ」

「このトラックは一周で五百メートルですから、十回タッチされたら追加五キロ、つまり二倍の距離走る事になりますね」

「ひ、ひぇっ」

 

 

 またミドリちゃんが絶望しておられる。

 普通に運動するだけだからそんな鎮痛な面持ちをする事も無くない?

 事前にスミレさんにはそれぞれの身体能力と日頃の運動習慣のデータを渡してある。

 それに基づいて最適なメニューを組んでもらったので、ちゃんとこなせる強度の運動になっているはずだ。

 

 

「それではトレーナー、私たちは早速走ってきます。トレーナーも頑張ってください!」

 “ありがとうスミレ、お互い怪我には気を付けようね!”

「みんながんばえー♡」

「うえぇぇぇん! フミの裏切り者ぉ〜!」

「人聞きが悪い♡」

 

 

 泣き言を漏らすモモイちゃんを筆頭に、四人はトラックを走り出した。

 その姿を見送って、私は先生と向かい合ってストレッチを始める。

 先ずは頭の上で手のひらを合わせてぐいーっと身体を上に伸ばす運動。

 

 

「呼吸は止めずにゆっくりと♡ 痛くは無いです?」

 “うん、大丈夫……うっ、肩周りが”

「そしたら痛くない所まで緩めてください、そしたら少しずつ痛くなるギリギリを探って♡」

 “んー……あー、結構気持ち良いかも”

「ゆっくり十数えて……はい、リラックスー♡ 次は右腕を上にまっすぐ伸ばしたら肘を曲げて、左手で肘を抑えて左側に押しまーす♡ この時顎を軽く上にあげるイメージで♡」

 “んっ……あぁ〜、ちょっと痛いけど効いてる感じがする”

「反対側も〜♡」

 “こっちは痛くないね”

「利き腕の方は酷使しがちだから左右で硬さが違うのもあるあるですね♡ せんせーがリクエストしてくれたら、私が右手の代わりにいっぱい酷使されますけど♡」

 “どこからでも攻め立ててくる!”

「にしし♡」

「! フミと先生がイチャイチャしてます!」

「私たちが走ってるのに不公平だぞぉ!」

「にしし、頑張ってねー♡」

 

 

 アリスちゃんとモモイちゃんが走りながら声を掛けてくる。

 まだまだ元気そうでなにより。

 ミドリちゃんは体力を温存しながらスミレさんに追い付かれない速度で走ってるし、ユズちゃんは黙々と一定のペースで走っている。

 割と性格出てるのも面白いね。

 

 

「次は前に右腕を伸ばしたらそのまま左側へ曲げて、左手でより身体に近付けるようにぐいっと♡」

 “筋が凄い伸びてる……!”

「縮こまったり固まったりしたままだと怪我のリスクが高まりますからね。さ、反対側もぐぃーっ♡」

 “改めて日頃の運動不足を感じるよ”

 

 

 そんな風に上半身、腰、股関節、アキレス腱と順々に伸ばして柔軟体操は終わり。

 身体が温まった先生は額に薄っすら汗を掻いている。

 

 

「どうです? ストレッチも真剣にやると結構汗出るでしょー♡」

 “うん、身体がぽかぽかしてきたよ”

「じゃあ次は軽くトラックを回りますよ♡ 走るまでは行かないけど、なるべく速度を上げて早歩きします♡」

 “早歩き?”

「トレーニング部の部室にあるようなトレッドミルを使うのも良いですけど、折角なので四人に声援送りながらいきましょー♡」

 “トレッドミル……あぁ、電動のルームランナーみたいな”

「今の時代は殆んど電動ですよ♡」

 “ジェネレーションギャップ!”

「きゃーせんせーオトナ♡」

 

 

 走ってるみんなの邪魔にならないよう外側のレーンを使ってぽてぽて出発。

 先頭を走るアリスちゃんが手を振りながらコーナーを曲がっていく。

 こっちも手を振り返して見送り、ふと後ろを見る。

 モモイちゃんは最初に飛ばしすぎたのかヒーヒー言いながら走っている。

 ミドリちゃんとユズちゃんは変わらないペースで、私に手を振る余裕も有るみたいだ。

 と、様子を見に来たユウカさんが笑顔でこっちにやってくる。

 

 

「どう、頑張ってる?」

「ユウカさーん♡ ストレッチを終えて早歩きでトラック回ってるとこです♡」

「早歩き?」

 “やってみると、結構キツくてね”

