もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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ミニストーリーVol.4
クローバーを探して


「ここがその女の子のハウスね♡」

「いやハウスではないですね」

「何なのよそのテンション」

 

 

 ミレニアムの中心部、セミナーの入っている校舎……というか近代的なビルの地下。

 私はとある密命を帯びてユウカさんノアさんと一緒にとある部屋を目指していた。

 そこにはセミナーに所属するミレニアムで一番の問題児が収容されているらしい。

 天才的を通り越して天災的なまでの電子鍵突破能力を持ち、こないだセミナーから横領したお金でオデュッセイア海洋高等学校のゴールデンフリース号のランク制カジノで豪遊し、C&Cに制圧されてとっ捕まったというなかなかに奔放な生徒だ。

 警備ARMSが四体ドアの前に佇んでいる。

 まるで金庫番みたいだ。

 ユウカさんがスマホの画面を読み込ませてドアのロックを外すと、ピンク色のツインテールが揺れていた。

 

 

「ん? ……あっ、ユウカ先輩! ノア先輩も、どうしたんです? あ、まさか可愛い私に差し入れですか! それとも恩赦で釈放に?」

「どっちでもないわよ。今日はフミの要望で顔合わせに来ただけ」

「顔合わせ……そっちの子ですか?」

「どもどもー♡ 黒崎コユキちゃん、だよね? 私はシャーレ所属のワイルドハント一年生、脇野フミでーす♡ よろぴこー♡ あ、これお土産のアップルパイ♡」

「にはは、よろしくお願いします! お土産をくれる人は良い人です!」

「紅茶も水筒に淹れてきたから後で楽しんでね♡」

「わーい、ありがとうございます! えっと、脇野さん……?」

「フミ、で良いよ♡」

「じゃあ私もコユキって呼んでください!」

「……うむ、悪くないわね」

「ユウカちゃん?」

 

 

 挨拶を交わしてきゃっきゃしているとユウカさんが満足そうに微笑んで両手を組んでいた。

 ノアさんはそんなユウカさんを見てくすくす笑っている。

 私たちを見て微笑ましく思ってるみたいだけど、普通にお二人もてぇてぇなのは忘れないでいただきたい。

 

 

「それで、フミちゃんは何の用事で私の所へ?」

「いやぁ、ユウカさんが甘やかしてる秘蔵っ子を一目見ようかなって♡」

「ええ〜っ!? 全然甘やかされてなんかいませんよ! むしろ厳しい鬼太ももですって!」

「コユキ」

「ひえっ」

 

 

 私の言葉に大げさに首を振って見せるコユキちゃんだけど、背後に迫るユウカさんからのプレッシャーで沈黙した。

 度胸はあるけどヘタレタイプなのね。

 とは言えユウカさんがその辺伝えていないって言うのは考えにくい。

 ノアさんに目を向けると小さく首をふりふり。

 なにそれ可愛い♡

 

 

「フミちゃん?」

「ノアさんは今日も可愛いなって♡」

「もう、フミちゃん」

「こらそこ! 私が制裁してる間にイチャイチャしない!」

「というか助けてください! あっ、ユウカ先輩、マジで締まって……!?」

 

 

 気付けばユウカさんが自慢の太ももでコユキちゃんにネックブリーカーを仕掛けていた。

 凄まじい質量を感じる。

 一通り終わったところでテーブルにアップルパイを出して四人分に切り分け、カップに紅茶を注いでいく。

 反省部屋との事らしいけど、ふかふかのソファーや冷蔵庫が置かれていてとても反省部屋とは思えない。

 備え付けでは無いとの事で、これを運び込んだのを黙認されてる時点でユウカさんの甘々具合が分かる。

 砂糖漬けにした桃に蜂蜜を掛けるくらいの甘々だ。

 やはりユウカさんはダメ亭主製造機なのでは?

 

 

「わぁ、すっごく美味しそうです!」

「相変わらずフミのお菓子は凄いわね……食べ過ぎちゃいそうだわ」

「ユウカちゃんの体重はしっかり記録してあるので安心してくださいね」

「ちょっ、ノア!?」

「ふふ、冗談です♪」

「たちが悪い冗談よ……」

「冗談で済ませられるようにトレーニング部に顔出しても良いんですよ♡」

「……前向きに検討しておくわ」

「絶対行かないやつですね……」

 

 

 ともあれ仲良くティータイム。

 朝から焼いたアップルパイは大好評で、是非ともまた作って欲しいとリクエストをもらった。

 次回の当番の時のお土産に追加しておこう。

 粗方食べ終わった辺りで早速本題を切り出していく。

 

