もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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三十八話目

 あれから数日。

 RABBIT小隊の様子を見る為に、私と先生は子ウサギ公園を訪れていた。

 どうやら地雷は全部撤去したらしく、ぼんぼこ穴の空いていた地面は綺麗に均されていた。

 天幕が張られた本部、二つ並んだ就寝用のテント、どこから持ってきたのか水害用の土嚢で作った簡易陣地。

 出来る限り公園を弄らずに即席のキャンプ場を設営したらしい。

 今は本部側に組み立て式の椅子を出して、廃棄弁当を吟味しているみたいだ。

 元気なやり取りを風が運んでくれる。

 

 

「モエ、どうしてお前が焼肉弁当を持っていくんだ!?」

「どうしても何も、私が持ってきたんだから文句ないでしょ!」

「お前は昨日しょうが焼き弁当を食べただろ! 今日はおとなしく、もやし弁当でも食ってろ!」

「知るか、サキがもやし食べれば良いじゃん!」

「じゃあ、私はこのソーセージ弁当を……」

「「ダメ!!」」

 

 

 二人に止められて涙目になるミユちゃん。

 あれもある意味青春と呼べるだろうか。

 ミヤコちゃんが慰めつつ二人を諌めようと口を開く。

 

 

「みんな、落ち着いてください。SRTが食べ物を巡って喧嘩なんて、みっともないですよ。何の保証もないこの状況で、質を争うのはナンセンスです。今はお腹が満たされるだけで良いとしましょう」

「じゃあミヤコはどれにするんだよ」

「私は……この唐揚げ弁当で」

「一番高いやつじゃんか!!!」

 

 

 いや更に紛糾してて草。

 いっそじゃんけんで決めたら良いんじゃないかと思うんだけど。

 先生は楽しそうに笑ってる。

 ああいうやり取りでやいのやいの盛り上がってる子を眺めるの、先生大好きだもんね。

 とは言え喧嘩になってはいけないのでそろそろ介入するとしよう。

 

 

 “や、色々と大丈夫そう?”

「支援物資持ってきたよー♡」

「ん、フミと先生か」

「よりによってこのタイミングで……」

「いえその、これは、お弁当で喧嘩していたわけではなく……」

「ああ、仲良くお昼ごはんの話をしてただけだ」

 “仲良く……?”

「まぁ喧嘩してないならヨシ♡ そんなみんなに良いもの持ってきたから♡」

 

 

 持ってきた包みを下ろして開け、中からお弁当箱を取り出して一人一人に配っていく。

 それとは別に組み立て式のテーブルに小さなタッパーも三つ置いた。

 

 

「なんだ、これは?」

「こないだみたいにおかず?」

「おかずというよりはデザートと調味料♡」

 

 

 デザート、という言葉に背筋をぴんと伸ばしてモエちゃんが蓋を開ける。

 中身はこないだのフルーツ詰め合わせに加えて、一段丸々使ってプリンが詰められている。

 もちろん私お手製のプリンだ。

 タッパーの方にはタルタルソース、グレービーソース、甘酢あんかけがそれぞれ入っているのでお弁当を好きにアレンジして食べてもらいたい。

 

 

「うひょー♪ これで廃棄弁当も豪華になるね♪」

「わぁ……ありがとう、ございます」

「おぉ、これはどの弁当で楽しむか悩むな!」

 

 

 キャッキャとはしゃぐ三人を見て、ミヤコちゃんはなんとも言えない顔をした。

 

 

「……恥ずかしいところをお見せしました。ですが、はい、ありがたくいただきます。お陰様で、食事については困る事も無くなりました」

「SRTは身体が資本、その身体を作る食事は平時においては何よりも優先されるべきだからね♡」

「その通りです。……フミさん、あなたはSRTについての知識をどこから……?」

「んぅ?」

「いえ、この間サキを諭していた時もSRTの理念を絡めてお話していたようですし、今回の食事についても理解が深く……一般生徒が持っている知識とは、こう、隔絶したものがあるように感じられまして」

「あー、昔お世話になった先輩がSRTにいたから色々教えてもらってただけだよ♡」

「先輩に? よろしければ、その先輩についてお話を……」

「お話も良いけどミヤコちゃん、油断してるとお肉のお弁当無くなっちゃうよ?」

「……ハッ!?」

 

 