「へー……?」

 

 

 頭の上に疑問符を浮かべて一緒に歩き出すユウカさん。

 今日も太ももが眩しい。

 歩くのに合わせて『ヌッ♡ ヌッ♡』と魅惑的な音が聴こえてきそうだ。

 が、すぐに顔を顰めて口を開いた。

 

 

「……キツいですね」

 “キツいよね”

「なんでこんなキツいの!?」

「普段急ぐ時は走りますけど、案外走るって身体に優しいんですよ♡ 早歩きの方が実は運動として強度が高い♡」

「知らなかったわ……」

「よし、一周したので疲れた足をほぐすストレッチです♡ ユウカさんも一緒にストレッチします?」

「そうね、帰る前にほぐしていくわ」

 

 

 屈伸を五回してから片方ずつ足を左右に伸ばして筋を伸ばし、続けてアキレス腱を伸ばしてぐいぐい。

 後は前傾姿勢になってた背中も伸ばす運動も。

 

 

「じゃあアレやりましょうか♡ 背中を合わせてお互いの腕を組んで片方ずつ背中を丸めて相手を持ち上げるやつ♡ ほら、ユウカさんとせんせーで組んで組んで♡」

「え、あ、先生と!? じゃ、じゃあ失礼しますね……?」

 “よろしくね、ユウカ。じゃあ私から動くね”

「おふっ、おぉ゙ぉ゙ぉ゙……っ、何これ効く……ぅ!」

「ユウカさん凄い声♡」

「ちょ、忘れなさい!」

 “あはは、分かる分かる。余り感じた事のない気持ち良さで変な声出ちゃうよね”

「うぅ、先生に可愛くない声を……、今度は私が動きますからね!」

 “大丈夫、ユウカはいつだって可愛い……うぁぁ゙あ゙……背中凄い伸びてる!”

 

 

 仲良くストレッチをする二人を眺めてうむうむと頷く。

 青春ですにゃー♡

 

 

「フミ、何ニンマリしてるのよ?」

「いやー♡ 私ユウカさん好きじゃないですか♡」

「えっ、うん、ありがとう……?」

「せんせーも好きなんですよ♡」

 “私もフミ好きだよ”

「にしし♡ で、そんな大好きな二人が楽しそうにしてるので嬉しくなっちゃいまして♡」

「先生、フミをセミナーに所属させたいんですが構いませんね?」

 “ダメだよ。フミはあげないからね”

「いやん♡ 私の為に争わないで♡」

「ふっふっふ、私に腕っぷしで勝てるとでも?」

 “ひきょうな!”

 

 

 ぐいっと背中を丸めて先生を持ち上げるユウカさん。

 対する先生は両脚をちたぱたと振り乱して抵抗している。

 もー本当に仲良しさんなんだからー♡

 

 

「ぜー、はー、そ、そこぉ……イチャイチャするなぁ……!」

「準備運動で既にボロボロなのはどうして♡」

「お姉ちゃん、ペースバラバラで走ってたから……」

「フミ、アリス余裕でした!」

「見てたよー♡ アリスちゃん凄い凄い♡」

「えへへ……♪」

「わ、私も頑張ったよ……!」

「ユズちゃんも偉い♡ でもこれまだ準備運動なのでは♡」

「その通りです。身体も温まった所で、本格的に運動しましょう。まずは腿上げジャンプを百回!」

「ひぇっ」

「ひゃ、百回はちょっと……」

「? いつものスミレ先輩が出してくる試練よりだいぶ優しいです」

「え゙っ」

 

 

 アリスちゃんの一言に凍り付く三人。

 トレーニング部のメニューとしてはだいぶスロースタートだ。

 本当なら腿上げジャンプ百回を五セットとか言いそう。

 

 

「本来なら腿上げジャンプ千回を五十セットなのですが、みなさんの体力に合わせて抑えてあります」

「待って♡」

 

 

 高負荷が過ぎる♡

 片方十倍ならまだしも両方十倍はダメでしょ♡

 堪らず顔を真っ青にする三人。

 普段インドアな面子にやらせたら吐いちゃうよね。

 

 

 “高負荷トレーニングは確かに筋肉へ効率的な成長を促す事が出来るけど、低負荷でもみんなでわいわい楽しみながらやるトレーニングも重要だね。一緒に目標をクリアして交友を温める事も、心の成長には良いものだから”

