もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
三十六話目
まったり紅茶とチョコワッフルを楽しみながら迎える朝九時。
今日は書類も少なく、のんびりしながら仕事を進められるだけの余裕があった。
先生もすっかり慣れた様子で書類に押印しながらチョコワッフルを食べ進めている。
認可、認可、却下、認可。
なにこの『先生の居場所を二十四時間リアルタイムで追い続ける救急用ドローンの配備申請』って。
それとなく隠してるけどコタマさんが発案者な時点で良くない事考えてるでしょ。
念の為にチヒロさんにモモトークを送ってみると数分も経たずに『却下して大丈夫。げんこつ落としておいたから』と返ってきた。
その文面に思わず笑いが漏れる。
素直に録音依頼出せば良いのに。
“ん、フミどうかした?”
「コタマさんがまた盗聴を試みまして。チヒロさんにげんこつされたそうです♡」
“普通に録音するのじゃダメなのかな……?”
「ダメなんでしょうねぇ……♡」
“いっそ録音おっけーなブースでも用意するかな……?”
「そこら辺はコタマさんの要望がチヒロさんチェックを通ったら考えましょう♡」
“いつになるかなぁ”
二人で笑い合って、また書類を捌いていく。
一時間ほどで全ての書類にハンコが押されカラーボックスに振り分けられた。
これで今日の執務室での業務は終わり。
後は緊急で入ってくる仕事の対応か、生徒達からの依頼待ちとなる。
「当番の子が来る前に終わっちゃいましたねぇ♡」
“今日は午後にユズとホシノ、ジュリが来てくれるんだっけ”
「どんな化学反応が起きるか未知数な組み合わせですけどちょっと楽しみ♡」
“確かに。仲良くなってくれると良いね”
「ですねー♡」
そんな風にまったりしていると、備え付けの電話が鳴る。
連邦生徒会直通のもので、通話相手がホログラムで映し出される最新式のものだ。
先生が通話ボタンを押すとリンちゃん先輩の姿が投影された。
今日もクールビューティー♡
『ご無沙汰しております、先生』
“あっ、リンちゃん”
「リンちゃん先輩おひゃー♡」
『誰がリンちゃんですか。それとフミさん、ちゃんとおはようございますと言ってください。そういうのはもっとですね……いえ、そのようなことはさておき。少々お話したいことがあり、ご連絡させていただきました』
ごほん、と咳払いするリンちゃん先輩。
はて、なんかバレるとマズイ事でも有ったかな?
『シャーレに来られてから、それなりに時間が経ちましたね。ご報告は頂いていますので、様々なことがあったことも存じております。あちこちでご活躍されたようで。おかげ様でこちらとしても、色々と助かりました。それはさておき、幾つかお願いしたいこと……と言いますか。具体的にはシャーレの報告書に関することと、今度の連邦生徒会の新たな……』
そこまで言って、リンちゃん先輩は何やら考え込み始めた。
取り敢えずお小言じゃなさそうで一安心。
『……いえ、やはり直接お話しすることにしましょうか。今日の午後、予定は空いていますか? お茶くらいは用意しますので、よろしければお越しください。お待ちしておりますので』
「はーい♡ お茶菓子焼いていきますね♡」
『楽しみにしてます』
ふんわりと微笑んでリンちゃん先輩の姿が消える。
先生は追加の用事が来てないかシッテムの箱──アロナちゃんに確認中らしい。
そう言えばチョコワッフルまだあるしアロナちゃんにいちごみるくと一緒にあげちゃおう。
給湯室でアロナちゃん用紙コップに買っておいたいちごみるくを注ぎ、チョコワッフルとともにお盆に乗せて持ってくる。
「せんせー♡ アロナちゃんにもワッフルといちごみるく持ってきましたよー♡」
“ありがとう、フミ。ふふ、アロナも大興奮だね”
先生が指で示した先、シッテムの箱のディスプレイがピコピコ光っている。
お盆を置くとぺかーっと薄く画面とその周囲が光り、一瞬でチョコワッフルといちごみるくが入った紙コップが消えた。
相変わらず謎の技術だ。
めっちゃピコピコ明滅してるので大喜びしてるらしい。
“凄い喜んでるね。フミにありがとうってさ”
「にしし、どういたしましてー♡ いっつもせんせーを助けてくれてありがとね♡」
“そうだね、ありがとうアロナ。……照れてるところも可愛いなぁ”
「いいにゃー♡ 私もアロナちゃんとイチャイチャしてみたいですにゃー♡」
“フミと話せるようになったらアロナに変な影響与えそうだなぁ”
「むむ、変な影響とは失敬な♡」
“補習授業部や便利屋のみんながフミの影響でどうなったか目の当たりにしてるんだけど?”