 モエちゃんサキちゃんミユちゃんで焼肉弁当、唐揚げ弁当、ソーセージ弁当の割り当てが纏まりそうになっていた。

 残るはもやし弁当となる。

 一応甘酢あんかけとの相性は良いけど食べ盛りの彼女が肉なしのお弁当で我慢出来るとは思えない。

 すぐさま突撃して再び話し合いを白熱させていくのを先生と笑いながら眺める。

 

 

 “いやー、青春だね”

「わんぱくですねぇ♡」

 “みんなにはもやし弁当の存在は謎なんだろうね。私みたいなおじさんには油がキツい時があるからおろしポン酢を掛けてさっぱり行きたい時には重宝するんだけど”

「まだ若いでしょー♡ それに私の料理も結構油使ってますけど♡」

 “フミのは、ほら。食べやすいように油切ってあったり付け合わせの野菜や漬物でさっぱりさせたりの工夫があるから胃にもたれる事は無いし”

「その辺は内助の功の一つですから♡」

 “これだからフミから離れられないんだよねぇ”

「離れるつもりですかにゃー?」

 “出張で一週間が限界かも”

「なんなら付いて行きますけど♡」

 “デートの片手間で仕事するようになったら社会人としてダメだと思うんだ”

「それはそう♡」

 

 

 最終的にじゃんけんでお弁当を割り当てた四人。

 取り敢えず場も収まって一安心。

 と、先生がふと気付いたように目を向ける。

 

 

 “そう言えば食事は大丈夫そうだけど、体調は崩してないかい?”

「とくに問題は無いぞ?」

 “でもなんだか、顔色が悪い気が”

「ま、待て! 近寄るな!」

 

 

 先生が一歩踏み出した途端、ずささと二歩後退るサキちゃん。

 

 

「それ以上近づいたら本気で殴るぞ!?」

 “え、えぇ……?”

「それは、まあ……」

 

 

 何か知っているのか、と思わずミヤコちゃんに歩み寄ろうとした先生だったけど、空へと空砲で威嚇射撃したミヤコちゃんに驚いて動きを止める。

 対するミヤコちゃんは表情を削ぎ落とした顔で言った。

 

 

「さり気なく近づかないでください。足を狙いますよ」

 “そ、そんな……”

「まぁそうなる♡」

 “え、フミは分かるの?”

「そりゃもう♡ ちょっと待っててねー♡」

 

 

 先生の手を引いて四人から離れ、ネクタイをくいくい引いて顔を下げてもらう。

 耳に息ふぅ〜♡

 

 

 “うひぃ”

「にしし♡ あのね、せんせ♡ みんなはキャンプ生活してるでしょ?」

 “うん、そうだね”

「この公園の設備はキャンプ場みたいに揃ってる訳じゃなく、せいぜい水飲み場と東屋とベンチがあるくらい♡」

 “そうだね、普通の公園って感じだよ”

「んー、絶妙に察しが悪い♡ ストレートに言うとシャワーやお風呂が無いし、洗濯機や乾燥機も無いわけ♡」

 “確かにそういった設備は無い……あー、そっか。悪い事しちゃったね”

 

 

 バツが悪そうに頭を掻く先生。

 補習授業部で消臭剤臭くなった経験が生きたな!

 あ、先生自身は臭くな……いや、しっかり嗅いでみないと分からないかもだからちょっと嗅ぐね♡

 

 

 “ダメだよ”

「やーん♡」

 

 

 おでこを手のひらで押さえられてしまったので両手を振り回しても届かなくなってしまった。

 くっ、体格差を利用するとはひきょうな♡

 どうせなら後ろから抱え込んで無理やり過酷されたいんだけど♡

 邪な思いが伝わったのかでこぴんされた。

 

 

「あぅん♡」

 “めっ”

「せんせーに傷物にされちゃった♡」

 “自分のものに印を付けただけだからセーフ”

「既にその言動が世間一般からはセーフじゃないけど洗脳が順調でなにより♡」

 “……ハッ!?”

