強化人間と美少女型アンドロイドが往くダンジョン殲滅記   作:Yura0628

4 / 10
人に似て人にあらず

「なっ、頭の中に声が」

 

-動力炉オンライン 出力上昇-

 

-司令部との通信喪失 戦闘システム 即応状態へ移行 外骨格装甲展開可-

 

-警告 記憶領域に損傷を確認-

 

-警告 左半身生体組織の変質を確認 既存データと一致せず-

 

「こ、れは…」

 

機械音声が頭で鳴り響き、無数のコンソールが視界に映る。常人ならパニック状態に陥ってもおかしくない状況のはずだが、何故か()()()()()()()()()()()だ。

 

「自身が強化人間だと実感出来ましたか?」

 

クオンに言われて、数秒沈黙する。だがこの数秒の間に俺の意識には大きな変化があった。

 

「………あぁ。なんか、割とすんなり受け入れられた。さっきまで頭が疑問符で埋め尽くされてたのに、今は頭が限りなくクリアな気がする」

 

漠然とした万能感、自分の体を構成するパーツや人工細胞一つ一つが知覚出来る。これが本来の俺…ってことか。

 

「マスターの体は転移時に各システムがオフライン状態になっていました。原因は不明ですが記憶喪失と何らかの関連性も疑われます。が、今重要な事はそこではありません」

 

クオンはそこで言葉を切り、俺の目の見つめ、問う。

 

「マスター、現時点でのマスターの夢はなんですか?」

 

「俺の夢?」

 

「はい、軍から除籍されたマスターは夢を追うことができます。任務でも義務でも無い、マスターのやりたいことを教えてください」

 

俺の…やりたいこと………そんなもの、一つしかない。

 

「俺は、探索者として()()()に報いたい。たとえ原因は偽物でも、記憶喪失から立ち直らせてくれたあの人に…!」

 

脳裏に、強くなって多くの人を救えと言ってくれたあの人の姿が映る。

 

「分かりました、今のマスターにはそれが出来る力があります。ではこの力を無闇に行使しないと宣言出来ますか?」

 

「…もちろん」

 

今俺が手に入れた、いや取り戻したこの力は、多分クオン以外の殆どの存在を凌駕し得る。対して俺の精神は人工的に安定させられているとは言え、ごく一般的な青年のモノでしかない。なら大きな危険を孕むと考えるのも当然だ。

 

もし前の世界の記憶を取り戻せたらまた違うのかもしれないけど…あ、前の世界の記憶取り戻せないのかな?

 

「なぁクオン、話ぶった斬って悪いけど、一つ聞いて良いか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「前の世界の記憶って取り戻す事できない?見た感じバックアップとかありそうだけど」

 

「結論から言えば、不可能ではありません。ですがマスターの部下にして〈無人戦略戦闘兵クオン〉としては反対です」

 

不可能ではないのか。でも反対されるって事はなんかデメリットでもあるのか?

 

「なんで反対なんだ?戦闘する上では記憶を取り戻した方が良い気するんだが…」

 

「…前の世界での戦いは、地獄そのものだからです。方向はやや異なりますが、マスターがこの世界に来て2年間受けてきた不当な扱いなど塵にも及びません」

 

「………そんなに酷かったのか」

 

「はい、また軍務から解き放たれた私が望むのは、第一にマスターの生存、次いで幸せです。前の世界の記憶はこれに多大な影響を及ぼすと考えられるので、記憶を取り戻すことには反対します」

 

「……なるほどな」

 

無表情で佇む目の前の少女は、ここまで考えてくれていたらしい。感情を持つアンドロイド…自分が強化人間だと自覚しても不思議なものだ。

 

「話を戻します。マスターはこの世界で探索者として有名になり、恩人に報いたい。ならばS級探索者を目指す必要があります。低級探索者では高難易度ダンジョンには入れませんから」

 

咳払いの動きを挟み、クオンは再び話し始める。

 