 

「ところでコユキちゃん、さっきユウカさんが厳しいって言ってたけど?」

「そうなんですよ! よくぞ聞いてくれました!」

 

 

 水を得た魚のように喋り始めるコユキちゃん。

 やれ課題が多いだのやれ反省文ばかりで退屈だのやれなかなか会いに来てくれなくて寂しいだの。

 要約するとそんな感じの事を身振り手振りを交えて私に熱く語ってくれる。

 逐一ツッコミを入れたそうにしているユウカさんだったけど、寂しいのくだりではちょっとほっこりしていた。

 甘々なのはそういうとこだゾ♡

 だいたい言いたい事は言ったらしく、次は私の同意を得て味方を増やそうとしてくる。

 でも残念♡

 ここからは私のターンだゾ♡

 

 

「ね、ね! ひどいと思いませんかフミちゃん!」

「にしし……うんうん、コユキちゃんがすっごく愛されて大事にされてるんだなって解った♡」

「へ? あ、あのフミちゃん? 話聞いてました?」

「もちろん♡ まずコユキちゃんに、ミレニアムの外だと同じ事をしたらどうなるのか説明するね♡」

 

 

 ちらとノアさんを見やる。

 ここからはだいぶエグい話もするので完全記憶能力を持つノアさんにはちょっと刺激が強いかもしれない。

 でもノアさんは首を振った。

 最後まで見届けるつもりらしい。

 当人が良いのなら私が出る幕では無いので、続きを話す事にした。

 

 

「こないだカジノに注ぎ込んだお金、まあ被害金額なんだけど……だいたいこのくらいでしたっけ?」

「そうね、端数を削ってその値段よ」

「じゃあコユキちゃん、補修業務、壊れた水道管やひび割れた道路の修復なんかにかかる費用がこれくらい。建物の清掃やメンテナンス費用がこれくらい。電気設備やサーバーの保安業務にかかる費用がこれくらい。対して、それぞれに振り当てられた予算は……こんなもんかな?」

「結構少ないですね?」

「そう、コユキちゃんが使ったお金に比べたら小指でピンって弾くくらいのお金」

「なら大した事ないですね! すぐに補填出来るんじゃないですか?」

「ううん、逆なの。一年分の予算がこれだけって事は、つまりこの先何十何百年分の費用を支払えない状態って事なの。例えば道路のひび割れが広がってまともに車が行き来出来なくなったら、それがミレニアムの医療機関で使うものを運んでいたトラックだったら。コユキちゃんが勝手に使った事で、誰かの病気や怪我を治す事が出来なくなったら……?」

 

 

 私の言葉に動きを止めるコユキちゃん。

 ふんにゃり笑っていた顔が、少しずつ引き攣っていく。

 

 

「電気設備の不備を直す事が出来なくなってスプリンクラーや火災報知器が作動しなくなったら。外へ逃げる為のドアが開かなくなったら。コユキちゃんが横領した事で、誰かが逃げ遅れて火の手に包まれてしまったら……?」

「……ち、ちが、私、そんなつもりじゃ……」

「脅かしちゃってごめんね? でも、コユキちゃんがやった事はこういう影響を与えるかもしれないの。今そんな事が起きてないのは、ユウカさんやノアさんが毎日必死に色んな人に頭を下げて損失を補填してくれてたからなの。ミレニアム全体を支えるのもあるけど、なによりコユキちゃんを悪者にしないよう守る為に」

「私の……為に?」

 

 

 コユキちゃんが震える瞳をユウカさんとノアさんに向ける。

 あっ、まだ抱き締めちゃダメですからね。

 ノアさんしっかり押さえててください。

 テーブルの下で手を握られて動こうとした身体を止めるユウカさん。

 もー甘々なんだから♡

 そんな優しいユウカさんも好き♡

 

 

「コユキちゃんがやった事の影響の大きさはこれくらいにしておいて、次はコユキちゃんにどれくらい優しい対応をしてるかを説明するね♡」

「こ、これ以上は勘弁してほしいんですけど……?」

「しっかり聞いてね♡」

「はい……」

「先ずはこの部屋を見て欲しいんだけど」

「部屋ですか?」

 

 

 ソファー、ベッド、テーブル、椅子、冷蔵庫、クーラー、ウォーターマシン、浴室、トイレ、クローゼット、カーペット、携帯ゲーム機、おやつの袋。

 出入りが管理されている以外普通の一室と言って差し支えない。

 とても問題児を隔離する反省部屋とは思えない。

 

