もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
幸い、モモイちゃんの怪我は深刻なものじゃなかった。
ただ意識は戻っていないからしばらくは医務室で容体を見守る事になる。
そのせいで一番動揺してるのはミドリちゃんだった。
普段のツンツンした態度が嘘みたいに、シャーレに来てモモイちゃんの手を握っている。
弱々しく縋り付く姿は見てるこっちも心が痛む。
そうして一日が過ぎ、二日が過ぎ。
まだモモイちゃんは目覚めなかった。
アリスちゃんは、あの後元に戻った。
けど、自分がやった事にショックを受けて塞ぎ込みゲーム開発部の部室に篭もってしまった。
大切な友達を傷付けてしまった事が自分でも許せず、そんな行動を取った事が信じられず、また同じように誰かを傷付けてしまうのではないかと恐れている。
どうして良いのか分からず、それでもまた友達を傷付けてしまわないように遠ざけて自分一人の状態を作っている。
ユズちゃんがモモトークを通じてアリスちゃんとコンタクトを取っているけど、返信はまばららしい。
部室のロッカーを使えなくなったユズちゃんとモモイちゃんの側から離れなくなったミドリちゃんは一先ずシャーレで預かっている。
二人のメンタルケアは先生が担ってくれているので、私はアリスちゃんの心を解しつつミレニアムでこれからの対応について纏めている。
目下、アリスちゃんとみんなの懸念は一致している。
あの場でアリスちゃんの身体を乗っ取ったのは何か、それからの干渉を防ぐ手立てはあるのか。
ロボットはもう来たら潰す、で置いておく。
現状だと情報が足りないからね。
必要なのはアリスちゃんが心身共に安定する事。
どうにかしてあのシステムを切り離す事が出来れば、アリスちゃんを取り戻せる。
「という訳でヴェリタスのみんなを中心に色々データ収集してるとこ♡ 何か思い付いたり気になる事が有ったらどんどん教えてね♡」
『……ありがとうございます、フミ』
ゲーム開発部部室の前でスマホに微笑みかける。
レスポンスはひどくゆっくりだけど、目覚めた時よりはずっと落ち着いてる。
最初は半狂乱だったからね。
いやまぁ気持ちは凄いわかる。
私が身体乗っ取られてはーちゃんやヒフミンに怪我をさせたなんてなったら……申し訳なさと怒りと情けなさで頭の血管全部弾け飛ぶと思うもん。
「また入り口の所にクッキー置いておくから良かったら食べて♡ それじゃ、また明日♡」
『…………はい、ありがとうございます』
ピッ、とスマホの通話が切れる。
面と向かっては話してくれないけどスマホ越しの通話なら少しの会話に付き合ってくれている。
初日の全拒否対応に比べたらかなりの進歩だ。
組み立て式のテーブルにクッキーやお茶、栄養ブロックなんかを置いて部室を離れる。
万が一暴れても対応出来るように、とアリスちゃんが提案した距離を保って廊下の奥から顔を出してしばし待機。
静かにドアが開き、窶れた顔のアリスちゃんがひょこっと姿を見せた。
目が合う。
小さく手を振ってみるけど、アリスちゃんはぺこりと頭を下げて差し入れを持って部室に戻った。
あの天真爛漫だったアリスちゃんとは思えないしょんぼり具合だ。
早くなんとかしたい。
その為の鍵は──やはり、モモイちゃんの復活だろうか。
トラブルメーカーにしてムードメーカーなモモイちゃんが居ないとゲーム開発部だけじゃなくその周囲もどんよりしちゃうね。
“フミ”
