リアル鍛冶師のおっさんが刀匠へと至るまで 作:バナナラッシー
鮫狩りの前準備
「いやぁ、非常にすがすがしい気分だ!」
「実に愉快だったなぁ、レンギン親方のあの驚愕と悔しさが混ざり合った顔。
見くびってたやつが突然全く新しい打ち方で刀を作りはじめるとは思わなかっただろうな~」
あの後俺はレンギン親方に
「細かい調整や鞘とか柄の作成は俺がやっとくから、おめぇはさっさと帰って休め」
と言われ、半ば強引に工房から追い出されてしまった。いやまぁ、細かいところをやってくれるってんならお言葉に甘えさせてもらうけどさ・・・
まさか本当にこれで成功するとは思わんよな。
「リアルの打ち方で打つのが正解って、どうやったら気づけるんだ?てかそもそもその打ち方を知らなかったら弟子入りは実質不可能じゃないか?そう考えるとえげつないゲームだな」
異世界で大冒険ができると思ったら突然リアル知識・・・しかもかなりニッチなほうが必要になるとか、普通のゲームじゃまずありえない状況だよな。
そんな感想に耽っていると、どっと疲労感が押し寄せてきた。さすがに一時間もフルで集中していると脳が限界を迎えるらしい。俺はすぐさま宿をとってログアウトした。
新しいユニークシナリオやスキルについて考えるのはまた今度にしよう。
「ってもうほぼ夜じゃねぇか。こりゃぁさっさと夕飯済ませねぇとな」
明日はもう仕事だし、めちゃくちゃ疲れてるし、さすがにこれじゃ続きは出来ねぇな。
俺はテキパキと冷蔵庫に入っていた余り物たちを使って簡素な夕飯を作っていく。
チャーハンっていいよなぁ。余り物使って料理してもある程度の味は保証されるから。
「いただきます」
納豆やら枝豆やらの適当なやつらをぶち込んだチャーハンをほおばりつつ、今日のシャンフロでの出来事について考える。レンギン親方の弟子として認めてもらえたのはいいが、そこから新たに生えてきたユニークシナリオが非常に気がかりだ。
ユニークシナリオ「開闢したるは鍛冶の道」
題名をそのままの意味でとらえると俺が新しい鍛冶の道を切り拓いてゆくみたいな感じになるんだが、まだまだ初心者の俺がそんな壮大なことをするのか?っていう疑問が残る。
まだシナリオの受注は保留状態にしているが、どんなシナリオでも一回受けとくべきだよなぁ。
ここまで短期間で連続してユニークに触れ続けているためか、感覚が麻痺って来ているが本来シャンフロでのユニークってのは特定の条件やらなんやらを満たしてようやく発見することができる激レアもんだ。それを拒否するっちゅう選択肢はまずありえない。
次にユニークスキル「レンギン流
こっちはおそらく掲示板で見た、あるはずだろうユニークスキルのことだろう。
レンギン流ってのは、どうやらあの世界には流派というものが存在しているらしく道場破りをしたりすることで流派スキルというものを得ることができるらしい。まとめサイトで見た感じでは生産系のスキルの中で流派スキル、ましてやNPC発祥の流派スキルは見られなかった。
スキル内容としては、マニュアルがなくなった
実際に使ったわけじゃないからわからんが、おそらくウィンドによる指示が完全になくなった代わりに
「っと、考えながら食ってたせいでいつの間にか食い終わってたぜ。ごっそさんでした」
明日からまた仕事が始まるし、今日のところはさっさと寝ちまうか。
そうして俺は風呂やらなんやらをささっと終わらせて就寝した。
「おぉ、来たか智也。さっそくで悪いが、今日はお前が当番の日だ。さっさと準備しろ」
「え?もう回ってきたんすか?時の流れってのは早いっすねぇ」
さっそく仕事場に来たわけだが、どうやら今日は俺が武道具店の店番をやる日らしい。
うちの工房では鍛冶場のほかに竹刀や木刀なんかを売ってるちょっとした武道具店みたいなところが存在する。ここの店番は基本一日交代で回しており、一回やり終わったら二ヶ月くらいは当番は回ってこないのだが、毎回忘れたころにやってくるもんだから俺は今だに慣れてねぇ。
「そもそも平日の武道具店とか、ほとんど人が来ねぇだろうに・・・」
俺はそんなことをうそぶきながら武道具店の方に向かう。
基本的にやるのは客の対応と商品の管理位だから、楽ではあるんだがな。いつもみたいにパって仕事を終わらせられねぇから、帰るのが遅くなるんだよなぁー。
「らっしゃせー」
途切れ途切れに入店してくる客に適当に挨拶をしつつ、商品の管理を行う。