「シラーヌ・ド・ゾンゼーヌ♡」
“知らない外国人出て来た!”
誤魔化し切れずにほっぺたをむにむにされた。
おもちになっちゃう!
「じゃあ先生は午後から連邦生徒会ですね。当番のみんなはこっちで待機ですか?」
“そうだね、私一人で行ってくるよ。フミのお土産は忘れずに持っていかないといけないね”
「パウンドケーキでも焼こうかな?」
“アレ食べたい、くるみとか焼きリンゴ入ってるやつ!”
「じゃあフルーツやナッツ盛り盛りで作りますか♡」
“わーい! アロナも食べたいって”
「二人とも楽しみにしてて♡」
という訳で早速パウンドケーキを作りに給湯室へ。
ドライフルーツの袋を開けると甘い香りが立ち上る。
レーズンを一つ摘んでぱくー♡
ウマー♡
おっと、つまみ食いしてたらダメだね。
後ろ髪を引かれながら手早く生地を作って混ぜ混ぜこねこね。
オーブンで焼きつつ、余った時間で当番のみんなが来た時の紅茶も仕込んでポットに移しておく。
紅茶はそんなに詳しくないけど、ハナコちゃんがよく送ってくれるので色んな味が楽しめる。
いやぁ、トリニティの子達を見たら私の紅茶の知識なんて小学生以下なんだなって思い知るよね。
なんならヒフミンすらそれなりの知識持ってるからね。
まぁ十中八九モモフレンズコラボの時に全部覚えたんだろうけど。
『にゃーん、にゃーん』
「おっと♡」
取り付けておいたウェーブキャットタイマーを止めてオーブンを開ける。
美味しそうな香りに喉を鳴らしながら鉄板を取り出し粗熱が取れるまでしばし待機。
充分冷めたら袋に入れて窒素ガスをぷしゅーっと。
手早く口を縛って密封しておっけー。
成形した時に出た端っこのちょい焦げな所を食べてみる。
ふわふわな部分は少ないけど、代わりにカリカリの部分が有って楽しい食感になってる。
くるみの噛み応えも良いアクセントになってるし、焼きリンゴやパイナップル、レーズンの甘味もしっかり出てる。
これはなかなかの出来栄えなのでは。
満足気にもう一つ摘んだ所で背後から視線を感じる。
“じーっ”
給湯室の入り口から顔を半分だけ出してじっとこっちを見ている先生。
手元にはシッテムの箱がある。
なんならアロナちゃんの『じーっ』って声も聴こえてきそうだ。
見付かっては仕方ない、切れ端の一つを持ち上げて先生に笑いかける。
「あーん♡」
“あーん”
素早く寄ってきた先生は切れ端を咥えて満足そうに微笑む。
先生だけズルいとピコピコ光るアロナちゃんにもあげるべく、もう一つ切れ端を摘んでシッテムの箱へ近付ける。
持ったものが消える不思議な感覚に感心していると、画面がまたピコピコ明滅した。
どうやらお気に召したらしい。
雛鳥のようにお代わりをねだる二人に苦笑を返して両手でバッテンを作る。
「これ以上はお土産が無くなっちゃうのでダメでーす♡」
“まだそっちに残ってるやつは……”
「当番のみんなの分♡ 戻ってきたらあげるから我慢して♡」
“早く午後にならないかなぁ!”
