もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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四十四話目

「……ここから地下道を通ってカタコンベの入り口に入る。でも……さっきの様子を見るに、『彼女』も私たちがこの通路を使うだろうことは分かってるみたいだね」

「……ああ、おそらく準備されているだろうな」

「まあ、少し考えれば分かることか。そもそも、アリウスの生徒なら誰でも知ってる入り口だし」

「そ、それではどうしましょう?」

「そうは言っても迂回路は無いし、当然他の入り口を探す時間もない」

 

 

 サオリちゃんは僅かに考え込み、すぐに視線を上げた。

 

 

「強行突破する」

「そうなるよねー♡」

「……だね。どうせ向こうも私たちも、考えは同じ。でも私たちには『シャーレ』の先生がいる」

「じーっ♡」

「……あと、お節介で馴れ馴れしいやつも」

「へへ……そ、そうですね。よろしくお願いします……」

 “え、う、うん。こちらこそ……?”

 

 

 目を逸らして溜息を吐くミサキちゃん。

 笑顔が足りてないぞぉ♡

 ほら、ピースピース♡

 ヒヨリちゃんは真似してへにょりピースをしてくれる。

 やっぱこの子好き♡

 全部終わったらお腹いっぱい食べさせてあげるからね……!

 

 

「この先には訓練されたエリート兵が待ち受けているはずだ。我々が先頭に立つ。先生は安全が確保されたら、後ろからついてこい。厳しい戦いになるが、ここを突破すればアリウス自治区に入れる。行くぞ」

 

 

 その声にみんなで意気を新たに武器を構え直す。

 地下道へと乗り込むと、下水特有の臭いが出迎える。

 リュックから携帯式簡易ガスマスクを取り出して先生に渡しつつ自分でも装着。

 アリウス生徒がみんなガスマスクを付けているのはこの移動ルートが原因かもしれない。

 余り長居はしたくない環境だ。

 

 

「敵襲! スクワッドうわっ!?」

「右に七、左に一、奥から無数♡」

「ミサキ、左に撃て!」

「了解!」

 

 

 ミサキちゃんのミサイルランチャーが左側のパイプ影に潜んでいた子に命中する。

 爆風で転がり出てきた子が持っていたのはネットランチャーだった。

 この狭い空間で網に捕らわれるのは実に危うい。

 

 

「没収&発射♡」

「うわあぁっ!?」

 

 

 せっかくなので固まってた三人に向けて撃っておく。

 絡まってわちゃわちゃしていた所へサオリちゃんのライフルがクリーンヒット。

 動きは間違いなく良いんだけど、それ以上にサオリちゃんのキレが良すぎてまともに撃ち合えていない。

 やっぱスクワッドって凄いんだねぇ。

 そんな事を考えながらアリウス生徒を蹴散らしていると、突如別の通路から破砕音が響いた。

 すぐさま軽い射撃音と共に通路側からアリウス生徒が吹き飛んでくる。

 

 

「いや何事♡」

「なんだ……!?」

 

 

 前線に居る私たちの所に聴こえてくる別の戦いの音。

 軽いのに重い射撃音が耳朶を揺らす。

 ん?

 ()()()()()()

 疑問に答えるように姿を見せたのはピンク色の髪の毛を揺らす生徒。

 

 

「ゲェーッ!? キヴォトス固有種!?」

「それみんなに当てはまるでしょ!?」

「それはそう♡」

 “ミカ……!?”

「えっ、あ、先生……? ……っ、これはちょっと予想外だったなぁ……まさか先生が居るなんて。可愛くない所を見られちゃうなぁ」

 

 

 軽口を叩く私と違い、みんなは突然のエントリーを果たしたミカさんを見て戦慄した。

 どう見ても友好的な増援には見えないからねぇ。

 左手のネットランチャーを後ろに投げてシールドに持ち替え、()()()()()()()()()声を出す。

 

 

「とは言え……唯一知ってる入り口だから使えるかは賭けだったけど……どうやら私の勝ちみたいだね」

「で、派手な登場でどうしましたミカさん(アロナちゃん)♡ せんせーの手助けなら大募集中ですけど(先生に伝えて)♡」

「うーん、それも心惹かれるステキな提案なんだけど……私ね、もっと良い事するんだ♪」

「聖園、ミカ……」

「悪役登場☆ ってところかな! ……まだ覚えててくれてたんだね? 会えて嬉しい……って顔じゃなさそうだけど、どうしたの?」

 

 

 ミカさんはどろりと濁った瞳をただ一人、サオリちゃんに向けて微笑んだ。

 

 

「そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

「……檻の中にいると聞いたが」

ナギサ飼育員さんが(ここを切り抜ける)ロールケーキの時間忘れちゃった(作戦がある)?」

 “ちょ、フミ……!?”