「なるほど……流石トレーナーです! 心も豊かにするトレーニングというのは私も考え付きませんでした!」

 “あはは、スミレの役に立てたならなによりだよ。鍛え上げられたスミレの筋肉はとてもカッコいいから、心もしなやかに鍛え上げられたらもっと美人さんになると思ってね”

「もっと、美人……も、もう、トレーナーは人を乗せるのが上手いんですから」

 

 

 うーん、また無自覚に誑しよる♡

 でもユウカさんに持ち上げられたままだから若干シュールなんだよね。

 片足ずつ腰の高さまで膝を上げながらぴょんぴょん跳ぶ四人を眺めつつ、スミレさんも同じように腿上げジャンプをしながらダンベルを交互に持ち上げている。

 肩に付けるように持ち上げて、下ろした時は腿上げした方の足の膝に手の甲をくっつける、を軽快にこなす姿はトレーニングモンスターだ。

 

 

「おっと、そろそろセミナーに戻らないと。それじゃあんたたちもしっかり頑張りなさいよ」

「お疲れ様です、ユウカ!」

「待てー、行くなユウカ! 私を置いていくなぁぁ!」

「モモイちゃんは元気だなぁ♡」

 

 

 セミナーに戻るユウカさんに別れを告げて、先生と二人でストレッチを続ける。

 足を広げて前屈体勢、後ろで補助役が痛みが出るギリギリの所で背中を抑えるやつだ。

 

 

「ぅ゙っ゙♡」

 “実はフミもちょいちょい硬いよね?”

「もっと身体を柔らかくしてせんせーとのプレイの幅を広げたいところさん♡」

 “言動が不穏!”

「ぉ゙ふっ♡ ちょっと強い♡」

 “あ、ごめんごめん”

「せんせーに痛みで躾けられちゃう♡」

 “もうちょっと押そうか?”

「御慈悲を!」

 

 

 交代して今度は私が先生の背中を押していく。

 が、すぐに先生が悲鳴を上げ始める。

 

 

「いや硬い♡ まだ四十五度も曲がってない♡」

 “元々身体硬い方だったからね!”

「ドヤ顔しないで♡ カッコいいけど♡」

 “ハッ、フミに何かおねだりする時はドヤ顔になったら何でも買ってもらえるのでは……!”

「おねだりの時点で何でも買ってあげちゃうけど完全にヒモになっちゃいますねぇ♡」

 “やだぁ! 細くて長いアレはやだぁ!”

「気が向いた時に抱いてくれたらそれで♡ 今や資金の心配は無いですし♡」

 “ヒモを養う適性が高すぎる……!”

「目の前で先生とフミさんのイチャイチャを見せ付けられながら運動するの、拷問なんじゃ……?」

「これは……新手のNTRシナリオに使える……!?」

「うわぁん! モモイが変なシナリオを思い付きました!」

「NTRはダメだよ……誰も幸せになれないよ……!」

「そうです! やるならハーレムです! 恋愛で一人しかイチャイチャ出来ないなんておかしいです! そんなのクソゲーです!」

「うーん、アリスちゃんの啓蒙が割と進んでる♡」

 “精神汚染なのでは……?”

「諸説ある♡」

 

 

 まだまだ元気そうな四人は続いてプランクに挑戦。

 一回十秒以上で、計五分の継続でクリアらしい。

 連続じゃないから休み休み挑めるとは言え、普通に五分のプランクは地獄である。

 

 

「プランクって初耳だけど、どんな運動なの?」

「腕立て伏せみたいな……?」

「体勢は似ていますね。うつ伏せになった状態から両肘を付いて手首から肘の間で上体を支えます。足は爪先立ちですね。開始とともに付いた腕と爪先以外を持ち上げ、足先から頭までをまっすぐに保ちながらじっと耐えます」

「腕立て伏せみたいに動かない分、楽そう……?」

「ユズがフラグを建てました!」

「えっ、実はキツいの……!?」

「そこはやってみてのお楽しみ♡」

 

 

 今回は個別に秒数を測るので、私と先生もお手伝い。

 スミレさんはモモミドコンビを、先生はユズちゃんを、私はアリスちゃんをそれぞれカウントする。

 ストップウォッチを持って準備完了。

 

 

「十秒経たずに身体が地面に付いたらカウントしませんので、そこは注意してください。それでは開始!」

「ふっ……これならすぐに達成、い、いぃぃ……っ!?」

 

