願いの物語シリーズ【藤崎綾乃】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
無事に。というのもおかしいが無事小学校を卒業し、私たちは中学校に進学した。
そしてまぁ進学前から分かっていた事ではあるが、同じ学校に古谷君も通っている。
つまりお近づきのチャンスがあるという事だ。
これはチャンスだ……。なんて言ってもう三年が過ぎているのだけれど。
頭の中ではいつも上手く行っているのに、現実となると難しいのだ。
しかし、今年は違う。
だって私はもう中学生だ。
もうランドセルを背負ってた子供じゃない。大人の仲間入りだ。
今日からの私は、実にうまくやる事だろう。
なんて、入学式の時は思っていたんだけどなぁ。
入学から半年。
チャンスは大量にあったというのに、それを全て見逃した結果、古谷君は固定のメンバーと日々を過ごすようになっていた。
近づくには中々ハードルの高い状況だ。
それにその中にはおそらく同学年……いや、中学校全体でもトップクラスの美少女千歳紗理奈が居るのだった。
近くで見た事が何度かあるが、おおよそ同じ人類とは思えない造形をしている。
同じ人類とは思えない造形と言えば、静香ちゃんの想い人である立花光佑先輩も同じ学校に通っているのだが、こっちもこっちで色々と問題ありな様だった。
「だ、駄目だ……今日も、うっ」
「静香ちゃん。大丈夫。チャンスはまたあるよ」
熱中症で倒れた時のお礼を言おうと立花先輩に近づこうとした静香ちゃんは、あまりにも多すぎる立花先輩の周りに居る人。
そして近づくだけで睨まれるという環境に耐えられず逃げ出す様に校舎裏へ走るのだった。
私も私で厳しいが、静香ちゃんは私以上に厳しい状況だった。
何せライバルが多すぎる。
それでも静香ちゃんは可愛いし、頑張れば何とかなるのかもしれない。
でもそう考えたら私の方が悲惨だ。
だって輝くような物を何も持って居ないのだ。
どうすれば良いのだろう?
このまま諦めるしか無いか。しょうがない。と諦められるのであれば恋する乙女などやっていないのだ。
私はやる。やるっていったらやる!
そう覚悟を決め、私は何かお近づきになる手段を静香ちゃんと考える事にした。
会議場所は静香ちゃんの部屋。
二人きりの秘密会議……のはずだったんだけど。
「なんか面白そうな事やってんねぇ」
「お姉ちゃんには関係ないでしょ! 出てってよ!」
「妹が冷たいのぅ。昔はあんなにお姉ちゃん。お姉ちゃんって言ってたのに。ほら。お姉ちゃんなら、静香の悩みを解決できるかもしれないぞ?」
「お姉ちゃんには無理。だから出てって」
「えぇー」
「ね、ねぇ。静香ちゃん。話くらい聞いてもらっても良いんじゃないかな。私たちだけじゃ手づまりなのは確かだし」
「……」
私の言葉に静香ちゃんは少し考え込んでから、すごく嫌そうにお姉さんにここに居ても良いと許可を出した。
お姉さん。河合風香さんはニコニコしながら、座布団を持ってきて、床に座る。
そしてお姉さんを含めた私たち三人は並んで話を始めるのだった。
話している間もお姉さんはなるほどと言いながら頷いていたが、それを静香ちゃんはずっと冷めた目で見ていた。
しかし、お姉さんはそんな静香ちゃんの反応を気にすることもなく、手をポンと叩きながら一つの案を提示する。
「なるほどねぇ。ならさ。お菓子でも作れば良いんじゃないの?」
「お菓子ー?」
「そう。お菓子。愛情の基本は料理よ!」
「そっか。お菓子か」
確かにそれなら私にも出来そうだ。
最悪直接会わなくても、手紙とお菓子でコミュニケーションは取れる。
何だか凄く良い案の様に思えた。
私はそう考え、大きく頷いたが、静香ちゃんはあまり気にいる案では無かったようだ。
「そりゃお姉ちゃんくらい料理が上手いなら、そういうのも武器になるんだろうけどね。私程度じゃどうにも出来ないよ」
