もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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スイーツの求道者たち

 土曜の朝九時。

 今日はシャーレのお仕事もお休みなので、トリニティへ遊びに来ていた。

 特にあてもなく一人でぷらぷらお散歩である。

 

 

「朝ごはんに何か摘みたい所さん♡」

 

 

 ミレニアムやD.U.地区のお店は結構開拓してるけど、他の学区はまだまだ知らないお店が多い。

 アビドスは例外。

 あそこは柴大将とセリカちゃんに癒されつつラーメンを食べる場所だ。

 思い出したらまた食べたくなってきた。

 ピンとくる店が無かったらいっそアビドスまで行くかな。

 そんな事を考えながら駅前通りをふらりふらり。

 茶葉専門店、チェーン店、クレープ屋さん、古本屋さん、怪しげな雰囲気が売りの露天商、まだ閉まってる洋食屋さん、胡散臭いゲルマニウムブレスレット即売会。

 流石にこの時間で開いてるのは24時間営業のチェーン店か軽食喫茶のお店くらいかな。

 んー、チェーン店ってのも味気ないし、どっかの喫茶店でのんびりするのも手かな?

 それか本当にアビドスまで行くのも……、と考え始めた所で正面でくるくるとステップを踏む少女に気付いた。

 桃色の髪の毛をポニーテールにしたアリスちゃんくらいの大きさの子。

 ちょっと眠たげな目が可愛らしい。

 向こうも私に気付いたらしく、ふわふわとしたステップのまま私へと近付いてきた。

 

 

「やあやあお嬢さん。なにやら周囲を見渡していた様子だけど、何かお探しかな?」

「おはよーごじゃます♡ 朝ごはんに何か食べようかと思ってるんですけど、チェーン店で済ませるのはなんだかなーって♡」

「ふむ、それは難題だね。たかが朝ごはん、されど朝ごはん。一年の経は元旦にあり、と言うが同じように一日の経は朝ごはんにあり、だと私は思うのだよ。美味しいご飯で始まる一日は、普段よりもちょっとステキ」

「めっちゃ分かる♡ あ、私はワイルドハント一年生の脇野フミです♡ よろしくねー♡」

「これはご丁寧に。トリニティ総合学園一年生、柚鳥ナツだよ。……それにしても君があの、有名な」

「有名?」

 

 

 はて、シャーレでの活動で広まったかな?

 どちらかと言えば先生の方がネームバリューは派手なんだけども。

 そんな事を考えているとナツちゃんが拳を握って説明してくれた。

 

 

「今や君の名はスイーツ界に轟いているとも。極上の品を見返りなく配る聖人性を持ちながらも、ひとたび魅入られてしまえば今度はその肢体で甘く淫らな夢へと誘う悪魔のような二面性を持つ……。人は君の事をこう呼ぶ、プリンの人、と」

「待って♡」

 

 

 とんでもない尾ひれが付いてた。

 ただの淫婦よりも何か進化してる。

 トリニティではまだ補習授業部と正義実現委員会の一部くらいしか食べ散らかして無いです♡

 とは言えナツちゃんは淫婦側の評判は添え物程度にしか考えていないらしく、メインはプリンの人と評されるお菓子作りの方だったようだ。

 

 

「そんな有名人たる君を見掛けたので物見遊山気分で話し掛けてみたのだよ。良かったらお喋りがてら一緒にご飯でも行こうよ」

「それは願ったり叶ったり♡ 何かオススメのお店ある?」

「何を食べたいかにもよるね。オーダーは何かな?」

「しっかり食べたいから食事メニューが充実してる所が良いかなー♡ デザートも豊富だとなお良し♡」

「ふむ。それなら私のお気に入りの喫茶店があるよ。しっかり量も有ってかつ美味しい軽食メニューが売りでね。お昼時は学生だけでなくサラリーマンも利用する程度には好まれているね」

「なかなか期待出来そう♡ それじゃ早速行きましょうかー♡」

「うむ、いざゆかん、至高の朝ごはんを求めて」

 

 

 という訳でナツちゃんと並んで道を歩く。

 折角なので手を伸ばしてみると、ナツちゃんは少し驚いた様子で手を握り返してくれた。

 