 

 元気良く身体を持ち上げたモモイちゃんが早速洗礼を受けている。

 このプランク、最初の三秒を越えた辺りからアホみたいな負荷が襲い掛かってくる。

 やってみると分かるけど、全身が一気に辛くなるのだ。

 アリスちゃん以外がぷるぷると震えて荒い息を吐き出しつつ額に汗を浮かべている。

 

 

「も、もう無理……っ!」

 

 

 最初に崩れ落ちたのはミドリちゃんだった。

 続けてユズちゃん、モモイちゃんが崩れ落ちる。

 アリスちゃんは二十秒しっかり耐えてから、余裕を持って身体を下ろした。

 

 

「いやなにこれ!? めっちゃキツい!!」

「う、腕立て伏せの方が楽だった……」

「絶対筋肉痛になるやつ……」

 “早くも死屍累々”

「アリスちゃんはまだまだ元気ですね」

「はい! スミレ先輩と一緒に特訓した成果が出てます!」

「流石アリスちゃん♡ カッコいいぞぉ♡」

「えへへ……♪」

「では次を始めましょう。構えて」

「予想以上に地獄……!」

「繰り返しますが十秒に満たない場合はカウントしませんので注意してください」

「焼き土下座式はツライよぉ……」

「頑張って、フミちゃんに褒めてもらう……!」

 

 

 戦慄するミドリちゃん。

 モモイちゃんは早くも心が折れそう、ユズちゃんは何やら闘志を燃やしていた。

 

 

「みんな、頑張れ♡ 頑張れ♡」

「フミの応援バフです♪」

「別の意味で元気になりそう」

 “分かる”

 

 

 神妙に頷くモモイちゃんと先生。

 何を感じ取ってるの♡

 ともあれ元気は出たのか着々とプランクをこなしていく四人。

 なんだかんだで全員一回も失敗せずに五分以上やり遂げたのは結構凄い。

 

 

「お疲れ様です。ここで十分の休憩を取りましょう」

「スポーツドリンク用意してあるからみんなしっかり水分補給してねー♡ はい、スミレさんもどうぞ♡」

「ありがとうございます、フミさん」

 

 

 爽やかな笑顔でペットボトルを受け取るスミレさん。

 多分同じメニューこなしても涼しい笑顔なんだろうなぁと思う。

 いや体力オバケ♡

 アリスちゃんは汗を掻いてるけどまだまだ元気いっぱい。

 モモイちゃんは大の字で転がってたけど休憩と聞いてウキウキステップでドリンクを受け取りに来た。

 

 

「回復力が高いのかヒーヒー言ってたのに結構元気♡」

「ふっふっふ、みんなのお姉ちゃんとしてへばってばかりじゃダメだからね!」

「やーん♡ モモイちゃんカッコいいー♡」

「てれるぜ!」

「よっ、ゲーム開発部のメインシナリオライター♡ 名場面しか作れない天才♡」

「よせやい!」

 

 

 モモイちゃんときゃっきゃしていると、背中にぽすんと重みが乗っかる。

 見れば生気の抜けた顔でミドリちゃんが覆い被さっていた。

 

 

「フミさん……私はもうダメです……」

「しっかり♡ 傷は浅いから♡」

「うぅっ、私が倒れたら海の見える丘の白い壁の別荘で一緒にイチャイチャしてください……」

「お墓候補地かと思ったら同棲の提案だった♡」

「だ、ダメだよミドリ……! フミちゃんは私と都会の一軒家でゲーム配信するカップルになるんだから……!」

「ユズちゃんも中々の将来設計を♡ 二人とも水分補給しっかりね♡」

 “モテモテだなぁ”

「フミも先生も、魅力値はカンストなので籠絡はお手の物です!」

 

 

 一頻りわちゃわちゃ楽しんでから、四人はスミレさんにドナドナされていった。

 次はトラック一周シャトルランらしい。

 正気?

 

 

 “ミドリがあそこまで嫌がってるのなんか新鮮だなぁ”

「ゲーム開発部一番の面倒臭がり屋さんが判明しましたね♡」

 

 

 私と先生がのんびりストレッチをしている横で見てるだけでキツい運動をこなしていくゲーム開発部とスミレさん。

 一応今回の運動で消費するカロリーを計算したものがあるけど、割と信じられない数値になっている。

 

 

 “結構ハードだとは思うけど、そんなに?”