ヴェリタスの部室に戻った私を先生が出迎えてくれる。
ミドリちゃんとユズちゃんも一緒だ。
「アリスちゃんに差し入れ持っていったよ♡ 受け取ってくれたから食生活は今のところ問題は無いかな、口数は少ないけど反応はしてくれたし♡」
「そうですか……」
「アリスちゃん、大丈夫かな……」
“今はまだ、時間が必要なのかもね”
ミドリちゃんとユズちゃんの顔色は良くない。
二人とも俯きがちで、いつもの元気がなくなっている。
このままでは居られない。
不意にキリッと顔を上げる先生。
“今度は、私が話してみるよ”
「先生……うぅ……」
「……お願いします、先生」
「それじゃ、私は一旦シャーレに戻ってモモイちゃんの様子を見ておきますね♡ 何かあったら連絡してください♡」
そうして私は一度ミレニアムからシャーレへ。
流石に行ってきますのちゅーはおねだり出来なかった。
電車に揺られて日も高くなった頃。
モモイちゃんへのお見舞いを終えて執務室に帰ってきた私は、来客用のソファーに寝転んで何をするでもなくごろごろしていた。
こちらから打てる手が無い。
解析班のみんなの奮闘を見守るしか出来ない現状は、これまでシャーレで色々解決してきた私にとって初めての待つ時間となった。
あの戦闘では先生への流れ弾を防ぐ事に注力していた。
私の盾とアロナちゃんの防壁。
備えとしては万全だった。
けれどその周囲に手は届かず──モモイちゃんを取り零した。
いっそ攻撃の全てを私が引き受けられれば話はもう少し簡単になっていたはずだ。
「……フミ、ちゃん……?」
「んぉ……?」
悶々と考え込む私の耳に、玉を弾いたような声が届く。
意識を戻せば、心配そうに覗き込むはーちゃんの姿がそこにあった。
いつの間に。
執務室のドアが開いた音もこちらへと歩み寄る足音も聞き逃していたらしい。
なんだかんだ、私も結構参っていたようだ。
「……ん……♡」
両手を広げてはーちゃんに伸ばす。
こういう時は存分に甘えて、煮え滾った脳を落ち着かせるのが一番良い。
それにこうして心配して様子を見に来てくれたはーちゃんに感謝と愛の言葉を囁かないようでは私じゃない。
そんな意図を感じ取ってか、はーちゃんは少し困ったように眉根を寄せて微笑む。
えっ、なにそのえっちな表情。
「結婚しよ?」
「ほ、法律はどうしようもないので……今は、内縁の妻でお願いします」
「はーちゃんがお嫁さんとか私は前世で何回世界を救ったのか……! でかした前世の私♡」
「ひゃあんっ」
はーちゃんの薄細ボディを抱き寄せる。
相変わらず軽くて柔らかくて私の好きな匂いがする。
はわはわと慌てる声が耳朶をくすぐる度にささくれ立った心が癒されていくのを感じる。
「はーちゃんの前ではカッコいいフミちゃんで居たいけど無理したら心配させちゃうから弱音も吐くのだ♡ ギャップにやられてもっと好きになって♡」
「……ふふ、私はずっと、あの日からずっとフミちゃんの全部が好きですよ」
「…………嬉しさと安心感と照れくささでなんか泣きそうだから、もっとぎゅってして♡」
「フミちゃん、いいこいいこ……いつも頑張ってて、しっかり考えてて、素早く動けて……とってもステキですよ」
「うぅっ、はーちゃんに子ども産ませたいし、はーちゃんの子ども産みたい……♡♡」
「はい……♪ 私も、フミちゃんとの子ども、ほしいです……♪」
頭を抱えるように抱きしめられ、優しい手付きで髪を梳かれる。
はーちゃんはママだった……?