「あはは☆ 相変わらず口の減らない子だなぁ。でも残念、私の会いたい人はあなたみたいな木っ端じゃないんだよね。ご指名は……サオリ! あなたに会いたくて出て来ちゃった☆ だってほら……私たち、まだお話しなきゃいけない事があるんじゃないかなって」

 

 

 明らかに普通ではないモノを背負いながら笑うミカさんの雰囲気にスクワッドのみんなは警戒度を最大まで跳ね上げる。

 背後に先生を庇いながらの戦闘となると少々手を焼きそうだ。

 その場合は私が下がる事になり、前衛での支援は行き届かなくなるだろう。

 私と相対するのが初見のアリウス生徒ならまだしも、私のタネはミカさんには割れている。

 その上あの機動性だ。

 後方から狙うには少し荷が重い。

 僅かに軋みつつある喉を酷使しながら、ミカさんへと言葉を投げ続ける。

 

 

「私もこれまで、それなりにあなた達と一緒に行動してたからさ。ここに来るってすぐ分かったよ」

「んー、サオリちゃんはちょっと用事があるから(足元のネットランチャー)、私とお話しません?」

「……あはは、はっきり言わないと分からないかな。邪魔だよ、あなた」

邪魔しに来てるのはミカさんなんですけどね(合図で私に)? こっちはちょっと急ぎの用があるんですよ(投げたら走って)。檻の中に常識や知性まで置き忘れて来ちゃったウホ?」

「ふふ、ははっ……良いね、最近私相手に正面から突っかかってくる根性のある子っていなくてさぁ」

「トリニティのお嬢様は陰湿だー、なんて噂もありますからね(みんなで走って)♡」

「あー、それはホント。自分で声を張る事もできないのにお題目だけは立派でさぁ。……で、その声色は何かな? 新しい芸でも覚えたの?」

当たらずとも遠からず♡(いま!!)

 “フミ!”

 

 

 先生が声と共に転がっていたネットランチャーを投げ渡してくれる。

 それに合わせて身体を捻り全力でシールドを投擲。

 狙うのはミカさんじゃなくてその足元。

 足元のタイルをぶち抜いてシールドが直立したのを見ながらネットランチャーを受け取りミカさんに腰溜めで銃口を向けて引き放つ。

 銃口から飛び出した鈍く光る網が彼女を覆い尽くす。

 シールドに引っ掛かった網はそこを支点にぐるりとミカさんを抱き込むように絡みついた。

 

 

 “みんな走って! 通り抜けるよ!”

「これは……っ、先生、なんでっ……!」

 “ごめんミカ! お詫びに今度一緒にお茶しよう! 今はちょっと急ぐから!”

「いたぞ!」

「聖園ミカも一緒だ! 撃て!」

 

 

 網がミカさんに絡んだのを見て全力で通路を走り抜ける。

 ほぼ同時にアリウス生徒たちも集まってきた。

 乱戦で相対するのは骨が折れるけど、一方的に押し付けられるのなら楽が出来る。

 

 

「ああもう、邪魔!」

 

 

 ブヂィ、と聞き馴染みの無い音が背後から聴こえてくる。

 首だけで振り向くとミカさんが網を纏めて引き千切っていた。

 うそやん。

 

 

「バカなっ、カイザーグループのパワーローダーの出力でも破れない特殊な素材で出来ているはずだぞ!?」

 

 

 サオリちゃんも狼狽えている。

 どんなパワーなんだ……。

 それを聞いて先生も若干顔を青くしていた。

 ともあれ今は通路を進む。

 日付が変わる前にカタコンベに辿り着かなくては。

 

 

「フミ、聖園ミカと話していた時のやつは何?」

「なんだか変な音が一緒に聴こえましたけど……」

「アァ゙ンッ゙! ゲホッ、アレはちょっと特殊な発声法♡ アロナちゃん──シッテムの箱のAIちゃんに向けて送った暗号みたいなもんだよ♡ ──ゲェッホ、エホッ、ぶっつけ本番だったから伝わるか自信は無かったけど、オェッ、流石はアロナちゃん♡」

 “私もそんな技能有ったの初めて知ったよ!? というか喉大丈夫!?”

