エーデル暦1800年、極超光速航法の発見により、時間と空間を超えて、人類は宇宙へと飛躍していった。
その中で問題となったのが異星人との対話、扱う言語は当然違う、更に思考も相容れない、文化も違うとなれば対話での解決は望みの低い話だった。
しかし、人類はあくまでも対話で解決を望み実行してきた、異星人との衝突をなるべく避け、入植済みの星系に割って入らないように注意を払い、火種となる物を徹底して避けた。
それでも、宇宙という広い世界を前にしても争わずにいられない異星人もいる。
そこで人類は積極的戦争行為を認めた異星人を対象に行動する科学の粋を集めた軍隊を結成した、地球人口の約1パーセントにあたる2億人と言う数の軍人が所属する超巨大組織を設立した。
『エーデ・ガーディアン』である。
エーデガーディアンは恒星間航行、極低温または極高温下の活動を可能とした最新鋭の人型有人兵器であるサイキック・ニュークリア・ナノマシーン・ヒューマンタイプ・スーパーロボットで異星人に対抗しようと計画した。
長い名前を嫌ったエーデガーディアン航宙大将の要請により『アイネブナー』平坦にする者と言う名前で呼称されるこの兵器は既存の兵器を上回る性能を持って生まれた。
その性能の凄まじさはパイロットにその兵器の使用を戸惑わせるほどであり、あまりに常軌を逸した性能は肝心の対異星人戦で局所的な使用に留めるほどだった。
その、局所的な使用はエーデガーディアン極地観測室付き防衛部隊所属、そしてアイネブナーのテストパイロットだった、ソウヤ・ヤマガサの一例のみである。
その一例の内容は『第37エーデル星系 フェニックス領海』での敵異星人との戦闘行為である。
当時アイネブナーのテストパイロットに選ばれたソウヤ・ヤマガサ、その部下のライドウ・サニーキンの二人がアイネブナーの実地試験中に遭遇した異星人の艦隊に襲撃を受け、アイネブナーによる反撃を行った。
結果として敵異星人の艦隊は全て破壊されその後の調査から無人偵察機だった事が判明しているが、アイネブナーの主砲による一撃で艦隊を撃滅したことを受けエーデルガーディアン本部ではこの威力は計画段階での想定を遥かに上回るとして問題視し、“行き過ぎた兵器”であることを示す
E兵器に指定されたアイネブナーは資料や技術、アイネブナーそのものも全て封印し、さらなる開発を禁じた。
現在はアイネブナーから得られた知見により生み出された兵器が対異星人戦で運用され、十分な効果を挙げている。
__A2権限閲覧可能資料より
「だとよ、ソウヤ」
「勘弁してくれ、まさかあんなモンスターマシンだとは思わなかったんだよ……だってカタログスペックの一万倍だぞ! 誰がそんなの想定できるんだよ! ……と言うかライドウ、何年前の報告書を掘り出してるんだよ」
「だって俺たちももうお役御免だぞ、最後に思い出話もしたくなるだろ?」
「……そうだな、あの頃は楽しかった」
「だな……」
オレの名前はソウヤ、ソウヤ・ヤマガサ。
かつては極地観測室付き防衛部隊の隊長として働いていた、そう、働いていた、だ。
エーデガーディアン本部の決定により本日付で極地観測室は解散、同時にその防衛部隊もお役御免となった訳だ。
上の事をとやかく言いたくないが、極地観測室の人員はそのまま研究職に再雇用され、オレやたった一人の部下で相棒のライドウは解雇だ、ふざけてる。
一応は軍人として訓練を受けたオレたちなのに、オママゴトみたいな部隊に配属され、挙げ句いらないから辞めさせられる、こんなことならまだアイネブナーのテストパイロットをしていた方が楽しかった。
アイネブナーか……懐かしいな、当時は最新鋭の兵器だった、兵器と言うカテゴリーで見れば今でも最新鋭だ、搭載火器がどれも過剰気味で一発で小国の経済が傾くとか言われていた。
オレはそんなアイネブナーの最初にして最後のパイロットだ、実地試験でアイネブナーの全力運転をした時、数百の敵艦隊がものの数分で灰も残さず消えた。
前時代的に例えるなら核兵器を何個も武装したロボットで洋上の艦隊を撤退もさせずぶっ飛ばした、という話だ。これは戦争というより虐殺と思われても仕方なかった。
