リアル鍛冶師のおっさんが刀匠へと至るまで 作:バナナラッシー
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・こんな中年爺でも、なんとかできるもんだねぇ・・・」
さっきまでの死闘が噓だったかのように、水晶の湖は静まり返っていた。
ただ一人のプレイヤーの荒い息だけが夜空にこだましている。
「それにしたって疲れたなぁ・・・現実の体は一切動いてないってのに」
そんな思いに耽りながらテツギリは思い出す。素材を取ってないということに。
「って素材!あれがないと課題をクリアしたことにならねぇじゃねぇか!
まさかロストしたとか・・・いやでもさすがに・・・」
そんな恐怖に怯えつつ、テツギリは勢いよく起き上がった。そしてすぐさま辺りを探索する。
「素材、素材、素材・・・あ、あった!」
なんとご丁寧にフィールドのど真ん中に置かれてやがる。むき出しの状態ってのはなんか特別感がないが、このゲームはリアル志向って感じが前面に押し出されてるし、仕方ないか・・・
「昔のゲームなら宝箱が出てきたりしたんだがなー。ま、ないものねだりか・・・」
愚痴を漏らしつつ、俺はいくつかの素材を拾い上げた。
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水晶大蝦蟇が長年脱皮をすることで形成されていったもの。
ただの鋼では傷つけることすら困難で、特に剣や刀などといった刀剣類では逆に武器の方が損傷してしまう。また、水に触れると硬度が少し増すという性質がある。
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水晶大蝦蟇が今まで食らってきた水晶が凝縮し、背中に形成された物。
貫通力が高く、破壊属性が付与されている。が、その代償によるものか横方向からの衝撃に弱く、武器としての運用にはあまりにも不向きであると考えられている。
「うひゃぁ、レアそうな素材が盛りだくさんだな。でもなんか刀に向いてそうな素材がねぇなぁ・・・どちらかというと防具とかそっち系の素材に向いてそうだ」
角質鱗とか「防具に使ってください」って意図が丸出しだし。強いて言うなら水精柱が一番できそうか?破壊属性とか書いてあるし。だが脆いのかぁ・・・
「刀に耐久力を求めるのが間違ってるのか、ロマンを追うべきか・・・悩ましい問題だな」
だが今はこの素材たちをあの親方に納品しなければならない!なぜなら俺の鍛冶意欲がもう限界だと叫んでいるからである!・・・ちょっとくらい周りの水晶を掘る時間はあるよな?
「いやぁ、数は少なかったけどなかなかよさげな素材たちが取れたなー」
俺はほくほくした顔をしながらセカンディルに戻ってきていた。
だってしょうがないじゃん!周りに明らかにレアな感じの鉱石が生えてたら誰だって掘るだろ!?そう、これは不可抗力ってやつ。だから仕方ない。
「って、この工房はまだ仕事をしてんのか?いやゲームだからそういうもんなんだろうけど」
俺はいつの間にかあの親方がいる工房の目の前にたどり着いていた。
しかし、もう夜も遅いのになんでこの工房まだ鉄を打つ音が響き渡っているのだろう。
うちだってこの時間には工房は閉めてるぞ?まぁ入るけど。
「レンギンさーん、課題の素材持ってきましたよー。鍛冶の方法を教えてくださーい」
入室と同時にこんなことをのたまうのは阿保の極みだが知ったこっちゃない。
さっさとノウハウを教えやがれしろくださいってんだ。
・・・うん?なんであの強面の親方が豆鉄砲くらったみたいな顔してんだ?
「まさか、本当に、倒しちまったか?あの大蝦蟇を?」
「えぇ、まぁ。一応証拠はここに」
俺はインベントリから水晶大蝦蟇の角質鱗と水精柱を目の前の机に置いた。
そしたら親方の目玉が飛び出しそうなくらいに見開かれた。ちょっと怖い。
「あのーレンギンさん?大丈夫ですかい?」
「すーーーはーーー・・・少し、待っといてくれ・・・」
そう言い残すと親方はどこかに行ってしまった。いやお前がやれって言ったんだろが!
そこから数分後、マーデンさんと共に親方が戻ってきた。
「だから言ったろレンギン、テツギリはほかのやつらとは違うって」
「だが本当に倒してくるとは・・・お前にこの衝撃がわかるかマーデン?」
おいおいこの親方は俺がクリアできない前提で課題を吹っかけてきやがったのか?
どんだけ俺の事を馬鹿にしたら気が済むんだよ。
「さぁ、課題の品は持ってきたんだぜ?流石に教えねぇってのはねぇよな?」
こっちは早く刀を作りたくてうずうずしてんだ。言い訳とか始めたらただじゃおかねぇぞ。
「・・・分かった。俺の持つ鍛冶のノウハウや技術は満遍なく教えると約束しよう。だがその前に、今のお前がどれだけの腕なのか確認させてくれ」
とりあえずは教えてくれるのは確定だそうだ。でも、腕の確認っていったい何をするんだ?