思わず手を伸ばしてはーちゃんの魅惑のぽっちをさわさわしちゃう♡
「出るようになったらお互いのミルク飲ませ合いっこしようね♡」
「は、はわわ……!?」
「おっと、まだ早かった♡」
「うぅ、フミちゃん、えっちです……」
顔を真っ赤にしてしまったはーちゃんに軽く口付けて身体を起こす。
これ以上は甘えを通り越してえっちな事しちゃうからね。
はーちゃんが魅力的過ぎて困る♡
「えへへ……フミちゃんに、よ、喜んでもらえるなら……私、もっと魅力的になれるように、頑張ります」
「一日中はーちゃんから離れられなくなっちゃう♡」
「そ、そしたら……フミちゃんを、独り占めです……え、えへへ……」
にちゃあ、と粘度の高い笑みを浮かべるはーちゃん。
可愛さが過ぎる。
これは法律で規制されちゃうよ。
よっこいせ、と立ち上がり身体を伸ばす。
やはり心の回復には好きな人との触れ合いが効くね。
もう一度ぎゅっとしてもらってフミちゃん復活。
はーちゃんのお陰だ。
「はーちゃん♡」
「はい、フミちゃん」
「好き♡ 大好き♡ 愛してる♡」
「えへへ……私も、です……♡」
お互いにへらりと笑い合っていると、私のスマホが鳴動した。
医務室でモモイちゃんを診てくれていた子からだ。
どうやら、眠り姫が目を覚ましたらしい。
はーちゃんに手を振って別れ一路医務室へ。
こつこつと足音を響かせながら辿り着いた先、病衣から普段着に着替えているモモイちゃんが居た。
外傷もキレイに治ったようだ。
「ぐっもーにん♡ まいふれんど♡」
「へっ? あ、フミ! おはよ! ……って、わわっ!? ちょっと後ろ向いてて!」
「このまま眺めているのも良いか♡」
「良くなぁい!? 私だって女の子なんだからね!?」
「私も女の子だしセーフセーフ♡」
「えっ!? そうかな……そうかも……」
という訳でモモイちゃんの白ピンク縞パンを脳内フォルダに保存して、固まった髪の毛を櫛で梳いてあげる。
消化に良いビタミンゼリー飲料をちぅちぅ吸わせつつボディシートで簡単に身体を拭いてあげれば、我らのモモイちゃん大復活だ。
「はい、これで一先ずは大丈夫♡」
「ありがと、フミ! ……ええっと、あれから何時間くらい経ったの?」
「今日で三日目♡」
「みっか……三日目ぇ!?」
驚愕するモモイちゃんを落ち着かせて現状の報告。
落ち込んで塞ぎ込んでしまったアリスちゃんの様子を聞いて、一刻も早く大丈夫だよって伝えないと、と意気込んでいる。
この辺モモイちゃんも光の勇者だよね♡
じゃあ早速移動しようか、と言った所で再び私のスマホが通知音を鳴らす。
先生からだ。
朗報だろうか、と期待した私の目に飛び込んできたのは衝撃的な文面だった。
“アリスが、連れて行かれてしまった”
電車に飛び乗り再びミレニアムへ向かう。
焦る気持ちを抑えてモモイちゃんと手を握り合い、ミレニアムの校舎へ。
中央通りを進んでいると生徒たちの集団が見えた。
都合のいい事に、先生とミドリちゃんユズちゃん、C&C、ヴェリタスのみんなが居る。
ただ、全員表情は暗い。
まぁこの状況で笑っていられるのはモモイちゃんくらいだろうから致し方なし。
そのモモイちゃんはと言うと、何やらニンマリしている。
一発ぶちかますらしい。
力強く足元を蹴り飛ばし猛スピードで突っ込んでいく。
「モモイ…………降臨!」
「……はぇ?」
「あ、滑った♡」
いかんともしがたい♡
とは言えモモイちゃんの復活を示すにはこれ以上無い登場シーンかもしれない。
みんな呆気に取られていたけど、やっぱり最初に反応したのはミドリちゃんだった。
「あ、あれ!? みんな反応薄くない!?」
「お姉……ちゃん……?」
「ただいまミドリ! お姉ちゃんだぞー!」
「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!!」
「うわ、わあぁぁっ!?」
思いっきり抱き着かれて背後に倒れそうになるモモイちゃんを支えてあげる。
姉妹愛たっぷりでフミちゃん大満足♡
遅れてみんなも目の前のモモイちゃんが本物だと分かって安堵の声を漏らしたり肩をばしばし叩きに来る。
あっあっ、ネルさんそんなに背中ばしばし叩いたらモモイちゃんの中身出ちゃう♡
わっちゃわっちゃと帰還を喜び合って、改めて現状の情報を擦り合わせる。
ふむふむ、私の居ない間にそんな事が。