「せんせーの欲望に忠実な所好き♡ 食欲だけじゃなく性欲も解放して♡」
“ヴァルキューレに捕まっちゃうから……!”
「ざーんねん♡」
えっちしてくれないなら用は無いとばかりにしっしっと先生を追い返して、残りのパウンドケーキをラップで包んで冷蔵庫にしまいお昼ごはんの用意をする。
今日はハンバーグとカニクリームコロッケでも作ろうかなー。
さくさくキャベツを千切りにしてお皿に敷いて、タルタルソースとデミグラスソースも作ってー。
まだ入り口でチラチラ様子を窺ってる先生に声を掛ける。
「せんせー、カニクリームコロッケいくつ食べたい?」
“みっつ!”
「みっつもか! いやしんぼめ♡」
“フミがどんどんミーム汚染されてくなぁ”
「外の娯楽が面白すぎるのが悪い♡」
“私のタブレットで外の世界の漫画や映画見せるの控えようかな……?”
「ふっふっふ、それは毎日のごはんやおやつと引き換えにしても良いと言う事かなぁ〜?」
“ひきょうな!”
ぶーぶー言ってる先生の口に絞ったレモン汁をぴゅっと発射して黙らせる。
“酸っぱ!? 家庭内暴力はんたーい!”
「生意気なお嫁さんに『解らせ』しちゃう? お尻ふりふり♡」
“料理中は危ないからごはん食べ終わったら……いや、やらないからね!?”
「惜しい♡ もう一押し♡」
“フミの誘惑には負けないからね……!”
「私はいつでもウェルカム♡ せんせー専用の女の子だからね♡」
“くっ、鎮まれ我が半身……!”
「鎮め方が力を封印したラスボス♡」
イチャイチャしながらお味噌汁と漬物も用意して、ハンバーグとカニクリームコロッケ定食の出来上がり。
先生にテーブルの上を軽く拭いてもらってお盆を置く。
今日も仲良くごはんタイムだ。
最近はお代わりしやすいように炊飯器とお味噌汁が入った鍋もテーブルに持ってきている。
だんだん所帯染みてきた♡
“今日もフミのごはん美味しいよ”
「にしし、良かった♡」
“大根の味噌漬けもしょっぱさが丁度良くてごはんが進むね”
「市販のだと塩気が強すぎるやつが多いので自分で作ってみたんです♡」
“え、手作りなのこれ? 普通にお店で出せるよ”
「やぁん♡ そんなに褒められたら照れちゃう♡」
“流石フミ! よっ、将来のお嫁さん!”
「録音したけど大丈夫そ♡」
“しまった!”
いつものように戯れながら楽しくお昼を済ませて片付けを終えるといい時間になっていた。
お土産のケーキを先生に持たせてお見送りの準備は完了。
まぁすぐそこだから散歩気分で行けるんだけど。
“それじゃ、行ってくるね”
「あ、待ってせんせー♡」
“ん、忘れ物有ったかな?”