 

 

 あ、気付いてなかった。

 これはラブラブ手繋ぎ合体も近い♡

 頭を抱えながら私は先生私は先生と自己暗示を掛けてるけど、先生である事と私が先生のものである事は矛盾しないので意味は無いのではなかろうか。

 こしょこしょ耳打ちしてみたらそれもそうかと立ち直った。

 諦めたとも言う♡

 ともあれ先生には待ってもらって私が事情を聞いてみる。

 予想通り、数日シャワーも浴びられずにいたらしい。

 まぁ日中は人の目があるし暗くなってから水飲み場の水を使うと風邪引きそうだからね。

 食料を買うのも出来ずにいたから銭湯なんて以ての外。

 シャーレのシャワー室を使ってみてはどうかと提案してみたが、ただでさえお弁当をもらってるのにこれ以上甘えてはSRTとしての矜持にかかわる、と。

 まぁ先生がいるシャーレでシャワーを使うって事に心理的抵抗を感じているみたいだけど。

 いったい何を言っているのだろうか。

 シャワー中に先生が乱入してきてパンパン過酷されちゃうとか全生徒の夢だと言うのに。

 

 

「いや、それはフミだけだからな」

「もう少し慎みを持つべきかと思いますが」

「それも破滅的で心惹かれる所はあるけど、流石にねぇ……?」

「そ、そういうのはもっと仲良くなってから……」

「まさかの味方が居ない♡」

「こほん、とにかく、それはそれで解決策を考えますが、しばらく先生がこの公園に近寄らないようにしてください」

「とはいえ、解決策も何も……。外で水を被ったら、それこそ風邪を引くだろうし……」

「……トイレの貯水槽に、ミサイルでも撃ち込む?」

「余計に汚れると思うけど……」

 “キャンプでお風呂なら、ドラム缶とか……?”

 

 

 先生の言葉に電流走る。

 四人ともその発想は無かったらしい。

 たしかに現代社会でドラム缶風呂はもはやアニメや漫画の中でしか見る機会が無い。

 たまに自然を楽しむモモチューバーが自作のドラム缶風呂でのんびり堪能してるくらいだ。

 とは言え案外乗り気らしく、みんなで真剣に検討を始めていた。

 野性味溢れるドラム缶風呂だけど、お風呂に浸かれる誘惑には勝てないらしい。

 

 

「モエ。資源管理システムに接続して、ドラム缶を使ってる現場を探してくれませんか? それが見つかったら、すぐに出動しましょう」

「出動って、つまり……」

「衛生面は、部隊の存続に直結する重要な問題です。どんな手を使ってでも、できるだけ早期に解決しなければなりません。では今から、浴槽の確保……『ニンジン作戦』を開始します!」

 

 

 おー、と拳を突き上げて気炎を上げる四人。

 作戦内容を聴くかぎりは、どうやらこっそり要らなさそうなドラム缶を確保するようだけど。

 先生は気付いてないみたいなのでそのままにしておく。

 キヴォトスに染まってきちゃったねぇ、と苦笑いを浮かべた私はスマホを操作してモモトークを飛ばす。

 相手は自警団のメンバーで最近湾岸倉庫でアルバイトをしている子だ。

 その子から倉庫管理をしている会社の人に繋いでもらう。

 シャーレの名前はありがたい事に広まっているので話が進むのも早い。

 

 

「ちょっと電話してくるね♡」

 “うん、いってらっしゃい”

 

 

 先生から離れて電話の内容を漏らさないようにしつつ、通話ボタンを押す。

 さて、ぷち暗躍でもしますか♡

 

 

 

 

 

 

「こちらRABBIT1、現在時刻は2100。ポイントDeltaに到着ひました。現状特に問題はありません。これより『ニンジン』のあるポイントEchoまで移動予定です」

『こちらキャンプRABBIT、各位のGPS信号を確認。警備会社の勤務シフトも確認したけど、特に大きな変更点は無し。ま、ポイントEchoまでは問題ないでしょ』

 “ちょっと良い?”

 

 

 堪らず先生が声を掛けた。

 よくここまで我慢したと言っても良い。

 

 

「……どうしましたか、先生。ここまで来て小言を並べるつもりなら、帰っていただきたいのですが」

「それはそう♡」

「変なことを言われては、作戦に影響します」

 “色々と心配になって……”

「……もしかして、盗みでも働くと思いましたか? 私たちはSRT、市民の財産を盗んだりはしませんよ。ここにあるのは廃棄予定となっているもの。つまり持ち帰ったところで、誰にも金銭的な損害は生じません。むしろ企業にとっては、処理の費用が節約できるはずです」

 “だったら、やっぱり素直に貰うとかは……?”

