もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
熱狂の渦に呑まれたネタ出しを終えて、私と先生とアリスちゃんはゲーム開発部を離れて冒険クエストに出ていた。
アリスちゃんは主にデバッグやテストプレイ担当なので今はまだ出番が無い。
なので新しいネタ出しに使えそうなイベントが転がってないかを散策する為にミレニアム内をてってこ練り歩く旅に出たのだった。
「にしてもアリスちゃん大人気♡」
“私よりもよほどマスコットな可愛がられ方してるよね”
先生と並んでウンウン頷く。
視線の先ではアリスちゃんが代わる代わるハグされお菓子を差し出されのカーニバル。
日頃クエストと称してお散歩したりフリーハグを仕掛けていたりしているせいで、ランダムエンカウントの癒しスポットと化しているらしい。
そう言えば私も前にむぎゅむぎゅされたな。
あっという間にアリスちゃんの両手には飴やチョコやグミが山のように積み重なっていく。
「フミ〜、両手が塞がってしまいました!?」
「ほいほい♡ こんな事もあろうかと折り畳みの手提げバッグ持ってるから大丈夫♡」
「流石はフミです!」
取り出した手提げバッグにもらったお菓子をどさどさー。
ちょっとしたハロウィンみたいになってる。
これは部室に戻ったら宴会が始まっちゃうねぇ。
「ありがとうございます!」
「お礼はほっぺちゅーで良いよ♡」
「はわわ……そ、それでは失礼して……♪」
「隙あり♡ ちゅー♡」
可愛さに負けて唇ちゅーしちゃう♡
やわらか触感♡
「……ひゃ〜、ひゃ〜っ♡」
「にしし、アリスちゃん可愛い♡」
「うぅ〜、フミズルいです〜♡」
“ブラボー……おお、ブラボー……!”
「せんせーのそれは何の喜びなの♡」
顔を赤くしてくねくねふにゃふにゃになっちゃったアリスちゃんを抱きしめながら先生を見ると、何故か感涙に咽び泣きながら拍手していた。
“女の子同士がイチャイチャしてる姿は健康に良いんだよ”
「初耳の学説♡」
「フミはズルいです……アリスをメロメロにしてどうするつもりなんですか♪」
「私の愛人にしつつ一緒にせんせーのお嫁さんになって可愛がってもらう♡ 私が産んだ子どもが男の子だったらアリスちゃんにえっちな事をお任せしちゃう♡」
「先生とフミの子どもに、えっちな事をされちゃうんですか……!? な、なんだかスゴいえっちです……!」
「アリスちゃんが普通に妊娠出来た時はそのまませんせーにいっぱい可愛がってもらおうね♡」
“爛れた家族計画!”
「その為にも私とせんせーで、アリスちゃんにいっぱいえっちな事教えてあげる♡」
「うぅ……アリス、えっちな子にされちゃいます……♡」
「満更でもなさそうで何より♡」
もう一度キスをして可愛いアリスちゃんを堪能する。
これは次回のシャーレお泊まりでいっぱい仲良ししないといけないねぇ♡
右手を先生、左手を私に恋人繋ぎされてはぅはぅ言いながら歩かされるアリスちゃん。
今日もミレニアムは平和でおじゃる♡
その後もぽてぽて歩いているとランニング中のスミレさんやC&Cのアスナさんカリンさんとも出会った。
アスナさんとカリンさんは制服姿で諜報活動の任務中らしい。
お邪魔しちゃ悪いので今度一緒にお茶でもしつつ改めて自己紹介しようと約束してお見送り。
いやしかしスゴいお乳でございました。
アスナさんなんか動きが大きいからばるんばるん揺れてたね。
カリンさんは濃いめの褐色肌で先生の鼻息が若干強くなっていたのが面白かった。
ごらんアリスちゃん、あれがフェチだよ♡
“アリスを汚染しちゃダメだよ?”
「カテゴリーは汚染なんだ♡」
“汚れなき少女枠だからね”
「フミは違うのですか?」
“フミは半分くらい私色だからね。もう半分は最初からなんか染まってた”
「否定しがたい♡」
勝手に染まってた系ヒロインを名乗れるかもしれない。
その後はセミナーに寄ってユウカさんをアリスちゃんと一緒にむぎゅむぎゅすりすり癒してあげたり、エンジニア部に寄って新しい発明品のテスターをやりつつウタハさんをつんつんしてみたり。
何故かお菓子でいっぱいになった二つ目の手提げバッグを持ちつつアリスちゃんと手を繋いで部室へ戻ると、多少は落ち着いたのかみんなが出迎えてくれた。
手を洗ってからみんなでお菓子をもぐもぐ食べつつ新作のゲームについて話し合っていく。
“ジャンルはローグライクRPG、目的はスローライフの為の拠点作り。良い感じに纏まりそうかな?”