思った以上にアリスちゃんの背景が壮大なんですケド♡
とは言え言葉を介さずあのロボットたちを操っていた事から、その辺の説得力は強い。
そしてアリスちゃんはセミナー会長、調月リオさんに連れて行かれてしまった、と。
腰元にミドリちゃんを引っ付けたまま腕を組んでうむうむ話を聞いていたモモイちゃんは、数秒目を閉じてからみんなをゆっくりと見回して口を開いた。
「このおバカさんが!!」
「お、お姉ちゃん……?」
「モモイ……?」
「正直、難しいことはよく分かんないけど……! みんなの話を聞いてたら胸がぎゅっとしちゃって……あんまり言葉がまとまらないんだけどさ……」
自分の心に潜って、感情の海から言葉を探すモモイちゃん。
その横顔はこれまでに見たどの瞬間よりもカッコいい。
「でも一つだけ確かなことはあるよ!」
「……確かなこと?」
「私たちがこの事態に納得できてないってこと!!」
聞き返すネルさんに力強く答える。
その言葉がみんなの中に染み込んでいくのを待ってから、モモイちゃんは続けた。
「正直、アリスが《魔王》だろうがなんだろうが、そんなことどうでもいいの! 私はアリスとこのままお別れなんて嫌だよ! アリスの最後の言葉、別れの挨拶でもなんでも無いじゃない! まともなエンディングですらない! 最悪だよ! だから私はアリスを連れ戻したい! 連れ戻しに行くよ! みんな、そうじゃないの!?」
モモイちゃんの言葉に、先生含めて何人かがハッと何かに気付いた顔をする。
みんな突然の事で混乱してたんだろうけど、難しく考えすぎていた。
世界だなんだは二の次。
そんな小難しい事よりも、友達としてどうしたいか、自分はどうしたいのか、それを見失っていた。
ただ黙ってあれこれ考えるよりも、しっかり言葉を交わして思いをぶつけ合い、互いにちょっとでも良いから歩み寄る方がずっと良い。
その結果アリスちゃんとの別れが待っていたとしても、それは対話を諦めただ立ち尽くす理由にはならない。
ついこの間、その気高き精神を私と先生は直に教えられたはずだ。
「そこんとこどーなんですか、せんせー♡」
“……先生として、大人として恥ずかしい限りだよ”
「時にはもっと童心に帰って物事を見るのも大事ですよ♡」
“本当だね……”
「こっちはいつでも若いのに♡」
“ちょ、フミさん!?”
脇腹をつんつんしてついでに副担任もさわさわ♡
ちゃんとみんなに見えない角度でやってるから安心して♡
そんな風に私と先生でこそこそしている間にモモイちゃんが全員の意識を纏め上げたようだ。
実はシナリオライターよりもアジテーターの方が向いてるとかないよね?
「それじゃあ先生、力を貸して!」
“……うん。みんなで、アリスを取り戻す方法を考えようか”
「それなら先ずは味方を増やしていこっか♡」
「味方?」
「こういう時に頼りになる人たちがいるじゃない♡」
ゲーム開発部に何度も救いの手を差し伸べて、ミレニアムプレイスの受賞をともに喜んでくれた、冷酷とは180°逆を向いた頼れる会計さん。
アリスちゃんに光の剣を与えて、その後の鏡争奪戦でも惜しみなく力を貸してくれた、ミレニアムきっての頭脳集団にしてトンデモ開発集団エンジニア部。
むしろこの場に居ないのが不思議なくらいだけど。
それを伝えると全員「確かに!」と納得していた。
もっと早く思い出してあげて♡
と言う事でユウカさんとウタハさんに通話を飛ばして現状の共有と協力のお願いをした。
どちらも快諾してくれたので非常に心強い味方が出来たとモモイちゃん大喜び。
そして新たな情報も幾つか手に入れた。
ユウカさん曰く、どうやら今回の行動はセミナーにも内緒でリオさん単独で推し進めた計画らしい。
まぁアリスちゃんをどうこうしようとしたらユウカさんが間違いなく待ったを掛ける事は想像に難くない。
そんなユウカさん大明神が色んなデータを処理して精査して復元したところ、とある都市のデータが発見された。
エリドゥ。
リオさんが秘密裏に設計・建設していた『終焉に備えるための要塞都市』だそうだ。
「えっ、要塞都市全部作ったの♡」
“スケールが大きい……!”
「それだけの資金も資材もどうやって秘密裏に出来たの♡」
『資金は……こないだコユキがやらかしたカジノ船の時の騒動に紛れて抜かれてたわ』
「んんんー大胆♡」
“紛れるだけの額が動いてたの……?”
