リアル鍛冶師のおっさんが刀匠へと至るまで 作:バナナラッシー
打撃属性の武器にエンチャントしたときの凍結と、リベリリベ君のメインウェポンの
「ふむふむ、刀剣類なら凍傷付与、鈍器類なら凍結付与、どっちも確率で発動か・・・
な〜んとなく氷魔法が不人気な理由が分かる気がするぜ」
千紫万紅の樹海窟へと向かうさながら、俺は新たに手にしたフロストエンチャントの取説を読んでいた。
凍傷、一定時間相手が激しく動くたびにスリップダメージを与えるデバフ。
凍結、攻撃した部位を一定時間固定させるデバフ。
うん、まぁなんともパッとしない効果だよな。
確かに効果は強力に感じる。スリップダメージは効果時間にもよるかもしれないが、固定ダメージってのは古来から優秀なダメージリソースとされているし、凍結ってのも対人や人型エネミーに対してならなかなかに強力な手段になるかもしれん。
でもよぉ、これって氷魔法じゃなくても良くねぇか?
まず凍傷、こいつは相手が激しく動かねぇとダメージが発生しねぇ。毒や火傷なんかの王道な状態異常なら勝手にダメージを与えてくるだろうに、こいつは完全に相手依存の状態異常だ。
例え毒や火傷よりダメージが高かったとしても、相手が激しく動かなかったらノーダメ。ただのMPの無駄遣いだ。
次に凍結、攻撃を当てた部位の固定化ね。たしかにいい効果だ、が、切断しちまったほうが効率が良くないか?凍結は確率で発生であり、状態異常を無効化する手段があったりしたら・・・
まぁこっちもMPの無駄遣いになるな。
「・・・・・うむ、だが、一見使い道が無さそうなものでも使い続ければ良さが分かるかもだし、
まだ使ってもいないものを批判するのも良くないよな、うん」
そう言いながら俺はウィンドウをそっと閉じ、空を見上げる。いつの間にか夜は耽り、数多にきらめく星々と立派な満月が顔をのぞかせていた。ここは仮想の世界なのかと本気で疑いたくなるような、美しい空だった。
「今から洞窟に入るってのに、なんで今日に限ってこんな綺麗な空なんかねぇ」
空を見上げていたからだろうか、いつの間にか俺は千紫万紅の樹海窟の入口に到達していた。
千紫万紅なんて大層な名前つけてんだ。この景色に負けないくらいの景色を期待するとしよう。
「いや確かに期待してたけどよ。そんな簡単に上回ってくるとは思わねぇじゃん」
あたり一面光り輝く苔やら花やらなんやらに囲まれながら俺は困惑していた。
いや、千紫万紅って言うからにはね?花が咲き乱れてんのかなみたいな想像はつきやすいけどよ、ここまではっきりとお花畑されるとは思わなかったわ。だってここ洞窟だぜ?なんか苔が光ってて明るいし、お花のいい匂いもするし、木が生えてるし、ファンタジーすぎるだろ。
「って、ファンタジー世界にそんなこと思ってもしょうがねぇか」
くだらない自問自答を行いつつ、苔花の絨毯を踏みしめながら歩みを進める。
ここまで自然が生い茂ってれば、虫系や植物系のモンスターが主体で襲ってくると思うんだが、
問題はどんな種類のやつが・・・お、早速発見。
そこにいたのは大量の蜜を腹に蓄えながらも優雅に宙を舞っている蝶々であった。
「そんな取ってくださいって言ってるような部位があったらよぉ、取りたくなっちまうだろ!」
そう叫びながら俺は澄晴を抜刀しながら走り出す。その行動を敵対行動と取った蝶は蜜を蓄えた腹を揺らしながらいそいそと逃げようとする。だが、その動きは実に緩慢であった。
跳躍、からの撫でるような蝶の頭を一閃。たったこれだけの動作で蝶はポリゴンとなり爆散した。
「っとと、空中で直湧きとは温情が全く感じられんなぁ」
空中から今まさに落下しようとしていた蜜袋をなんとかキャッチしてそんなことを嘯く。明らかにレアアイテムなのだから地面で固定湧きのほうがいいとは思わなかったのだろうか?
「やはり腹に傷を与えなかったのは正解だったな。指でつついても割れそうだ」
片手でキャッチした蜜袋の感触を楽しみつつ、アイテムの詳細ウィンドウを開く。
・ストレージパピヨンの蜜袋
ストレージパピヨンが集めた蜜を貯蔵する腹袋。衝撃に弱く、蜜が溜め込まれた状態のものを手に入れるのは非常に困難。
食べて楽しむも、投げて楽しむも正解。
「ほほぅ、投げるとな」
見た目から食べられそうだというのは雰囲気で感じ取れたが、投げて使うこともできるとは。本当にこの世界は縛られてなくて楽しいなぁ。だが、男たるもの眼の前にうまそうな甘味があればそれを食らうのが礼儀だって、師匠も言ってた・・・気がするし、一回食べてみよう!