「ですねー♡ 例えば階段を元気良くしっかり腿上げして二十段上がって、どれぐらいだと思います?」

 “ええと……10kcalとか?”

「ギリギリ4kcal行かないくらいです♡」

 “えぇ……?”

「普段私がせんせーに作ってる和食の朝ごはんが大体660kcalです♡」

 “三千階段上がってまだ朝ごはん行かないの!?”

「基礎代謝を抜きにした単純な運動の消費カロリーはそんなもんなんですよ♡」

 “基礎代謝って凄いんだね……”

「で、今回のスミレさん考案特別メニューの消費カロリーですけど」

 “ご、ごくり……”

「4400kcalですね♡」

 “大食いチャレンジでしか見た事ない数字出て来た! いやそれ、大丈夫なの!?”

「せんせーなら食べても消費してもぶっ倒れる数値ですねぇ♡ まぁキヴォトス人の身体能力なら運動強度も高いので、比例して消費量も増えますけど♡」

 “そう言えば最初のトラック周回もよくよく考えたらみんな私の学生時代の全力疾走より速かったかも……”

「まぁ、今回はダイエット目的では無いので終わったら私の奢りで回転寿司に連れていきますけど♡」

 “高校時代の運動部クラスメイトより食べそう”

「普通の人間であるせんせーとキヴォトス人との違いをまた一つ知れましたね♡」

 “世界は広いなぁ……”

 

 

 遠い目をしながら呟く先生。

 そんな姿もステキ♡

 結婚したい♡

 そんなハードトレーニングに勤しむ四人を眺める事数時間。

 日は傾きカラスの鳴き声が聞こえてくる時間帯。

 私と先生の前には爽やかな笑顔のスミレさんと力尽きて倒れ伏す三人と新しいタオルで汗を拭うアリスちゃんの姿があった。

 

 

「パンパカパーン! アリスはスミレ先輩の試練を突破しました!」

「ええ、頑張りましたねアリスちゃん。花丸をあげちゃいます」

「わーい、花丸をもらいました! フミ、先生! 見てください、スミレ先輩から花丸ですっ♪」

 “うん、よく頑張ったね。アリス凄いよ! スミレもありがとう、お疲れ様”

「アリスちゃん凄い♡ ぎゅーしちゃう♡」

「きゃー♪ 特別報酬のフミのハグです!」

「トレーナーもお疲れ様でした。久し振りに低負荷のトレーニングを行いましたが、自分と対話する時間の多い普段のトレーニングと違ってみなさんの様子や自分の動きを見て調整したり、お喋りを楽しんだりする余裕が出来ました。これまではトレーニング後の疲れや回復時の筋肉痛の心地良さに意識が行っていましたが……、今日はトレーニング中も楽しい時間を過ごせました」

 “それは良かった。いつもやっている事でも楽しさがあれば効率も良くなるし、何より新しい発見やモチベーションの維持にも繋がるからね”

「はい、流石トレーナーです!」

「今日のお礼のプロテイン詰め合わせは明日の朝十時に配達される予定でーす♡」

「ありがとうございます、フミさん。新フレーバーもあるみたいで楽しみです。それでは、私はこれで。みなさんもお疲れ様でした!」

 

 

 帰っていくスミレさんに手を振って見送り、改めて四人へ向き直る。

 モモイちゃんはドリンクを飲み切って座り込んだまま足首を左右にふりふり。

 ミドリちゃんは汗を拭うのも怠いのか空を見上げて深呼吸。

 ユズちゃんは力尽きてぺたんと女の子座り。

 アリスちゃんは私に抱き着いて頬擦りしてる。

 いややっぱりモモイちゃん凄いね。

 動いてる最中は疲れたーとかもうやだーなんて言ってたのに、もう涼しい顔で暇を持て余してる。

 多分気力がそのまま体力を引き上げるタイプなんだろうね。

 ならますます元気になりそう、と思いながら両手を鳴らす。

 

 