『お陰でポケットマネーが寂しくなりましたよ!』
“寂しくなるだけで済むんだ……”
「ユウカおねぇちゃんの財力こわ♡」
『私が卒業したらミレニアムの経営傾きそうなのが嫌ね』
「大富豪すぎる♡」
ユウカさんの財力に怯える一幕もありつつ。
恐らくこの要塞都市エリドゥに、リオさんやアリスちゃんが居るはず。
となれば乗り込んで行きたいところさん。
と、そこへ電子戦も可能な小型指揮車に乗ったエンジニア部の三人が到着。
なんか荷台代わりの連結車両によく分からない装備や機械がごちゃっと載ってる。
見た目は倉庫とか市場で使われてる作業用の一人乗り車両にリヤカーみたいなのがくっついてる。
エンジニア部の部室に有ったのかな?
「エリドゥの座標は確認できたけど、問題は潜入方法だね」
「ぬるっと登場してそのまま会話に繋げるの強い♡」
「緊急時なので説明は割愛です!」
「コトリちゃんが説明を後回しに♡」
“なんだか新鮮だね”
「……いや、なんで先生もフミもそんなに動じてないの?」
いつも通りのテンションに戻った私と先生の姿にヒビキちゃんが首を傾げている。
先生は落ち着いたのと生徒たちの前で不安を見せる訳にはいかない、って考えてそうだけど私がいつも通りなのはすごく単純な理由だ。
「これだけの頼もしい仲間が揃ってるんだもの♡ しっかり準備してアリスちゃんを迎えに行くんだから、成功以外無いでしょ♡ 不安点は先輩たちが潰してくれるし♡」
「おや、期待されているね。これはカッコいいところを見せないといけないかな」
「きゃーウタハさんステキー♡ 帰ったら一緒にカラオケデート行きましょー♡」
“むっ!”
「ふふ、お誘いは嬉しいけれどあまり先生の嫉妬を煽らない方が良いんじゃないかい?」
「モテモテで困っちゃう♡」
「なるほど……確かに、ウタハ先輩に先生にC&Cにヴェリタスも揃ってるんだから、大抵の障害なら跳ね除けちゃうか」
「この心強さは説明不要でしたね!」
「ねー♡」
こんなんリオさんが超スーパーウルトラデラックスマシーンでも投入してこない限り勝ったなガハハ状態だ。
とは言え普通に真正面から攻め懸かるのはちょっと面倒。
要塞都市なんて銘打つくらいだから、外敵への備えは万全だと思った方が良い。
そうなると別の進入路が欲しいところさん。
「こんな時に別のルートがあったらなぁ♡」
「ふふふ、こんな事もあろうかと下準備はバッチリだよ」
「本当に有った♡」
“ウタハの頼もしさが強すぎる!”
「二人から褒められると少し照れるね。そうそう、別のルートだ。都市建設の人手だけだったら、リオ会長のドローンで事足りるだろうけど……資材となると話は変わってくる。無から有は作れないからね」
「ミレニアム自治区の郊外には、輸送用の無人列車がたくさんある……」
「都市建設の資材をミレニアムから運んでいたと仮定するのなら、その路線のどれかがエリドゥと繋がってる可能性が高い」
「じゃあ、路線さえ分かれば……!」
期待を込めたモモイちゃんの視線に頷きを返すウタハさん。
「ああ。エリドゥに行けるよ」
「で、でも、路線はいっぱいありますよね……? 一体、どうやって探せばいいんですか!?」
「ああ。なので、その辺りをエンジニア部がサポートしようじゃないか」
微笑みを湛えてミドリちゃんを見遣る。
すっごくカッコいい♡
その後協力してくれる理由について誤魔化した先からコトリちゃんにバラされるウタハさんであった。
照れ屋さんなのも可愛い♡
腕を組んでウムウムしていたヒビキちゃんが私にニヤッと笑みを向けてくる。
「うちの部長、良いでしょ」
「情に厚くて頭の回転早くてロマンへのコダワリもあって仕草が可愛くて所作がカッコいいのズルい♡」
「お陰で毎日何かしらドキドキさせられてる」
「ヒビキちゃんもメロメロですなぁ♡」
「先生とはまた違ったベクトルで良いよね」
「こらそこ、妙な事言わない!」
「怒られちゃった」
「怒られちゃったね♡」
ヒビキちゃんと二人で顔を見合わせてくすくす笑い合う。
ともあれ仲間が集い要塞都市への進入路も見えた。
となれば次に考える事は。