そう言う事情があってアイネブナーはほぼ完成していた試作機を一つだけ残して全て廃棄となった、その試作機も厳重に管理され誰も持ち出せない、大将だって無理だ。こんなもの兵器の扱いではないと開発者であるヴィクトー博士はキレていたのをよく覚えている。
「それでも、オレとしてはアイネブナーはもったいないな……」
「このトリガーハッピーめ、アイネブナー凍結はお前のせいでもあるんだぞ」
「オレ一回しか引き金引いてないぜ? もう3回くらい射ちたかったな……あの全身を貫くような音が癖になる」
「いや音なんか聞こえねぇよこっちは、宇宙空間だぞ、と言うか軍人だろ歯止めしろ」
「出来てたらアイネブナー封印されてないんですよ」
「そりゃそうだな……おかげであの時は助かったけど、代わりに目がイカれちまったんだよなぁ」
「そりゃすまんかったって……だから治療費出しただろ?」
「別に気にしてないってあの時はあれが最適解だったろ? 無人偵察機とは言え、艦隊クラスだったわけだからな……生きてるだけでラッキーだよ」
そうだ……あの時だったな、ライドウの両目が生体義眼に置き換わったのは。
思い返せばライドウには色々と負担を強いた、オレとアイツだけの部隊だったからな……何かと気を揉ませたし、オレの暴れたツケがアイツに被ったり……上司としては最悪だな、名目だけの上司とは言え何か最後にしてやりたい。
とは言ってもな。
「ライドウ、オレたちの今後はどうなると思う」
「流石に分からんね……というのも上の人たち、俺たちをクビにしたいだけじゃなさそうだからな」
「だな、アイネブナーに関わったやつが消息不明……嫌な気配がだんだん近寄ってきてる、気がする」
アイネブナーに関わった人物が次々とその消息を絶っていると言う噂が出回っている、アイネブナーを秘匿したい、と考えてもやり過ぎだ、アイネブナーにそれだけの秘密があるとも思えない、確かにカタログスペックより一万倍も出力が高い、だけどそれはジェネレータが凄かったって話で終わる、実際アレよりも出力の高いジェネレータは実戦投入されている、母艦クラスだがサイズは同じだ。
第一にテストパイロットだったオレがこうして呑気にコーヒー飲んでるくらいだ、何か別の基準があるに違いない、でも、アイネブナーがその一つなのは間違いない、一体何が起きてるんだろうかエーデガーディアン内部では。
「ソウヤ、考えたくなるのも分かるがそろそろ出よう、と言うか珍しいなお前が考え事なんて」
バカにしてるのかオレだって考え事くらいする……まぁ、確かにオレにしては珍しいなとは思う、自覚はないが意外と陰謀論にハマりそうだな、オレ。
「うるせー……ライドウ、荷物を運び終わったら飲みに行かないか、いつもの店で」
「いいねぇ、奢りか?」
「ああ、最後くらいは」
「止せよ冗談だ、最後に貸しなんて作りたくねぇよ」
「ふ……律儀なやつ」
約9年世話になった屯所から、私物も何もかも引き上げる……少しの寂しさとこれからの先行きへの不安が同時にオレに覆いかぶさるようだ。
こうして、オレとライドウの軍人としての人生は終了したわけだが、次はどうするか二人で考えるんだろうな、あとにも先にも相棒はライドウだけで、オレよりオレを知ってるのもライドウだけだから。
オレ達は自宅へ荷物を降ろして、軍人である証であるグリーンタグ(首から下げるドックタグのようなもの)をエーデルガーディアンへ返却し、自宅のある『第0エーデル星系 ソロモン領海』のコロニーにある行きつけのバーへと足を運んだ。
バーへと着いたのはコロニー時間での午後7時丁度、この時間帯はこの円筒形コロニーの天蓋が閉じる時間だ、床の振動と低く伸びた音が感じられたらそれが合図だ。
「よっ、待ったか?」
「ライドウか、オレも今さっき到着したんだ」
ライドウもタイミングよく到着した、オレの自宅からバーへの距離と、ライドウの自宅からバーへの距離は大体同じで大体同じタイミングで到着するのがオレ達の常識だ。
「なぁ、このバー……ネオン消えてないか?」
