もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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四十五話目

「……クリア。ここまでは安全」

「は、はい! 大丈夫です!」

 

 

 通りの影を這うように抜けて進む。

 その途中、先頭を行くサオリちゃんがふと立ち止まった。

 

 

「おかしい……街が静かすぎる。元々人通りが少ない場所だが、ここまでではなかったはずだ」

「リーダー、あそこ……な、なんか……知らない物がいっぱい増えてます……」

「そうだね……違和感は、私もさっきからすごくある。自治区から長く離れていたとはいえ、私の全く知らない街になってる」

 

 

 私と先生には分からないけど、何やら街の様子がおかしいらしい。

 人の気配が無いのは人払いの指示を出したとして、知らない物が増えたというのはなんだろうか。

 物の正体も気になるけど、何故それらを設置したのかも気になる。

 単に景観を整えようとした訳では無いだろう。

 わざわざ人払いをした場所に物を運び込むのはその物もしくは物を使う行動が周囲に何かしらの影響、特に危険な事象を引き起こす場合が多い。

 それこそエンジニア部の実験作業室のような。

 

 

「な、なんというか……よくよく思い出すと、以前から少しずつよく分からない物が増えていたような気がします。自治区のあちこちに設置された巡行ミサイルや……補給された謎の武器……。それに今考えてみると、あの複製というのもすごく変じゃないですか。なのに、何も疑わずに受け入れてた気がします」

 “……それだけ深く思考が抑圧されていたのかな”

「徹底的な自由意志の剥奪ですかね?」

 “聞く限りは洗脳装置とかの外部的な刺激は受けてなさそうだけど……”

「ちょっと待って……誰かいる。隠れて」

 

 

 ミサキちゃんの言葉に全員が建物の影に隠れる。

 こつこつと地面を叩く足音。

 こっそりと窺った先では、二人分のシルエットがあった。

 青白い肌、顔全体を隠すガスマスク、シスター服とウィンブル。

 見間違えようもない、ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)だ。

 筋肉質な腹筋とピチピチボディスーツで潰れ気味なおちちはちょっと撫で回したい。

 先生に頼んだら一人くらい連れて帰れないかな。

 素顔も拝見してみたいところさん。

 

 

「あれは……」

「せ、聖徒会!? ユスティナ聖徒会ですよね? それにあの姿は……」

「……何故だ? エデン条約が取り消された以上、使役は不可能なはずだ」

 

 

 そう言えばそうだった。

 エデン条約機構は先生が調印式で認証された通りに運用されるから、先生が呼び出さないと顕現出来ない。

 更に言えばそれを運用する為のエデン条約自体が流れた事で現状彼女たちを動かす事は不可能なはずだ。

 

 

「……考えてみれば。そもそも、私たちがエデン条約の会場を襲撃した理由は、複製能力を確保するためだった」

「そうですね……だから姫ちゃんは、古聖堂の地下であの『木の人形』の言う通りにしました……」

「そうして確保した聖徒会の兵力で、トリニティとゲヘナ自治区を占領する……。それが私たちの任務だった。その後『シャーレ』に敗北したけど」

 

 

 ジト目で見てくるミサキちゃん。

 ドヤ顔ダブルピースで返したらほっぺたをつままれた。

 伸びちゃう!

 

 

「ああ……私たちが逃亡したのもそれが理由だ。複製能力の確保も、両学園占領にも失敗してしまったからな。だというのに……。アリウス自治区は……『彼女』は、既に複製の能力を確保している……?」

「何でだろうね? まさか付記通りに連邦生徒会長へ意見書を提出した訳でも無いだろうし♡」

 “……一つ、一番理屈っぽく理由は付けられるよ”

 

 

 その言葉に私含めて全員が先生を見る。

 

 

「せ、先生には分かるんですか……?」

 “うん。契約……もっと言えば法の在り方として重要な取り決めがあってね”