 

「なるほど、この積極性が噂される一端なのだね」

「にしし♡ ナツちゃんおてて温かい♡」

「気恥ずかしくて体温が上がっているかもしれない。牛乳を飲んで落ち着かなければ」

「牛乳がお好き?」

「牛乳は良いよ。カルシウムもたっぷりで、身体の成長に期待が持てる」

「目指せ悩殺スタイル♡」

 

 

 一緒に手をぶんぶん振って勇ましく肩で風を切る。

 目的のお店はすぐ近くだったようで、数分も歩かずに辿り着いた。

 ドアを開けるとカウンターが八席ほど、テーブル席が六席ほど、贅沢にゆったりと空間を確保されていた。

 多少話が盛り上がってもあまり隣の席の声は気にならなさそうだ。

 席に案内されてメニューを開くと、確かにフード系が充実していた。

 喫茶店ではお馴染みのパスタ系、付け合わせが楽しいトースト系、果ては店主の趣味全開なこだわりスープカレーまで。

 もちろんスイーツもたっぷり三ページある。

 

 

「ナツちゃんのイチオシスイーツってどれ?」

「季節限定のがあればそっちにするけど、普段のメニューで選ぶならコレだね」

 

 

 そう言って小さなおててが示すのはジャンボチョコクリームパフェ。

 なるほどジャンボの名に相応しく二千円を超えるジャンボなお値段。

 チョコレートとホイップクリームが織り成す魅惑的な一品だ。

 内容量800gって書いてるけど食べ切れるのだろうか。

 ともあれ店員さんを呼んで注文する。

 

 

「私はミルクのキャラメルホイップ乗せで」

「えーと、チキンスープカレーのBセット、ベーコンと目玉焼きのトースト、たらこクリームパスタ、それとジャンボチョコクリームパフェを二つで♡」

「かしこまりました、しばらくお待ちください」

「……いや、驚いた。随分と健啖家だね?」

「せっかくだから奢っちゃう♡ 一緒に楽しみましょ♡」

「おや、それはありがたいけれど……良いの?」

「もちろん♡ この出会いに感謝してパフェで乾杯しましょー♡」

「これもまたロマン、か……うん、ご馳走になるよ♪」

 

 

 ふんわりと微笑むナツちゃん。

 言い回しに独特の癖があるけど、笑うとすっごく可愛い。

 トリニティには凄い子がいっぱいでフミちゃん困っちゃうなぁ♡

 

 

「しかし会ったばかりの相手を誘って一緒に食事とは……もしや私、ナンパされているかい?」

「え、付き合ってくれるの♡」

「ふむ、フミならば吝かではないとも。こうして奢ってくれた事だし」

「なら次も奢ってお誘いしようかな?」

「是非とも誘ってほしい。こう見えて私は安い女なのでね、美味しいスイーツで釣られると弱いのだ」

「あんまり安いと大金でナツちゃんを振り回しちゃうかもしれないよ? こんなに可愛いんだから引く手あまただったりして♡」

「悲しいかな、生憎私はフリーでね。フミに誘われれば二つ返事でホイホイついて行くのさ」

「じゃあナツちゃん独り占めだね♡」

「ふっふっふ、存分に楽しんでくれたまえ。だけど私を満足させるには一辺倒なやり方ではダメだよ?」

「知る人ぞ知る古風な駄菓子屋さん巡りとか、牧場が経営してるアイスクリーム屋さん巡りとか、牛乳を使ったお菓子の工場見学なんてどうかな?」

「フミ、付き合おう」

「きゃー喜んで♡」

 

 

 二人できゃっきゃしていると注文の品が届いた。

 途端に料理がテーブルを埋め尽くし、私とナツちゃんの顔が二つのパフェで遮られる。

 これは確かにジャンボサイズ。

 手にしたスプーンが心許なくなるサイズだ。

 これがお腹に入るんだから女の子には不思議がいっぱいだよね。

 

 

