もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
階段を駆け下り扉を開け放ち目的のフロアへ。
「着いた!」
「ここがエリドゥ中央タワーの最上階……」
「ごくり……」
『地図によると、ここのどこかにアリスがいるはずだよ』
「そう、アリスならここにいるわ」
「あ、生リオさんだ♡」
様々なモニターが並ぶ大部屋で、リオさんは静かに佇んでいた。
私たちが来る直前まで見ていたであろうモニターには、倒れたトキさんの姿が映っている。
返す返すも情が深い♡
「会長……! まだ戦うつもり!?」
「いいえ。トキが倒れた時点で、私が持っている手札はすべて消えた。認めましょう……私の負けよ」
“リオ……”
「本当に……貴女たちはここまで来たのね。近い将来、キヴォトスの脅威になる事が確定しているあの子を救うために……遮るものを、すべてを薙ぎ払って……」
「当たり前だよ! 最初からそう決めてたからね!」
「アリスが、キヴォトスに終焉を招くとしても?」
「急に何? アリスの事そんな風に言わないでよ!」
「私は、ただ……」
“リオが何を根拠に動いたのかは分からない。でも、一つだけはっきりと言えるよ。リオは、誰にも相談せず、一人で全てを判断して結論づけた。そして、君が正しいと信じる事を他人に強要した”
先生の言葉に、リオさんはその綺麗な顔を小さく歪めた。
胸の奥の柔らかい場所に、チクリと痛みが走ったような顔をして。
「先生……貴方も、私の行動が独善だと言うの……? でも……私は……!! 私、は……」
『先生、アリスの場所が分かったよ。その部屋の奥に、電力が集中する施設があるはず。アリスはそこにいる』
「ミドリ! ユズ!」
「うん! お姉ちゃん!」
“……リオ、続きはこの後にしようか”
言葉が小さくなるリオさんを残して、三人が駆けていく。
先生もその後を追う。
私はと言えば、リオさんに歩み寄っていた。
それに気付いて伏せられていた顔が上がる。
「……貴女も、私を──」
何か言いかけたリオさんを抱き寄せ、背伸びして無理矢理その頭を撫でる。
突然の行動にびくりと身体を固まらせたリオさんはなすがままに頭を撫でられ、徐々に状態を倒して膝を付く。
高さがちょうど良くなったので顔を私の胸に押し当てて撫でこ撫でこ。
「リオさん、頑張ったね。えらいえらい♡」
「…………は」
「やり方は過激だったかもしれないけど、みんなを守る為に一人で頑張ってくれたんですよね。ありがとう、リオさん」
「……やめてちょうだい」
「ん、取り敢えずみんなの所へ行きましょうか♡ はい、お手々にぎにぎ♡」
華奢な指に私の指を絡めて歩き出す。
リオさんはまだ衝撃から復帰出来ずに、手を引かれるがまま付いてきた。
入った部屋の中、アリスちゃんは大きな椅子に座り眠るように目を瞑っていた。
モモイちゃんたちが呼び掛けているけど反応が無い。
すると突然全てのモニターの電源が落ちる。
戸惑うみんなの顔を、再び点灯したモニターの光が照らし出す。
そのモニターには大きく《Divi:Sion》と表示されていた。
『ぃま……急に……な……が……!? 通信が……き……、……み……な……応答……!?』
“チヒロ……!”
