もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
青いはずの空。
見渡す限りが赤く染まり、世界に不穏な空気を齎している。
『クロノスチャンネル! 緊急速報です! 現在空が赤く染まる異常現象が発生しております! 更にサンクトゥムタワー上空に突如巨大な塔が出現! 塔は落下してサンクトゥムタワーと激突しました! この影響によりD.U.の通信網に影響が出ており、落下に伴う破片で怪我をした方も確認されています! 現在行政はストップ、避難シェルターへの誘導を最後に連邦生徒会からの声明は途絶えました! 市民の皆さまは落ち着いて避難シェルターへ移動してください!』
ラジオの電波はまだ生きているらしく、クロノスからの現況報告と避難指示が繰り返し叫ばれている。
ゆっくりまったりするはずの時間はこの異常現象への対処に充てられる事となった。
アロナちゃんを介して各自治区への連絡を行い、情報の吸い上げと共有を行っていく。
先生は屋上で来客の応対中だ。
詳しい事は話してくれなかったけど、いつになく真剣な表情を浮かべていた。
『おおっと! 緊急速報です!! D.U. 各地で正体不明の兵が現れました! 都市一帯を無差別に攻撃しているようです! 市民の皆さまは兵に近付かず、早急に避難をお願いします!』
そして突然始まった謎の軍勢との戦闘。
パトロールに出ていた子たちからは妙に手強い連中が手当たり次第に攻撃を始めた、と連絡が来ている。
オートマタ、ドロイド、果ては聖徒会の複製まで。
一派閥が仕掛けた攻勢にしては目的が見えなさすぎる。
現時点では情報が圧倒的に足りない。
『ああっ、は、はい……! 今しがた連邦生徒会からの緊急声明が──いえ、訂正いたします。シャーレからの声明です! シャーレからの緊急声明が到着しました!!』
「せんせーから?」
まだ屋上からは戻ってきていない。
執務室には現在私とカヨコさん、モエちゃんが詰めている。
流石に私一人じゃ情報を捌けなかったので二人にヘルプを頼んだのだ。
『……各自治区の生徒は、黒い塔の付近に近寄らず、すぐに避難してください。ここからはシャーレに任せて』
短くも、どこか安心感を与える文言。
先生の人となりを知ってる子ほど、その言葉に勇気付けられるだろう。
程なくしてシャーレに人の気配が押し寄せる。
なんじゃらほいと窺ってみればアユムさんやモモカさん、リンちゃん先輩たち連邦生徒会の室長が第一会議室へと入っていった。
サンクトゥムタワーがあんな状態だし、対策会議でも開くのかな?
あの三人は特に《シャーレ派》なんて呼ばれるくらいには先生の立場に近しいスタンスで動いてるから、今回の騒動みたいに即応が求められる場面では連邦生徒会を動かすよりも面倒が無いんだろう。
そう言えば今回のカイザーの襲撃に併せて会長代行の不信任決議なんてのも画策されていたらしいけど、急進派の不知火カヤ防衛室長がなんか取っ捕まったらしくて色々とお流れになったとか。
カンナ局長が単身カイザーの包囲を突破して先生に証拠の数々を届けたって聞いた。
めっちゃ面白そうなイベント起きてたみたい。
私も行けば良かったかなー?
「各自地区、出現した塔の周囲3km以内に居た市民の避難はほぼ完了。散発的な戦闘はあれどアンノウンの積極的な侵攻は無し、か」
「つまり火力を集中して吹き飛ばせるねぇ♪」
「多分その為の会議がこれから始まる♡」
見ればシャーレ入り口に設置したゲートから次々とデータが送られてくる。
生徒の識別の為にエンジニア部が二時間でやってくれました。
生徒の学生証を読み取って入退出の管理が出来る『見分けるゲートくん』だ。
ウタハさんのセンスちょっと可愛いな……。
『フミ、ちょっと良いかい?』
「んぅ? せんせー?」
モニターに明かりが点り、第一会議室の映像が出る。
画面の中央で先生が手を振っていた。
映像越しでもカッコイイ♡
「はいはーい♡ せんせーのフミちゃんですよ♡」
『これから会議を始めるんだけど、カヨコと一緒に来てくれる? モエには引き続き情報整理をお願いするね』
「だって♡」
「私は大丈夫」
「首脳会談ってやつ? 頑張ってきてね〜」
何も無ければ会議が終わるのをのんびり眺めてるつもりだったけど、ご指名とあらば吝かでない。
モエちゃんに後を任せて、早速執務室の外へ。
ロッカーから装備を取り出して装着、ついでにカヨコさんと恋人繋ぎでむぎゅむぎゅ。
「うむうむ♡」
「手を繋ぐ下り要る?」
「要ります♡」
「ふふ、甘えん坊なんだから」
「にしし♡ カヨコさん好き好き♡」
仲良くお手々を繋いで第一会議室へ。
室内には先生と先程の三人が居る。
どうやら私たちが一番乗りみたいだね。
手を握って入室した私たちを見てリンちゃん先輩は一瞬呆気に取られた顔をして、何やら深い溜め息を吐いていた。
ラブラブさに当てられちゃったかな?