「それじゃ、いただきまーす♡」

「いただきます♪」

「まずはスープカレーから……ウマー♡ え、すごい美味しい♡ 予想を超えてきた♡」

「キヴォトス中の料理屋を巡ってスパイス調合の参考にしたそうだよ。美味しい組み合わせは化学式で決まり、それを導き出すには経験が必要となる、が店主の口癖らしい。見てごらん、こっちのメニューの裏に四方山話として書かれている」

「どれどれ……右下にパート70って書いてる♡ まさかの連載型だった♡」

「月ごとに新メニューの紹介をするからそれに合わせて空いた裏面に書いてみたらしい。私も含めて、隠れファンが多いのだよ」

「美味しいメニュー以外にも楽しめる所が有るとかとても良いお店♡ トリニティに来る時はチェックしようかな♡」

「その時は是非とも声を掛けて欲しい。私は誘われたらホイホイついて行くタイプだからね」

「もちろん♡ いっぱいデートしよ♡」

 

 

 話に花を咲かせながら次々食べ進めていく。

 どれもしっかり美味しいから手が止まらず、量も多くて満足度が高い。

 パフェも中までしっかりアイスやホイップが詰まっていて、よくあるコーンフレークでかさ増ししてるやつとは一味も二味も違う。

 

 

「待って♡ 一番下にごろんとしたイチゴ埋まってる♡」

「こうしたサプライズ要素も心憎いね。解けたチョコアイスとホイップクリームを纏ったイチゴは極上の原石から最上の宝石に姿を変えるのだよ」

「まるで制服から私服に着替えたナツちゃんみたいに?」

「私はそこまでの自信は無いかな……」

「私にとってはとても輝いてる原石♡ いっぱい磨いてあげなきゃ♡」

「これはいけない、本格的に好きになってしまう……!」

「もっと私に溺れて♡」

 

 

 という事で美味しく完食。

 いやー朝食を軽くとは何だったのか♡

 満足でおじゃる♡

 あ、ついでに持ち帰りのドーナツも買っておこう。

 伝票を持って電子決済、いくら使っても無くならない魔法のカードだ。

 なんか銀行からブラックカードにしないかって営業電話が来てたけどそんなに使うつもりもないし必要な所へ行く予定も無いから断ってる。

 ユウカさんも手数料と年会費が高くて無駄だ、って言ってたからね。

 暮らしが庶民なままだから精々お金使いが荒い独身サラリーマンの枠までしかいかないのだ。

 ドーナツの詰め合わせが入った箱を手に提げてからんからん、と音の鳴るドアを潜り抜けて再び街道へ。

 腹ごなしの散歩を楽しみつつ二人並んで並木道を行く。

 

 

「さてー、朝ごはん食べ終わったけどどうしようかな?」

「ふむ、良ければ私たちの部室で少し休んで行くかい?」

「そう言えばナツちゃんの部活って?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたね。日々美味しいスイーツを探し、共に楽しむ為の部活。その名を『放課後スイーツ部』と言うのだよ」

「放課後スイーツ部……! めっちゃ青春の香り!」

「そう言うフミはどんな部活を?」

「ワイルドハントは特殊な学校で、主要教科以外の勉強がそのまま課外活動と直結してるから部活は無いんだぁ。代わりに寮で同室の人たちで趣味が合えば同好会結成してたりはするね。私はシャーレでの活動が部活みたいなものだけど♡」

「なるほど、シャーレか。今度友人を連れて行ってみようかな」

「いつでも歓迎♡ 事前に申請してくれたらお泊まりも出来るから、プチ修学旅行みたいなノリで遊びに来てね♡ 私の手料理でもてなしちゃう♡」

「フミの手料理か、楽しみだね♪ ……ん? いや待ってくれフミ。もしやおやつもフミの手作りだったりするのかな?」

「プリンにクッキー、マドレーヌにオペラケーキまで、だいたいのお菓子は作れると思う♡」

「フミ、結婚して同棲しよう」

「いつでもおっけー♡」

 

 

 両手を広げてナツちゃんを受け入れ♡

 ナツちゃんの方が10cmくらい大きいから上を向くとちゅー出来ちゃいそう。

 抱き心地はちょいムチでぷにぷに、私と同じくらい体温高めでなんか甘い匂いがする。

 柑橘系のシャンプーかな?