首を傾げる先生に抱き着いてお腹に頬擦り。
マーキングしとこ♡
「いってらっしゃい♡」
“……うん、行ってくるね”
私の頭を一撫でして先生は笑顔を浮かべる。
もう少し私に身長が有ったら問答無用でいってらっしゃいのべろちゅーするんだけどナー。
しばしソファーでころころしていると、執務室の扉が開いてピンク色の何かが襲来してきた。
「うへぇー、おじさんのお着きだよぉー」
「ホシノさんいらっしゃーい♡ ナチュラルにソファーに倒れ込んでこないで♡」
「程よくフカフカでお昼寝に丁度いいんだよねぇ」
「こんにちは、フミさん。今日はよろしくお願いします」
「フミちゃん、こんにちは……♪」
「ジュリちゃんもユズちゃんもいらっしゃーい♡ ささ、座って座って♡ 今お茶とお菓子持ってくるから♡」
一気に賑やかになる室内。
何回かシャーレの複数当番に来ているからか、ユズちゃんもそこまで人見知りせず他の子と会話出来るようになっていた。
うむうむ、ユズちゃんが成長してフミちゃんは嬉しいぞ♡
ジュリちゃんも時々料理の修行に会いに来てくれている。
美食研究会が大人しくなったのとミレニアムから調理用ドローンを買い入れたのでフウカさんの負担が少なくなったから、こうして当番に来てくれる機会も増えた。
それにここなら私が対応出来るから、いくらでも料理中にパンケーキの怪物パンちゃんが生まれても大丈夫。
余計なプレッシャーが減ったからかのびのびと料理の知識を吸収して技術を習得し、十回に三回程は料理が成功するようになった。
この調子でどんどん料理を楽しんでほしい。
ホシノさんは余り変化は無い。
夜間のパトロールの時間は少し短くなったようだけど、それでもまだオーバーワークな所はある。
それに何かを抱えたままの張り裂けそうな精神状態なのは変わっていない。
アビドスのみんなに話していない以上私が手を出せるものでも無さそうだし、どこかで折り合いは付けてほしい所さん。
「ありゃ、そう言えば先生は?」
「連邦生徒会で会議です♡ さ、今日はフルーツやナッツの入ったパウンドケーキですよー♡」
「わぁ、美味しそうです♪」
「フミちゃんのお菓子……♪」
「おおー、こりゃ贅沢だぁ♪」
さりげなく隣に座るユズちゃんに紅茶を淹れたカップを配ってもらい、のんびりティータイム突入。
みんな一口食べる度に目を輝かせている。
ステキな笑顔に囲まれながら紅茶を飲んでいると、ふと思い出したようにユズちゃんが口を開く。
「フミちゃん、新しいゲームについてなんだけど……」
「ん、何か良いアイデアでも出た?」
「ううん、逆で……みんなで案を出してるんだけど、余りピンとくるのが無くて……」
「なるへそ♡ ジャンルは収集要素強めのRPGだっけ?」
「うん、アイテムや武器を集めれば集めるほど強化されていくシステムにする、っていうのは決まったんだけど……どんな世界観にするかで、悩んでて……」
「世界観で一気に仕様が変わりそうなやつ♡ そう言えばホシノさんやジュリちゃんはゲームやってる?」
「ゲームの世界観かぁ。おじさんはあんまりゲームやらないけど、ファンタジーよりはリアルな世界のやつが多かったかな?」
「私は小さい頃に有名なゲームを軽く触ったくらいで……」
「おお、とても有用なサンプル♡ ユズちゃん、チャンスだよ♡」
「チャンス、ですか?」
「ゲーマーは周りにいっぱいいるけど、いわゆるゲーム初心者って結構少ないじゃない? この二人に訴求出来るような世界観なら大多数が理解しやすい、つまり手に取ってもらえる可能性の高い要素を加える事が出来るの♡」
「な、なるほど……!」
という訳で突発ゲーム開発会議の開催。
普段ゲームに触れていない二人からの意見を吸い上げてネタ出しする事で、ゲーム開発部からは出て来なかった発想を手に入れる事が出来る。
新しい発想を新しいゲーム体験に繋げる事が出来るかは、ユズちゃん達の腕の見せ所だね。
「ホシノさん向けなら簡単な釣りのミニゲームを経て集めたお魚で自分だけの水族館を作るゲームとか良さそう♡ 釣ったお魚のグッズとかも自分でお店に並べられたり♡」
「なにそれ欲しい! フミちゃん天才じゃん!」