「それは……」

「そこから先はプライドの問題だ。他人の同情を当てにするなんてことはできない!」

 “うーん、そっか……”

「ま、まああれだ、この間の弁当については……あれはあくまで、私たちが『確保』したもの。そういうことだから! プライドにかけて、私たちは絶対に……!」

「自己弁護が覚束ないの可愛い♡」

「可愛いとか言うな!」

「サキ、いえRABBIT2、落ち着いてください。作戦中です。そろそろ時間です。突入前に、偵察をお願いします」

「っていうかミヤコ、何でお前が普通に指揮をしているんだ」

「……RABBIT2、作戦中はコードネームを使ってください」

「ちっ、それは正論だけどさ……。っていうかそれより、何でお前が指揮してるのかって聞いてるんだよ」

「それは、私は隊長で……」

 

 

 なんとも賑やかに話し続ける二人。

 作戦中なのに雑談が多いのは良いのか悪いのか。

 まぁ組分けが済んですぐに廃校となったからまだ隊内でのスタンスも決まらない状態で放り出されたのは不憫と思えなくもない。

 だけどいざ作戦を前にしたこの状況で始めるのは、まだまだSRTとして……いや、作戦に臨む部隊としてはヒヨッコにも程がある。

 

 

「って思うんだけど、どうせんせー?」

 “それはまぁ、ちょっとは。でもフミ、何でそんなに部隊運用や指揮について造詣が?”

「書き物をする人間ってのは表面的なものならなんでも吸収して知識として取り込んでネタにしますからね♡ それこそ軍事的な組織運用からネコの習性を利用した密室トリックまで♡」

 “なるほど、ネタ出しの為の下準備なんだね”

「あとはお世話になった元SRTの先輩に聞いたり♡ それこそ隊員としての心構えから美味しいいなり寿司の作り方まで♡」

 “フミのお世話になった先輩、会ってみたいね”

「多分会えますよ♡ 今年三年生だったはずですし♡」

 

 

 と、その時一人の警備員がふらふらしながら現れた。

 どうやらトイレを探して彷徨っているらしい。

 随分と飲んだらしく、足取りが怪しい。

 想定外の状況に慌てる四人。

 いつの間にか今回の指揮権を取ったサキちゃんが右往左往しながら対処を考えている。

 普段教範を読み込んでるみたいだけど実戦では訓練通りの状況なんて無いからね、突発的な状況にどれだけ教範を下地にした判断で対応出来るかが問われる。

 それが指揮官ならなおさら。

 そういった意味では、サキちゃんはこれからの成長が楽しみな子だ。

 守破離の守の所だからね。

 けど警備員は止まってはくれず、コンテナの横に潜んでいた二人と目が合う。

 しばしの沈黙。

 

 

「なっ、侵入者!? 荷物を盗みに来やがったか、このコソ泥め!」

「誰がコソ泥だ!」

 

 

 コソ泥呼ばわりに思わずツッコむサキちゃん。

 とは言え増援を呼ばれてはマズイと思ったか、銃を構える。

 

 

「ああもう、交戦開始! 最大火力を投下して、各自ポイントEchoまで直行!!」

「待って♡」

 

 

 敵に発見された時のモモフレンスソリッドみたいになってる♡

 胸元の無線機を撃って本部に連絡を入れされないようにしたのは良いとして、結局銃声が響くから発覚はするんだけどね。

 少し離れた所で見ていた私と先生は持ってきていたお手製フライドポテトとゼロカロリーの炭酸水を手にその様子を眺めていた。

 

 

 “アラート鳴っちゃったからSランクは厳しそうだね”

「ノーキルノーアラートだったらお風呂上がりのバニラアイスが楽しめたんですけどねぇ」

 “連携に難は無いけど、やっぱり突発的な状況への対処はまだ成長途中かな?”

「射撃は的確ですね♡ 位置取りも悪くないし個人の戦闘能力はキヴォトスでも上澄みですかね。流石はSRT♡」

 “撃ってから移動するまではかなり速いね。ヒナやツルギ、ネルやホシノには及ばないけど十分に良い動きしてるよ”

「各学校のトップと比べないであげて♡」

「そっち向かったぞ! 追え追え……あ、お疲れ様っす」

「お疲れ様でーす♡ 本部に連邦酒造のギフト送っておいたので終わったらみなさんで楽しんでくださーい♡」

「本当すか!? あざっす! では!」

「頑張ってくださいねー♡」

 “……フミ、今のは?”

