願いの物語シリーズ【藤崎綾乃】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第6話『もし喫茶店に誘っても、何てことはない。ごく普通の話だ。』

立花先輩との邂逅事件から月日は流れ、私たちは高校へ進学していた。

 

あれから何度か静香ちゃんは立花先輩にお弁当を渡す事に成功していて、私も順調に古谷君との仲を深めていた。

 

毎日お弁当を届けて、食べてもらっているのだ。

 

実質夫婦みたいな物である。

 

しかも今では古谷君の好みに完全に寄せていて、古谷君専属の料理人と言っても過言では無いだろう。

 

ただまぁ、腕に関しては正直そこまで上がってはいなかった。

 

メキメキとその実力を伸ばし、本当に料理人として働けそうな静香ちゃんとは違い、私はプロになれる程の腕はつかず、お母さんと同じくらいの腕だ。

 

という事は就職するなら普通のOLという事になるだろうから、勉強の方を頑張って、いい大学に行って、いい就職先に就くというのがベストだろう。

 

プロを目指している古谷君たちとは違い、なんとも夢の無いことだが、凡人には凡人の生き方があるのだ。

 

いや、よくよく考えれば壮大な夢もあった。

 

そう。古谷君と付き合って、ゆくゆくは……。

 

「そう言えばさ。藤崎さんって、進学はどうするの?」

 

「特にこだわりも無いし。山海高校に行くつもりだよ」

 

古谷君が進学する予定の高校だしね。

 

家から近いし、無駄に両親を説得とかする必要が無いから楽で良いよ。

 

「そうなんだ。俺も山海だし。高校でもよろしくね。とは言っても俺が受かるかは分からないけど」

 

「いや」

 

山海高校は名前さえ書ければ合格出来るって聞くし、大丈夫じゃないかな。なんて言おうとしたのだが、それを口走る前に私はイナズマの如き衝撃と共に名案を思いついていた。

 

そして、それを口走る。

 

「ならさ! 私が勉強教えようか!?」

 

「え? 良いの?」

 

「うん! ほら、人に教えると復習になって良いっていうし! 私としても受験前に一通りは復習したいしさ! どうかな!?」

 

私は一気にまくし立てながら、なんか必死過ぎか? と自分の行動に焦りを覚える。

 

少しがっつき過ぎたかもしれない。

 

引かれてないかな……。怖くて古谷君の顔を直視できない……。

 

「うーん。何だか申し訳ないな」

 

「大丈夫。何も気にしないで」

 

本当に何も気にしないで欲しい。

 

正直走り過ぎたと今では思ってるし、時間を戻せるなら発言を無かったことにしたいが、それも出来ない現状、何も気にせず受けてくれることだけが私の救いだ。

 

「分かった。じゃあお願いしようかな」

 

私は未だ姿を見た事も気配を感じた事もない神に感謝した。

 

正直存在も疑わしいとか考えてて申し訳ない。

 

まさかこの状況を一発逆転させてくれるとは思わなかった。

 

これからは正月だけじゃなくて、たまにお祈りしようと思う。

 

「たださ。弁当だってずっと貰ってるし、何かお礼をさせてよ」

 

「え」

 

「貰いっぱなしっていうのは性に合わないんだ」

 

「でも……」

 

「藤崎さん。藤崎さんが良い人なのは良い事だけど、やっぱり立場は対等な方が良いと思うよ。だから弁当の事も、勉強の事も、合わせて何かお礼させて欲しいな」

 

「それなら……その、今度、その。駅前の映画館で、一緒に見ませんか!? 映画!」

 

「映画? そんな事で良いの?」

 

私はこのチャンスを逃すまいと必死に首を上下に振る。

 

出来れば、映画の前はおしゃれな感じの喫茶店に行って、お話ししたり、手を繋ぎながら町を歩いたりしてみたいと思うのだが……まぁ、そこまで望むのは贅沢というものだ!

 

とりあえずその辺りはじっくりと距離を詰めてからにするべきだろう。良く分からないけど。

 

「うん。分かった。じゃあ、今度の休みとかどう? 空いてる?」

 

「うん。あ、アイテル」

 

「オッケー。じゃ、連絡先教えて。俺も少し調べたいから、待ち合わせ時間とかはそれから決めよう。それで良いかな?」

 

私はまたしても言葉もなく首を上下に振った。

 

古谷君は穏やかな笑顔を浮かべながら、私が両手で差し出した携帯の電話番号やメールアドレスを自分の携帯に記してゆく。

 

そして当然ながら私の携帯にも古谷君の番号とアドレスが登録された。

 

私の平凡で何の特徴もない携帯はたった今から世界遺産に登録されました……!

 

感動である。

 

この日をどれだけ夢見た事か。

 

携帯電話なんて要らないって思ってたけど、買って良かった。父と母に感謝である。

 

「じゃあごめんだけど、これから練習だから、また夜連絡するよ」

 

「うん! 練習がんぱって!」

 

「ありがとう! 頑張るよ!」

 

あれ? なんかこのやり取り彼女っぽくない? 彼女っぽいよね?