この時期だとまだ学生たちは春休みだろうし、部活の道具を買いにやってくる可能性があるため気が抜けない。学生たちはうちの大事な顧客なんでね。
そんなこんなで、細々と職務を全うしていると背後から声が聞こえた。
「お久しぶりです、智也さん」
振り返ると、そこにいたのはうちの工房をよく利用してくださる龍宮院家の長女にして、巷では剣道において関西に敵なしとまで言われている剣道少女、龍宮院京極であった。
「やぁ、久しぶりだね京極ちゃん。竹刀の新調かい?」
「はい、春休みが明けて部活が始まるので、今のうちに買っておこうかと」
「そっかぁ、もうそんな時期かぁ・・・あぁそうだ、國綱君は元気かい?」
「・・・元気すぎて少し困るくらいには」
「ははは、昔と全く変わってなくて逆に安心できるよ」
龍宮院家とは仕事だけでなく、プライベートでも良く関わらせてもらっていった。
特に國綱君とは一緒に稽古をしたり、たまに飯を食いに行くくらい仲良くさせてもらっていた。
剣道をやめてからはどっちも忙しくなって中々会う機会がなかったが、また一緒に飯でも食いに行きてぇなぁ。
「あ、兄から伝言があったのを忘れてました。「また一緒に稽古しようぜ!」
って伝えてほしいって言われましたけど、実際のところどうです?」
「う~む・・・流石にこの年だともう体が動かねぇんだよなぁ」
若いころならまだ國綱君とも張り合えたかもしれないが、剣道から離れて結構に時間が経っているし、最近は竹刀にすらまともに触れてねえな。たまに誘ってくれるのはうれしいんだがな。
「そうですか・・・なんだかもったいなく感じます」
「もったいない?」
「はい。智也さんならまだ兄に勝てる要素があるような気がして」
「はは、それはさすがに買いかぶりすぎだよ」
今でもバリバリ大会に出てる剣士に勝てる気がしない。
「でもまぁ、龍宮院家の門は智也さんなら顔パスで通れると思うので、暇になったらまた顔を出しに来てくださいね」
「了解したよ」
そんな世間話を交わしつつ、竹刀の代金を受けとる。
今はシャンフロに熱中してるから顔はあまり出せないと思うが暇ができたら行ってみようと思う。
「さてと、やるか」
京極ちゃんとの思わぬ再会の後は、特に何も起こらずそのまま店じまいとなった。
そして今俺は、テツギリとしてシャンフロ世界の宿から目を覚ます。
「さすがにもう親方の仕上げも終わってるだろうし、一回工房に行ってみるか」
新しい街に行く前にマーデンさんとこの店でアイテムの補充とか色々やっときたいしな。
「こんちはー」
そんな適当な挨拶でレンギンの工房へと足を踏み入れる。しかし、いつも工房のどこにはいたはずのレンギンは今日はどこにもいなかった。
「あれぇ?ここにいないとは珍しいな。となるとマーデンさんのところか?」
正直そこくらいしか思い浮かぶ場所がないため、少し早足になりつつもマーデンさんの商店に向かうと、店の中でマーデンさんとレンギン親方が話していた。
「そうかい。自分でその方法を見つけるのは彼が初めてだねぇ。なかなかいい弟子を拾えたんじゃないかい?いったいこれは誰のおかげだろうねぇ?」
「ふん。まだ優秀だとは決まってねぇからな。今回のはたまたまだ」
「そう言いつつも、仕上げは自分でやるとか随分と息巻いてじゃないか」
「あれはただの餞別だ!」
そんなことを言い合いながらも、朗らかな雰囲気のまま会話が盛り上がっていった。
そして、レンギンのあの口ぶりからして俺の最澄の仕上げはもう済ましてくれているのだろう。
これなら受け取りに行っても問題はなさそうだ。
「レンギン親方、マーデンさん、こんにちは」
「おや、さっそく君の弟子がやってきたぞ。どうせなら直接渡しておやり」
「うるさいぞマーデン!」
なんだろう、なんか熟年夫婦の年季の入ったやり取りを見ているような感覚だ。
こう、なんか・・・不思議な感覚だ。
「あー、テツギリよ。お前の打ったこの刀はかなり上質なものに仕上がっていた。だが、あのままだと今のお前では扱いきれんと思ってな、少し細工をさせてもらった。そこのところはどうか許してくれ。」
「あ、そうだったんですか。いや全然気にしませんよ、むしろこっちが助かるって感じです」
なんと、あの時使える一番レアな素材と限界まで再現したリアル鍛冶術を使った結果、今の俺ではまともに扱いきれないレベルの刀ができてしまったらしい。そこまではいいのだが、それを仕上げでダウングレードさせられるこの親方は何者なんだ?