「取り決め?」

 “遡及適用の禁止。一度決まったからと言って、それが決まる前に行われた事に対して効力を発揮する事は出来ないんだ”

「……なるほど。今日から銃は所持禁止です、って法律が出来たとしても昔持ってたから逮捕な、ってのが出来ないようにするんですね♡」

「……分かりやすいな」

 “あのユスティナ聖徒会は私がエデン条約機構を制定する前に召喚され、そのままベアトリーチェが運用している子なんだろうね。だから調印式で新しく認証しても、遡って適用はされずに動かせている”

「無尽蔵に現れ続けるんじゃないのは助かりますね♡」

 “それでも同じ子なら再召喚は出来るかもしれない。数は少なくなったかもしれないけど、依然として警戒は必要だろうね”

 

 

 そう言い終わった時、大きな警報のような、あるいは遠吠えのような音が響いた。

 少なくとも、常人の声ではなかった。

 

 

「この音は……」

「エデン条約の時に戦術兵器として使ってた《アンブロジウス》の悲鳴だよ。……たしかにあの時、私たちが扱った複製で合ってるみたいだね」

「ということは……」

「……複製は、一度でも成功させればいいだけで……つまり、本来の私たちの任務は……《姫を古聖堂に連れて行って複製を発動させる事》だけだった……? じゃあ、トリニティとゲヘナの占領任務は……」

「──彼女には、どうでもいい事だったのか……? じゃあ、私たちの任務は……」

『いったい、何の意味が有ったのか』

 

 

 その言葉と共に周囲をユスティナ聖徒会が取り囲んだ。

 数は八人。

 すぐに襲い掛かってくる様子は無いけど、黙って通らせてくれるつもりも無いらしい。

 

 

「……包囲されています!?」

「チッ……罠か」

「……私たちがここに来るって分かってたんだ」

『ええ、もちろんです』

 

 

 声と共にホログラムが浮かび上がる。

 純白のドレス、黒の長髪、真っ赤な肌、折り重なった羽根にも似た形状の頭部、それら一つ一つに浮かぶ黒目と赤い水晶体。

 人に似た異形がそこにいた。

 

 

「……マダム」

 

 

 サオリちゃんがそれを呼ぶ。

 これがベアトリーチェか。

 アリウス自治区の生徒会長を名乗る大人にして、エデン条約に纏わる騒動の黒幕。

 

 

『ここは私の支配下にある領地。皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで全て把握しております。あなた達が旧校舎の回廊に行こうとすることも最初から分かっていました。愚かな子どもたち──私に隠し事なんて、不可能ですよ』

「ひ、ひいぃ……さ、最初から……」

「やっぱり、手のひらの上だったの……」

「……」

『ええ、そういう事です。あなた達の任務は最初から《ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させる事》……それだけです。パスは一度接続さえすれば、次からは私が統制出来るので。マエストロは自分の作品を奪われるようだと嫌がっていましたが』

 

 

 マエストロ。

 また知らない名前が出てきた。

 文脈から察するにベアトリーチェの協力者だろうか。

 

 

『まあ、トリニティやゲヘナを占領するかどうかなんて、私にとっては些末なことです。この自治区が長年抱いていた憎悪を統制するための方便ですから。私自身は、あの学園に何の遺恨もありません』

 

 

 その言葉にサオリちゃんが歯を食いしばる。

 拠り所としていた感情の源は偽りの方便であったと、それを纏め流布していた本人から告げられた。

 これまで自分が崩れないように積み上げてきたものを無遠慮に壊される感覚。

 果たしてサオリちゃんの激情は如何ほどのものか。

 

 

『そうですね。ですから、あなたは任務を遂行したと言えるでしょう。私に複製の能力を提供しましたし──ロイヤルブラッドも素直に生贄として捧げてくれました。あなたは言い付けをよく聞くいい子ですね、サオリ』