「それがな……予約の時に言われたんだが、今夜で閉店らしい」
「……マジ?」
「大マジ」
ライドウの気持ちも分かる、旧時代的な装飾とネオンがギラギラと輝いていたあのバーもいつまでも輝いているわけではないみたいだ。
悲しい、だけどマスターも高齢だった……今が潮時、マスターがそう思ったならオレ達も従うさ、ワガママ言える立場じゃないしな。
「バーも最後、俺達も最後……最後同士気前よくやろうぜ」
「ライドウ……」
「退職金はたんまりもらってんだ、普段しないことしよう、最後だからな」
ああ、そうだな、ライドウの言う通りだ、最後なんだから最後らしく派手にいこう、終わりよければ全てよしも言う言葉もある。
ライドウと二人で今夜は派手に散財しようと決めてバーへと入店する、バーはいつもと変わらず黒を基調にしたシックな雰囲気で、カウンターの向こうではマスターが手際よくグラスを拭いている、いつもと同じだ。
「やぁソウヤ君、ライドウ君」
「マスター、俺さっき知ったんだ、この店閉めるって……」
「もう私も年でね、70手前にもなると立ち仕事は辛いんだ、それにバー以外のことにもチャレンジしたくなったんだよ、ま、座ってよ、今夜は二人だけしか予約が入ってないから貸切だよ」
マスターに促されオレとライドウはカウンター席に腰を下ろす、相変わらず少し座席が小さいが、最後と思うとなんでも寂しいものだ。
「はいどうぞ」
カウンターに置かれたのは『ヴィクトーワイン』と書かれたラベルの貼り付けられたワインボトル、注目したいのはその産地だった。
「……これマジモンのワイン……?! マスターこれは?」
「サービスだよ、私は地球に友人がいてね、その友人がワインを作っていてね、最後になるから二人に飲んでもらおうと取り寄せたんだ」
「マスター……アンタって人は……」
カウンターに置かれたグラスの中身はなみなみと注がれた赤ワイン、宇宙暮らしの人間には地球産の食料品は贅沢品として取引される、今の地球は環境保護の観点から人の流入が制限されているから尚更だ。
「私はね、二人を新人の頃から観てきてね……応援したくなったんだ、ソウヤ君から聞いたよ、いや、聞いてなくともわかっただろうね、二人が軍人を辞めさせられたこと」
「ええ、そうです……俺達、何のために軍人になったのか分からないまま、終わってしまったんですよ……」
「そう言えばライドウ君の入隊の動機は聞いたことがなかったね」
「恥ずかしながら、かっこいい戦闘機に乗りたくてパイロット志望で入隊しました、結局最後まで通信係でしたけどね」
「ソウヤ君は?」
「オレは……確か、なろうと言うより、ならなくちゃと思ってなった気がしたな……」
「おいおいなんでそんな曖昧なんだよ、自分のことだろ?」
「だって軍人になろうって決めたの5歳くらいだぞ、そっから変わってないんだから仕方ねぇだろ」
「マジかお前、そんな時から変わってなかったのか……俺なんて決めたのハイスクールで暇してた時なのによ……」
__カランカラン……
「いらっしゃ__」
音が聞こえると同時にマスターの口を塞ぐように手を当て、自分の口の前に指を一本立てる、マスターはそれで察してくれて黙ってオレ達の指示を待つ姿勢に映った。
「ライドウ、任せる」
こんなに濃密な気配を感じるのは久しぶりだ、恐らく噂の連続失踪事件の関係者だろう、マスターはライドウに任せ、オレはわざとらしく音を鳴らして入ってきた不躾な人間の対応に入る。
バーの正面から入ってきたのは、黒いコートと帽子を被った推定男性の細身の人間、僅かに首元に見えるカーボン素材のインナー、恐らく筋力を補助するパワースーツを付けている。
黒コートの人間は帽子を取り、素顔を晒してオレへと頭を下げた、素顔に見覚えはないが切れ目で痩せた頬をした赤い目の男だと確認できた。
「失礼、ソウヤ・ヤマガサとは君か?」
「ええそうですが、どうですか、一緒に飲みますか?」
「それには及ばない……お前の遺伝子が欲しいだけなのでね」
「オレの遺伝子か……欲しければ取っていけ、取れるならの話だけどな」
ダンッ! ダダン!