「タイトルはミステリーメイズで仮置きします。時間も場所も入り組んだ謎の迷宮で、スローライフを送りたい別の世界の仲間たちが徐々に集まっていく感じですね。それぞれ一芸を持たせて拠点の拡張で出番を作りたいですね」
「この時間も世界も別々ってのがポイントだよ! それこそ古代の魔王から未来のロボットまで、普通のRPGじゃ出会う事の無い仲間との出会いが演出できるんだ!」
「それぞれの世界での未練、というか……やるべき事を終えた人たちだからこその空気感が出せるかな、って……」
「スゴいです! 聞いてるだけでわくわくしてきました!」
「これはミレニアムプレイスどころかキヴォトスオブザイヤーまで狙えるかも♡」
取捨選択をして残した要素だけでもお腹いっぱいになりそうな詰め込み具合。
ここから極上の料理に仕上げられるかはメインシナリオライターモモイちゃんの腕の見せ所だ。
期待を乗せて視線を向けると、モモイちゃんはふふんと胸を張った。
「そこら辺もバッチリ! 大まかな流れをミドリとユズに話してみたら好感触だったよ!」
“おお、これは期待大だね!”
「まあ書いてるうちに細部は変わるかもしれないけど、その辺は物書きの性と言いますか……」
「わかるー♡ なんかキャラが勝手に動き出す♡」
「ねー! 知らない設定も勝手に生えてくるし!」
「フミちゃんがモモイと共鳴してる……!?」
「フミさんもそっち側だったかぁ……」
「プロット書いた事無いでおじゃる♡」
「むしろそんなん書くなら直接シナリオ書いた方が良くない?」
「アリス知ってます! これ二人ともプロジェクトで噛ませたらダメなタイプのやつです!?」
“ライブ感全振りかぁ”
なにやら不本意な評価をされた気がする。
誠に遺憾です♡
それから数日。
先生と一緒にゲヘナでイオリちゃんをむぎゅむぎゅして先生もフミもキライされたりトリニティでミカさんと面会して草むしりのお手伝いをしてたら下剋上の名目で突撃してきた子と仲良くなったり、アビドスで柴関ラーメンを満腹まで食べてついでにセリカちゃんもお持ち帰り出来ないか聞いてみたりシャーレで自警団便利屋スクワッドRabbit小隊の親睦会を開いて鍋パーティーのついでに先生とのベストカップルは私だ選手権を開催したらワカモさんが優勝を掻っ攫っていったり。
なかなか充実した日々を送っていた私たちの元へヴェリタスから一通のメールが届いた。
差出人はコタマさん。
是非ともヴェリタスの部室まで足を運んでほしい、との事だった。
「なんでしょうね?」
“なんだろね?”
「ねー♡」
“ねー”
IQをとことん下げた会話を楽しんでいると通信が入った。
応答ボタンをぽちりと押せば、コタマさんハレさんマキちゃんの三人の姿がホログラムで投影される。
『先生聞いて! 世紀の大発見だよ大発見!! それがもうすっごくてさ! キヴォトス史に残るような歴史的発見かもしれないの!!』
“やあマキ。凄いテンションだけど、何があったか詳しく教えてもらえるかな?”
「フミちゃんも気になる所さん♡」
何やら面白そうな気配にちょっとわくわくしていると、ハレさんとコタマさんが呆れ混じりに訂正する。
実際に見付かったものは一切情報が無く、九分九厘ガラクタの類ではあるだろうけどもしかしたら歴史的発見と称して言い遺物かもしれない。
どうにも説明しづらいものの為直接見てほしい、という事だ。
なるへそ、既存のものと全く違うものならキヴォトスの外のものかもしれない。
そこで先生の知見を頼らせてもらおうとなったらしい。
もちろん快諾。
今日の業務は粗方終わっているし当番生徒はスズミさんアヤネちゃんサキちゃんなので後を任せても安心。
「という訳で行ってきまーす♡」
「お二人とも道中お気を付けて」
「書類は任せてください♪」
「せっかくだからお土産楽しみにしてるぞ!」
“あはは、それじゃお願いするね”
ぺかー、と笑顔でお土産を要求するサキちゃんに袋詰めクッキーを投げ渡して出発。
良い感じに染まってきてるねぇ。
“Rabbit小隊だとサキが一番フミのお菓子に魅了されてるかな?”