 そのままむぎゅむぎゅしていると、不意に声がかけられた。

 

 

「あれ、ナツちゃん?」

「……おや、アイリ。おはよう」

 

 

 ナツちゃんより少し背の高い女の子が居た。

 制服を着崩さずちゃんと着ており、胸元で結ばれた青緑のリボンが特徴的。

 逆に言えばそれ以外に目立った特徴の無い、本当に普通の風貌の女の子だ。

 擬態型のヒフミンとはこうも違うものか。

 

 

「ナツちゃんのお友達?」

「ああ、この子がさっき言っていた我らが放課後スイーツ部の中心人物にして書面上の部長、栗村アイリ嬢だよ。まぁ部長と役職で区切らず、共にスイーツを楽しむ大切な仲間でありかけがえのない友人として、みんな扱っているけどね」

「おおー、放課後スイーツ部の結束力が伝わってくる♡ 初めまして、シャーレ所属、ワイルドハント一年生の脇野フミです♡ ナツちゃんのお嫁さん候補です♡」

「あ、これはご丁寧に……えっ? えぇっ!? な、ナツちゃんのお嫁さんっ!? いつの間にけ、結婚したの!? 私初めて聞いたよ!?」

「ふむ、ここだけの話なんだけど……実は私もさっき聞いたのだよ」

「えっ?」

「なにせ、先程告白されたばかりでね。熱々カップルなのさ」

「えぇ~っ!? し、新婚さんっ!!」

「ちなみに出会ったのは一時間くらい前だよ」

「スピード婚!? お、お幸せに!!」

 

 

 めっちゃ良い子やん♡

 からかっているのが申し訳なるくらいまっすぐで心優しい子なのが伝わってくる。

 ナツちゃんも一頻りからかって遊んだ所で、改めて私を紹介してくれた。

 困った事に前述の事で嘘は言ってないのがまた面白いポイント。

 

 

「びっくりした……でも、それだけウマがあったって事なのかな?」

「正直私も驚いているよ。フミとはもう数年来の付き合いがあるマブダチのような気がしてきた」

「私もナツちゃん大好きー♡ 抱き締めても良い?」

「いいとも、私の身体に魅力を感じてくれて嬉しいよ」

「ナツちゃんむぎゅむぎゅー♡」

「ホントに仲良しさんだね……♪」

「アイリちゃんとも仲良くなりたいところさん! という訳で握手から始めましょー♡」

「わー♪ よろしくねフミちゃん♪」

 

 

 両手をにぎにぎ上下にぶんぷん。

 アイリちゃんも結構ノリが良くて優しいね。

 おてても可愛くて女の子の手をしてる。

 銃はあまり使わないのかな、ぷにぷに柔らかくてずっと触っていたくなる。

 

 

「すべすべで指も細くて綺麗だし、爪の形も整っててすごい♡ もしやあなたは亡国のプリンセス様!?」

「そう、スイーツ部のアイリちゃんとは仮の姿。国を追われ庶民に身をやつすも、心の気高さと高貴さは失われていない末の王女、それがアイリ姫なのだよ……!」

「もう、二人ともお茶目さんなんだから……」

「このノリをお茶目さんで抱擁するの逸材では?」

「ふふふ、すごいでしょフミ。アイリはいわゆる普通の女の子なのさ。このキヴォトスでは珍しいくらいの、創作の中でしか見掛けないような純真清純ガール。アイリの放つマイナスイオンは、そのうち糖尿病にも効くようになる」

「人類の宝♡ よろしくねアイリちゃん♡」

「な、なにはともあれ……よろしくねフミちゃん」

「お近付きの印に何かスイーツでもご馳走したいところさん♡ アイリちゃん、どういう系統のが好きなの?」

 

 

 そう問い掛けると、アイリはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに笑顔を浮かべた。

 くるりと腰元のポーチを回して前に突き出す。

 その柄は青緑と黒が互い違いに引かれたシンプルな模様のもの。

 

 

「……チョコミント?」

「大正解っ♪」

「アイリのチョコミント好きは我らスイーツ部でも指折りでね。四人しかいないけど」

「ならちょうどそこのアイス屋さんで選べるカップアイス売ってるしご馳走しちゃう♡」

「え、でも……良いの?」

「良いの良いの♡ 早速頼んじゃおう♡」

 