先生の隣にカヨコさんが座ったので、私はカヨコさんの足の間に腰を下ろす。
「ちょっとフミ」
「にゃーん♡」
「よしよし♪」
すちゃっとネコミミカチューシャを付けると、何かを言いかけていたカヨコさんも笑顔になって頭を撫でてくれた。
みんなが来るまでは甘えんぼフミちゃんです!
そんな私たちを見て、リンちゃん先輩はズレたメガネを押し上げながら口を開いた。
「……フミさん」
「はいなー♡」
「…………会議が始まるまでですからね」
「はぁーい♡」
“リンちゃんが折れた!?”
「誰がリンちゃんですか。そして先生、これは貴方の日頃の教育の結果でもあります」
“生徒たちが気兼ねなく笑い合えるなら私は満足だよ”
「節度は守ってください」
“もう無いんだよね……”
「先生? 遠い目をしないでください」
先生とリンちゃん先輩のやり取りを横目に、カヨコさんに撫で回される私。
あっ、お腹に手を当ててくるくる撫でるのダメですっ♡
うにゃーん♡
「フミ吸いも悪くないかも」
「きゃーいっぱい吸われちゃう♡」
むぎゅっと右手で抱き締められて後頭部の辺りを吸われる。
幸せいっぱいで照れちゃうね。
密着ラブラブしているのを見てアユムさんとモモカさんはちょっと居心地悪そう。
二人もリンちゃん先輩にくっつけば良いのに♡
そんな風にカヨコさんとイチャイチャしていたら扉がヌッと開いた。
姿を見せたのはユウカさんとアコさん。
ユウカさんはカヨコさんに抱き締められてうにゃうにゃしている私を見て一瞬硬直して、そのままヌンヌンと大股で近付いてきた。
「ちょっ、なに……ネコミミ!?」
「ユウカさんこにゃちゃわー♡ みんなの心の妹猫、フミにゃんだよぉ♡ うにゃうにゃ♡」
「グハァッ!?」
仰け反ったかと思えば胸を抑えて屈み込むユウカさん。
何か柔らかい所にクリティカルヒットしたらしい。
これは追撃せざるを得ない。
でもやり過ぎたらお持ち帰りされそう♡
そんな事を考えていたらカヨコさんが私をむぎゅっと抱き締めながら頭を撫でてくれた。
心がぽかぽかしちゃう!
「にゃーん♡」
「ふふ、可愛いでしょ。私のネコちゃんだよ」
「っ、いやいや! フミは私の妹です! なんなら今妹猫になりましたから!!」
「そうなんだ。でもフミは私のネコちゃんだよ」
「くっ……これ見よがしに撫で回して……! フミ、こっちいらっしゃい! 膝枕してあげる!」
「魅力的なお誘い♡」
「私から離れちゃうの、フミ?」
思わず立ち上がろうとした所でカヨコさんの寂しそうな声が耳にかかる。
右手でほっぺたを優しくくすぐられて誘惑されてる。
対するユウカさんは隣の椅子に座って両手を広げ、満面の笑みを浮かべている。
先生より先に修羅場が!!
「う、うにゃーん……♡」
「フミ、行かないで」
「フミ、いらっしゃい♪」
「にゃうにゃうにゃうにゃう……♡」
“珍しい、フミが本気で戸惑ってるよ”
「誰にでも好き好き言ってるからですよ。自業自得ですね。先生もフミさんを反面教師にして大人しくゲヘナにいらしては如何です?」
“反面教師にしたらみんなに塩対応になるよ?”
「あら、そんな事をしたらみんな先生から離れて行きますね。仕方がないので私が傍に居てあげますから感謝してください」
“アコは優しいね”
「見てないでたちけて♡」
“このまま眺めているのも良いか”
「「フミ」」
「にゃうーん……♡」
くっ、モテる女はツライぜ!