足で踏み込む音が連続する、黒コートの男は真っ直ぐにオレの喉へと手を伸ばし飛び込んでくる、普通ならパワースーツ相手に勝ち目はないが、今日は場所と知識がオレに味方してくれている、なんせここは勝手知ったる行きつけのバーだし、アイツの装備は見覚えがある。
カウンター席から飛び出すと同時にワインボトルを逆手に持って胴体へ叩きつけるように振り抜く、オレと黒コートの男が交差し、一瞬の静寂が訪れた。
「……酒瓶で止められると?」
「止められる、試しに動いてみな」
「……!? な……動かない……!」
「オレは、極地観測室で防衛部隊の隊長をしていた……オレと相棒の二人だけのお飾りだったが……得るものもあった、例えばそのパワースーツの使い方とかだ、インナータイプは船外活動に使われる、だから動きやすく薄い」
極地観測室付き防衛部隊での仕事内容に船外活動も当然あった、大体は観測の手伝いだが修理もやってたんだ、その時使うのがインナータイプのパワースーツだ。
筋肉への負担を減らしつつその力を3倍にする、自分以外の力に動かされる感覚に慣れるまで少し時間が掛かるが慣れるとスーパーマンの気分が味わえる。
「そうだ、……だがなぜ動かない……! たかだかワインに濡れた程度で動かなくなるものではない……!」
「それはな、インナータイプのパワースーツってのは高性能だがバッテリーが弱点なんだな」
「あの一瞬で……1センチのバッテリーを叩いたのか……!」
「その通り、訓練生時代は対人訓練での成績、トップでしたから」
我ながら無茶したな、対人訓練を真面目に受けていて良かった、大体主戦場が宇宙空間での異星人とのドックファイトだからエーデルガーディアンの軍人は対人訓練を疎かにしている節があるからな、万が一に襲われても対処できるようにしていて本当に良かった。
「さてと、お前の所属を聞こうか」
「言わない」
「そう言うな、バッテリーが壊れたパワースーツは拘束具も同然、途端に硬くなる……更にここからお前を火で炙り、拷問も出来る、パワースーツは温度遮断機能なんて無いからねぇ」
ましてやバッテリーが機能しないから何もできずに焼けていく、怖かろう、人がどれだけ発展しようとも人本来の本能は変わってないんだぜ、それを極地観測室で嫌ほど味わった、もう二度と光のない星に行きたくない、寒いし暗いし精神が辛い。
「……分かった、降参だ……何もしない、だからパワースーツのバッテリーを直してくれないか、パワースーツを脱ぐ、敵意がないことを示す」
意外とあっさり降参したか、警戒しよう、何を企んでいるか分からないからな。
ハンドサインで裏に隠れていたライドウを呼びつつ、黒コートの男のパワースーツのバッテリーを取り外し、再起動して付け直した。
男はパワースーツを脱ぎその場に畳んだ、有言実行したのは褒められるが、この男何が目的か未だに分からない、それが怖い。
割れたワインボトルを捨て、黒コートの男の手首を電源コードで結び固定する、これで下手な真似は出来ないだろう。もっとも黒コートの男に目に見える敵意は見えないが、これも用心の一つ。
「……感謝する」
「本当にパワースーツを脱ぐとはな……じゃあ色々聞かせておくれよ、なんでオレを狙ったんだ」
「まず初めに言っておく、俺の任務はソウヤ・ヤマガサの遺伝子を採取することだけだ、生死は問われてないが殺す気はない」
「それで? 何処の所属?」
「言えない……と言うより言いたくとも単語に反応して舌が切れるようになっている」
この手の物理的に口封じされるタイプの組織は聞いたことがないが、それだけに秘匿性の高い組織であることは容易に想像できる、そうなるとエーデルガーディアン上層部だけが知る組織かもしれない、一応オレ達軍人の身元はエーデルガーディアンの情報統制により外部に漏れることはないはずだ、となるとこの男がエーデルガーディアン絡みだと予想するのは簡単だな。
「……てことはかなり秘匿性の高い組織だな、んじゃなんでオレの遺伝子が必要なのか知ってるか?」
「知らない、本当だ……だがお前の遺伝子が最後の鍵だと言っていた」
「お前、暗部のくせにべらべらしゃべるな? もしかして遠回しに俺たちの行動を操作しようとしてるとかじゃないよな?」