「あの『ぺかー』ってした笑顔に弱くて♡」
“分かるよ。アルとかセリカとかもあんな感じに可愛い笑い方するよね”
「共通点を探ったら楽しそう♡」
“……実は結構素直な所とか?”
「オブラートが厚くて中身が見えない♡」
“ナンノコトカナー”
根本的に人が良いから騙されやすそう、とは言葉にしなかったけど先生も同じ認識だったらしい。
セリカちゃんはしょっちゅう怪しい商品でカモられてるし、アルちゃん社長は「なんでそんな悪い事するのよ……!」とか「良い事をすると気分良いわねー!」とかの名言を残しているし、サキちゃんはよく私がからかって遊んでいる。
反応が良いからついついちょっかい掛けちゃうよね。
そう言う意味ではイオリちゃんも同じカテゴリーかもしれない。
いやイオリちゃんはどれだけからかって先生もフミもキライしても、次に会ったら「あ、二人とも。いらっしゃい」って小走りに駆け寄りながら歓迎してくれるのも要因かもしれない。
「そこの所どう思います?」
“みんな可愛いよね! 私も思わず童心に帰っちゃうかなぁ”
「なるへそせんせーの性癖♡」
“ハッ!? 誘導尋問です!!”
「ただの自白♡」
ツンデレ系がお好きな先生と歓談しながら電車に揺られ、ミレニアムの地へ。
エレベーターで登ってヴェリタスの部室前までやってくると、ちょうど階段を登ってきた勇者御一行とエンカウントした。
「あ、先生! フミ!」
「あれ?」
「あらー♡ みんなやほやほー♡」
“こんにちは。ヴェリタスに用事?”
「こんにちは……♪」
「やっほー二人とも! マキが面白いもの見つけたって連絡くれたから見に来たの!」
「よく分からない謎の遺物らしいので、ちょうどミステリーメイズで出てくる別の文明のアイテムの参考になるかもと思いまして」
“なるほど、確かにインスピレーションは刺激されそうだね”
「せっかくだからとユズも連れ出しましたが、二人に会えましたから正解です!」
「うん、来て良かった……」
「喜んでもらえて何より♡ それじゃヴェリタスに突撃ごーごー♡」
「ごーごー♪」
「ごーごー……♪」
両手を振り上げて宣言すると、左右をアリスちゃんユズちゃんに固められた。
なんだー抱き寄せてちゅーしちゃうぞー♡
先生はモモイちゃんミドリちゃんに挟まれてるし、ゲーム開発部との行動はこのフォーメーションがデフォルトで選択されてそう。
“両手に花だねぇ”
「私含めてみんなちっこいから保護者と子どもたちになってるけど♡」
「先生子沢山だねぇ」
「私は子どもよりも妻とか良いな、って思うんですけど……♪」
“流石に成人してないと私が捕まっちゃうかなぁ”
「でもフミは先生のお嫁さんですよね?」
“外堀が埋まっていく感覚……! 将来的にね! もしかしたらね!”
「否定はしないの嬉しい♡ せんせー好き好き♡」
「うぅ、先生とフミちゃんのどっちに嫉妬したら……?」
「それを解決するのが先生ハーレム計画後宮編♡ ユズちゃんも私とイチャイチャしつつせんせーに抱き潰されよ♡」
「どんどんフミの支配領域が広がっていくなぁ……あ、これ戦略シミュゲーの構想に使えないかな?」
「フミさんみたいに甘言や根回しで支持者を増やして領地を切り取っていくの?」
「多少の戦闘要素もあるけど普通の戦略モノとは違って裏工作でもバリバリ調略していけるの、面白そうじゃない?」
「んー……戦闘が苦手な魔物娘が覇を唱えて気に入った人間くんとラブラブする為の平和な国を作る異種族入り乱れ戦略シミュゲー……うん、なんかイメージ湧いてきた」
「多分にミドリの趣味が入ってきたけど、まぁヨシ!」
“なんか凄い構想練られてる”
「パッチでムフフシーン追加されるシステムにしたら売上跳ねそう♡」
“みんな未成年な事を忘れないでね?”