 

 という訳で三人でカップアイスを購入。

 アイリちゃんはチョコミント、ナツちゃんはバニラチョコミックス、私はバナナチョコチップにした。

 おかしい、腹ごなしの散歩をしていたのにまた食べてる。

 

 

「スイーツは女の子の燃料だからね。食べれば食べるほど元気になるものさ」

「あはは……食べすぎちゃうと大変だけどね」

「摂取カロリーに見合う運動をしないといけないのは乙女の共通の悩みなんですなぁー♡」

「フミも普段あれだけ食べているんだし、トレーニングでもやっているのかな?」

「何もしてないなぁ、勝手に痩せるし……」

「「は?」」

「おっ♡ やっべ♡」

「フミちゃん?」

「話は署で聞かせてもらおうか」

「ヤメッ、ヤメロー!?」

 

 

 二人に両脇を固められながら護送されてトリニティの部室棟へ。

 案内されたスイーツ部の部室は予想に反して綺麗に整理整頓されており、掃除も行き届いているみたいだった。

 ゲーム開発部の部室とは格が違う。

 お嬢様学校の底力を見せ付けられた気分だ。

 

 

「一名様、ごあんなーい」

「ここが私たち放課後スイーツ部の部室だよ!」

「おー、結構ステキな佇まい♡」

 

 

 想像してたよりも広くて片付いているオシャレな部屋。

 それが放課後スイーツ部の部室だった。

 ふわふわクッションにふかふかソファー、白いクロスの敷かれたテーブルに統一されたデザインの白い椅子、大きな冷蔵庫に可愛らしい装飾の付いた食器棚。

 とても素晴らしい。

 ゲーム開発部のみんなにちょっと見習わせたいくらいだ。

 特にモモイちゃん。

 

 

「さてー、のんびりお話でもしながらドーナツ食べよ♡」

「なら私は飲み物を淹れてこよう。アイリ、客人のお相手を頼んだよ」

「うん、任されたー♪ それじゃフミちゃんには放課後スイーツ部の紹介でもしようかな?」

「まだ出会ってないメンバーも居るんだっけ♡」

「そうそう♪ ヨシミちゃんとカズサちゃん、二人ともとっても仲良しな友達なんだよ♪」

「聞いてるだけでアイリちゃんが向ける愛情の大きさが分かる♡」

「放課後スイーツ部はスイーツと同じかそれ以上にアイリ大好きクラブでもあるからね。私たちは一等星に引かれた小惑星なのさ。さながらスイーツという宇宙を巡る為に集まった流星群」

「きゃー仲良し♡ そんな所にお邪魔しちゃって大丈夫なのか心配になってきた♡」

「お土産のドーナツで懐柔出来るから安心したまえよ。私たちはスイーツ一つで機嫌を直すチョロい集団でもあるのさ」

「そ、そこまで単純では無いと思いたい……!」

「断言出来ないの可愛くて好き♡」

 

 

 用意してくれた来客用の椅子に腰掛けテーブルにドーナツの箱を開く。

 中には色んな種類のドーナツが並べられていた。

 それなりに張ったお値段に見合う、豪勢なラインナップ。

 ひいふうみい……わお♡

 十六種類もある♡

 ナツちゃんが持ってきたホットココアを啜りながらドーナツを分けていく。

 ちなみにナツちゃんはホットミルク、アイリちゃんはアールグレイのホットティーだった。

 そして誰よりも先に詰め合わせの箱からチョコミントエンゼルを持っていく。

 多分アイリちゃん以外に初手で持っていかないと思うんですけど♡

 

 

「本当に好きなんだねぇ♡」

「うん、大好きだよ、フミちゃん♪」

 

 

 ドサッ、と何かが落ちる音が聞こえた。

 何事かと振り返れば部室入り口のドアの前で、唖然とした顔の猫耳少女が立ち尽くしている。

 その後ろには金髪ツインテールの女の子。

 もしやこの二人がヨシミちゃんとカズサちゃんだろうか。

 

 