 

彼女だわ。

 

私は確信を得ながら自宅に帰り、とりあえずお弁当を洗いながら今度の休日はどうするか考える。

 

まずは服だ。それと髪も何とかしなきゃ。

 

やる事は多い。

 

私はとりあえず洗い物を終わらせて、急ぎ準備を始めるのだった。

 

 

 

そして全ての準備を完璧に……終わらせるだけの予算はなく、私が持っていた一番可愛いと思われる服と雑誌を見ながら必死に練習した綺麗なお姉さんの髪型を真似し、映画館に行く日の当日、私は駅前に立っていた。

 

出かける前に散々確認した髪も服も気になってしまい、古谷君が来る前に何度も確認して、大丈夫か確認する。

 

既に十回以上は確認しているが、不安は消えない。

 

時間が過ぎる度にドキドキと心臓は早くなってゆき、時計を確認するのだって回数は時間ごとに増えていった。

 

しかし、確認する度に時間は全然進んでいなくて、まだ時刻は一時間前を指していた。

 

来るのが早すぎるのだ。

 

でもしょうがないじゃないか。楽しみだったんだから。

 

家に居たってずっと落ち着かなかったから。それならと早く家を出ただけだ。

 

こんな状態じゃ家に居ても、ここに居ても大して変わりはしない。

 

だから一瞬でも早く古谷君に会えるかもと思って、早く待ち合わせ場所に来た。

 

ただ、それだけだ。

 

しかしまぁ、現実としてまだ一時間ここで待つ必要がある訳で。

 

私は半ば諦めた様な気持ちで立っていたのだが、奇跡が起きた。

 

なんと! 遠くから古谷君が走ってくるのが見えたのだ。

 

これは幻?

 

「ふ、藤崎さん!! 遅れてごめん!」

 

「え? え?」

 

私は時計を確認して、まだ待ち合わせの一時間前であることを確認する。

 

「まだ待ち合わせ時間になってないよ?」

 

「いや、だって、藤崎さん。ずっと待ってたでしょ?」

 

「そ、それは、そうだけど。でもそれは私が早く来過ぎただけだから」

 

「それでもさ。待たせちゃったから。ごめん」

 

それから古谷君と歩きながら話をして、どうしてこんな事になったのか事情を聞いた。

 

どうやら立花さんが偶然駅前で独り立っている私を見かけ、古谷君に事情を聞いた事で私が早く来ていた事が発覚したという事だった。

 

それを知った古谷君は大急ぎで準備をして、ここに来たという事で。

 

立花さんにありがとうと言うべきか。いや、お礼を言われても何のことやらか。

 

しかし何にせよだ。

 

今、絶好のチャンスである。

 

だって、見て! 映画まで全然時間あるんだよ!?

 

これなら、自然だ。

 

もし喫茶店に誘っても、何てことはない。ごく普通の話だ。

 

よし……。言うぞ……。

 

言うんだからな。

 

本当に言っちゃうぞ!!

 

「藤崎さん」

 

「ひゃい!」

 

「まだ映画まで時間あるし。どこかで時間でも潰そうか」

 

「そ、そうですね!」

 

「実はさ。色々調べてて、この辺りに有名な喫茶店があるらしいんだよね。そこに行ってみない?」

 

「ふぁ!?」

 

「喫茶店は嫌だった?」

 

私は全力で首を横に振る。

 

折角空から降ってきたチャンスを、離すまいと、全力で食らい付いた。

 

「オッケー。じゃあ行こうか」

 

なんて言いながら横を歩いて笑う古谷君と一緒に私は例のお洒落な喫茶店へと向かうのだった。

 

そして、知らない飲み物がズラッと並ぶ中、ほうじ茶や麦茶なんかを探すが、当然ある訳もなく、勢いで店員さんにオススメが欲しいと口走ってしまうのだった。

 

古谷君はそれ良いね。なんて笑いながら合わせてくれて、フォローしてくれる。

 

ずっと変わらない。

 

古谷君は優しいのだ。

 

「その、ありがとう」

 

「なにが?」

 

「あ、ほら。さっき。私変な事言っちゃったから」

 

「あぁ。店員さんのオススメ? いやいや。アレは俺も助かったんだよ。だってメニュー見てもなーんにも分からないからさ。どうしようかなって焦ってたら藤崎さんがそう注文してたから、やっぱり頭良いんだなぁって尊敬しちゃったよ」

 

「そ、そんなこと無いよ。ほら、私ってば勢いだけで話しちゃう事が多いから」

 

「咄嗟に機転が利くなんて格好いいと思うけどな」

 

「そう、かな」

 

「うん。格好いいよ。あ。いや、女の子に格好いいっていうのは悪いかな。ごめん」

 

「ううん! 全然そんな事ないよ。褒めてくれてるって分かるから」

 

「いや。そう言えばまだちゃんと言って無かったし。ちゃんと言わせて」

 

何だろうかと私は黙って古谷君を見ていると、古谷君が珍しくどこか言いづらそうに咳ばらいをしてから、私を見て、真剣な表情をする。

 

でも、頬は酷く赤くて、それはまるで……。

 

「今日の藤崎さん。凄く可愛いよ」

 

私と一緒に居ることを嬉しいと思ってくれているみたいで。

 

私に可愛いっていうのを恥ずかしがっている様で。

 

なんだか、可愛い。なんて思ってしまうのだった。

 

しかし、そんな私の中に小さく生まれた感情も、すぐ直後にやってきた衝撃に消し飛ばされて、私も高鳴る鼓動の音を感じながら、思わず俯いてしまった。

 

そして、視線をさ迷わせていると、窓には真っ赤になった自分の姿が映っていて、何だか酷く恥ずかしくなってしまうのだった。

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