「フミさんメインでイメージしたのでどうしてもサキュバス要素が」
「誠に遺憾です♡」
「フミは淫婦ですから!」
「ぐふっ♡ おのれヒフミン♡」
そのうち進化して淫魔王とか呼ばれたらどうしよう。
取り敢えずユウカさんに太ももで圧迫させるか。
そんな風にわちゃわちゃしていたらヴェリタス部室のドアが開いた。
マキちゃんが恨めしそうな顔を向けてくる。
「ちょっとお!? 扉の前で楽しそうな事やってないで早く入ってよ!」
「そうだったそうだった」
「すっかり忘れてたね」
「あ、マキ! こんにちは!」
「わわ……ご、ごめんね?」
“怒られちゃった”
「にしし、それじゃ改めてお邪魔しまーす♡」
部室内にはコタマさんとハレさんも待っていて、折り畳みテーブルを出して人数分のオレンジジュースを用意してくれていた。
持ってきた袋詰めクッキーを配りつつ二人にお礼を伝えていると、マキちゃんは先生とモモイちゃんたちを連れて件の遺物の紹介を始めた。
私たちも遅れてそっちに向かう。
「ちょっと通りますよ♡」
「ひゃんっ!? ふ、フミちゃん、そこは……!?」
「きゃぁん♡ フミはえっちです♡」
「にしし、二人とも良い身体してんねぇ♡」
“ごく自然にお尻撫でるの怖い”
「せんせーにもケツペチン♡」
“めっ”
さわさわぺちん、とお尻を楽しみ前へ進むとそこには球体型のロボットがあった。
下部側面からタコ足のようにケーブルが伸びている他は特に特徴的な部分の無いデザインのもの。
遺物と言うからてっきり不可思議な石板みたいなのをイメージしてたんだけど、まさかオーパーツ方面の機械だったとは。
でも機械に溢れたこのミレニアムで遺物と称されるロボット、と言うのはなかなか趣深い。
同時に脳裏へ過る、アリスちゃんを見付けた時の記憶。
アレも現代の規格では見られないものなのかもしれない。
そう考えるとこの遺物は少しばかり脅威を孕んでいるのかも分からない。
一つ気になるのは、同タイプの遺物が五体ここに揃っている事だ。
つまりこれはある程度量産が可能なもの。
「んー……なにこれ?」
“これは……どこにあったの?”
頭の上にはてなマークをぽんぽこ浮かべている私たちにコタマさんが説明してくれる。
なんでもミレニアムの郊外で発見されたらしい。
ここにあるのが全部じゃなく他にも二十体ほど残っているらしい。
深海魚らしいフォルムというか何かの規則性、合理性に基づいた設計が成されているのが何となく分かる。
機械工学に詳しい人が見れば何かしらの意図を見抜けるんじゃないかな。
ハレさんが言うにはミレニアムで現在稼働中の、どのドローンとも違うフォルムらしい。
「おぉ……びっくりだねー。なんか想像してたのと全然違うんだけど! コメディー映画だと思ってたら急にホラーになったみたいな……なにこれ!!」
「これって、本当にミレニアムで作られたロボット……なのかな?」
「ハレ先輩、これって今どんな状態なんですか? 頑張ったら起動させる事ってできたり……」
みんなもこの怪しげなロボットに興味津々。
わいわいがやがや盛り上がる中、アリスちゃんが静かにそれを見詰めていた。
興味や好奇心と言うよりは何かに導かれるような、あるいは吸い寄せられるような。
そんなふわふわとした足取りで少しずつ近付いていく。
「アリスちゃん?」
呼び掛けに応える声は無い。
ゆっくりと歩み寄る姿を誰も気に留めてはいないようだ。
勘の囁きは無い。
けれど、嫌な予感らしきものがせり上がってきた。
止めないと。
何故だかそう感じた私が手を伸ばすより早く、アリスちゃんの小さな手のひらがロボットに触れた。
瞬間、ロボットのセンサーアイが淡い赤の光を放ち駆動音とともに身体を起こす。
「え!? 何!? 電源入った!?」
「えっ!?」
モモイちゃんとハレさんの驚愕の声。
すかさず私はロボットと先生の間に身体を置いた。
まだ勘は囁いてこない。
それでもこのロボットが敵対的行動を取らないとは思えなかった。
回せ。
思考を回せ。
「この音……お姉ちゃん、ゲーム機の音出てるよ?」
「え? ……あ、本当だ。今まで起動しなかったのに……どうしてだろ」
恐らくヴェリタスのみんながこのロボットを起動出来ないか、データを吸い出せないかと触ったはず。
それでも起動しなかったのに、アリスちゃんが接触した瞬間ロボットが起動した。
みんなとアリスちゃんの違いは。
脳裏に冷たく鋭い光が走る。
モモイちゃんのゲーム機、正体不明のデータ、アリスちゃんが廃墟に訪れた時に起動したシステム。
「みんな下がって!!」
「え、フミ!?」
「…………起動開始」
背中にマウントしていたシールドを展開させて前に出て、そのままアリスちゃんに振り下ろす。
けれどもシールドはアリスちゃんの額の目前で見えない力に阻まれて、逆に私が大きく吹き飛ばされる事に。
テーブルを巻き込んで倒れた私にクッキーの欠片が降り注ぐ。
“えっ、フミ!?”