「……やはり、最初から約束を守るつもりなんてなかったのか……」

『まあ、不毛な話はこの辺りで……私の興味は……そう』

「ミサキちゃん、ヒヨリちゃん! 正面二人!」

 

 

 ベアトリーチェが回線の向こうで指を鳴らす。

 同時にシールドを展開させてサオリちゃんの前に出て、右手のリボルバーを六回鳴らす。

 正面にいた二人の銃撃はシールドで防ぎつつ、残り六人の銃口を弾丸で潰した。

 相手の狙いは分かっていたから先生に割く分のリソースは一旦無視出来たけど、それでもまだ全員を行動不能にさせるには至らなかった。

 一拍遅れてミサイルとライフル弾が正面の二人を吹き飛ばす。

 当のベアトリーチェは特に慌てる様子も無いのがフミちゃん的にムカつく。

 

 

『ふん……報告通り、先手は取れても奇襲には至りませんか。ですがたかが一生徒、見るべき所はありませんね。さて……初めまして、先生』

 

 

 ベアトリーチェは先生へと向き直る。

 色々と文句は言いたいけど侮ってくれる分には問題無い。

 下手に警戒されると動きづらくなっちゃうからね。

 先生とベアトリーチェが会話しているのを横目にリロードを済ませておく。

 銃が使えなくなったユスティナ聖徒会の面々は何をするでもなくじっと佇んでいる。

 いっそこっちに寝返ってくれたら楽なんだけど。

 

 

「サオリちゃん、怪我は無い?」

「ああ……助かった」

「アツコちゃんを助け出すまで極力被弾は避けたいからね♡ 精神面も、動ける程度には大丈夫?」

「問題ない。……立ち止まって考えるのは後にした」

「ならヨシ♡」

 

 

 念の為、サオリちゃんに三つ装備を渡しておく。

 この先はちょっと忙しそうだからね。

 背中側の肩ラックに取り付けられた丸い装備にサオリちゃんは不思議そうに目を向ける。

 

 

「これは?」

「虎の子の新装備♡ 展開させると自立型のドローンになって文字通り身代わりになってくれるよ♡ ミカさんレベルだと一発防ぐので精一杯だろうけど、念の為の保険にね?」

「なら、これは姫に……」

「ダメ♡ この中で一番強いのはサオリちゃんだけど、裏を返せばサオリちゃんさえ倒せば向こうの勝利はぐっと近付くの。だからサオリちゃんは絶対にアツコちゃんの所まで辿り着かないと。安心して、ミサキちゃんとヒヨリちゃんはこっちで面倒見るから♡」

「ネコか何かみたいに言わないで」

「どうせならご飯の面倒も見てください……!」

 

 

 逆に言うと、二人を守っている間はサオリちゃんをフォローする事が出来ない。

 だからこそ、気休め程度でも何かして置きたい。

 そんな私の考えを見抜いてか、サオリちゃんは小さく頷いた。

 こっちはこれで良いとして、先生とベアトリーチェの会話も中々に興味深い。

 ゴルコンダ、と彼女は言った。

 以前古書館でアリウスの情報を集めていた時に見掛けた名前だった。

 仔細は分からないけど、そのゲマトリアという繋がりがあるなら当時の様子を知っているのも頷ける。

 こうして私が一部とは言えその繋がりに気付いた事は、果たして偶然なのかそれとも彼らが意図した事か。

 私に知識を送り、何を期待して、何を観測したいのか。

 偶然と片付けてしまうのは容易いけど、どうにも切り捨てられない異様さを感じる。

 いつもの勘じゃなく、私自身が持っている感覚。

 そんな感じに意識を飛ばしていたけど、それもそろそろ限界だ。

 

 

 “そこまでにして”

 

 

 先生から滲み出る敵意と嫌悪感がすっごいバシバシ飛んできている。

 余波だけでこんなにも肌が引き攣るように痛む。

 回線越しとは言えよく相対してるベアトリーチェが平気なものだとちょっと感心するくらい。

 普段生徒には絶対に見せない姿だ。

 心なしか複製のみんなも少し後退っている。

 いや幽霊みたいな聖徒会を怖気づかせるってどんなん?