取り敢えず二人の間にもう一つ椅子を出して二人と手を恋人繋ぎにする事で何とか許してもらった。
先生には今度足つぼしよう。
と、そこへハナコちゃんとアヤネちゃんが談笑しながらやってきた。
こないだのアビドス旅行で結構仲良くなったみたいで、時々オススメの本を教え合ってるらしい。
ハナコちゃんは私の姿を見て、にっこりと微笑む。
ハッ、弄られる予感♡
「あらあら……可愛らしい子猫ちゃんですね♡」
「ええっと……フミさんはいったい何を……?」
「たちけてー♡ ちたぱた♡」
「大人しくしてなきゃダメだよフミ」
「ほら、お姉ちゃんがおてて握っててあげる」
「くっ♡ 大人しくなってしまう♡」
「せっかくなので写真を撮っても良いですか? ヒフミちゃん達にも見せてあげたくて♡」
「ぬわー♡ やめるのです♡」
「……こうして見るとフミさんも可愛らしいですね♪」
「はい、チーズ♡」
「ぶぃぶぃ……ハッ♡ 手を繋いでるからピースが出来にゃい♡」
“みんな揃った事だし、会議を始めようか。ほら、フミを弄るのはまた後でね?”
先生の号令でカヨコさんとユウカさんが両手を離して席に着き、ハナコちゃんとアヤネちゃんもそれに続いた。
私もネコミミカチューシャを外して椅子を元に戻す。
リンちゃん先輩が手元のタブレットに資料を映してこほんと一つ咳払い。
「皆様お手元の資料をご覧ください。こちらが作戦計画書となります」
さっきまで精査していた情報が分かりやすく纏められている。
流石はリンちゃん先輩、資料作りと情報整理はお手の物だね……いや、この能力を以てしてあの仕事量なのはやっぱりおかしくない?
連邦生徒会に寄せられる業務量に改めて戦慄しつつデータを眺めていく。
「結論から申し上げますと、あの塔を二週間以内に破壊しなくてはなりません。現在、キヴォトスに出現した六つの塔。それらを今から《虚妄のサンクトゥム》と命名します」
「えーっと、つまり。あれは偽物のサンクトゥムタワーって事? まぁ、それならこの空の色も超高濃度エネルギー体の事も納得がいくけど……」
「これを……二週間以内に破壊する、と……?」
ユウカさんとアヤネちゃんが神妙な顔で思案している。
一方私はちんぷんかんぷんだ。
理解出来たのはアレを二週間以内に破壊しないとヤバいんだぜベイベーって事くらいだ。
原理も仕組みもわからんちんちん!
その辺はキヴォトスの頭脳たるみんなにお任せしちゃおう。
ふと視線を先生に向けると、先生も私と同じようにあんまり理解出来てないけど雰囲気だけキリッてしてる。
同志よ!
そんな私たちの様子を見てカヨコさんが手元のタブレットで要約を送ってくれた。
これなら私でも理解出来る。
カヨコさんに感謝の念をふみふみーんと送りつつ要約文を読み進めていく。
どうやら、アレの大元は《色彩》と呼ばれるものらしい。
古書館に情報が残っていて、セイアさんが得た情報とも相違ない。
また色彩の光には一種の精神汚染作用があるらしい。
エンジニア部が分析してくれた。
いや果てしなく優秀♡
データが足りない中で仮説を立てられる程度まで情報を引っ張り上げる手腕は正しく最高のエンジニアだ。
とは言え良いニュースばかりでは無い。
エンジニア部と協力して解析に挑むヴェリタスを取り纏めるチヒロさんの見立てでは、約300時間後にエネルギーが臨界点に到達するらしい。
その結果何が起こるかは──余り想像したくない。
世界の危機、なんて言葉が現実感を持って脳内を闊歩する日が来るとは思わなかった。
「虚妄のサンクトゥムは計六カ所存在します。アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、そして──D.U.の中心地点」
「この中ですと、D.U.のエネルギー体が一番大きいので、まずは他の五つを破壊してからD.U.の塔を処理した方が良いかと……」
アユムさんの言葉に先生が頷く。
そこへ待ったをかけたのはミレニアムの超天才美少女ハッカー。
『でしたら良かったのですが──そう簡単なお話でもないみたいですよ』
「ヒマリ先輩……!?」
『ふふふっ、ええ──ミレニアムの超天才病弱美少女ハッカー、満を持しての登場です♪』
あっ、病弱も大事なアピールポイントだった♡
私やユウカさんはすっかり慣れっこだけど、名乗り口上を初めて聞いたアコさんやハナコちゃんは困惑してる。