「そろそろネタバラシしても良いかな♡ 昼間に作戦立ててた時に多分侵入するならここだなって思ったので、電話で管理会社と警備会社に連絡入れたんですよ♡」

 “あっ、あの時の?”

「ですです♡ 不法侵入を訓練代わりのイベントにして合法化、廃棄予定のドラム缶もこっちで買い上げて良いやつを混ぜておいてもらいました♡ 自警団の子がここの倉庫でバイトしてたので話がすんなり通りました♡」

 “そっか……考え付かなかった。ありがとう、フミ”

「にしし、もっと褒めても良いんですよ♡ 具体的にはお膝抱っこして副担任で私の中をよしよしして、一番奥にご褒美みるくをとぷとぷって♡♡」

 “いっぱい撫で回してあげるね! フライドポテト触ったあとだけど!”

「ぎゃーせめておしぼり使って♡♡」

 

 

 という訳で、今回のニンジン作戦を利用させてもらった。

 RABBIT小隊の練度を上げる良い機会だったし、企業への顔繋ぎも出来たので万々歳。

 ついでに様子を見に来た自警団の子もお礼代わりに先生をけしかけ、むぎゅむぎゅさせてあげた。

 ハーレム要員だけど普段から控えめな子だから、こういう機会に堪能してもらわないとね。

 と、こっちできゃいきゃい楽しんでる間にサキちゃんたちは追撃を振り切り、再び隠密状態に移行していた。

 隠れてない私たちがなんで警備員に捕まってないんだと通信が飛んできたけど、逢引中のカップルを装ってるって答えたら納得はしてくれた。

 まぁイチャイチャしてるしね。

 モエちゃんがなんか不満そうだったので終わったらフライドポテトを追加で揚げる事にした。

 さては小隊で一番食べるの好きだな?

 と、ここで問題発生。

 GPSをバッグにしまったままミユちゃんが居なくなってしまった。

 現在位置は恐らく向こうに見えるクレーンの足場。

 あっちは警備員が多く、いかにミユちゃんが凄腕潜入員でも単独での脱出は厳しいだろう。

 案の定、どうするかで三人は悩んでいる。

 そこで先生が助け舟を出す事にした。

 

 

 “今ミヤコが背にしているコンテナの裏、ちょうどドラム缶が並んでるんだけど、それを使うのはどうかな?”

 

 

 もちろん、そのドラム缶は事前に手配しておいたものだ。

 ちょっと悩んでいたみたいだけど、ドラム缶を被って移動する事にしたようだ。

 サキちゃんとミヤコちゃんがドラム缶を被る。

 もう気分は伝説の潜入工作員だ。

 ずーりずーり、ゆっくりと移動するドラム缶二つ。

 端から見てると本当に面白い事になってる。

 警備員が来たら止まり、居なくなったらまた動く。

 シッテムの箱を通してその様子を眺めていた先生は顎に手を当てて何やら思案顔だ。

 

 

 “この映像を元にステルスアクションゲームをゲーム開発部のみんなに作ってもらえないかな”

「名作の予感♡」

 

 

 時間を掛けてゆっくりミユちゃんと合流した二人だったけど、ミユちゃんは動くドラム缶を見てめっちゃビビっていた。

 確かに動いて話し掛けてくるドラム缶とか怖い。

 説得に手間取ったサキちゃんがドラム缶を持ち上げて顔を出し、ようやくミユちゃんが落ち着いたのも束の間。

 警報が鳴り響き、警備員が声を張り上げる。

 

 

「居たぞ、こっちだ!!」

「ああもう、こうなったら全速力で走れ!!」

 

 

 

 

 

 

 その後ドラム缶を被って全力で走り、どうにか日が変わる前に子ウサギ公園まで戻ってくる事が出来た三人。

 サキちゃんはドラム缶の中で荒い息を吐いていた。

 

 

「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ……」

「うお、何だこいつ。未確認生物? 這い寄る混沌? ……ま、とりあえず一回燃やすか」

「やめろ! 私だって、私! 誰が這い寄る混沌だよ。っていうかさっき、ミユにもそれ言われたし……」

 

 

 ドラム缶を脱ぎ捨てるサキちゃん。

 汗を掻いて濃厚濃密になったサキ臭に思わず先生もにっこり。

 きゃー先生の変態♡

 

 

「ってモエ、何一人で食べてるんだ!」

「ああこれ? フミがフライドポテト揚げてくれたんだ〜♪」

「私が揚げました♡ ぶぃぶぃ♡」

 