“……どうやって、アリスを連れ戻すか、だね”
「ええ。要塞都市と呼ぶくらいですから……リオ会長には万全の備えがあるのでしょう」
「都市のセキュリティはもちろん、防衛システムもかなりのレベルだと思うよ」
「普通の迎撃ドローンとタレットならまだしも、ミサイルタレットや自爆ドローンがあるとおつらい♡」
「都市とは……?」
「広さと生活拠点としての性能が都市レベルなのかも?」
「それに……要塞都市をどうにかしても、まだ問題が残ってる」
“そうだね……要塞都市はおまけにすぎない”
「話を聞く限り、リオ会長の護衛をしているメイドが一番の障害ですね」
「トキさん……でしたよね? あの時の彼女の動き……まるで……」
「うん──まるで《チートプレイヤー》みたいだったね」
「チートプレイヤーかぁ……その瞬間を私は見てないんだけど、自力と言うよりは外からのバックアップが有った感じなの?」
「そうなの。ゲーム中のユズより動きというか反応が良くて……」
「なにそれこわい♡」
「あたしらに必要なのは作戦だな」
喧々諤々と話し合う中で、ネルさんの声が響いた。
その言葉に、みんなが一瞬押し黙る。
あん、と不思議そうな声を上げるネルさんへ先生が驚愕の声を漏らした。
“ネルが作戦って言った……!?”
「ね、ネル先輩。大丈夫? 熱とかない?」
「もしかして、大けがをした反動で……?」
「あぁ? なんの話だ?」
思いっきり失礼な事言ってる♡
気付かれたら先生もモモイちゃんもミドリちゃんもお尻にタイキックだと思うんですけど♡
「……任務モードの部長だ」
「そうそう! 仕事モードになった部長はと〜っても真面目なんだから!」
「ふふっ、実はそうなんです」
「な、なるほど……!」
どこか楽しそうに説明してくれるC&Cのみなさん。
普段は勢いとノリとテンションで突き進むネルさんも、仕事の時は取れる作戦は全て検討して最も効率的な選択をするエージェントになるらしい。
なにそれかっこいい♡
「うーん、ネル先輩……どういう意味か聞いてもいいかな?」
「無事要塞都市に着いたとしても、だ。そこがリオの領域である以上、あたしらの動きは丸見えだ。誰が何言おうが、あいつは《ビッグシスター》だからよ」
“どういう意味……?”
「単純な話だよ。あれこれ浅知恵こねくりまわす暇があるんだったら、初っ端から突っ込んだ方がいいって事だ」
「ですが部長、それこそリオ会長の思うツボでは……」
「だから作戦が必要つってんだよ。──正確には陽動作戦か」
“陽動作戦……?”
「このゲームの勝利条件は単純明快だ。あたしらがやられる前に、あのチビを救い出す。あたしらC&Cが正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる。そうしたらリオもちろんトキ、あいつもあたしらの相手せざるを得ないだろ? その間にお前たちがチビを救え。 どうだ? 簡単な話だろ?」
「アリスちゃんを救ったら……」
「私たちの勝利……!」
「でもネル先輩、大丈夫ですか? 相手はあのチートプレイヤーだし……」
「あ? あたしを誰だと思ってやがる。あいつには一杯食わされたからな。次会ったらやり返してやるって決めてたんだよ。後はそれを実行するだけだ」
「分かった、従おう」
「うんうん! 私たちに任せて♪」
「ふふっ、精一杯頑張りますね。それではこれで決まりですね。正面は部長と一緒に私たちC&Cが担当いたします」
「後方から潜入するのはその他、ゲーム開発部と私たち……そして先生とフミかな?」
「私たちヴェリタスは遠隔で支援するね」
「防衛システムのハッキングは私たちに任せて!」
「完璧にやり遂げてみせます」
「よし、じゃあこれで行こっか!」
“うん”
「目標は要塞都市エリドゥの中央タワー! アリスが連れて行かれた場所! 勝手に家出したアリスを! 私たちの手で連れ戻すんだよ!」
“それじゃあ、これより────”
先生がC&Cを、ヴェリタスを、エンジニア部を、ゲーム開発部を。
そして最後に私を見て、告げる。
“──作戦開始!”