「そう言ってもらえると助かる。そんじゃ、これをお前に返す。大事に使えよ?」
そう言って手渡されたのは、柄の
「・・・え?これ本当に自分が打った刀ですか?」
「あぁ、正真正銘お前自身が打った刀だ」
「いやぁびっくりだよねぇ。最初見たときはレンギンが打った刀かと思ったほどだよ」
まさかのマーデンさんからもお墨付きをもらった。いや確かに俺が打った刀だけどさ。
刀身だけの状態だった時とまるっきり印象が変わってたらそりゃ驚くでしょ。
てか説明文みるとなんかえぐいことがゴリゴリ書かれてるんだが?
なんだよ古代の鍛冶技術って!俺そんなの使った覚えねぇぞ!
そんな感じで戸惑っている俺に、レンギンはさらに爆弾発言を叩き込む。
「本当は鞘とか鍔もお前に作らせようと思ってたんだがな。あんないいもん見せられたら、こっちもなんだか熱くなっちまってよ。結果こうなったてだけだ。次からは自分でやってもらうぞ」
「え!?・・・あの、自分鞘の作り方とかそういうのまるっきりわからないんすけど・・・」
刀身を打つだけならまだ調べたり試したりはしてたんだが、鞘や鍔、その他細かいところはまるっきりわからない。いきなりやれって言われてもあの時のようにうまくいけないだろう。
てか、マニュアルだったらほぼ自動で生成してくれてたものたちを自分で作れってかなり難易度が高い気がするんだが・・・
そんな不安が渦巻いていると、レンギンが半笑いながらも口を開いた。
「なにも、一から全部一人でやれって言ってるんじゃない。俺の知り合いの何人かがそういうのを作る技術を持ってる。俺が紹介してやるから、お前はそいつらから学んで吸収してこい!」
なんとこの親方は親方レベルの技術を持つ知り合いを何人も持っているらしい。
なんだよそれ。化け物の知り合いには化け物しかいないのか?
「なるほど・・・ちなみにここから一番近い場所にいる親方の知り合いって分かったりします?」
「ここから一番近くだと・・・誰が一番近い?マーデン」
「そうだねぇ・・・フォスフォシエにいるハンダーが一番近いんじゃないかい?」
フォスフォシエ。確かサードレマから千紫万江の樹海窟を超えた先にある街だったな。
てっきり馬鹿でかいサードレマに何人かいるもんかと思ったが、かなり分散しているのか?
「フォスフォシエのハンダーさん・・・分かりました、とりあえずそこを目指すことにします」
俺がそう言うと、今度はマーデンさんが口を開く。
「ということはすぐにサードレマに向かうんだろう?四駆八駆の沼荒野の主はかなり手ごわいやつと聞いているが、準備は大丈夫かい?」
「ああ、そうでした。その準備をするためにマーデンさんのお店に来たんです」
その後マーデンさんは回復薬やらなんやらを格安で提供してくれた。
そして最後にエリアボスの厄介な行動についても教えてくれた。
「その主は追いつめられると泥の中に潜って敵を固定して突き上げる攻撃をしてくるらしい。
君がこの前買ってくれた浮き草履を使えばある程度は軽減できるかもしれないけど、出来ればパーティーを組んで仲間同士でサポートしあうことがおすすめだよ」
「最後まで何から何までありがとうございました」
「なぁに、良いってことよ。昔馴染みの弟子に親切にするのは当然でしょう?」
なんて高潔な精神。うちの工房じゃそんな思いやりほとんどないぞ。
そうして俺はレンギン親方とマーデンさんから見送られながら店を後にした。
マーデンさんからはパーティーを組んだほうがいいと言われたが、少々今の俺は厄ネタを抱え込みまくっている。俺の知識がどれだけ古かろうと、このようなユニーク系のやつは大っぴらに見せるものではないということは理解できる。
「ソロ殺しだとか言われてるらしいが、今の俺ならなんだかいける気がするな。死んじまったらそれまでだ、物は試しと言うしちょっくら挑んでみますかねぇ~」
そんな軽口をつぶやきながら、俺はエリアボスのいるエリアへと向かうのだった。
豆知識:若いころの智也くん(27~28くらい)の剣道の実力は5~6富嶽くらい。
唐突で悪いのですが、皆様は主人公の身体欠損には肯定的ですか?特に他意はないです
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yes
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