 

 

『ほお?』

 “そんな事に興味ない。誰かの犠牲で到達できる真実なんて必要ない”

 

 

 先生の言葉に、ベアトリーチェはニヤリと笑ってみせた。

 ひどく嗜虐的な笑み。

 自身の敵対者足り得る、とどこか上機嫌に嘯きながら。

 対する先生の鋭い眼差しは怒りによる熱さと嫌悪による冷たさが入り混じっている。

 声は静かなのに逃げ出したくなるような重さがあった。

 

 

 “ベアトリーチェ。あなたは生徒を、私たちを侮辱した。そして《教え》を、《学び》を侮辱した。私は大人として、あなたを絶対に許すことはできない”

『……それは、宣戦布告だと思っても? いいでしょう、バシリカでお待ちしております。──もし到達できるのなら、ですが。そこで決着をつけましょう。さあ、先生──不可解な者よ』

 

 

 詠うようにベアトリーチェは嘲笑う。

 

 

『黒服はあなたを仲間と認識し、互いに競い合えると信じ。マエストロはあなたを理解者と認識し、互いに高め合えると信じ。ゴルコンダはあなたをメタファーと認識し、互いを通じて完成されると信じ。そして私はあなたを敵対者と認識し、互いに反発すると信じています。────あなたは、私の敵です』

 

 

 その言葉と共に、新たな聖徒会が姿を現す。

 けれどこちらもただ見ていた訳じゃない。

 ハンドサインを送り合ってサオリちゃんたちとタイミングを見計らう。

 

 

『始末してください』

 

 

 その声を最後に通信が切られる。

 残るのはユスティナ聖徒会の面々。

 

 

「相手にとって不足なーし♡」

 “行こう! スクワッド!”

「ああ!」

 

 

 サオリちゃんの応答を引き金にそれぞれが展開する。

 私は一度下がって先生の警護。

 さっき銃口を詰まらせるのに跳弾させず直接狙っちゃったからね。

 前は敵対判定に入らなかったけど、今回はしっかり私も敵戦力にカウントされてる。

 構えたシールドで敵弾を逸らしながら跳弾でこっちに銃を向けてくる複製を狙って撃つ。

 もちろんリボルバーだと火力不足なので排莢口や銃口を目掛けて着弾させる。

 銃が使えなくなった複製は何をするでもなく佇んでいる。

 無限に呼び出せる分、手元の銃だけが使えなくなった状況に対する反応が設定されていないのかな?

 モモイちゃんが設計したミニゲームみたいだね。

 

 

「ヒヨリ、右手だ!」

「は、はいぃ!」

 “ミサキ、左奥の柱の陰!”

「分かった……!」

 

 

 二人の指示で複製がぽんぽこ蹴散らされていく。

 サオリちゃんもアサルトライフルを構えて駆け抜けるように次々と居場所を変えながら複製を倒していく。

 やっぱ強いね。

 前線を押し上げながら進んでいると、まだ誰も照準を付けていない複製が崩れ落ちた。

 何事かと思った矢先、奥から一人の生徒が姿を見せる。

 

 

「うわ出た♡」

 “ミカ……!?”

「……まさか、ここまで追い掛けてきたのか」

「久しぶり……ってほどでもないか。また会えて嬉しいよ、サオリ。先生が指揮するスクワッドに、どうやったら勝てるか考えてみたんだけどさ……あんまりいいアイデアが浮かばなくて。とりあえず一回ぶつかってみようかな? って思って来てみたんだけど……」

 

 

 油断なく見据えるサオリちゃんとどこか虚ろに笑うミカさんが視線を交わす。

 直後響く二つの銃声。

 

 

 “サオリ、下がって! 8時、それから6時、次いで2時!”