「きゃーホシノさんのテンションが高い♡ ジュリちゃん向けのは街の人たちのちょっとした悩みを料理で解決しつつ一話クリアすると出て来た料理のレシピが見られるアドベンチャーゲームとか♡」
「あっ、お話を追いながら料理のレシピも覚えられるんですね。それなら楽しく遊びながら料理の勉強も出来て、ついつい遊んでしまうと思います♪」
一気にゲームに興味が出て来た二人の様子にうむうむ頷いていると、ユズちゃんが真剣な目で私を見ていた。
「……フミちゃん、転校してゲーム開発部で一緒にゲーム作ろう。ユウカ先輩にお願いしてみるから」
「熱烈な引き抜き♡」
「それならアビドスにおいでよ〜♪ 転入生は大歓迎だよ〜♪」
「給食部はフミさんをいつでもお待ちしてます♪」
「引く手あまた♡」
きゃいきゃい楽しんでいると、モモトークに先生から連絡が来た。
楽しくてすっかり忘れてたけど結構時間が経っているのに連邦生徒会から戻ってきてない事に今更気付く。
届いた文面にはもう少し時間が掛かる事と経緯の説明があった。
いやなにごと♡
「先生から?」
「そう言えば先生遅いですね?」
「……ヴァルキューレのお手伝いで元SRTの子達を確保、取り調べとちょっとしたお話をしてから戻る、との事ですね。どゆこと♡」
「……え、ほ、本当にどういう事……?」
「私にもわからん♡ 取り敢えずせんせーが戻ってきたらむぎゅむぎゅしてみよう♡」
その後追加の書類やメールで届いた各学園からの相談をみんなで処理しつつ過ごす事二時間。
帰り際にエンジェル24でアイスを買ってきた先生にみんなで飛び付いてむぎゅむぎゅして、事の詳細を聞いた。
連邦生徒会長の失踪に端を発したSRT特殊学園の廃校。
廃校に伴い生徒たちは他の学校へ転入する事になったのだけど、それを拒む生徒四人による抗議活動がすぐそこの子ウサギ公園で行われていたらしい。
一年生四人とは言えSRTの生徒と言うのもあってヴァルキューレの生徒たちはみな返り討ち。
いよいよ生活安全局にまで出番が回ってきた所で先生が到着。
先生の指揮で見事四人を確保したのだと言う。
悪い子たちには思えなかったから話を聞いて、街の人たちに迷惑を掛けないよう軽い注意をして今日は解散。
“という訳で、明日また様子を見に行ってみようと思うんだ”
「うーん、いつものせんせームーブ♡」
「危険が無いなら良いけど……気を付けてね? 助けがいる時はいつでもおじさんが駆け付けるから」
「先生の優しい所はとてもステキですけど……無理はしないでくださいね?」
「せ、先生の為なら……わ、私も、頑張りますから……!」
“ありがとうホシノ、ジュリ、ユズ。その時が来たら頼らせてもらうね”
「私への言及が無いぞーぅ♡」
“もちろん、フミもいつもありがとう。おかげでとても助かってるよ”
「にしし♡」
やん、面と向かって言われると照れちゃう♡
戻ってきた先生も加えてゲーム談義の続きをしたり、折角だからと作った晩ごはんのお弁当をみんなに渡したり。
何事も無く一日の業務が終わってみんなを見送った後、自警団のみんなや便利屋のみんなと仲良く鍋を囲んでお風呂に浸かり、気付けばもう夜九時。
自室に戻ってユズちゃんを抱き締めながらベッドの上でごろごろして眠気が来るのを待つ。
「って普通に流してたけどユズちゃん帰らなくて良いの♡」
「今日は、その、お泊りしようと思って……♪」
「甘えん坊さんめー♡」
まぁ良いか。
バッチリパジャマも持ってきていたユズちゃんとくっつきながらお休みタイム。
おらー、フミちゃんのあったか体温をくらえー♡
ほっぺたにもちゅーしとこ♡
翌朝七時。
寝ぼけ眼のユズちゃんを執務室のソファーに座らせて朝ごはんを作っていると、先生が給湯室に顔を出した。
“フミ、おはよう”
「せんせーおはよう♡」
“ちょっと追加で作ってもらいたいんだけど良いかな?”
「あら珍しい♡ なに作りますー?」
“お弁当を私とフミの分を合わせて六つ、お願い出来ないかな?”
「六つ……なるへそなるへそ♡ おっけーですよー♡ 朝ごはんは追加リクエスト無くて大丈夫です?」
“じゃあフミの愛情で”
「それはいっつも致死量入れてる♡」
“致死量!?”