「おや、おはよう二人とも。ちょうど来客をもてなしていてね」

「おはよう二人とも♪ お土産もらったから手を洗ってきたら一緒に食べよう♪」

「お邪魔してまーす♡」

「…………」

「ちょっとカズサ、一旦正気に戻って退きなさいよ」

 

 

 金髪ちゃんが猫耳少女を押し退けて部室に入ってくる。

 この子がヨシミちゃんで、猫耳少女がカズサちゃんだね。

 何故か白目を剥いてるカズサちゃんを押し退けてヨシミちゃんが入ってくる。

 勝ち気そうな瞳が私を見てテーブルの上のドーナツを見て、もう一度私を見る。

 あ、ニンマリした。

 可愛い♡

 

 

「いらっしゃい、お土産があるなら大歓迎よ!」

「ふふ、ヨシミちゃんったら」

「たっぷり十六個入りだから好きなの持っていってくださいなー♡」

「早速手を洗ってくるわね!」

「もぐもぐもぐもぐ」

「夢中でドーナツ食べるナツちゃん可愛い♡ いっぱい好き♡」

「もぐ……もぐもぐ」

「あ、ちょっと照れてる。なんだかナツちゃんの新鮮な一面を見た気がするね」

「で、カズサはいつまで固まってるのよ。どうせアレでしょ、チョコミントのドーナツをアイリが好きって言った瞬間私たちが入ってきただけでしょ?」

「ごくん。ご名答、喧嘩っ早さと早合点は流石キャスパリーグ」

「その名前で呼ぶなっつってんでしょ!」

「あ、再起動した。そんな事よりドーナツよ! ってこれあの喫茶店のじゃない!」

「有名なんだ? すっごく美味しかったからさもありなん♡」

「……で、アンタだれ?」

「どもども♡ ワイルドハント一年生、シャーレ所属の脇野フミでーす♡ ナツちゃんにナンパされました♡」

「ナンパしました」

「いやなんで得意げ……へ? ナンパ? ナツが?」

「うむ。運命の出逢いと言えるほどの劇的な事は無かったけれど、フミは私のお嫁さん兼お婿さん候補だよ。気立てもいいし器量もいいし、なにより私のロマンを理解してくれておまけにお菓子作りが上手い」

「お土産がなかったら美人局を疑う所だわ」

「ヨシミちゃん、それはさすがに……」

「本当にドーナツで絆されるのチョロい♡」

「あの喫茶店の味が分かるなら仲間よ!」

「いや、それで良いのかって……いや、それこそ何でも良いか。ナツが決める事だし」

「そんな訳でナツちゃんに連れられてスイーツ部にお邪魔してます♡ よろしくね♡」

「ああ、うん。よろしく。……ん?」

 

 

 驚いたり訝しんだりと百面相のように表情豊かなカズサちゃんが、今度は疑問を顔に浮かべる。

 クランチチョコとストロベリーチョコがまぶされたドーナツを手にしつつ何かを思い出すように首を捻っている。

 

 

「何かどこかで聞いたような……?」

「おや、横恋慕はいけないよ。フミの隣は私のものだからね」

「違うっつーの。そうじゃなくて、フミの名前を何かで聞いたような……」

「ああ、それならアレだろう。ここ最近トリニティを騒がせている極上のお菓子職人にして淫魔の王であるプリンの人」

「待って♡」

「それだ!」

「それだじゃないのよ♡」

 

 

 ナツちゃんの説明にみんなが驚きに目を見開く。

 あれ、まだ言ってなかったっけ。

 

 

「はぁーっ!? フミプリンの人なの!?」

「えっ、すごい! 有名人だ!」

「マジですごい子引っ掛けてきたわねナツ。でかした!」

「ふっふっふ、あげないよ」

「得意げなナツちゃんに衝撃の事実をお伝えしまーす♡ 実は既に愛人が四人います♡」

「なん……だと……!?」

「「へ、愛人?」」

「わ、わぁ……オトナだぁ……!」

 

 

 その告白にナツちゃんは劇画チックな顔立ちになり、ヨシミちゃんカズサちゃんはぽかんと口を開け、アイリちゃんは軽く頬を染めている。

 みんな反応が可愛い♡

 再起動したナツちゃんはロボットみたいに関節を軋ませるように動きながら口を開く。

 

