創造魔法による生命創造のレポート   作:Belf

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みすず観察日記(一部抜粋)(2)/散歩

【新暦68年2月27日(日)】side:茂田俊丞

 

 

 学年末テストが終わった。今は採点と点数入力にひーひー言っている。

 今までだとそういうタイミングでは疲れちゃって、食事を適当なインスタント麺で済ませたり、碌に洗濯もできなかったりと、ちゃんと生活がダメになっていたのだが、今回はそんなことなかった。

 

 もちろんそれはみすずのおかげだ。

 でもこれだと家族とか恋人ってよりは、家政婦ロボットみたいになっているかもしれない。

 

 ⋯⋯それは嫌だなぁと強く思ったので、やっぱりこの前考えた二人での外出について、諸々が終わって落ち着いたらちゃんと考えようと思う。

 

 

 と、それに伴って一つ良い案を思いついた。それは、兼ねてより問題になっていた、みすずのエネルギー効率についてのことだ。

 理論値に対しておよそ9割の発電量になっていて、ポーション1瓶あたりの稼働限界時間が想定を下回っている、ってのが現状で、できればサブ電源みたいなのを作れたらなって考えていた。

 

 みすずの基幹部分である『Mr.AI』、ひいてはそれがインストールされている『CIU-PRO』は、結局のとこ電力で動く。だから俺も、色んな発電方法について調べていたんだけど、一旦「太陽光発電」を利用していく方面で行こうと思う。

 

 選んだ決め手としては、太陽光発電に使われる発電媒体に、非常に色々な種類があること。

 その中でも特に、ワイヤー型のがかなりピンときた。

 

 

 要するによ。

 みすずの頭髪パーツ。今は圧縮魔力で形や肌触りを人間のそれに近づけているだけのそれを、ナノワイヤ型の太陽電池に変更してサブ電源にしてしまおうって魂胆だ。

 

 ま、本当にメイン電源の補完くらいの発電量にはなるだろうけど。

 今求めてるのはまさにそれで、なんなら家にいるだけならサブ電源は別にいらないしね。

 

 あーでも、そっか。ていうか外に出るなら遠隔で通信できるデバイスみたいなのも必要になってくるか?

 後は位置情報が確認できるみたいなものも?

 いやでもな。GPSは使うのはちょっとな。

 あ、スマホ持たせればいいのか?

 

 そうか。なら、最初の目標は一緒にスマホを買いにいくことにしようかな。

 

 いいね。なんか親子みたいで。

 ⋯⋯実際俺らは親子みたいなものか。

 

 

【新暦68年3月9日(水)】

 

 

 今日は小田原さんが転校前の、最後の部活だった。生徒達はお別れ会を画策して、お菓子を持ち寄って、手紙を書いて渡していた。

 

 俺も、今日が最後の部活ってことは分かっていたんだけど。

 罪悪感とか、まあなんか色々な考えがごちゃついて、あんまり纏まらないまま今日を迎えてしまった。

 

 

 でも。

 結論から言うとごちゃごちゃ考える必要はなかった。

 みすずが言っていたように、小田原さんは俺が思うよりも遥に大人だったのだ。

 

 

 

「寂しさはあるけど、悪いことじゃない」

「楠木さん達とも仲良くなれたし、色んな人が寂しいって言ってくれて、愛されてるなって実感できた」

「親も楽にできる。怖いけど、立派になれるよう頑張る」

 

 

 部活終わりに、彼女と少しだけ話す時間があった。

 その時に言ってたのがこれだ。

 

 聞こうとして話していたのではない。ただ胸の内にある罪悪感を少しでも減らしたくて、俺は彼女に謝罪の言葉をぶつけたんだ。

 恨み言の一つでも返ってくるかと思って。

 俺は少し、自分の幼稚な想像力が嫌になった。

 

 

 

 ⋯⋯⋯それはもう、いいか。今はみすずの話をしよう。

 

 

 

 今日はみすずとの外出について、具体的な計画を練った。

 目標としては、今月中にナノワイヤ太陽電池を購入し、それをカツラのように形成する。

 で四月の春休み期間に、まずは近所の公園に散歩へ行ってみるということになった。

 

 最寄りの公園には、自宅から300m程の距離がある。

 ゆっくり歩いて往復10~12分。公園に15分くらい滞在して、計30分弱の想定だ。

 

 これくらいならいける、よな?

 ディティールに拘ったかいもあり、みすずは客観的に見ると人間にしか見えない。

 うん。いける。筈だ。

 

 話しかけられるとしたら?

 よくこんな若くて美人な女の人捕まえたわねぇ〜、とかだろうか?

 

 ちょっとまてよ、なら話しかけられたとき対策に俺達二人の関係性についての「設定」が必要なんじゃないか?