ぶつり、と通信が切れる。
ここに来て仕掛けてきたかぁ。
リオさんに頷き手を離すと、すぐさまコンソールを叩いて手元のディスプレイに写る文字列を追いかけていく。
電子戦だと私は手出し出来ないから応援するしかない。
「エリドゥ全体をハッキングしてきた……いえ、こらは単純なハッキングじゃない……? 都市全体が何かに変貌していっている?」
「変貌って……ウイルス感染によるゾンビ化みたいな?」
「こんな事してる場合じゃない! 早くケーブルを外してアリスを……!」
「その行為は推奨しません」
予期せぬ声に動きを止めるモモイちゃん。
見ればアリスちゃんが顔を上げていた。
でも、その瞳は淡い赤色に発光している。
「現在《王女》の表層人格は内部データベースの深層部に隔離されています。強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起こるでしょう」
「アリス!? 一体何を……!?」
「お姉ちゃん、これアリスちゃんじゃないよ……!」
「アリス……? それは、貴女たちが私たちの王女を呼ぶ際の名称……。王女に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します」
「何を言ってるの!? ねえ、あなたは誰! アリスちゃんを返して!」
「いや……違う。私たちは、これを知ってる……」
「ふ、フミちゃん……?」
この言葉の使い方、文のリズム、そして雰囲気。
私たちは既に出会っている。
アリスちゃんを連れて廃墟へ向かったあの時に。
システムとして語り掛けてきた、あの相手。
「私の個体名は《key》。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ鍵です」
“……なに?”
「彼女は王女であり、私は鍵。それが私たちの存在であり目的。今、私たちを妨害していた攻撃が止まった事を確認しました。只今よりエラーを修整し、本来あるべき玉座に王女を導かせていただきます。AL-1Sに接続された利用可能リソースを確保するため、全体検索を実行。リソース領域の拡大。リソース名、要塞都市エリドゥの全体リソース──10,000エクサバイトのデータを確認。…………現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。コード名《アトラハシースの箱舟》起動プロセスを開始します」
「アトラハシース……!?」
大きく一度、部屋が揺れた気がした。
聞いている限り、愉快な事にはならなさそうだ。
どうにかして横槍を入れたいけど、背中側からアリスちゃんに繋がっているらしいケーブルには手出し出来ない。
そうこうしている間に、事態は次の段階へ進む。
「プロセスサポートのため
その声に合わせてリオさんの手元のディスプレイにエリドゥ各地に侵入してきたあの奇怪なロボットの姿が見える。
軍勢の名にふさわしい物量だ。
「……エリドゥ各地で、追従者の出現……?」
“リオ……一体これは何が起きてるの? アリスは……”
「いえ、そんなはずが……私の計算は……でも……! 私は……キヴォトスに終焉がもたらされることを懸念して、この要塞都市エリドゥを建設した。私が動員できるミレニアムのすべての技術と力、エネルギー、そして資源をここに集めたというのに……。けれど……むしろ、そのせいで……この都市が……終焉の発端に……」
ふらふらと倒れそうになるのを支える。
つまり──備えていたものを丸々利用されている、と。
相手の物資を奪って利用するのはシミュゲーでもよくやる常套手段だ。
やられるとムカつくし厄介だけども。
「私は──間違っていた……?」
「箱舟製作に必要なリソース確保23%………………46%…………」
「先生! このままでは……! このまま、エリドゥのすべてのリソースを奪われてしまったら、キヴォトスが終わってしまう。決断を下さなければ……!」
決断。
それはこの騒動の最初から投げ掛けられていた問い。
すなわち、アリスちゃんを助けるか、犠牲にするか。
やがて来る脅威の芽を摘む為の、という時間は過ぎた。
目前の亡びを避けるために一人の少女を犠牲にするのか否かを、今問われている。
「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された。無名の司祭の要請により、この地に新しい《サンクトゥム》を建立する。その到来で初めて、すべての神秘はアーカイブ化され──」
「このままでは、世界が滅びる……!!」
ぐっ、と歯を食いしばり立ち上がるリオさん。
コンソールを叩いてまだハッキングされていないAMASを呼び出すと、先生に向き直る。
「みんなと一緒に逃げてちょうだい、先生」
“逃げてって、リオ……いったい何を”
「今からこの都市自体が変貌し、箱舟という新しい概念に歪曲される。そうしたら、このキヴォトスは……。私のせいよ……。私がこの都市を作らなかったら、最初からこんな事にならなかったのに……。私が……私のせいで……」
顔を伏せるリオさん。
私たちが邪魔をしたからとは言わず、ただ自分の至らなさを責めてその結果を背負おうとしている。
色々と出来るからこそ、全部自分一人で完結させてしまう癖がある。
でもそれに耐えられる訳ではなく、握られた拳は小さく震えている。
目の前に迫った滅亡への恐怖に。
同じミレニアムの生徒となった少女を手に掛ける罪悪感に。
誰にも理解してもらえない孤独に。
それでも一人で立ち向かわないといけない寂しさに。
そしてみんなが笑い合える幸せな未来の為に。
リオさんは真っ直ぐ前を向いた。
……こんな姿見せられちゃったらさぁ、ねぇ?