「大丈夫♡ でも後で喉にちゅーして欲しい(もう使えない)♡ ……けほっ♡」

 “終わったらいくらでもしてあげるから……! 無茶しないでね!”

 

 

 喉を労りながら説明すると先生が少し引いてた。

 下がった分だけ踏み込むぞぉ♡

 それにアロナちゃんには現状をしっかり伝えておく。

 まさか虎の子の合奏制御(デュアルキャスト)を切らされるとは思わなかった。

 普段カラオケで一人ハモリをやって楽しむくらいしか使い道の無かった一発芸で、まさか暗号文の送信をする事になるなんてね。

 後ろで交わされていたスクワッドの暗号や符号を解読出来るだけの素養をミカさんが持っているとは驚かされた……ティーパーティーの持つ技能ってなんでクーデター向きなの?

 お陰で完全初見であろう技術を披露する事にはなったけどリターンは充分。

 出会い頭一発目にぶちかませた事で『他にも何か隠し持っているんじゃないか』と疑念の種を植え付ける事には成功した。

 正直手札はほぼ使い切ったんだけど、これで追撃に無自覚の逡巡が生まれるなら儲けものだ。

 

 

「急げ! カタコンベへ!」

「ほいさっさ♡」

 

 

 ダメ押しに倒れた子からグレネードを拝借して配電盤側に放り投げ、防火扉を下ろしておく。

 パンチ一発で破られる気もするけど、異常を感じ取ってアリウス生徒が集まってくる分には助かる。

 なんか無敵のボスからギミック駆使して逃げるゲームやってる気分♡

 幾つかの防火扉を落とし、別の通路にもグレネードを投げ入れて陽動をかまして階段を駆け下りる。

 しばらく走ると先程までとは違う雰囲気の所へ出た。

 上がった息を吐き出しガスマスクを脱ぐと、冷えた空気が火照った顔を撫でた。

 見ればヒヨリちゃんも同じように肩で息をしていた。

 

 

「はぁ、はぁ……せ、セーフ……」

「……まだ通路が完全に閉じるまで猶予がある。追手が来る前に急がないと」

「移動するぞ。先生、ここから先は道が複雑だから気をつけた方が良い」

「こ、ここは電波も通じないから……道に迷ったら終わりです……」

「この先がアリウス自治区だ。行こう」

 

 

 歩き出す三人に続く先生。

 だけどその顔は浮かないご様子。

 

 

「せんせー?」

 “……あ、フミ”

「ミカさんの事ですか?」

 “うん……どうしてあの場所に居たのか、とか抜け出して大丈夫なのか、とか、色々気になる所は有るんだけど……”

「あの目ですかね、めっちゃ濁ってた♡」

 “……私が二人居れば、両方に付いていてあげられるんだけどね”

「エンジニア部に頼んでみます?」

 “……やめておくよ。色んな騒動の元になりそうだ”

「間違いない♡ でもせんせ、考えすぎたらダメですからね? せんせーは一人しか居ないし、せんせーは何でも出来る神様じゃないんだから。出来る事も出来ない事もそれぞれ有って当たり前です。だからこそ、同じように出来ない子たちに寄り添って、一緒に隣を歩けるんです。大人だからって全部背負い込んだら子供はいつまで経っても独り立ち出来ませんよ?」

 “はは……耳が痛いね。ありがとう、フミ”

「どういたしまして♡ お礼は夜の家庭訪問で良いですよ♡」

 “私が良くはないかな!”

「元気が出たみたいでなりより♡ 焦らず一つずつ解決して行きましょ♡」

 

 

 

 

「…………だ、大丈夫です! 上がってきてください!」

 

 

 ヒヨリちゃんの合図で梯子を昇る。

 お尻を振って先生へサービスしつつ上へ出ると、そこは古びた聖堂のような場所だった。

 トリニティの古聖堂に似た建築様式でアシンメトリーなのが特徴的だ。

 左右対称じゃないのでちょっと爆破したくなる。

 続いて上がって来た先生はどこか満足げだったのでまあ許してあげよう。

 

 

「ここなら警備の手が薄いはず……正解だね」

「そ、そうですね……」

「ふぅ……ぐっ……」

 “ここがアリウス自治区……?”

「……昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ。本当の自治区はもう少し先。でも、私たちが向かってる事がバレてるから、そう簡単には近づけないと思う」

「……ここは訓練場でした」

 “訓練場?”

「元は遺跡だったんだけど、内戦が終わった後は訓練場としても使われてたの」

 “内戦……?”