「ああ……!」

 

 

 指示の通りにサオリちゃんが遮蔽物を乗り継いでいく。

 一拍遅れてミカさんのSMGから放たれる弾丸が地面を抉り取っていく。

 構えたシールドを傾けて破片を防ぎながら先生を瓦礫の陰に押しやる。

 ちょっとごめんね♡

 走り続けながら互いに身を翻して銃弾をばら撒いてるが、どちらの射撃も有効打には至らなかった。

 リロードを挟み、ミカさんが呟く。

 

 

「……やっぱダメだったね。相変わらず強いね、先生は」

 “ミカ、やめて……! 今はこうしている場合じゃ……!”

「……ごめんね先生。私、元々言うことを聞かない《悪い子》だったでしょう? 先生が今どういう状況なのかは大体分かるけど……その言葉には従えないの。私は何度も先生を裏切ってきたし……それが1回や2回増えたからって、いまさら変わることもないし、うん」

 

 

 んあぁ、めんどくさい精神状態になってるぅ♡

 せめてもう少し落ち着いてくれていれば取れる手段はクリーンなのから下衆の極みまでよりどりみどりなのに。

 これじゃナギサさんをダシにした説得も効果はないだろうし。

 今のミカさんは自暴自棄プラス背水の陣プラス漆黒の意志という覚悟ガン決まりテンション。

 いったい何が起きたのか。

 せめて解決の糸口とは言わないけど、そこまで追い込まれた理由を教えて欲しいところさん。

 

 

「…………」

「どうする?」

「せ、先生……」

「流石にどこかのタイミングで振り切らないとツライですね……どうしよ♡」

 “とりあえず、ミカにお灸を据えよう”

「よかった。ちょっとムカついてきたところだったから」

「あれ? これって私が怒られる流れ?」

「それはそう♡ というか本当ならまだ留置されてるはずでしょミカさん、なんで脱走してるんですか♡ ナギサさんやセイアさんにちゃんと許可もらいました?」

 

 

 セイアさんに、と言った瞬間ミカさんの右手が僅かに震えた。

 ははぁん、何か有ったね?

 それも割と良くない事が。

 元々病弱って話だったけど最近は持ち直してきたって救護騎士団のみんなから聞いたけど……探ってみようかな?

 待機状態にしていたスマホの画面を叩いてハナコちゃんにお願い事を一つ。

 結果は先生のタブレットに直接送ってもらう。

 ともあれ戦闘開始だ。

 

 

 “フミ、サオリの前に! サオリは牽制、ミサキはミサイルで移動範囲の制限、ヒヨリはミカが足を止めた時だけを狙って!”

「あいさー♡」

 

 

 シールドを構えて前に出る。

 以前補習授業部のみんなと戦った時からバージョンアップさせた新型で、重さは微増した代わりに耐衝撃力も対貫通力も三割増しだ。

 まぁそれでもミカさん相手だと心許ないんだけど。

 初手リボルバーでSMGの排莢口を狙って時間差を付けて六連射。

 軽く腕を引かれて全弾別の箇所に当たる。

 あれでは有効打にならない。

 いや、普通発射されたのを見てから反応しても間に合わないんだけど♡

 

 

「行くぞフミ!」

 

 

 サオリちゃんの言葉に左後方へ下がりリロードを挟む。

 私の横をミサイルが飛翔するのを見送り、跳弾で耳元や膝裏などの痛打にはならずとも鬱陶しく感じる場所を狙っていく。

 サオリちゃんのバースト射撃を難なくいなして反撃してくるのは流石ミカさん。

 空いている場所はミサキちゃんの砲撃が塞いでいるので身を屈めて銃撃を躱した上体へ、ヒヨリちゃんの狙撃が突き刺さる。

 

 