先生に目を向ける。
私からの視線に気付いた先生は困ったように眉根を下げて力なく笑う。
本来ならこんな重責を背負わせる事なく日々を穏やかに過ごして欲しかった。
ましてやこの期に及んで生徒に責任を背負わせてしまうような教師が、震えながらも立ち向かう子どもに全てを投げ付けて逃げ出す大人が居るものか。
そんな自分への憤りを目に浮かべて、先生は私に頷いてみせる。
「……私一人で、システムを止めてみせるわ。私の命一つで……世界の終焉を防ぐことができるというのなら……そうするわ──そうしなければならない。早く!! これは極めて理論的な選択よ、先生!!」
“…………トロッコ問題について、話していたよね。トロッコ問題には二つの選択肢しかかい。君はそこで犠牲の少ない方を選ぼうとしていたわけだし”
「私は……」
“……それが君の優しさなんだね、リオ。ても二つの選択は、誰かが犠牲になる結果しかないのであれば……私は、その設問自体が間違っていると答えるよ”
「それは……問題の答えではないわ、先生。ただの詭弁よ。思考実験の前提条件を否定するのは、ただの屁理屈でしかないわ」
“レバーを引く人が、見落としたものがあるんじゃないのかな? 本当に周囲に手を差し伸べてくれる人がいなかったのか、とか”
どこまでも穏やかに語る先生に、リオさんは少しずつ表情を変えていく。
そんな二人を意に介さぬように鍵の声が静かに響く。
「…………73%…………89%……リソース確保99%……」
“私は、全員で力を合わせて全てを救う選択肢を選びたい”
「そ、そんな選択肢は無いわ……」
『ノア、今よ! 電力という電力を全部落としちゃって!』
『は~い、ユウカちゃん。その言葉を待ってました♪ えいっ!』
通信に割り込んできた頼もしい声。
それに合わせて部屋から明かりが奪われ、数瞬の後非常用の電灯が部屋を照らした。
動作中の機械の電源を止めたらどうなるのかは、流石の私でも分かる。
聞こえてきた声には僅かばかりの苛立ちがあった。
「……リソース確保失敗。システムシャットダウン」
『みんな、大丈夫!?』
「ユウカ……!」
「ノア先輩!」
「こ、ここには、どうやって……?」
『状況が普通ではないことはよく分かりました、先生!』
『最初は都市の位置を伝えるだけで、手を引くつもりだったのですが……ふふっ、ユウカちゃんが、やっぱりそれだけじゃダメだって、最後までなんとかしないと。って言ってましてね?』
“さすがユウカ! タイミング完璧だったよ!”
「さすユウ♡ 帰ったら抱っこしてください♡」
『これくらい当然です。フミは抱き枕にしちゃうから覚悟しておきなさい♪ それより、会長!!』
名指しで呼ばれ、リオさんの肩がびくっと跳ねる。
ユウカさんのお説教モードはセミナー会長でも怖いらしい。
あっ、私の背中に隠れようとしてるけどリオさん大きすぎて色々はみ出てる♡
『セミナーの予算を横領してこんな都市を作るなんて……後で説教ですよ! 覚悟しておいてください!!』
「……ユウカ」
「リソース確保プロセスエラー。緊急状況発生Divi:Sion電源、プロトコル実行者を保護するためエリドゥ中央タワーに集……」
大きく一度、何かの衝撃が伝わってきた。
ふらつくほどではないけど、結構大きく足元が揺れる。
「……邪魔者? そんなことはないはずです。都市内の残存兵力はゼロ。倫理エラー発生。確認のため、画面を表示します」
中央モニターの映像が切り替わり、エリドゥの一区画を映し出す。
Divi:Sionの兵隊たちの姿が映ったかと思えば、次の瞬間には大きく吹き飛ばされていく。
カメラが動きロボットたちとは反対側の道路を映すと、そこには特徴的なシルエットの勇者が立っていた。
「あっ、あれはまさか……!」
“……アバンギャルド君とエンジニア部!!”