「何!? なにごと!?」
「え、あ、ロボットたちが……!?」
一番近くにいたマキちゃんに助け起こされた時には、既にアリスちゃんの周りを起動したロボットが取り囲んでいた。
アリスちゃんを狙うと言うよりは、アリスちゃんを警護するような立ち位置で。
「フミ、大丈夫!? ってロボットが! なんで急に動くの!? コタマ先輩、何かした!?」
「マキ、違います。私は何も……」
「……気を付けて! 何か様子がおかしい!」
“一体、これは……”
「けほっ、そんな細い起動条件を通してくる……?」
廃墟にあった《
アリスちゃんの身体に、ゲーム機へ退避させた頭脳が宿る。
「……コードネーム《AL-1S》起動完了。プロトコル
「みんな下がって! 今のアリスちゃんは洗脳状態みたいなものだよ! せんせーを守って!」
どこに潜んでいたのか、次々と現れるロボット。
いかにワンフロアをヴェリタスが管理して使い切っているとは言え、壊してはいけない機器やサーバーがひしめいている中での戦闘は立ち位置や攻撃方法にも気を遣う。
さらにアリスちゃんの光の剣がフルチャージではないにしろ飛んでくる。
出来る限りシールドで受けて窓の外へ流してはいるけど長くは保たない。
「せんせー、アリスちゃんの無力化を!」
“分かった! マキ、側面からスプレー缶を投擲して! ユズ、スモークグレネードと一緒にアリスの足元に転がった缶を狙って! ミドリ、寄ってくるロボットのカメラアイを狙って! 中央の丸いやつ!”
先生の指示の下、動揺はありつつも迎撃をしていく。
私もリボルバーでロボットを倒していくけど、肝心のアリスちゃんには手が出せない。
光の剣の頑丈さは折り紙付きだ。
ネルさんの蹴りを受け止めて振り回す事も出来る上、その弾丸の性質上銃口を狙っても効果がほぼ無い。
かと言ってアリスちゃん本体を狙っても痛撃を与えられるほどの威力も出ない。
まだ光の剣での射撃で相対してくれているから何とかなっているけど、光の剣を質量武器として接近戦を仕掛けられたら全滅だってあり得る。
どうにかロボットを蹴散らしていると、粉塵の向こうから声が届く。
「……有機体の生存反応を確認。失敗を確認しました」
“アリス……!”