「ついてこい。お前の工房に案内してやる」
え?
「今日からここがお前の工房だ。鍛冶作業をしたいときはここを使ってくれ」
俺が案内されたのは親方のいた工房の半分くらいの大きさの工房だった。
いやそれでもかなりデカいんだが。
「ここは昔の弟子が使ってた工房でねぇ。その弟子が独り立ちしてからもずっとレンギンが残してた工房なんだよ」
「おいマーデン!余計なことを言うな!」
そう怒鳴り散らす親方だが、怒ってるというより恥ずかしがってるって感情の方が強そうだ。
そこから俺は火のくべ方や道具の使い方などの基本的なことを教えてもらった。
なんでも、この工房にある道具などは好きに使ってもいいとのことだ。
この親方、なんか対応が一気に甘くなった気がする。これがツンデレってやつなのか?
「俺ら鍛冶師は自分で生み出した鍛造品を我が子のように扱うんだ。どれだけ下手でも、不格好でも、俺たちは責任をもってそいつらを育てていかなきゃならねぇ。お前にその覚悟はあるか?」
なかなか特殊な言い回しだが不思議と悪い気はしない。むしろ良く感じる。育てる・・・か。
「俺は今その思いを持ってここに立ってるんすよ?覚悟とかありすぎてあふれそうなくらいだ」
「その心意気や良し。ならばまず普通の鉄から何か武器を作ってみろ。
もちろん
もちろんそんな真似はしない。刀ってのは鍛冶師が魂を込めて作り上げるものだ。
量産鍛造はシステムが登録した武器を作成することができ、100本作って100本同じものを作ることができるらしいが、突出した物は作れない。
逆に独創鍛造は完全なオリジナルの装備を作ることができ、熟練度によってはかなり良いものを造ることができるらしいが、同じものができることはほとんどないらしい。
そんなバランスの中で武装鍛造というスキルは存在している。俺の目的に合っているものは明らかに後者の方であるため、それほど量産鍛造に意味を感じない。
「では、早速やってみるがいい」
「応援してるよ~」
「・・・よし、いくぜ。【
スキルを起動すると空中にいくつかの魔法陣が浮かびあがった。さらに説明の書かれたウィンドも出現し、俺の視界の周りは結構にぎやかになった。
「まずは火をくべて素材となる物を溶かす。んで、その間に武器の形となる鋳型を頭の中で想像しつつ魔法陣の上で形作ると・・・うわスゲ。ガチで形になってきてるじゃねぇか」
現実だとかなり面倒となる手順を魔法の力でカバー・・・素晴らしいじゃないか。
「っと、選択する武器は刀で・・・おぉ!鍔や柄のデザインもできるのか!さすがにまだできることが少ないが、ここまで自由にできるとは・・・これは感涙物だぜ」
独り言をつぶやきつつ手は止めない。そして正確に。これはリアルで培ってきた俺のスキルだ。
「お、鉄が溶け切ったみたいだ。ならヤットコ(デカいペンチのような物)で容器ごとつかんでっと。冷えて固まるまで待機か・・・ミニゲームみたいで結構楽しいな」
細々とした作業であれど、実際に自分が体感している感覚がしっかりとあるからすげぇ楽しい。
もういい歳なのにまだ俺は興奮することができるのか。
「んで冷えた鉄の棒をもう一回熱して叩いて整形してを繰り返すと。よし、はりっきていくぞ!」
正直ここが一番大事な作業と言っても過言ではない。魔法陣の集約と同時に鎚をふるうことで武器の性能に変化が起きるらしい。言わばリズムゲーなんだが、こういうところでこそ真摯に取り組むことが真の鍛冶師への近道なのではなかろうか。
「ふん!ふん!ふん!」
鎚を振るうたびに甲高い鉄の悲鳴が鳴り響くが、今の俺にはそれがなんだか心地良い気がした。
弾ける火花、集まっては広がる魔法陣、肌に伝わる熱すべてが輝いて見えた。
気が付けば次のフェーズへと進んでいた。今度は砥石を使って本格的に整形していくようだ。
水で冷やしてから、砥石を使って刃を形作っていく。
どんな作業も丁寧に。それが俺の鍛冶師としての信念だ。
「最後は銘か。なら、俺のこれからの抱負をお前につけてやろう!お前の名は、【
そう宣言した瞬間に、この世界にまた一本の武器が誕生した。
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システムに登録された武器防具を鍛造するスキル。既定の量の素材があれば100でも200でも同じ品質、同じ効果の装備を作成できる。工程もある程度簡略化されるため、店などを持つ場合は完全にこっちのほうがおすすめ。
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自分だけの装備を鍛造するスキル。素材のリソース量、作業者のスキルレベル、ステータス、作業者本人の技量によってかなり品質や特性が変動する。レンギンは店を持ちながらもすべての商品をこっちで作り上げている。
唐突で悪いのですが、皆様は主人公の身体欠損には肯定的ですか?特に他意はないです
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yes
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no