 

「落ち着いて聞いてねコユキちゃん。他の学区で同じ事したら矯正局待ったなしだよ」

「え、矯正局ですか? またまたぁ、あそこは本当の悪人が入れられる所ですよぉ?」

「そうだよ」

「にはは……は、え?」

「本当の悪人が入る場所。そこにコユキちゃんは入れられるんだよ」

「え、私が? 嘘ですよね?」

「さっきの影響の話を聞いて、嘘だと思う?」

「…………に、には、は……」

「まぁキヴォトスの矯正局も甘々ではあるんだけどね。コユキちゃんはシャーレの先生って知ってる?」

「あ、知ってますよ! ユウカ先輩がよく話してます!」

「なら、先生が外の世界から来たって事は?」

「それも確か先輩が言ってましたね。キヴォトスの外なんて想像付きませんけど……」

「外の世界の人はね、コユキちゃん」

 

 

 そこで言葉を区切り、まっすぐにコユキちゃんを見る。

 私から滲み出る陰鬱さを感じ取ったのか、小さな肩がぴくんと跳ねる。

 

 

「外の人はヘイローなんてないし、銃弾一発で死んじゃうの。そんな身体の脆い人たちが凶悪な犯罪者を心から反省させる為に、出来るだけ長く苦しめる方法を考えたら……どんな方法になると思う?」

「な、なんですか急に……」

「もちろん人権意識の高まりや法整備が進んで、今は刑務所に入れたり、速やかに銃殺刑や絞殺刑を執行するよ。でもそういった表の世界には出ない、拷問を主眼に置いた方法があるの」

 

 

 ぴっ、と人差し指を立てる。

 ここからは本当にエグい話が始まる。

 もう一度だけノアさんに視線を送ると、小さく頷いた。

 なら話を続けよう。

 立てた人差し指を部屋の片隅に置かれたベッドに向ける。

 

 

「まず、部屋はそこのベッドくらいの広さ。家具は無し、奥に腰元しか隠れないトイレと手洗い場が一つだけ。夏の暑い日も冬の寒い日も、着の身着のままで過ごすの。ご飯は一日一回出るけど基本美味しくないし生きる為の最低限の栄養しか無いから、どんどん痩せて元気が無くなっていく。ユウカさんは、どんなご飯を届けてくれてる?」

「先輩は、学食のメニューから好きなものを選ばせてくれて……ちゃんと、三食届けてくれます」

「そっか。ユウカさん優しいね。……コユキちゃんに課せられるのは授業の課題とか、反省文なんだっけ?」

「……そうですね。私が反省部屋にいる間も、授業に遅れないように、って」

「さっき言ったような部屋に繋がれた犯罪者は、被害者たちの溜飲を下げる為や別の犯罪者たちの面子を保つ為に色んな拷問をされるの。指の爪を剥がすのは当然、焼けた針で刺されたり金槌で潰されたり、切り落とされた指をミキサーにかけたものを飲まされたり」

「ウッ……」

 

 

 想像してしまったのか、ノアさんが青い顔をして口を手で押さえた。

 すかさずユウカさんが背中をさすってあげている。

 コユキちゃんも、怯えた様子でぷるぷると震えていた。

 

 

「……今言ったのは外の世界での出来事だよ。だけど、人が思い付いた事なの。なら、このキヴォトスでも同じ事を考えつく人は出るんじゃないかな。もし、そんな人が被害を受けて、血眼になってコユキちゃんをさがしていたら。もし、コユキちゃんを見付けてしまったら。もし……その人たちに捕まってしまったら?」

「…………ぴぃぃ……」

 

 

 ついに頭を抱えたコユキちゃんがテーブルの下に潜ってしまった。

 目配せをして許可を出すと、ユウカさんはすぐにコユキちゃんを抱き締めに行った。

 ちょっとやりすぎましたかね、と目を向けるとノアさんは大丈夫と頷いてくれた。

 そう、私が帯びた密命とはコユキちゃんに現状がどれだけ恵まれているかを伝えて反省を促すというものだ。

 この為に先生のタブレットを借りて外の犯罪者とかアウトローな映画、漫画を調べまくった甲斐があるってものよ♡

 途中何回かギブアップしそうになって先生に引っ付いたのはナイショだ。

 ともあれやった事の恐ろしさを教える鞭の時間は終了。

 ここからはやらないように他の事へ目を向けさせる飴の時間だ。

 数分かけて落ち着いたコユキちゃんの手を優しく握る。

 

 