「これはりんごみたいに齧りつくのが正解なのか?いや流石に吸うのが正解か・・・
そんじゃあ、自然に感謝していただきます」
蜜を封じ込めている封をとき、袋をコップ代わりに蜜を食らう。
口に含んだ瞬間に広がるのは、はちみつのような芳醇な味わいとその中にかすかにあるほろ苦さが感じられる味であった。実に美味である。
なんせ、今まで食べてきた飯はどれもこれもなんとなく味気ない感じだったからな。街で食ってた飯に比べりゃぁ断然味を感じられた。
「こんだけうめぇならストックしときてぇなぁ。いつこれくらい質の良い食いもんにありつけれるかわかんねぇし、毎回ここに取りに来んのもめんどいからな」
甘味だけがうまい旅ってのもなんだか味気ない気がするが、ストレージパピヨンの蜜だけがうまいって話はねぇだろうし、そこは今後のお楽しみだな。
鍛冶以外の目標を新たに制定しつつ、千紫万紅の樹海窟の探索を進めていく。視界に入ったストレージパピヨンは片っ端から狩って蜜を回収しているが、このフィールドには植物と蝶々しか存在しねぇのか?もうかなり歩いていると思うんだが、未だに蝶以外のエネミーを発見すらしてないのだが?
あまりの遭遇運の無さに絶望しつつ、いい感じの木の根に腰を下ろす。ストレージを確認すればいつの間にかストレージパピヨンの蜜袋が21袋も集まっていた。
「ここまで蝶の蜜を回収してきてんのに、なぁんで新エネミーどころかプレイヤーにも遭遇しないんですかねぇ?俺、このゲームに来てからNPC以外と話した記憶がないのだが?」
この手のゲームはプレイヤー同士のコミュニケーションとか協力が醍醐味みたいなところがあるはずなのにさぁ、今んとこソロプレイヤー道まっしぐら過ぎて泣けてくるぜ・・・
そんな悲しみに浸っていると、遠くから羽音、しかもかなりの数がこちらに迫ってくるのが聞こえてきた。その音は、現実世界でも実に聞き覚えのある音である。
「やっとお出ましかね?樹海、花だらけ、大量の蜜を吸う蝶、こんだけの要素があって花畑代表級のモンスターがいないわけねぇようなぁ?」
群体で現れたエネミーの名は、エンパイアビー・ワーカー。その名の通り、働き蜂をモチーフとしたモンスターなのだろう。フォルムはミツバチと似ていて、足には花粉団子がついている。
さらに特徴的なのは、鈍く光り輝くその毒針だろうか、実にいいフォルムをしている。
「蝶々ばかりで退屈してたんだ。簡単には倒れてくれるなよ?」
澄晴を鞘から抜きつつ、蜂共の数を確認する。数は4匹、蜂系の敵にしては数がやや少ない気がするが働き蜂ならこんなものなのだろうか?
そんなことを思っていた矢先に、一匹のエンパイアビー・ワーカーから何かが飛来し、空中で爆散。黄色い粉が俺の体に降り掛かった。
「ブワッ!?な、何だこりゃ・・・花粉?」
あまりにも唐突なことだったせいか、反応する暇もなく食らっちまったが・・・これ、もしかして現実でのフェロモンと同じような役割だったりするか?
きっと俺のこの考えは正しいのだろう。なぜかって?エンパイアビー・ワーカー達の羽音よりも、更に重厚感のある翅音がどんどん近づいてきているからだ。
「なーるほどね。今のは俗に言う救難信号ってやつだったんだな。
・・・1対8ってのは、いくら蜂でも卑怯じゃねぇかい?」
新たに4匹追加されたエンパイアビー・ハンター含む、総勢8匹の群体を睨む。が、そんなことをしても奴らは嘲笑うかのように顎をガチガチと鳴らすだけである。
「ふふふ、こんくらいプレッシャーがある方が、逆に燃えてくるってもんよ。今から使うのは氷魔法だがな!【フロストエンチャント】!!」
MPを10消費し、刀身に氷の冷気を纏わせる。持続時間を確かめるには丁度いい戦闘だからな!