「はいちゅうもーく♡ アリスちゃんも一回離れてね、今からみんなにお話するから♡」

「はい、フミのお話を聞きます!」

「良い子良い子♡ さて、みんなには労働の代わりにがっつり運動してもらったけど、どうだった?」

「疲れたよ〜。アルバイトとかのお仕事と違って覚える事は無いし臨機応変な対応とかは無かったけど、その分めっちゃ疲れた!」

「お姉ちゃんに同じく……」

「疲れたけど、知らない人を相手にしなくて良いから、そこは楽かも……」

「アリスも疲れましたが、良い運動になりました!」

「うんうん♡ 程よく疲れたみたいだね♡ 本当の仕事は頭脳労働が増える分、また違った疲れが有るけど……働いてお金を得るって事の大変さの一端でも感じてもらえたら嬉しいかな♡」

「肉体的にはハードだったけど……世の中にはこれより色んな意味でキツいお仕事もいっぱいあるんでしょ? 働くって大変なんだねぇ……」

「今日のこの運動で、稼ぎはどれくらいだっけ……?」

「ええと……部費が一万円追加……」

「それとは別に、フミから特別手当で生活費が一人二万五千円です! フミのおかげで今月ご飯が食べられます!」

「無駄遣いしないよーに♡ みんなの食費は本当に援助だから、稼ぎは一万円の方だけだよ♡」

「フルプライスのゲーム買うのに毎回この運動しないといけないって考えると、ちょっと二の足踏んじゃうかも」

 “無事お金の大切さが解ったようで一安心だね”

「せんせーは人の事言えないから覚悟するよーに♡」

 “気を付けないと本格的にフミに養われるルート入りそう……”

「カッコつけたいなら頑張って♡ さて、お疲れなみんなにお知らせがありまーす♡」

「お知らせ……?」

 

 

 私の言葉にミドリちゃんが漸く身体を起こす。

 動ける程度には回復してきたみたいだ。

 そんなみんなは、私の言葉で更に元気を取り戻す。

 

 

「この後一先ずシャワーを浴びたら、みんなを回転寿司に招待しちゃいまーす♡」

「「「「おすし!」」」」

「更にシャーレの大浴場でゆったりした後は居住区の空き部屋でお泊り会です♡ ユウカさんから外泊許可はもらってるから明日はシャーレで私の朝ごはんも振る舞っちゃうぞー♡」

「「「「やったぁー!」」」」

 

 

 みんなで拳を突き上げて喜んでいる。

 やっぱり運動の後はいっぱい食べてぐっすり寝ないとね。

 シャワーを浴びて着替えてお泊りグッズを用意するように伝えて一度解散。

 私と先生も来客用の区画にあるシャワー室で汗を流し、ジャージからいつもの制服へ着替えて部室棟の前でのんびり待機。

 リュックサックを背負ったテンションの高い四人を連れて一路シャーレのお寿司屋さんへ。

 予約して席を確保していたので案内はスムーズ。

 ボックス席に着いていよいよテンションは最高潮だ。

 

 

「まぐろ! さーもん! 甘えび!」

「コーン軍艦と炙りサーモン……フライドポテトも頼んでおこっと」

「あ、茶碗蒸し……ぽちっ……♪ え、わ、ルーレットが……!?」

「アリスちゃんは何頼むー?」

「フミのオススメが良いです!」

「じゃあ一緒に色々食べようか♡ コハダ、白子軍艦、赤エビ、それとあおさ汁♡」

 “初手から渋いなぁ……コウイカとシメサバ、それとエンガワも頼んでおこうかな”

 

 

 目を輝かせてメニューを頼む四人を微笑ましく見守りながら皿を積み上げていく。

 食べたお皿は通路側に纏めておく。

 わいわい楽しく食事をしていたけど、最終的に五人合わせた皿より、私一人で食べた皿の枚数が多かったのはユウカさんにはナイショにしておこう。

 カードで払った時の店員さんも面白い顔してた。

 楽しい食事の後は大浴場でのんびり疲れを癒す。

 二人っきりなら混浴湯けむりプレイも吝かでは無かったけど、今日は先生抜きでお風呂タイム。

 ふと思ったけどこの場にユウカさん呼んだら全ての願いが叶ってそうなのは忘れておこう。

 私含めてロリっ子しかいない。

 早瀬ユウカが生やせユウカになっていたかもしれない。

 

 

「このルートは封印しとこう」

「んぅ? どうしましたフミ?」

「なんでもなーい♡ ほらアリスちゃん目を閉じて、頭流すよー♡」

「はぁーい♪」

 

 

 泡を洗い流して、私と同じようにくるくる巻いてお風呂用のお団子ヘアーにする。

 髪の毛長いと湯船に入っちゃうからね。

 ユズちゃんの髪の毛もくるくる巻いてあげる。

 モモイちゃんとミドリちゃんはそのままで良いから楽だよねぇ。

 