「いったぁ!?」

「痛いで済むのおかしい♡」

 

 

 ほぼ同時に放たれた弾丸を、サオリちゃんの前に出てシールドで弾く。

 相変わらずギャリギャリと銃弾じゃない音を発しながらシールドの表面を擦っていく。

 でも今回は表面が抉られてはいないみたい。

 エンジニア部大躍進。

 残弾全てをミカさんの鼻の穴目掛けて跳弾させつつ、再びサオリちゃんとスイッチ。

 

 

「鬱陶しいんだから!」

「ならば退けばいいだろう!」

「そうは行かな、ふごっ」

「大当たり♡」

 

 

 サオリちゃんの射撃がミカさんに襲い掛かるけど、今度は余裕を持って逃げられる。

 放棄された荷台の陰に飛び込んだミカさんなら変な声が上がったので、無事鼻の穴のどちらか片方に収まったらしい。

 これでサオリちゃんに向いてるヘイトが少しでも私に分散してくれると助かるんだけど。

 

 

「ふんっ! ……ああもう! 先生の前なのに可愛くない所を!」

「あれ、悪い子なんだから先生にどう思われても良いんじゃないんですか?」

「それとこれとは別! どうせ覚えてもらうなら可愛い方がいいでしょ!」

「確かに♡」

 

 

 飛び出したミカさんが今度は細かく刻んでバースト射撃を放ってくる。

 すぐに前へ出てシールドを構えると、手首にガンガン着弾の衝撃が伝わってくる。

 掴む所にも衝撃を散らす素材やギミックが色々仕込まれているにも関わらず、鈍い痛みがじんじん響く。

 嘘でしょヒビキちゃんの迫撃砲すら豆鉄砲程度に抑える性能なのに♡

 リロードを終えてすぐに中空を狙って五連射と遅れて一発。

 後方のミサキちゃんに向けて放たれたSMGの弾丸の軌道を逸らしていく。

 五連射バーストだったからなんとか撃ち落とせたけど、バラ撒かれると処理が追い付かなくなるだろう。

 遅れて撃ち出した最後の一発がヒヨリちゃんの手前の建物の外壁を割り、崩れた壁が即席の遮蔽物となる。

 ミカさんの射撃には豆腐の壁みたいなものだけど、それが着弾する頃にはヒヨリちゃんの姿は影も形もない。

 身を隠すスモーク代わりだからね。

 

 

「フミ、出来るでしょ!」

 

 

 ミサキちゃんがそんな無茶を言いながら少し狙いの甘いコースにミサイルを放つ。

 放っておけばそのまま戦闘に影響しない所へ着弾するだろう。

 それを使えるようにしろ、と仰る。

 

 

「出来るけどぉ♡」

 

 

 ちょっと期待がおもおも♡

 リロードの間隔が短くて忙しい。

 三つ目のマグチェンジャーを投げ捨てて即座に三発。

 跳弾させた弾丸がミサイルの側面を叩いて飛来するコースを修整していく。

 目標はミカさんの足元。

 

 

「は、そんなのアリ!?」

「疲れるから二度とやりたくない♡」

 

 

 コース予測と着弾位置調整で脳から糖分がゴリッと減った気がする。

 こんなんだから大食いになるんだゾ♡

 見事ミカさんの足元で爆発が起こり、周囲に爆風と砂塵を撒き散らす。

 これでもまだミカさんピンピンしてるんだよねぇ。

 ヤんなるネ♡

 そこへヒヨリちゃんの狙撃とサオリちゃんのバースト射撃が襲い掛かる。

 良いぞ撃て撃てー♡

 私は火力不足なので警戒と様子見なのです。

 いや、ミカさん相手とは言え腰元のデカブツを使うのは流石にちょっと。

 これはベアトリーチェ用なので。

 

 

「ケホ、ケホ……」

「やっと、 制圧できた……」

「う、うう……倒せたんでしょうか」

「多分ムリ♡」

 

 

 ミカさんを制圧するには火力と時間が足りない。

 一旦退けるくらいで精一杯だろう。

 煙が晴れた中から少し煤けたミカさんが現れる。

 見掛けは本当にピンピンしてるのズルくない?