『怪しい気配を事前にキャッチ! エンジニア部が華麗に復活しましたよ〜!』
『あちこちに不思議なセンスの機械がいっぱいあるね』
『おそらくこれが……会長が言っていた、廃墟から溢れた脅威なのだろうね。ふふ……ならば私たちも負けていられないね。相手が廃墟から這い上がってきた怪物なら……こちらは宇宙を目指す技術者。私たちには、マキが監修したデザインセンスで武装した味方ができたところでね』
『はい! 敵の敵は味方! 私たちが改造した敵も味方! です!』
『うん……特に、今後の宇宙戦艦でも使える火力兵器をつけたから』
『いくら廃墟の怪物だとしても──アバンギャルド君Mk.2の敵じゃあない』
「アバンギャルド君……」
“Mk.2……!!”
『それでは、行こうか! 突進ー!』
『はい! 廃墟のザコをお掃除しちゃいましょう!』
『お〜!』
三人の掛け声とともに《角付き》となったアバンギャルド君が突撃していく。
多連装ロケット砲、ガトリング砲、グレネードランチャーを巧みに操り次から次へとロボットをスクラップへ変えていく。
圧倒的な機動力と火力を前に、ロボットたちは有効打を放てぬまま散っていった。
いや、アバンギャルド君を味方にしちゃうとかアツ過ぎ♡
これだからエンジニア部のファンは辞められない♡
「アバンギャルド君を改造して……宇宙戦艦を……え? 何言ってるの?」
「モモイちゃん♡ 深く考えてはいけない♡」
“宇宙戦艦なら仕方ないよ! だってみんなのロマンだから!”
「えっと……先生が何をおっしゃっているのか、よく分かりません……」
「ミドリちゃん、それは男の子特有の感性だから否定せず見守ってあげて♡」
「理解不能。状況判断不可。命令修整および再実行。追従者は想定外の兵力と戦闘を避け、エリドゥ中央タワーへ集結……」
「申し訳ありませんが、その子たちはここまで来られませんよ。タワーの入り口でしたら、エイミとC&Cのメンバーが塞いでおりますので」
車椅子を稼働させながら現れる、白い少女。
さては良いタイミング見計らってましたね?
“えっ? ヒマリ!? なんでここに!?”
驚きの声を上げる先生。
彼女こそ元ヴェリタス部長にしてミレニアムで全知の称号を持つ天才うんたらかんたら、明星ヒマリさんだ。
名乗り口上は毎回長いので是非カットしてもろて♡
身体が弱いから車椅子に乗ってるけど、モモイちゃんに負けず劣らずの豪快さと行動力を持っている。
部員のエイミちゃんをよく振り回しているらしく、アイスの差し入れを持っていくと毎回コントのようなやりとりを見せてくれる。
そんな頼れる先輩が堂々とエントリーだ。
「うふふっ、なんだかんだありまして〜とでも言いましょうか?」
「ヒマリ……貴女、逃げたんじゃ……」
「逃げるだなんて……なんと寂しいことを。この先の状況について、ある程度見当がついておりましたから。隔離施設を抜け出した後、急いでここに来たのです。リオのことですから……また事件を引き起こすだろうと予想していたのです。どうですか? ふふっ──当たりましたか?」
ちょっと意地悪そうに笑うヒマリさん。
それに対してリオさんは目線を逸らしながらもちょっとむくれた雰囲気をしている。
よしよし、私はリオさんの頑張りを知ってますからねー♡
軽く頭をぽんぽん撫でると、服の裾を握る手が少し強くなった。
「さて、これがKey……無名の司祭のオーパーツを稼働させるためのトリガーAIですね。このまま放っておけば、きっとアリスの人格はKeyに置き換えられ……無名の司祭が望む通り名もなき神々の王女として覚醒することになるでしょう」
「そ、それじゃあ……!」
「!! ヒマリ先輩、それって……」
「アリスちゃんは、このまま……」
ゲーム開発部三人の不安げな表情。
それを見てヒマリさんは安全させるようにゆっくりと話を続ける。
「もちろん、それを防ぐ方法もあります」
“……一体、何をすればいいの?”