 

 チハヤちゃん直伝のダブルピースを向ける。

 私と先生で一足先に撤退してきたので、三人が来るまでにフライドポテトを揚げておいた。

 もちろん三人の分はちゃんと分けてあるので安心して欲しい。

 付け合わせはマヨネーズとケチャップとマスタードソースの三種類。

 軽く塩を振ってあるのでそのままでも美味しく食べられるようにしてあるから、好きな食べ方でどーぞ♡

 炭酸水も用意してあるから、感想戦でもやりつつ一休みしててもらおう。

 

 

「じゃ、私はドラム缶でお風呂入れるようにやっておくから♡」

「フミさん、私も手伝います」

「いーのいーの、ミヤコちゃんもみんなと休みながら今の作戦の振り返りやってて♡ ちゃんと今日の経験を糧にしてSRTとして成長してもらわないと♡」

「……では、ありがたく。何か手伝いが必要であれば呼んでください」

「にしし、ありがとね♡」

 

 

 という訳でさっさか設置していく。

 レンガを組んでドラム缶を乗せるスペースを作り、下の方は薪を燃やす所と風の通り道を作って、ドラム缶に敷くすのこも組み立てていく。

 材料はヴェリタスのチヒロさんオススメキャンプグッズ店で買ったやつだ。

 しっかり売ってる辺り、ドラム缶風呂にはコアなファンが付いているらしい。

 後はフリーサイズの下着とシャツとバスタオル、ドライヤーと携帯用発電機もセットしておこう。

 ミヤコちゃんとミユちゃんはロングヘアーだから、しっかり乾かさないと身体冷えちゃうからね。

 水飲み場からバケツで水を入れて数回往復、薪に火を付けてうちわでぱたぱた。

 なんか炭火で土鍋料理作ってる気分になってきた。

 あ、ドラム缶の縁に厚めのタオル掛けておかないとね。

 火傷しないように、っと。

 

 

 

 

 そうして暫く。

 

 

「あー……生き返るぅ……。やっぱり疲労回復にはお風呂だ……」

 

 

 しみじみと呟くサキちゃん。

 普段のキリっとした顔が崩れて幸せふにゃふにゃ星人になってる。

 隣のドラム缶ではミヤコちゃんもふんわりした雰囲気を出している。

 

 

「ドラム缶のお風呂、思ったよりも悪くないですね。お湯加減も良い感じで……」

「これ、温度の調節難しそう……。ぬるま湯に入ったカエルみたいに、私もこのまま……」

「レンガの組み方で熱の伝わり具合を制限してるから、ガンガンに焚いても45℃くらいまでしかいかないようにしてあるよー♡ 熱かったり温かったら言ってね♡」

「私もサーモグラフィでチェックしてるから大丈夫」

「きゃーモエちゃん助かるー♡」

「フミにはごはんもらったり色々手伝ってもらったりしてるから、これくらいはね。でもこれだとちょっと温くない? テルミットの粉でもかけてみる?」

「バカ! 全部吹っ飛ぶぞ!?」

「ドラム缶溶けそう♡」

「それに、これくらいの温度でちょうど良いって。これ以上熱くしたら兎汁になるよ」

 

 

 賑やかにお風呂を堪能する四人。

 二つ並んだドラム缶でお風呂を楽しむのは女子高生としては珍しいかもしれないけど、これも立派な青春の1ページになると思う。

 いつもはネガティブなミユちゃんも、ちょっと楽しそうにふわふわ揺れてる。

 

 

「こうやってみんなで入るのも、何だか少し楽しいですね。いつかSRTに戻っても、たまにはこうやって……」

 “誰かが来ないかどうか、ちゃんと見張ってないとだけどね”

「封鎖してる訳じゃないですから、公園に立ち寄った人がいるかもしれませんしねぇ♡」

「まあ、大丈夫だろ。周囲には誰もいないし。隊員同士は裸を見せ合うなんて今さらだし、この時間帯の公園に来るやつなんていないって。もし誰かが来たとしても、地雷とターレットが反応するはず」

「サキちゃん?」

「だ、大丈夫だって。スモーク地雷とゴム弾にしておいたから当たってもちょっと痛いくらいだから」

「なら良し♡」

「……ところで先生は何でここにいるわけ?」

 “……見張り役?”