 

 

「んんっ……痛いね……やっぱ先生がいると厄介だな……」

 “ミカ……セイアは無事だよ。容態も安定して、今は救護騎士団のみんなが付いていてくれてる。だからトリニティに戻って……ミカを傷付けたくない”

「先生……ごめんね……私はいつもこんなだよね……。私みたちな問題児はさ……先生に何度も心配をかける生徒は……先生の側にいられないってことも、よく分かってる……。でも……私……私……わたしには……」

 

 

 徐々に顔が歪んでいくミカさん。

 遂には両目から涙を溢れさせて泣きじゃくってしまう。

 突然の事に、みんなも呆気に取られてしまった。

 

 

「もう、帰る場所がないの……トリニティにも……どこにも……。私はトリニティの裏切り者で、みんなの敵で……──何度もセイアちゃんを傷つけてしまった魔女だから……」

 

 

 魔女。

 トリニティでミカさんを指す蔑称。

 口さがない子たちが陰口を叩く時によく使っている。

 その時、私のスマホにハナコちゃんからの連絡が来た。

 先に先生にも同じ事を伝えてくれていた事に感謝しつつ読み進めていけば、出るわ出るわ、トリニティの──いや、年頃の子の陰湿な部分の煮凝りみたいなのが出てきた。

 どうやら、事の発端はセイアさんが見た予知夢。

 先生に良くない事が起きそうなのを伝えるのに焦り過ぎて全てが中途半端なまま意識を失ったらしい。

 ゲマトリア、と呟いて血を吐いたとか。

 堂々と敵対者を名乗るベアトリーチェみたいなのが集会してた所を夢で覗き見てしかも自分を知覚されたんなら、そりゃ慌てふためいても仕方ない。

 加えて説明が下手過ぎたのがひどい。

 ミカさんが先生を連れてきてしまったから、なんて事を言われて血を吐いて意識を失われもしたらこうもなろう。

 それも以前自分の不手際で命を危険に曝してしまった相手に。

 いやもう、ボタンの掛け違えが激しすぎて頭痛がしてくるよね。

 

 

 “ミカ!”

 

 

 先生の声に意識を戻す。

 私が伝えられた情報に頭を抱えている間に、ミカさんは撤退したようだ。

 予想以上に私もショックを受けていたらしい。

 

 

「い、行ってしまいました……」

「一体なんなの……あの女」

「そんなに……私が憎いのか、ミカ。……仕方ないのかも、しれないな」

 

 

 えっ、やば。

 考え事してたせいで全然聞いてなかった。

 後でこっそり先生に教えてもらおう。

 流石にこの空気感で置いていかれたままなのはちょっと支障がありそう。

 

 

「リーダーどうする? あの女、また私たちを追いかけてきそうだけど……このままバシリカに突入するのは少し危険かもしれない。アリウスに聖徒会……さらにストーカーまで……相手しきれないよ」

「……このまま旧校舎地下の回廊を通ってバシリカに進入する。彼女が何を企んでいようが構わない。行くぞ……時間がない」

「は、はい!」

「……仕方ない、か。行こう、先生。フミも」

 

 

 歩き出す三人を追って、私と先生も歩き出す。

 物憂いをしている先生には申し訳ないけど、袖をこっそりくいくい引く。

 気付いた先生に小声でお願い。

 

 

「さっきミカさんが泣き出した辺りでハナコちゃんから連絡受けて事情は理解したんですけど……代わりにミカさんとの会話全部聞きそびれまして。何話してたのかおせーて♡」

 “……えぇ……?”

 

 

 ごめんて♡

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