「事態は一刻を争います……既に、無名の司祭は動き出しておりますから。ですから、無名の司祭が到着する前に、まず私たちの手でアリスを──Keyの起動でデータベースの深部に隔離されてしまったアリスを起こすのですそうすれば、この事態を止める事ができるでしょう」
今、アリスちゃんは眠りに就いている。
その身体を代わりに動かしているのはKeyだ。
なら、アリスちゃんを起こせば身体の主導権はアリスちゃんに戻る。
そうすれば、私たちの勝ち。
プロトコルの実行なんて物騒な事を心優しい勇者は望まないだろうから。
「そんなこと……本当にできるの?」
「アリスちゃんを連れ戻せるってことですか!?」
「できますとも。リオ、ダイブ設備くらいありますよね?」
「ええ、あるわ。……でもそんな事、現実的にできるわけ……!」
“あれ?”
「危険すぎる。たとえアリスの精神世界に侵入できたとしても、下手すれば二度と戻って来れなくなってしまうのよ。そもそも、そんなこと一体誰が──」
「現状、アリスを連れ戻せるのはゲーム開発部と先生しかおりません。危険が伴いますが……それ以外に方法はありません」
「……やります」
リオさんとヒマリさん、二人の天才が検討する最中で一つの声が上がった。
小さく震えていた身体は堂々と伸び、伏せられがちだった顔は真っ直ぐ前を向いている。
ゲーム開発部部長として、アリスちゃんの友達として。
覚悟を決めたユズちゃんがそこに居た。
「アリスちゃんを……連れ戻せるのなら」
それを見て、ヒマリさんは微笑みを浮かべながらリオさんを見遣る。
「ほらね? それでは、私が今からアリスの精神を分析して隙間を作ります。みなさんはアリスの精神世界に入って、彼女を連れ戻してきてください」
その言葉に力強く頷く三人。
先生も決意を胸に微笑んでくれた。
“分かった、行こう!”