「あ、アリスちゃん!?」
「……プロトコルを再実行します。武装のリロード開始」
光の剣の側面にあるハンドルを回して充電を始める。
どうにかして止めないといけない。
そこへマキちゃんが飛び出して行った。
「アリスちゃん、ごめん!!」
スライディング射撃でハンドルを握る手を弾いていく。
目盛りがチャージからアイドリングへ戻り、独特の駆動音が大人しくなっていった。
「妨害を確認、充電失敗」
「よし! 止まった!」
「……妨害要素を排除します」
「マズイ、マキちゃん!!」
「……え?」
シールドを投擲する。
マキちゃんとアリスちゃんの間に着弾したシールドの表面に放射状のヒビが走った。
装甲板の中央にはアリスちゃんの拳が刺さっている。
あの光の剣を軽々と振り回せるだけの膂力があるアリスちゃんだ、純粋に殴るだけでもショットガン以上の威力は加えられる。
後一秒反応が遅れていたら……余り考えたくはない。
「ひ、ひえぇ〜……!?」
腰が抜けた様子で這いずりながらわたわた逃げ帰ってくるマキちゃん。
気持ちは分かる。
私もアレを眼前で受けたら漏れちゃうかもしれない。
「プロトコルを再実行します。武装のリロード開始」
「あ、ああ……」
「い、一体なに……アリスちゃん! ねえ、アリスちゃん!」
突然の凶行にミドリちゃんとユズちゃんはもういっぱいいっぱいだ。
出来る事なら下がらせたいけど、この状況で下手に動くのは得策じゃない。
かと言ってこのままだとジリ貧だ。
そこへ飛び込む心強い援軍。
「おい、チビ。そこまでだ」
じゃらり、と鎖を鳴らして裏拳を後頭部に叩き込む。
反応が遅れたアリスちゃんは倒れ込んで意識を失ったようだ。
「大人しく寝てろ」
「ネルさん!」
「こいつら、ここにもいやがったのか……。はぁ……片付けるか。おい、行くぞ」
「はーい! 部長!」
「支援する」
「ええ、後方はお任せください」
ミレニアムの最高戦力C&Cのネルさんが駆け付けてくれた。
気怠そうにロボットを処理していく姿は実に頼もしい。
それに続くのはアスナさん、カリンさん、アカネさんの三人。
まさかのC&C全員集合だった。
数分も経たずにロボットは全て撃破された。
流石はお掃除部隊、練度と連携が凄まじい。
「……これでいいか? 先生」
“ネル、みんな! ありがとう!”
「おう。んで、何があったんだ? すげえ音がしたから来てみたら、部室がボロボロじゃねぇか。それに、チビのあの姿は一体……」
“ごめん、ちょっと待ってね……みんなは大丈夫!?”
「うっ……な、なんとか……」
「フミのお陰で……腰が抜けたよぉ〜……」
「軽口が言えるのだから、とりあえず無事ですね」
“それなら良かった……”
「先生……! 先生!」
「あ、ああ、モ、モモイ…………」
“ミドリ、ユズ……どうしたの……?”
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……!」
その声にみんながモモイちゃんを見る。
瓦礫の上に倒れて動かない。
急いで駆け寄り手首に指を当てる。
……良かった、脈はある。
だけど早く医療機関で治療を受けさせないと。
手のひらを顔の前に持っていくと、浅くゆっくりとした呼吸が感じられた。
「意識は無いけど呼吸は有る、強い衝撃で気を失ったみたい。詳しい事は検査しないと分からないけど……早く病院に連れて行ってあげよう! 誰か担架を!」
「お姉ちゃん……!」
「ミドリちゃん、揺すっちゃダメ! 先ずはお医者さんに見せないと! ユズちゃんはアリスちゃんの様子を!」
「え、あ……」
「大丈夫、しっかり! 悩むのは後、今は二人を助けよう!」
「あ……う、うん……!」
「せんせー、一番近い医療機関は?」
“それなら……アロナ!”
「いや、先生。あのチビが暴れた事が原因なら万が一に備えてこいつとは別の場所に移した方が良い」
“…………なら、モモイはシャーレの医務室に運ぼう。そこなら他の学区の人からも支援を受けやすい”
「モモイちゃんはこっちでヘリを手配して運びますね。ネルさん、アリスちゃんをお願いしても良いですか?」
「おう。こっちは任せろ。アスナ、カリン、担架の用意だ。アカネはロボットの残りが居ないかこいつらと探せ」
「りょうかーい!」
「分かった」
「リーダーもお気を付けて」
「という訳でヴェリタスのみんなはこのロボットから抜けるだけの情報を、物理電子問わず抜いちゃってください。一先ず明日のお昼、落ち着いた状態で現状の確認をしましょう」
「分かりました。ハレ、マキ。二人はロボットの解析を。私は部長と副部長への連絡をしておきます」
みんなにやる事を示して、私もスマホでRabbit小隊へ連絡を入れる。
ヘリはすぐに飛ばしてくれると言ってくれた。
後は医療機関への要請と……ああ、ユウカさんにも連絡を入れておかないと。
スマホをポケットにしまうと、がさっと何かが擦れる。
取り出してみると、割れたクッキーがあった。
先程テーブルをひっくり返した時に偶然入り込んだんだろう。
噛めばさくりと音が鳴る。
だけど甘いはずのクッキーからは味がしなかった。
「……思いの外、参ってるなぁ」
日常は突然崩れ去った。
ここから非日常が始まる。