そういう芸なんすよ♡
ともあれ能力は折り紙付き。
全知の称号は伊達じゃない。
どうやらアビ・エシェフを装着したトキちゃんに強行偵察を指示していたみたいだけど、敵戦力が想定以上だったらしく効果的な打撃は与えられなかったとの事。
怪我はしてないみたいでそこは一安心だけど、あの火力があってなお不足とは驚きだね。
『そして面白いことに────虚妄のサンクトゥムを守っている存在。あれらは今までキヴォトスに出現した、奇怪な現象の全てが凝縮されているのです』
「どゆことん?」
『デカグラマトンの預言者、トリニティの複製、そして先日ミレニアムの廃墟で観測されたDivi:Sion──そう、デカグラマトン3番目の預言者、ビナー。スランピアに複製されたアミューズドール、シロ&クロ。聖徒の交わり、ヒエロニムス。デカグラマトン4番目の預言者、ケセド。デカグラマトン8番目の預言者、ホド』
幾つかの知らない言葉が出て来た。
デカグラマトン。
以前先生がヒマリさんやエイミちゃんと共に捜査した事件のキーワードだったはず。
まだ全容が解っていないから、と前置きして教えてもらった内容はなかなかに大変な騒動だったと記憶してる。
……私としては先生のデカマラデトントンの方が良いんだけどナー。
ふっと遠くなっていた視線を戻す。
『それぞれの守護者を倒さなければ、虚妄のサンクトゥムを破壊する事は出来ません』
「──まぁでも、要は、各地の守護者を倒せば万事解決なのよね?」
「魔王城のバリアを剥がす為のダンジョン攻略みたいですね♡」
「そういう事ですね。時間も無いですから、すぐにでも準備を──六つのエリアを同時攻撃……連合作戦を想定して動きましょう」
「そうだね、時間も限られてるし」
俄に昂揚が満ちていく。
そこへ一石を投じたのはモモカさんだ。
「みんな一旦落ち着いてよ〜。やる気があるのは分かったけどさ〜、ちょっと話聞いて?」
「モモカさんが声を上げるって事は物流の気配♡ お聞きしましょう♡」
「ありがとフミ。この作戦を進行するなら、各自地区の市民や生徒の避難先の確保、それと同時に自治区の治安維持もしなきゃいけなくなるんだよ。それだけの弾薬や物資の確保、輸送にもコストは掛かるし、なんならその物資を狙って新たに暴動や襲撃が起こるかもしれない。ゲヘナ、百鬼夜行、レッドウィンター、山海経、トリニティ、D.U.……各地から襲撃の報告が寄せられてるからね。敵は守護者だけじゃないって事」
「なんなら虚妄のサンクトゥムが顕現する前にカイザーが動いてましたもんねぇ♡ イヤな前例♡」
モモカさんと私の言葉に全員が大なり小なりうげっと眉根を寄せる。
特にアコさんの顔がしかめっ面と言って良い。
平時でもゲヘナは三十分と保たずに何か起きてるからね。
多分最高戦力たるヒナさんはこの戦いに参加する事になるだろうし、ヒナさんが居ないと知ったら暴れだす子は少なくない。
他にもブラックマーケットから成り上がりを夢見るチンピラが隙を突いて動くかもしれない。
連邦生徒会の象徴であるサンクトゥムタワーが戦場になるのだから、これほど分かりやすいチャンスも無い。
「みんな大人しくしてくれてたら良いのに♡」
『ご心配には及びません』
新たに通信が繋がる。
浮かび上がるホログラムはナギサさんだ。
何故か当人だけじゃなくティーポットやテーブルも映り込んでいる。
そんな所までティーパーティーじゃなくても良いのよ♡
『各自地区の治安維持は私たちが対応いたします。──これこそが本来、私たちの務めですので。異論はありませんよね、ミカさん、セイアさん?』
『あははっ♪ ま、そんな感じで任せちゃってよ☆ 今回はちゃーんと大人しく、ナギちゃんとセイアちゃんが言う通りに動くからさ。トリニティの方は心配しないで。もちろん……先生が助けに来てくれるなら、それはそれで嬉しいんだけどね♪ 私たちだけでも何とかなるよ。──だから任せて、先生』
『ああ。未来はもう見えないが──皆が手と手を取り合う事が肝要というのは承知しているよ』
空いた左右をミカさんとセイアさんが埋める。
久しぶりのティーパーティー揃い踏みだ。
以前と違ってミカさんはどこか吹っ切れた顔をしているし、セイアさんも健康的な顔色をしている。
エデン条約の騒動を経て、ゆっくり顔を突き合わせて話し合う機会が大事だと実感したみたい。
やはり仲良し……仲良しは世界を救う……!