「ええ、それでは始めましょう」
リオさんとヒマリさんがコンソールを操り次々と文字列を処理していく。
私は三人へと近付き、そのまま纏めてハグをした。
「わわっ、フミ?」
「私はここまで。最後のイベントはみんなにお任せしちゃう。だから一言。……行ってらっしゃい♡」
「フミさん……」
「……うん、任せて」
「「「行ってきます!」」」
その後、勇者はパーティーメンバーの助けを受けて、無事帰還する事が出来た。
キヴォトスの終焉は回避され、各々はまた騒がしくも愛おしい日常へと帰ってきましたとさ。
「って、昔話みたいにめでたしめでたしで終われば良いんですけどねぇ♡」
「仕方ないわ……始まりがあれば終わりがあるように、下準備があれば後始末もあるもの」
「エリドゥ周りはヒマリさんが色々有効活用してくれるみたいですから、後はユウカさんのお説教ですかね♡」
「……それが一番の難題だわ」
ミレニアム某所。
外からは検知出来ない地下の秘密基地で私とリオさんはのんびりティータイムをしていた。
あの後リオさんは行方を晦ませて表舞台からはしばし退場する事に。
騒動を巻き起こした自分が変わらずトップに居るのは宜しくないと考えて身を引いた、との事だけどユウカさんのお説教から逃げてるのも半分くらいありそう。
怒ると怖いもんね♡
「それにしても、ここまでして私と接点を持とうとするなんて……」
「良いじゃないですか♡ 学年は違えど友達なんですから♡」
「友達……」
事前に手配していた秘密基地へリオさんをこっそり招待し、有事の際に協力してもらえるようにこちらの情報も余さず教えた。
今回の騒動でも最大の変数となった先生を狙う輩が出て来ないとも限らない。
キヴォトスや後輩たちを守ろうと奮戦したリオさんが仲間になれば、これほど心強い事もないからね。
「それにアバンギャルド君の次世代機とかも気になりますし♡ 今度はどんなアセン組みます? 逆関節二脚? それとも砲撃用に四脚?」
「……四脚で格闘戦もこなせるように作ってみようかしら。キヴォトスではどうしても交戦距離が遠くなるから、逆に近付いて戦う事で相手の有利を潰すのも良いかもしれないわ」
「格闘戦が出来るアバンギャルド君……カッコよさそう♡ 肘や膝に小型スラスター付けて打撃時に加速させます?」
「良いわね、一案として検討するわ」
「やたー♡」
敵として出てきた時もなかなか手強かったアバンギャルド君がパワーアップして味方になるとか激アツだよね。
改造されたMk.2はエンジニア部に保管されてるけど、データは収集したから新しいアバンギャルド君を作るのになんら支障はない。
完成が楽しみですにゃー♡
「それと……これを、貴女に」
「んぅ?」
リオさんが何やら小さな袋を差し出してきた。
中身を取り出してみると、可愛らしくデフォルメされたアバンギャルド君のキーホルダーが。
「きゃーっ♡ なにこれ可愛いー♡ え、もらっちゃって良いんですか♡」
「ええ、貴女のために用意してみたの。気に入ってもらえると良いのだけれど」
「最高ですっ♡ 嬉しいー♡ リオさん好き好き♡♡」
「きゃっ、ちょっ……!?」
嬉しさのあまりリオさんに飛びついてむぎゅむぎゅ。
頬ずりもしちゃうぞー♡
ふにふにもちもち♡
リオさんはこういうスキンシップに慣れてないのか、両手を所在なくわたわたさせている。
抱き締めてくれて良いんですよ♡
たっぷり抱擁を交わして離れると、リオさんの顔が少し赤くなっていた。
照れ顔も可愛くてステキ♡
「もう……突然こんな事……困るわ」
「イヤでした?」
「…………イヤでは、ないけど」
「じゃあまたリオさんへの好きが溢れたらむぎゅむぎゅさせてください♡」
「…………お手柔らかに頼むわ」
「にしし、はぁーい♡」
という訳でリオさんが仲間になった!