 

 

 古書館で見た本に、確かそんな事が書いてあった。

 凄惨な、と言う言葉が内包する悪意全てが解き放たれたような内戦だったらしい。

 でもそれよりも……サオリちゃんの様子の方が気になる。

 呼吸速度が一定ではなく、瞳がほんのわずかだけど小さく痙攣するような動きをしている。

 まだ三人は気付いていない。

 まぁ限界近くまで黙ってそうなタイプだしねサオリちゃん。

 近くの平な所に圧縮されたエアーマットを広げて展開、リュックを下ろして栄養剤と解熱剤を取り出す。

 目の前で動き出しても反応しないサオリちゃんをマットに寝かせて……枕はないから私の膝でごめんね。

 

 

「……フミ……?」

「時間が来たら起こすから、今は休んでね♡ はい、栄養剤と解熱剤♡ むせないようにゆっくり飲んで♡」

「ん……ぅ……」

「良い子良い子♡ ゆっくりおやすみ♡」

 

 

 抗議の声を上げるでもなく、サオリちゃんは静かに瞼を閉じた。

 地下道を突破した事で緊張の糸がわずかに緩んだんだろうけど、ここまで疲労を溜め込んでいたなんて驚きだ。

 それだけ寝る間も惜しんで動き回っていたんだろう。

 私たちに気付いた三人が何か言いかけるけど、口に人差し指を立てて静かにのジェスチャー。

 声を落として会話する。

 

 

「大丈夫、疲れが出ただけだから♡ この後に備えてみんなも一端休憩にするよ♡」

「……こんな状態になるまで我慢するなんて……リーダーはもう四日近く休んでない。戦い続きでろくに身体を休ませられないまま、今回の救出作戦……。気力で我慢するのも限界だったんだと思う」

「解熱剤は飲ませたから起きる頃には楽になってるはず♡」

「フミさん、ありがとうございます……! で、でもどうしましょう……」

「幸いまだ零時までは余裕があるからね、みんなも最後の一踏ん張りをする為にも今は休憩すること♡」

「……わかった、ありがとう」

 “流石はフミ、助かるよ”

「にしし、どういたしまして♡ 水とかカロリーバーとか医療キットもあるから、存分に自分を労ってあげてね♡」

 

 

 という事でしばしの休息。

 一番元気な私が寝ずの番を引き受け、ミサキちゃんとヒヨリちゃんも仮眠を取る。

 エアーマットが簡易寝床として大活躍するとは思わなかった。

 帰ったらまた補充しておかないとね。

 三人の寝息が聴こえてくる。

 先生は私の隣に座って三人の寝顔を眺めていた。

 その横顔はどこまでも優しくて、ついついドキッとしちゃうね。

 

 

 “……どうかした、フミ?”

「はぁ〜……カッコよすぎ♡ 好き♡」

 “ふふ、ありがとう”

「そうだ先生、このヘイロー破壊爆弾の起爆コード、アロナちゃんがいつでも使えるようにしておいてください」

 “え……?”

「ベアトリーチェにぶち込んだら爆発させて欲しいんですよ。因果応報ってのを大人なら知ってるべきですもんね♡」

 “……まぁ、そうだね”

「ああ、多分ヘイロー破壊爆弾程度じゃ死にませんよ。いかに生徒を力で抑えつけて反抗しないようにしていたとは言え、キヴォトスで悪行三昧な大人がなんの防護も無しに動いてるはずが無いですから」

 “痛打は与えられるけどそれ以上はない、か……”

「まずはアツコちゃんの奪取、それからベアトリーチェの無力化、最終目的はアリウス自治区の解放ですからね」

 

 