「ですが無名であったマスターがいきなり力を手に入れ、さらに私という魔力を持たずとも強力な力を行使できる存在を傍に置いていたら不自然極まりないです。新しくデビューしたとしても詮索は免れず、特に後者に関してもし日本政府に感知されないまま探索者として活動していて発覚した場合、かなり複雑な状況になっていたでしょう。ですが、今居る場所は日本政府の中心、これを利用しない手はありません。…東野さん、後はお願いします」

 

ここで再びバトンタッチ、スルスル情報を飲み込めるせいで違和感が凄まじい。

 

「分かった。ではまず、理亜くんは政府探索者というものを知っているか?」

 

「一応は。確か日本にはA級が5人でしたっけ?白虎が引退したから」

 

政府探索者っていうのは殆どの通常探索者が所属する〈探索者協会〉という探索者の活動を支援する組織ではなく、政府組織に所属するかつA級以上の探索者を指す。

 

2つの主な違いとして、政府探索者は国から強力な支援を受けられる代わりに、その国に留まってダンジョン内の治安維持やスタンピード時などでは自衛隊や軍と共に戦うことが義務付けられており、反対に通常探索者は国から支援を受けられず、探索者協会による最低限の支援しかないが戦いを強制されることはない。(最も、S級探索者など高ランクの探索者には例外もある)

 

さらに言えば、政府探索者はほとんどが政府が裏で訓練した人材がなるもので、唐突に強力な探索者が現れても不自然じゃない点も挙げられるな。

 

まぁでも1番の違いは、ある程度の広報活動などはやりつつも、そのいずれもが素性を隠して活動している事だろう。要は訳アリの探索者って事だ。

 

「現在日本政府にはA級探索者は居るがS級探索者はいない。そしてこの状況が少しまずいんだ。S級通常探索者は世界中を飛び回っていて、S級モンスターが出現した際対応できる人材が日本には常にいない、大した事ないように思えるが、実際はかなり影響が大きい。S級政府探索者がいる他国に比べ、高難易度ダンジョンに探索者が入りにくくなってダンジョン産業が停滞してしまうからな」

 

確かに問題だ。高難易度ダンジョンから産出される各種資源はもはや無くてはならないもの。ただでさえ数が少ない高難易度ダンジョンでの探索活動が滞ったら影響は少なくないだろう。

 

…ここまで考えれば、東野さんが何を言わんとしてるかは自ずと分かってくる。

 

 

「よって我々は君達に、S級政府探索者になってもらいたい。対価は君達の生活援助及び他国やマスコミへの根回し。そしてクオン君の日本国籍取得だ。どうだろうか?君の有名になるという夢も叶い、我々日本政府としてもS級モンスターに対応できる存在が常駐するのは非常にありがたい。まさしくwin-winだ」

 

ここまで言われ、俺は悩む。政府探索者になれば有名になれるし、援助も受けられる。だがあの人に言われた多くの人を救えという言葉に報いるには、海外に行ける通常探索者の方が良いんじゃないか…?

 

「マスター。繰り返しになりますが、完全に詮索を避けるなら現在のリアという名前で活動を続けるのは不可能です。また新しい通常探索者としてデビューした場合でも、メディアや他国の干渉を避けられないでしょう。そうなればいずれ私が魔力を持たない事やマスターの素性にも迫られるかもしれません。もしバレた場合、国際社会がマスターと私をどう扱うかは確定はできませんが、まぁ良い結果にはならないでしょうね」

 

この意見も最もだ。それに政府探索者は国際条約で過度な干渉が禁じられてるから魔力を持たないクオンもただ強い少女で終わるはず。

 

「それに、日本の政府探索者になれば日本のダンジョン産業に巨大な貢献が出来、結果として多くの人を救うことにもなります。ですが…どちらを選ぶかはマスターに任せます」

 

(確かに、それもそうだな…)

 

その後も俺は悩みに悩んで、決める。

 

「分かりました。俺は、俺達は、日本の政府探索者になります」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。