と、新たに通信が繋がる。
映し出されたのはチナツちゃんとイオリちゃんだった。
今日も綺麗な脚してんねぇ!
『ゲヘナ自治区の防衛は私たちに任せてくれ』
『私たち風紀委員が、責任を持って生徒の避難と護衛を担当します』
『私たちも加勢します』
「あっ、セナさん♡」
『救急医学部……!』
セナさんの登場は想定外だったのか、チナツちゃんが驚きの声を上げる。
私と目が合ったセナさんは小さく両手でぶぃぶぃとピースサインを送ってくれる。
んんんセナさん好き♡
『その方が、風紀委員長も安心して作戦に取り組めると思いますので』
『……セナ部長、ありがとうございます』
『その代わり、チナツは救急医学部に帰ってきてください』
『……!? そ、それは……!』
『……冗談です』
両手の人差し指で口の端を上げて見せるセナさん。
場を和ます為の冗談だったらしい。
いや可愛すぎる♡
表情が余り変わらない分、ちょっとした所作が凄い可愛いんだよねぇ。
『分かりました。では、私たちも準備いたします』
『レッドウィンターの同志の事は、私たちに任せろ!』
『百鬼夜行自治区は、私たちにお任せを』
『うん。任せて、先生〜』
『修行部もいるよ〜』
『みんなの避難と救護は、私たちお祭り運営委員会が担当します!』
『はい! ちょうど社長が借りている建物もありますから! そこを避難所にするんですよね? まるでお祭りみたいでワクワクしますね! ……あ、えっと……少し、不謹慎でしたね……すみません』
『まぁ……たくさんの人をケアして、支援するわけだから……本質的には似てるの、かも……?』
『ここはぼく様たちに任せるのだ!』
『ええ。梅花園の子供たちや市民、生徒さんは私たちが責任をもって保護します……!』
『はい……! 私も頑張ります!』
『避難場所や食糧が足りなくなったら、私たち玄武商会に言ってね。こんな状況だもの玄龍門も黙ってないよ。キサキも何かしらしてくれるでしょ!』
『D.U.エリアの避難は本官たちに任せてください!』
『ま、ここはヴァルキューレの出番だよね』
『ああ、動かせる戦力は全て動員している』
『ミレニアムも問題ありません。ビッグシスターは、常に不測の事態に備えていました。それこそ、偏執的と言えるほどに。いつ来るかも分からない危機に備えて要塞都市を作り上げるほどの彼女の執念は、玉に瑕でもありましたが……ふふっ、役に立つ時もあるのですね。彼女が各地に作っていたシェルターを確保しておきました。ミレニアム自治区はこれで大丈夫かと』
続々と各自地区のみんなが名乗りを上げる。
先生が紡いできた絆が形になって顕れたみたいな気がして、思わず小鼻がぴすぴすしちゃった。
視線を向けると、先生は嬉しそうに微笑んでいる。
私が見ているのに気付いて、先生は小さく口の端を吊り上げてドヤ顔をしてみせた。
雄弁にその表情が、自慢の生徒たちについて語っていた。
自分じゃなく生徒たちを誇るのが先生らしくて良い。
なら私も、同じシャーレとして誇れるくらいに頑張らないとね。
「……大方、纏まりましたね」
リンちゃん先輩が耳にかかっていた髪の毛を払う。
ホワイトボードに投影されたホログラムが形を変えて六つの塔を映し出す。
「私たちの目標は、キヴォトスに到来した六つの塔
、虚妄のサンクトゥムを破壊すること──同時に、各自地区の避難や防衛作戦を遂行する事です。全ての作戦はシャーレの先生を中心に展開します。全自治区の防衛及び避難状況の把握。そしてサンクトゥムの攻略……全て先生の方で確認していただかなくてはなりません。大丈夫でしょうか?」
“うん、大丈夫。いけるよ”
「ひゃ〜先生も忙しくなるねぇ」
「で、ではみなさん……時計をキヴォトス標準時にご設定いただけますでしょうか?」
アユムさんが時計を鳴らして手元のマウスを操作すると、新たな画面が投影された。
キヴォトス標準時間と、最終臨界までの予想時刻。
「虚妄のサンクトゥム最終臨界点までの予想時刻は、残り14日と23時間59分59秒……」
「これが私たちに残された時間ってことだね」
「は、はい。よろしくお願いします……この時間で──作戦を立て、攻略を終えねばなりません……」
「分かりました。それでは──これより、虚妄のサンクトゥム攻略作戦を始めます」