「私一人で二つのドラム缶の火力調整は大変だから、そのお手伝い?」

 

 

 直後、みんなが口を噤む。

 おやっと首を傾げていると、ドラム缶に身を沈めたサキちゃんが指を突き付けた。

 

 

「おい、何でいるんだよ!? 生徒の入浴姿を見るとかアウトだろ!? こればっかりは撃たれても文句言えないぞ!?」

「や、やっぱり作戦が終わって、武装解除の隙を狙ってた……!?」

「……モエ、ミサイルを」

「よっしゃあ、喰らえ!!」

「はいはい、危ない事しないのー♡」

 

 

 スイッチを押そうとしたモエちゃんの手から端末を取り上げる。

 お、やっぱり大きい胸ってお湯に浮くんだねぇ。

 

 

「いやフミ、これは見過ごしちゃダメでしょ!? 乙女の柔肌を何だと思ってんのさ!?」

「……あ。あーあーあー! そっか、ごめん!」

 

 

 モエちゃんの反応にはてなを浮かべていた私だけど、ようやく気付いた。

 普通、先生に裸を見られるのは恥ずかしいのだ。

 むしろ見せ付けて襲われたい派の私には無い感覚だったのですっかり忘れていた。

 これは悪い事しちゃったなぁ。

 ふと先生を見ると、普段私へ向けている情欲の混じった目ではなく、どこまでもフラットな目をしていた。

 あれ、先生も何か反応が変?

 

 

 “あぁ、ごめん。デリカシーが無かったね。お湯の温度調整は大変だろうけどフミに任せても良いかな? 私は向こうに行ってるから”

「おい待て先生!! その反応はその反応でなんかむかつくんだが!?」

「見て欲しい訳じゃないけど、ちょっとは慌てたり顔を赤らめたりしないわけ?」

 “えぇと……例えばなんだけど。親戚の小さい子を一人でお風呂に入れるの不安だから一緒に入って危ない事しないか見てやって、って頼まれて一緒にお風呂入ったとしても別にその子に変な感情持たないよね……?”

「は? 私たちは幼児以下って言いたいの?」

「ふざけるな! ミユやミヤコならまだしも私とモエは十分大人っぽい身体してるだろう!」

「ひ、ひどい……」

「サキ、後で話があります」

 “あぁ、うん。サキもモエも、もちろんミヤコもミユも可愛らしい女の子だと思うよ”

 

 

 どこまでも冷静な先生。

 それに対して謎のヒートアップを続けるサキちゃんとモエちゃん。

 今の二人は見られている事への羞恥よりも、自分の身体に反応しない先生への怒りが上回っているみたいだ。

 でも先生がここまで反応しないのも不思議だ。

 もしや心因性の何かで副担任が元気を無くしてしまったのだろうか。

 試しにスカートの端を摘んでめくり上げてみる。

 

 

「せんせ」

 “うん?”

「ちらっ」

 “うぉぉぉぉ!!”

「待って♡」

 

 

 めっちゃ元気じゃない♡

 副担任しょんぼり説とはなんだったのか。

 余りの食い付きの良さに思わずツッコむと、サキちゃんは信じられないものを見たように口をぱくぱくさせていた。

 

 

「おい待て先生!? なんで全裸の私に反応しないでスカートの端をめくっただけのフミには反応するんだ!?」

「小さい身体が好き……ってわけでも無いよね? それならミヤコとミユに大興奮のはずだし」

「ふ、ふぇぇ……」

「モエ、あなたも後でお話があります」

「あっ、やべっ」

 “いや、フミは何というか、立ち上る色気が……”

「は!? 色気!? 私のがあるだろ!! 見ろ先生!! 湯船に浮かぶおっぱいだぞ!?」

 “サキ、女の子として慎みは持とうね?”

「なんで私が悪いみたいになってるんだ!!!」

「せーんせ♡」

 “うん?”

「胸元ちらっ♡」

 “アロナ、録画しておいてくれ”

「データ保存しないで♡ というか別にせんせーならいつでも見せてあげるから♡」

 “っしゃあっ!”

「拳を突き上げないで♡」

「おかしいだろ!?」

「先生の性癖が分からない……!」

「あぅ、あぅ……」

「泣かないでくださいミユ。とりあえずフミさん、先生を一度本部まで連れて行ってください」

「はぁーい♡」

 

 

 この後先生、私、サキちゃん、モエちゃんで正座させられた。

 異議あり♡

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