まず狙うべきはハンターの方ではなくワーカーの方だ。これ以上ハンターを増やされたら流石に対処のしようがない。
ハイアクセルと一艘飛びを起動し、助走をつけつつワーカーの頭に飛び乗る。ここでスカイムーブも起動、ワーカー1の頭を切り捨てつつワーカー2に飛び乗る。当然、ハンター共は行く手を阻むべく襲ってくる。一体のみか、なら・・・
「ジャストパリィ!」
ハンター1の突き刺し攻撃に合わせてパリィ。更にここで凍傷も発動!わかりやすく動きがのろくなってんな。動き回る敵に対しては最適解か?
ハンターの動きに気をつけつつ、2匹目、3匹目と順調にワーカーを斬り伏せてゆく。最後の4匹目は・・・って、またあの花粉爆弾を飛ばそうとしてやがる!
ジャンプは距離的に無理・・・・・ならば!
「掟破りのぉぉぉ、投 擲 剣!!!!」
一寸もぶれることなく放たれた澄晴はワーカーの腹を貫き、背後の木へと刺さった。
大きな隙を待ってましたと言わんばかりに、4匹のハンター共が一気に襲いかかってくる。
テツギリはなすすべなく頭を噛砕か・・・れなかった。
その代わりと言うべきか、2匹のハンターの羽が切り落とされた。
「こちとら速さと正確さが命の仕事やってんだ。インベントリが装備出すくらい造作もねぇぞ?」
インベントリから取り出した水刃「流転」を納刀しながら【フロストエンチャント】をかける。
羽無しが2匹、凍傷が1匹、元気いっぱいが1匹か。ワーカーに対して使った戦法を使えば、まぁ倒し切ることはできそうだな。正直さっきの突撃でHPが半分くらいに持ってかれてっから、できるだけ早めにけりを付けたい。
双方が立て直し、第2ラウンドが始まろうとした刹那。ドゴォという衝撃音とともに羽無しハンターの1匹が巨大な何かに吹っ飛ばされた。土煙が晴れ、垣間見えたその姿は黒光りする甲殻を持つ、カブトムシとクワガタを合わせたかのようなバケモンだった。
「おいおい、もうこれ以上は勘弁してくれよ。・・・なんでテメェはまっすぐに俺を見てやがる?」
クワカブト、もといクアッドビートルは先程攻撃され、ポリゴンとなり爆散した羽無しハンターには目もくれずに、まっすぐと俺を見つめていた。ではなぜか、これは単なる憶測に過ぎないが俺の持っている蜜袋が関係しているかもしれない。根拠にしては薄いかもしれないが、蜂もカブトムシもクワガタも蜜を求めて生きている生物だ。そして俺は今、大量の蜜袋を持っている。
モンスター達からしたら、宝の山を抱えた餌といったところだろうか。現に、大量の蜜が集まってからストレージパピヨンが集まってきたわけだからな。
この憶測が正しいのなら、俺が今するべき行動は・・・蜜袋を投げることだ!
一瞬でインベントリから蜜袋を出し、思いっきり投げる。目標は・・・元気の残っている方のハンター。バシャ、っという音ともに蜜袋が割れる。
瞬間、クアッドビートルがエンパイアビー・ハンターの方へと視線を向けた。
「今がチャンス!」
クアッドビートルの
刺さっている箇所に着き、今出せる全力を用いて澄晴を引っこ抜く。
「ふぅー、助かったぁ。流石にこれをロストしちまったら一週間は凹むぜ・・・」
できることなら素材も回収したいが、流石にあの甲虫がいるとこに行ってまで素材がほしいってわけじゃねぇしなー。ここは欲張らずに先に進むか。
蜂やあのクワカブトの素材はまた取りに来よう。そう思い、その場をあとにしようとしたテツギリの目の前の木に、首だけとなったエンパイアビー・ハンターの亡骸がポリゴンを撒き散らしながら衝突し、爆散した。
「ひぇ、ま、まさかハンター3匹を今の一瞬で蹴散らしたなんてことは・・・」
振り返れば、その見事な甲冑に傷一つ付けることなく悠然とこちらを睨みつけているクアッドビートルの姿が、そこにいた。
「チィ、そう簡単には逃さねぇってか?
いいぜ、なんなら今ここでテメェの素材を剥ぎ取ってやr・・・・・」
言葉は最後まで紡がれなかった。瞬きをした瞬間に、クアッドビートルは突進を開始。注視を
発動する暇もなく、咄嗟にとった防御により直撃は免れたものの、地を抉り大樹を砕く威力を持つ突進の衝撃を殺しきれるはずもなく。
テツギリは、遥か彼方へ突き飛ばされた。
クアッドビートルの素材を使った刀なら想像しやすいのに、エンパイアビーの素材を使った刀は想像しにくいのなぜなのだろうか。
唐突で悪いのですが、皆様は主人公の身体欠損には肯定的ですか?特に他意はないです
-
yes
-
no