「そう? 中学生くらいの男の子なら、女の子の手料理なんて食べ慣れてないんだから、嬉しいって感じるんじゃないかなぁ。って、もしかして、中学生じゃないとか? 高校生? 大学生? あんまり年上はどうかなってお姉ちゃん思うけど」
「一つ上だよ! でも、多分、手料理とか食べ慣れてると思うし……私じゃそれは無理」
「一つ上って事は私と同学年かー。んで、手料理食べ慣れてそう……って、まさか」
お姉さんは少し考えていたが、おそらくは正解にたどり着いたのだろう。顔を引きつらせていた。
当然と言えば当然だが、あの人は同学年なら有名なのだろう。
「あの。一応確認なんだけど。静香の好きな人って、ウチの学校?」
「うん」
「野球やってたりする?」
「うん」
「……立花、光佑?」
「そうだよ。悪い!?」
「悪くは無いけど、そっか。立花君かー」
お姉さんは多くを語らないが、その顔には無謀だと書かれているのがよく分かる。
そして私の方にチラっと視線を移すと、悩み、戸惑いながら口を開いた。
「ちなみに、藤崎さんも?」
「いや、私は別の人ですね」
「あ。そうなんだ!」
「ただ、ライバルになる可能性のある人に、千歳紗理奈っていう凄い可愛い子がいます」
「千歳紗理奈、千歳、紗理奈。あぁ、あの子かぁ。そうか。あの子かぁ」
お姉さんは立花さんの時ほどではないが、微妙な顔をしていた。
そりゃあそうだろう。
中学校に通って何度千歳さんの噂話を聞いたか分からない。
その中には下品な話も含まれていたけど、それ以上に多かったのは可愛いという話だ。
おそらく、千歳さんと戦えるレベルの人なんて世界で見てもそうは居ないんじゃないかと思えるほどだ。
「そんな状態ですけど、料理で行けますか?」
「うーん。行けない事は無いと思うけどな! お姉さん的には!」
「根拠は」
「結局はライバルが少ないからだよ! 本当に美味しい料理を作るなら手間暇が掛かるから、そこが面倒な人はやらないし。私が知ってる限り、立花君は女の子からの贈り物を無下にする人じゃないから」
「うー」
古谷君の事は知らないであろうお姉さんはそこについては言わなかったが、確かに料理を作るというのは面倒だ。
それをわざわざやろうと思う人間は確かにそうは居ないだろう。
ならば、そこに時間を掛け、愛情を込め、作る事で一歩リード出来るのではないか。というのは分かる話ではある。
見た目を変えようにも中学校は化粧も禁止だし、アクセサリーだって禁止だ。
服だって制服だし。
可愛い私服を見せようにも、学校外で会う必要がある。
そこまでの仲になっているのなら、付き合うまでの苦労はそうないはずだ。
ならば、確かに今できる努力の最大限は料理の様な気もした。
「私、やってみる」
「あやのん!?」
「私は、千歳さんほど可愛くは無いけど、それでも、古谷君への思いの長さなら負けてない!」
「あやのん……」
「ねぇ、静香ちゃん。挑戦だけしてみようよ。立花さんだって断ったりはしないって言ってたじゃない。ならさ。作っても無駄にはならないよ」
「でも、変なの作っちゃったら、立花さんに嫌われちゃうかも」
「そこは味見をしっかりやろう。ほら、お姉さんだって協力してくれるだろうし!」
「そこはバッチリ! お任せ!」
「ね。どうかな」
「でも、でもさ。あの人の中に行くのは……無理。やっぱり無理!」
「そこはお姉さんが上手く立花さんを呼び出してくれるよ! 大事な妹のためだもん。ね!? お姉さん!」
「え!?」
「本当に? お姉ちゃん」
「あー。いや。それは」
「お姉さん。さっき何でも協力するって言ってましたよね」
「え。いや、その」
「お姉ちゃん……」
私と静香ちゃんは二人でジッとお姉さんを見つめた。
睨みつける訳ではなく、訴える様に見つめる。
やがてお姉さんはだぁー! と叫びながら両手を上げた。
「分かった! やるよ! 可愛い妹の為だ! 任せなさい!」
「ありがとう! お姉ちゃん」
「へへへ。ちょろいモンよ」
お姉さんはやや疲れた様な顔をしていたが、私は姉妹の事だからと意識から外し、お菓子を古谷君に手渡すコトを考え始めるのだった。