ライドウがキレてハサミを手に詰め寄る、男は冷静にライドウを見つめ言葉を尽している、どっちが悪者だと言われたら今だけはライドウだ。
「待って欲しい、ライドウ・サニーキン……俺はこの作戦に、引いては組織に思うところがあった……だからむしろこうなって良かった」
「てことはわざとソウヤに負けたってことか?」
「そうなのだが、負けるつもりはなかった……ソウヤ・ヤマガサ、俺を解放してくれ……組織には『見つけたが追い詰めたことでデブリベルトへ逃げた』と伝える、そうすればもう追われないはずだ、一応偽装もしておく、デブリベルトで事故で死んだようにする、どうだろうか?」
まさかの申し出だ、さっきの言葉と言い……こいつは何がしたいんだ? 組織に疑問を持った時点で、こいつの中で仕事に対する情熱が途切れたんだとしたら、まぁ、オレも同じことをしたかもれない。
デブリベルトと言う絶妙なポイントを選んだことで敵の目を眩ませることもできる、あそこはゴミ溜まりでシャトルの鉄くずや轟沈した戦艦の残骸なんかが数千万単位で漂う、更に残骸に邪魔されて電波系観測機器が使えない、実際に最後に逃げるとしたらあそこだろう、カバーストーリーとしては現実的なプランだと思う。
もうこの男はオレ達を狙わないだろう、そういう目をしている、だから解放しよう、その前にもう一つ聞きたいことがあるが。
「最後に、ここ最近のアイネブナー関係者の失踪はお前の組織がやったことか?」
「それは違うだろう、俺の組織の性質上他のメンバーの任務を知ることはできないが、そう言う動きが見えたことはない……一つ、アイネブナー関連で昔任務を受けたことはあるが、記憶処理でその内容までは覚えていない」
そこが違うのか、別の組織、もしくはこいつが嘘をついているか……今は保留だ、どうせ答えを見つけてもオレやライドウで戦える相手ではないだろう。
「ふーん……じゃあもういいか……言っていいぞ、あ、待て、そのワイン地球産なんだから弁償しろ」
「今は手持ちがない、だが、いずれまた会おう、その時に」
「ま、いいさ、ワインの弁償してくれるならもう一度顔を見るのも悪くないだろ」
もう一度ってことは、こいつは組織を抜けるつもりか。
「お前がそれでいいなら俺は何言わねぇ、じゃあな黒いの、ついでに俺も死んだことにしといてくれよ、ソウヤだけ死んで俺が死んでないのも面倒だからさ」
「分かった、それと俺は黒いのではない、コードネームだが『ノワール』と呼ばれている」
「やっぱり黒いのじゃねーか!」
「ふ、そうだな、さらば!」
黒コートの男、もといノワールは帰っていった、屋根伝いを飛んでいきながら、オレ達はそれを見送った。
さてと、荒れた店内を掃除しないとな……。
「ソウヤ」
「どうしたライドウ」
「えーとな、この先どうする?」
「さぁな……それはオレが聞きたいよ、ノワールはオレ達の死を偽装すると言ったが……それだけでオレ達へのちょっかいが終わるわけではないだろうさ」
「だな、どうやらソウヤは『鍵』のようだし」
「『鍵』ってのは気になる……でも手掛かりにして弱すぎるだろ」
「調べに行くか、行く宛はあるぞ」
「誰に聞くんだ?」
「頭のいい奴で、恐らく連続失踪にもある程度関わってそうな人物かな、それにエーデルガーディアンの内部にもある程度精通してそうな人物だ」
「……アイネブナー開発者のヴィクトー博士か!? ……あの人は最初に失踪したはずだが、どうやって探す?」
「ヴィクトー博士は連続失踪に巻き込まれたと思われたが……実は今は何処にいるんでしたっけ、マスター?」
待て待て『ヴィクトーワイン』のヴィクトーってまさか……!
「ええ、ヴィクトー博士は古い友人です、今は地球に居るとか……ワインを送ってくれたのもヴィクトー博士ですよ」
なるほど、なら、オレ達の進むべき道は決まったな。
「行くか、地球へ」
「その言葉を待ってたぜ、ソウヤ!」
オレ達が一体何に巻き込まれたのか知るためにも、オレが『鍵』だというノワールの言葉を確かめるためにも、そして連続失踪の手掛かりでもあるヴィクトー博士に会うため、人類の故郷『地球』へと向かう。
その先に何が待っているのか、オレ達はまだ知らないのだから。