 

「んぁ゙ぁ゙〜……っ♪ 生き返るぅ〜♪」

「お姉ちゃん、おじさんみたいだよ」

「二人もそうだけど、今のうちにちゃんとマッサージしておきなよ? 布団に入ったらすぐ寝ちゃうだろうし、今やっておかないと筋肉痛で明日遊べなくなるから♡」

「じゃあフミちゃんに、マッサージお願いしようかな……?」

「ユズの次は私もお願いします!」

「ほいほい♡ じゃあ太ももをむにっと♡」

「ひゃぁあぁ!?」

 

 

 ユズちゃんとアリスちゃんを存分に揉みほぐし、追加でミドリちゃんとモモイちゃんも揉んでおいた。

 やれるだけはやったけど、それでも多分筋肉痛からは逃げられないだろうなぁ。

 その後湯船に浸かって百数えて温まって、一人ずつドライヤーでしっかり乾かしてあげる。

 ほかほかな四人を居住区の四人部屋へ連れて行くと、楽しそうに自分のベッドを決めて寝転がる。

 一応寝る前に歯を磨くよう言っておいたけど、あの様子ではそのまま寝落ちするだろう。

 後で布団被ってるか確認しとこう。

 部屋を後にした私はその足で先生の部屋へ。

 ちょうど着替え終わった先生をベッドに寝かせて念入りにマッサージ。

 ちゃんと健全なガチのマッサージだ。

 これをやっておかないと明日先生が起き上がれないからね。

 先生は何か言いたげだったけど筋肉痛で朝ごはん食べられないかもよと言うと大人しくマッサージを受けていた。

 副担任もお疲れの様子で大人しい。

 処置を終えて先生におやすみを言ってから四人部屋へと舞い戻ると、三人は夢の世界へと旅立っていた。

 私に気付いたアリスちゃんはみんなへタオルケットを掛けるのを手伝ってくれ、そのまま私をアリスちゃんのベッドへ引き込んだ。

 

 

「アリスちゃん?」

「フミ、今日はありがとうございました♪ おかげでアリスはとても楽しかったです」

「それなら良かった♡」

「でも、もっとフミの体温を感じていたいので……今日は一緒におやすみしてくれませんか?」

「そんなに可愛いおねだりされたら断れないかな♡」

「えへへ……フミ、大好きです♪」

 

 

 と言う事でアリスちゃんと抱き合って眠った。

 翌日眠る三人を背景にアリスちゃんと仲良く頬をくっつけて写真を取りユウカさんのモモトークに送り、そのまま二人で朝ごはんを準備する。

 わかめごはん、豆腐とネギの味噌汁、白菜の漬物、目玉焼きとウインナー、ちょっとぬるめの緑茶。

 いわゆる『これで良いんだよ』飯だ。

 アリスちゃんとハイタッチを交わして三人を起こしに部屋へ戻ると、なにやら怨霊のようなうめき声が聴こえてきた。

 

 

「ふ、フミ!? これは……!?」

「あー、心配しなくて良いよアリスちゃん♡ ただの筋肉痛で悶えてるだけだから♡」

「おぉぉぉ……!! んぉぉぉ……!!」

「いたぃ、いたいぃぃ……!」

「うぅ、主に全身が痛い……」

「フミ、本当に大丈夫なんですか……?」

「大丈夫大丈夫♡ 三人とも頑張って起きて来てねー♡ 早くしないとご飯冷めちゃうゾ♡」

 

 

 心配するアリスちゃんの背を押して執務室へ戻る。

 入れ違いで起きてきた先生は少し震えているけど動くには問題なさそうだった。

 

 

 “おはようフミ、アリス”

「おはようございます!」

「せんせーおはようございます♡ 筋肉痛は大丈夫?」

 “スキーに行った翌日くらいの筋肉痛で済んでるよ。フミのマッサージのおかげだね”

「先生、みんなもフミのマッサージを受けたのにベッドから起き上がれません。この差はいったい……?」

 “あぁ……ほら、私とフミは愛情でステータスにお互いバフが掛かってるから”

「愛の力だよ♡」

「なるほどです!」

 

 

 結局三人が産まれたての子鹿のように震えながら執務室へやってきたのは味噌汁がすっかり冷たくなってからだった。

 予想以上にボロボロ♡

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