 しばらく、無言の時間が流れる。

 休み始めてから十五分ほどで、ミサキちゃんとヒヨリちゃんが起き出した。

 短時間の休息でもしっかり時間を決めて起き上がれるのは流石と言うべきか。

 二人はサオリちゃんの様子を確認してほっと息を吐く。

 愛されてるねぇ♡

 ニヨニヨしてたのに気付いてミサキちゃんが眉間に皺を寄せる。

 ほらほら、美人さんなんだからそんな顔しないで♡

 その後、二人は先生と過去に有った内戦やアズサちゃんと出会った頃の昔話を、ぽつりぽつりと話し始めた。

 内戦が終わったのは十年前だっけか。

 その頃のみんなはそれこそ小学校に入る前、色々と教え込むにはちょうど良い時期だったんだろうね。

 アツコちゃんの出自についても教えてくれた。

 アリウス自治区を統治していた生徒会長の血を引く《ロイヤルブラッド》と呼ばれる存在。

 姫、という呼ばれ方は本当に身分を表していたんだ。

 そんなアツコちゃんについて、ある噂が出回り始めた。

 ベアトリーチェの手で、ロイヤルブラッドは生贄に捧げられる。

 現状を鑑みればその噂は本当の事なんだろう。

 むしろベアトリーチェが生贄を捧げるのは前々から決まっていた当然の事、とアリウスに浸透させる為に流したものなのかもしれない。

 先生は険しい顔でそれを聞いているけど、私は少し疑問がある。

 その生贄は、何に対して捧げられるのだろう。

 ベアトリーチェはアリウス自治区を手にした、いわば王族の地位を手に入れている。

 自治区内であれば望むもの全てが手に入る。

 自治区は独立した体系を持つから上位存在のご機嫌を窺う必要も無い。

 それに現代で生贄を眺望するような血腥い政治を持っている所なんて存在していないはずだ。

 ゲームやライトノベルなら邪神への捧げ物とか悪魔との契約に生贄を用意する、っていうのは定番だけども。

 ……まさかねぇ?

 

 

「……面白い話をしているな」

 

 

 いつの間にかサオリちゃんが目を覚ましていた。

 起き上がろうとするのを額に指を当てて押し留める。

 なにを、とサオリちゃんが口を開くより早く首筋に手を当てて熱を確認。

 良かった、平熱まで下がってる。

 

 

「吐き気や目眩、脱力感や頭痛は無いです?」

「……いや、ない」

「ゆっくり身体を起こしてください。両手両足に痺れや感覚の鈍さは?」

「ない。しっかり動く」

「なら大丈夫ですかね♡ はい、追加のカロリーバーですよー♡」

「……ああ。助かった」

 

 

 私たちの中で最大戦力だからね、今のうちに栄養補給はしっかりしてもらわないと。

 差し出したカロリーバーをもぐもぐしているサオリちゃんに水の入ったペットボトルを渡して、私も立ち上がる。

 固まった肩を回してボキボキ。

 時間は休息開始からぴったり三十分。

 みんなのコンディションもある程度回復したようでなにより。

 

 

「……それで、これからどうする?」

「今から姫ちゃんを助けるんですよね……?」

「ああ。アリウスのバシリカに向かい、姫を救出する。最初から目標はそれだけだ」

「そこは変わらないね♡ やっぱスクワッドは四人揃ってないと♡」

 “目標はそれで良いとして、方策はどうしようか?”

「バシリカにはどうやって進入するつもり? 既に私たちが自治区に潜入している事は、彼女も知っているよ」

「ルートは既に考えてある。──アリウス分校の旧校舎に向かう」

「きゅ、旧校舎ですか? あ、あそこは、かなり長い間放置されていた廃墟ですよ……!?」

「そこに何があるの?」

「……姫から聞いた話だが。かつて聖徒会がアリウス分校を建設する時、バシリカと分校をつなぐ地下回廊を作ったのだとか」

 “聖徒会がアリウス分校を……?”

「……うん。その昔──トリニティ連合に反対したアリウスの脱出を支援したのが、ユスティナ聖徒会。アリウスを最も糾弾した彼女らが、アリウスのトリニティ自治区外脱出と再建を主導したの」

「回廊はなかり昔に作られたものだから『彼女』も見落としている可能性が高い。遠回りにはなるが、安全にバシリカまで進入できるはずだ」

「その回廊の場所は知ってるの?」

「いや……まずは回廊を探すところからだ」

「そう……」

「で、でも他に方法はありませんよね? そ、それともやっぱり、バシリカに強行突入します……? 絶対無理ですけど……」

「強行突破は無理でしょ。……そうだね。普段ならそんな噂を頼りに探すなんて絶対しないけど、今は先生もいるし……やれるんじゃない?」

 “うん。とりあえず行ってみよう”

「は、はい!」

「臨時参謀、あんたもそれで良い?」

「んふぇっ?」

「なに、変な声出して。……ここまで協力したんだから、最後まで知恵を絞ってもらうから」

「えへへ……フミさんが一緒なら、心強いです。食べ物もくれましたし……」

「……にしし♡ 任された♡」

「よし、旧校舎はここからそう遠くない。目立たないように移動するぞ」

「了解」

「出発です!」

「りょーかい♡」

 “行こう、旧校舎へ”

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