「ね、ユウカさんやノアさんがどれだけコユキちゃんを大事にしてくれていたか解ったでしょ♡」

「はい……」

「まぁやっちゃったものは仕方ない♡ これからはもうやらないようにしたら大丈夫♡ 先輩方が忙しい時はシャーレに遊びに来たら良いよ♡」

「え、シャーレに……ですか?」

「うんうん♡ 事前に連絡してくれたらコユキちゃんの好きなお菓子作って待ってるから♡ ちゃんと申請出したらお泊まりも可♡」

「本当ですか!?」

「ユウカさんとノアさんにも許可もらってね♡」

 

 

 その言葉に腕の中からじーっとユウカさんを見上げるコユキちゃん。

 うるうるした瞳に思わずユウカさんもウッてなってる。

 

 

「ちゃんと申請書書いて、先生やフミ、他の生徒に迷惑掛けないようにするのよ?」

「はい……」

「何かしてもらったらお礼を言って、ダメだと止められたらごめんなさいするのよ?」

「はい……」

「そしたら行っても良いわよ。楽しんでいらっしゃい」

「ユウカ先輩……!」

「いやママ感♡」

「あらあら、ユウカちゃんいつの間にかこんなに大きな子が……♪」

「ちょ、二人とも!」

「きゃーユウカさんが怒ったー♡」

「許してくださいユウカちゃん♪」

「逃げるならまだしも何で抱き着いてくるのよっ」

 

 

 左右から挟み込んでむぎゅむぎゅ。

 満更でもなさそうな顔してるので拒否権は無いです。

 という訳で無事ミッションも達成した翌日。

 

 

「にはは♪ 早速来ちゃいましたよ!」

「待って♡」

 

 

 翌日コユキちゃんがシャーレに来ていた。

 いつでも遊びに来て良いとは言ったけどフットワークが軽い。

 昨日の今日でこれだけのバイタリティがあるのはコユキちゃんの良いところなのかもしれない。

 

 

「午前中は当番の子たちと書類作業があるからあまり構ってあげられないけど大丈夫?」

「あ、それなら私もお手伝いしますよー! なにせ私も当番ですからね!」

「んん? 当番表には入ってなかったような……んん?」

 

 

 デスクのモニターに当番表を呼び出すと、今日の当番の生徒一覧にコユキちゃんの名前がある。

 昨日見た時には無かったはず。

 

 

「……コユキちゃん?」

「なんですか?」

「弄った?」

「……にはは♪」

「こらー、ダメって言ったでしょー♡」

 

 

 すかさず捕まえてむぎゅむぎゅ抱き潰す。

 嬉しそうに笑いながら抱き着いてくるコユキちゃんに毒気を抜かれながら、ほっぺたをつついて優しく諭す。

 

 

「だってフミちゃんや先生たちと会いたくなっちゃって……我慢出来なかったんですもん」

「くっ、理由が可愛い♡ でもホントはダメなんだからね? 次からはちゃんと普通に申請する事♡」

「はぁーい♪」

「今日はお仕置きとして午前中私の抱き枕だから♡」

「へ?」

「つまりこのまま♡」

「え、えーっと、流石に他の人に見られるのは恥ずかしいんですけど……?」

「そこも含めてお仕置きだからね♡」

「ひぇぇ……!」

 

 

 という訳でコユキちゃんを後ろから抱っこするスタイルで業務開始。

 成り行きを説明したら、先生は私に一任しつつ微笑んで見守り。

 ヒフミンは後で自分も抱っこして欲しいとおねだり。

 シロコさんは対抗して先生に抱き着こうと仁義なきあっち向いてホイを仕掛けるも惨敗。

 ユウカさんはコユキちゃんにお説教を浴びせてついでに先生がまた天井まで課金していたのを説教していた。

 

 

「いやユウカさん居るのにねじ込んだの良い度胸してる♡」

「まったく……帰ったら反省文だからね!」

「うわぁぁん、なんでー!?」

「あ、あはは……」

「ん、バレたなら大人しくするしかない。次はバレないようにしないと」

 “いやシロコ、そもそもやったらダメって話だからね?”

 

 

 楽しくお喋りしながら書類を捌き、時々コユキちゃんのお腹を撫でたりほっぺたをつんつんしたりして羞恥を煽っておく。

 一応お仕置きだからね、やりすぎて目覚めないように注意しつつも恥ずかしくて嫌だって思わせないと。

 なおやりすぎた例は目をキラキラさせながら私を見ている。

 ほら、さっさと書類進めなさい♡

 お泊まり許可してあげるから♡

 

 

「うぅ……フミちゃん、恥ずかしいですよぉー……」

「次やったらミレニアムでやろうかな? どうするー? 今後学校で会う人に見られちゃうねぇ?」

「ひぃぃ……」

「普通に申請する分には問題なく処理するから、悪い事しないで過ごしなさい」

 

 

 ユウカさんの言う通り、普通に申請してくるならそのまま通すからね。

 人数調整とかで数日ズレるくらいかな?