 

「結婚したと思ったら浮気されていた……!?」

「どちらかと言えばナツちゃんが新しい女枠なのでは♡」

「それはそう」

「まぁ私も含めて先生のハーレムではあるんだけど♡」

「待ってくれフミ、情報の波に溺れる」

 

 

 という訳で改めて説明。

 先生後宮計画から私の幼馴染や愛しきペロキチについても赤裸々に話していく。

 なお一番興味津々に聞いていたのはアイリちゃんだ。

 ムッツリさんめ♡

 

 

「はー、最近の子は進んでるのねぇ……」

「ヨシミちゃん同い年でしょ♡」

「先生って人がキヴォトスの外から来たってニュースは見たけど……そんなハーレムみたいなのが出来るほど?」

 

 

 ヨシミちゃんとカズサちゃんはちょっと信じられない様子だった。

 無理もない、私も何も知らずにこれを聞いたら正気を疑う所さんだからね。

 スマホでシャーレへの当番申請画面を開きつつ二人に微笑んでみせる。

 

 

「まぁ百聞は一見にしかず♡ シャーレの当番に来て、どんな人か実際に確認してみて♡ 仕事終わったら私の作ったお菓子でティータイムと洒落込んでも良いし♡」

「そうね、その先生がどんな人か見定めてみましょ!」

「変な大人だったらヴァルキューレに突き出すから」

「変な大人なのはそう♡」

「変なんだ……?」

「良い意味でね♡」

「この時の二人は知らなかった……後に自分も先生ハーレムに加わる事になろうとは……」

「変なモノローグ入れるんじゃないわよ!」

「ナツちゃん復活♡ はい、パンプキンドーナツあーん♡」

「あーん……素朴な甘みが良いね。牛乳ともよく合う♪」

「というかアンタ、大丈夫なの? 割とショック受けてたけど」

 

 

 カズサちゃんの素っ気なくも心配する視線にナツちゃんは頷いてみせる。

 どうやら色々吹っ切れたらしい。

 

 

「フミのようにステキな女の子がフリーな訳が無い」

「んんん照れる♡」

「とは言え私もおめおめと引き下がる訳にはいかない。先ずは友として絆を深めていくのも吝かではないさ」

「じゃあ改めて♡ ナツちゃん、これからよろしくね♡」

「ああ、こちらこそ♪」

「……まあ、当人同士が良いなら良いか」

「それよりさっきからアイリがニマニマ笑ったまま動かないんだけど」

「あっ、私は気にせずイチャイチャしてもらっても♪」

「……案外良い趣味してるわね」

「そんなところもアイリのチャームポイントだと思うから……うん」

「カズサ、それ本当にそう思ってる?」

「う……」

 

 

 そんな感じに賑やかに過ごし、帰る頃には四人揃ってシャーレの当番申請を送信するくらいには打ち解けた。

 予定は五日後。

 腕によりをかけてお菓子作らないとね♡

 電車に乗ってシャーレへ戻り、晩ご飯を食べながら先生へ今日あった出来事を話す。

 時々笑い声を上げながら話を聞いてくれる先生だったけど、ハーレム要員が増えるかもよ、と伝えた時にはちょっと頬が引き攣っていた。

 

 

 “フミはいつでもどこでも女の子を引っ掛けてくるね”

「せんせーには言われたくないんですけど♡」

 “実は私も女の子だった可能性が……?”

「確かめてみます?」

 “うわぁ! ベルト外さないで!?”

「よいではないか♡ よいではないか♡」

 “よくない! めっ! めーっ!”

 

 

 いつぞやの不許可スタンプを捺されてしまったので引き下がる。

 最近ちょっとガード持ち直してきたのでまたじっくりねっとり理性を腐食させなくてはならない。

 

 

 “変な決意固めなくて良いからね?”

「愛するせんせーとちゅっちゅしたいだけでーす♡」

 “絶対キスだけで止まらないからダメ”

「どっちが?」

 “どっちも!”

「どっちもかぁ♡」

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