先生にはふにゃふにゃしてるであろうユズちゃんの相手を任せてサブの炊飯器で一升炊いていく。
ご飯さえ炊ければ後はなんとかなるね。
目玉焼きをひっくり返して表面に軽く熱を通してお皿に乗せる。
茶碗、お椀、平皿、小鉢、小皿、湯呑みをお盆にひょいひょい乗せたら準備完了。
執務室のテーブルへと持っていく。
「下にぃ、下にぃ〜♡」
“控えおろう、控えおろう!”
「ふわぁ……っ」
「そこっ、頭が高いっ♡」
「はわっ!? は、ははーっ!」
「あ、ほんとに下げなくても良いのよ♡ 朝ごはんお待ちどおさま♡」
ユズちゃんと先生の前にお盆を置く。
今日はウインナー、目玉焼き、レタスとタマネギの人参ドレッシング掛け、ブリ大根、キュウリと白菜の漬物、お麩とワカメの味噌汁、緑茶、種抜き梅干しを乗せた白米。
目を輝かせる先生に対して、ユズちゃんはまだぽわぽわしてる。
これは目覚ましが必要ですな!
ユズちゃんの耳元に口を寄せて甘々に囁いてみる。
「起きて……♡ 私のユズちゃん……♡」
「はぅあ!?」
「おぶぅ」
全身を跳ね上げて驚いたユズちゃんの肩にかち上げられ、顎に良い一撃をもらった。
そのまま後ろに倒れ込んでくてっと力を抜く。
“フミがやられた!”
「えっ、えっ!? なに、なにぃ!? あ、フミちゃん!?」
“カンカンカンカーン! UZQueenの見事な一撃でチャレンジャーフミはノックアウト! またもチャンピオンが防衛を果たしました!”
「ええっ!? な、なにがおきてるの……!?」
“それではお目覚めのUZQueen選手にインタビューしてみたいと思います! UZQueen選手、今回の戦いはいかがでしたか?”
「ふえっ……え、う、うぅ……」
「きゃーUZQueenさーん♡ ファンサくださーい♡」
「え、ふぁ、ファンサ……ってフミちゃん!?」
遊んでたらお味噌汁がちょっとぬるくなりました。
いけないいけない、ユズちゃんが可愛くてついつい遊んじゃった。
ノックアウト記念にデザートのダイスチョコを渡してユズちゃんのご機嫌窺いもしつつ、美味しくごはんを食べ進めていく。
「いやー、ごめんごめん♡ 寝ぼけてたユズちゃんが可愛くてつい♡」
「う、ううん、私もフミちゃんノックアウトしちゃったから……あ、ブリ大根美味しい……♪」
“見事なショルダーアッパーだったねぇ。思わず実況しちゃったよ”
「それは本当になんでですか……?」
「謎の瞬発力♡」
“世の中の男の半数はこんなもんだよ”
「主語がデカい♡」
“宇宙の生命体はこんなもんだよ”
「どの視点なの♡」
わいわい楽しく食事を済ませ、食器を洗浄機にセットしてぽちー。
エンジニア部に発注して納品してもらったけど、毎日大活躍だ。
シャーレに置くものだからと自爆機能は付いてないけどBluetoothは付いてしまった。
たまにどこからか接続を拾って演歌が流れてくる。
いや絶対ウタハさんチョイスでしょコレ♡
ともあれユズちゃんにお土産のチョコケーキも持たせて送り出したので準備万端。
用意したお弁当を六つ持って先生にウインクすると、先生は大きく伸びをしてデスクを離れる。
「めっちゃバキバキ鳴ってる♡」
“年季の入った運動不足だからね”
「そんなんだとフミちゃんとのイケナイマッサージの最中に身体痛めちゃうゾ♡」
“そもそもイケナイマッサージをしてはいけないと思うのですが”
「じゃあ足つぼ♡」
“寝る前のストレッチから始めてみようかな!”
「目標がしっかり低い所も可愛くて好き♡」
“フミに好かれてなによりだよ。それじゃ、そろそろ行こうか”
「はぁーい♡ では子ウサギ公園に向けてしゅぱーつ♡」