 そんなこんなで無事書類の山も無くなりみんなで仲良くお昼ごはん。

 今日はコユキちゃんのリクエストでハンバーガーだ。

 パティやソースをちょちょいと作ってフライドポテトとゼロコーラも付けちゃおうかな?

 手際良くミンチにした牛肉をぺちこんぺちこん叩いて作って行くのを隣で眺めていたコユキちゃんは、目を大きく見開いて私の手元を見つめていた。

 

 

「ほわぁ〜……凄いです!」

「レシピを覚えたらコユキちゃんも出来るよ?」

「いやいやいや! 私なんかには出来ませんって!」

「……コユキちゃんの持つ電子鍵の解除能力も、おんなじなんだよ♡」

「へ? 私?」

 

 

 ちょうど良い見本が手元にある。

 上手く伝えられると良いんだけど。

 

 

「コユキちゃんが何気なくやった、電子暗号の突破。それは殆んどの人には真似出来ない、凄い事なんだよ」

「え、でも、あれは簡単に出来る事ですよ?」

「私の料理も、私にとってはとても簡単な事だよ」

「いやいや、フミちゃんの料理は私のそれとは別次元ですって! それこそ魔法みたいに料理が出来上がって」

「確かに手際は悪くないって自負はあるよ。でもコユキちゃんも練習して時間をかければ、私と同じ料理は作れるようになる。電子暗号と同じで、ちゃんと答えが決まってるから。電子暗号だってしっかり勉強してデータを集めて時間をかけたら、私もコユキちゃんみたいに突破出来るようになる」

「…………」

「でも料理も電子暗号も、お互いがやるように一発で素早くは出来ない。どんなに頑張っても、違う人がやる以上その人が持つセンスが関係してくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから凄い、凄くないの差が生まれるの」

「同じようには、出来ない……」

「そ。だからコユキちゃんには、自分が凄い能力を持ってるって自信を持って欲しい。そして、その能力を悪用せずみんなが笑顔になれるような使い方を探して欲しいんだ」

 

 

 よっ、とフライパンを返してパティを焼き上げる。

 ほんの僅かに焦げ目が付いた、肉汁たっぷりのパティをバンズに乗せて組み上げていく。

 タマネギにトマト、自家製刻みピクルスも乗せて軽くマスタードを塗って出来上がり。

 

 

「コユキちゃんがカジノで遊んでたのも、普通のゲームは答えが解り切っててつまらなかったからなんだよね? 運って言う予測出来ない不安定な要素が、面白く感じられたから。だから、そのドキドキを追い求めていた」

「……にはは、フミちゃんはなんでもお見通しなんですね」

「ううん、私は知らない事の方が多いよ。コユキちゃんの事が解るようになるまで、コユキちゃんの事を知ろうとしただけ」

「私の事を……」

「うん。だってコユキちゃんは、私の大事な友達だから」

「…………」

「そうだ、今度公園に四葉のクローバー探しに行こうか♡」

「へ? クローバー、ですか?」

「四葉のクローバーは昔から幸運の象徴として有名だからね♡ 押し花のアクセサリーにして持ち歩けるようにしてあげる♡」

「……にはは♪ なら見つかるまで付き合ってもらいますよー! 夜になっても、次の日になっても帰しませんからね!」

「そしたらシャーレでお泊まり会だね♡ 先生も巻き込んで眠くなるまで遊んじゃおうか♡」

「にはは、楽しみです♡」

 

 

 出来上がったものをお盆に載せて執務室へと持っていく。

 すっかりご飯用のちゃぶ台と化した来客用のテーブルに並べていく。

 すると聞き耳を立てていたらしいシロコさんにお泊まり会について問いただされた。

 あれよあれよと言う間にみんなでお泊まり会をやる事に決まってしまい、後日この面子で改めてやる事になったのだけど……みんなシャーレで楽しく泊まったと自慢して回るので、当番に来た生徒から次のお泊まり会はいつだと問い合わせが殺到した。

 その処理に追われて空き時間が無くなり、ほっぺたをぷくっと膨らませたコユキちゃんを宥める事となった。

 まぁコユキちゃんが可愛かったのでヨシ!

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