先生への直通番号も教えておくけど、現状リオさんにコンタクトを取れるのは私だけ。
何かあったら気軽に呼んでほしい。
「それこそ、食べたいメニューがあるとか一人で寝るのが寂しいとかでも良いですから♡」
「そんなに子どもではないわ」
「ならゴミの片付けや栄養バランスの取れた食事を心掛けてくださいね♡」
「……善処するわ」
「次来た時に出来てなかったら《賢いモモイちゃん》として扱いますからね♡」
「待ってちょうだい。そこまでなの!?」
「お世話が必要なのはトキちゃんから聞いてますからね♡」
パーフェクトメイドことトキちゃんは現在C&Cに居る。
けれど基本的には待機なので暇を持て余してはシャーレに遊びに来て一緒にお菓子やご飯を食べたり、一緒に先生で遊んだりしている。
呼び方もトキさんからトキちゃんに変わり、先生のハーレムにも勧誘済みだ。
そのまま置いてきてしまった事を気にしていたらしく、トキちゃんの近況を聞いたリオさんは少しほっとしていた。
「色々整理出来たら、またみんなで一緒に過ごしましょう♡ ユウカさんのお説教の時には側にいますから♡」
「それは……とても頼もしいわね」
「あ、リオさんが笑った♡ スゴい可愛い♡」
「……可愛くなんて、ないわ」
「普段カッコよくて綺麗なのに可愛いとかズルい♡ おらーむぎゅむぎゅー♡」
「きゃ、ま、またなの……!?」
たっぷりリオさんを堪能して元気をもらった。
今回は一人で頑張りすぎちゃったけど、今後はみんなと協力して出来ることを増やしていければ良いな。
それはそれとして、ユウカさんへのメッセージがごめんなさいだけなのは流石にロックすぎると思う♡
「おじゃまー♡」
「あ、フミ! いらっしゃいです!」
「ぐわー♡」
ゲーム開発部の扉を開けると、元気いっぱいのアリスちゃんが飛び込んできた。
抱きとめてくるくる回ってソファーにダイブ。
やんちゃな勇者のおでこに祝福のキスを落とす。
「ちゅー♡ 今日も元気だねアリスちゃん♡」
「ひゃあん♪ えへへ、フミに会えて気力回復です!」
「アリスちゃん、独り占めはダメだよ……! フミちゃん、いらっしゃい……♪」
「フミさんいらっしゃい、お待ちしてました♪」
「フミ! お菓子!」
「もう、お姉ちゃん!」
「お菓子配達botと認識されてそう♡ 今日は栗羊羹を持ってきたよー♡ 一番最初に手を洗ってきた子には角の美味しいところをあげちゃう♡」
その言葉にわっと流し台へと殺到する四人。
くすくす笑いながらその背中を見ていると、先に来ていた先生がテーブルにお皿を並べてくれた。
“フミ、お疲れ様”
「せんせーもお疲れ様♡ みんな元気いっぱいで振り回されてない?」
“あはは、それもまた先生の醍醐味だからね”
「楽しんでるならヨシ♡ さ、せんせーにも角っこあげるから手を洗ってきて♡」
“やったー! フミ愛してる!”
「にしし、私も愛してますよ♡」
「あっ! フミと先生がイチャイチャしてます! アリスも間に挟まります!」
「やめなよアリス!? カップルの間に挟まるのはキヴォトスでは恥ずかしい事なんだよ!」
“いや、カップルではないからね!?”
「みんなハーレムだからいつでもどこでも混ざって良いのよ♡」
「あっ、そっかぁ」
“モモイも納得しないで!?”
「なら遠慮せず、どーん♪」
「私も、えいっ!」
「わ、私だって……!」
“うわーおしくらまんじゅう!”
「先生が潰れちゃう♡」
「じゃあ私はフミに寄りかかろうっと!」
「お、モモイちゃんいらっしゃい♡ ほっぺたちゅー♡」
「ひゃわぁっ!?」
「あっ! モモイズルいです!」
「お姉ちゃん!」
「モモイ……!」
「えっえっ、これ私が悪いの!?」
“ふふ、みんな羊羹の事忘れてないかい?”
「あ、そうだった。羊羹!」
先生の一言でみんな思い出したのかいそいそと席に着く。
今日は羊羹だから緑茶を淹れて、のんびりほっこり楽しもう。
一口サイズに切り分けて皿に盛り付け爪楊枝を刺す。
先生のにはイタズラでお子様ランチに建ってる旗付きを刺してみた。
「先生の爪楊枝が特別製です!」
“ホントだ、なんか描かれてる?”
「ミレニアムの校章を入れてみました♡ せんせーこういうの好きでしょ♡」
“どんどん趣味嗜好がバレていく……!”
「あはは、でも食べにくそう!」
“たしかに!”
「普通の爪楊枝もあるから安心して♡」
わいわいと賑やかに食べ進めていく。
やっぱり、ゲーム開発部は四人揃ってこそだね。
満足感に胸を膨らませながら、私は緑茶を啜った。