 

 

 

 ⋯⋯⋯まぁ。それもおいおい考えるとしようか。

 焦らなくたって、この幸せは逃げたりしないんだ。

 

 

 

【新暦68年3月21日(月)】

 

 

 頼んでいた太陽電池が今日届いた。

 祝日だということもあり、今日は一日中その形成作業をした。

 

 形成、などと小難しく言ったが、作業自体は髪の毛を付け替えるだけの単純作業だ。

 だから夕方、日暮れ前にはもう新しい頭髪パーツが出来上がり、みすずに感触を確かめてもらった。

 

 結果は概ね好評。

 ただ髪っぽさを極限まで意識していた元のパーツと異なり、水に濡れたときに「しなり」がないのが気になるようだ。

 言われてみれば確かに、となった。

 なにせ太陽電池だから、水分を含むとかいう概念がそもそもない。

 どうしたもんかな。でも安くない買い物だったからなぁ。一回試してみたくはある。

 

 まあとりあえずは一度外に出てみようということになった。

 髪の毛の違和感でバレることがないように、雨の日はもちろん、雨予報でも外出は中止、日傘を持ち歩くことで突然の雨にも対応できるようにする。

 

 よし。なら明日の帰りに日傘を買ってこようかな。

 

 ⋯⋯ちょっとまて、これよく考えたらプレゼントってやつか?

 俺女の子にプレゼントなんてしたことないけど、俺のセンスで選んで大丈夫だろうか?

 

 てか服は?? みすずの服はどうしよう。

 今は俺が適当にオンラインで買った服を着てもらってるけど、正直オシャレかと言われると違うな〜って感じもする。

 みすずにオンラインで選んでもらって買うか。

 ⋯⋯⋯⋯AIって服とか選べるのだろうか?

 

 実際に行動に移そうとすると、こんなにも様々な問題が生まれるとは。

 ちょっと改めてみすずに相談だな。

 

 

【新暦68年3月24日(木)】

 

 

 今日は修了式だった。でほとんどやることも残していなかったため、半休使って昼過ぎには家に帰ってきた。

 春休みは忙しい。それは担任を持たない俺も同様で、成績の最終チェックやら新学期の準備など、やることには事欠かないのだ。

 

 だからこそ、計画は進ませられるうちに進めておくに限る。

 計画というのはもちろん、みすずとの外出のことである。

 名付けて「公園お散歩大作戦」と名付けた。

 ちなみにこれはみすずのセンスね。

 

 

 今のところの進捗についてまとめておく。

 

・日程は4/3の日曜日

・公園まで行って、桜の下で二人で写真を撮るのが目標

・俺ら二人は夫婦で、お見合いで出会い、最近籍を入れたばかりという設定

 

 

 どうだ。ここまで決めれば完璧だろう。服はみすずに選んでもらったし、日傘も昨日買ってきている。

 後は当日の天気次第ってとこだ。それも今のところは晴れ予報。完璧じゃないか?

 

 

 ⋯⋯ただなぁ。

 実は、まだ日傘をみすずに渡せてないんだよね。

 

 

 理由は簡単。ほんとうにこれでよいのか自信がないからだ。

 もちろん俺なりにリサーチはしたし、買うときも勇気をだして店員さんに聞いたりもした。

 

 それにみすずはどこまでいってもAI、すなわち反応を返すだけの存在だ。

 だから例えば口ではいいね〜とか言いつつ笑顔が引きつっていたり、後で買ったまま置いてあるのを見て悲しみにくれたりする必要はない。

 無いはずなんだけどなぁ。

 

 

 どんなにそれを頭では分かっていても。

 言葉が難しいな。曖昧になっている、というのが一番近い感覚かもしれない。

 

 なんだろうなぁ。逆に、当たり前のように普段接している人がロボットって可能性はないのか?って考えちゃうくらいには、みすずは普通なんだ。

 普通に人っぽくて、体の作りが違うだけの、同じ意志を持った生命のように感じている。

 

 

 リアリティを意識しすぎたのかな。たまに怖くなる。

 みすずのことが世間にバレて、もし破壊しようってなったら。

 俺はきっとみすずを助けるためなら、人殺しだってしてしまう。そう思う。

 

 

 ⋯⋯⋯俺は狂ってしまったのだろうか。

 でももう戻れない。これは愛なのか? 依存なのか? もしこれから、俺が誰かと恋愛関係になったとしたら、俺はみすずを停止して廃棄できるのだろうか。

 この感情の名前は、意味は。

 

 

 幸せの中にも、悩みってのは見つかるもんなんだなぁ。

 

 

(追記)

 

 

 勇気をだしてさっき日傘を渡してみた。

 思っていたより喜んでくれて、大切にすると言ってくれた。

 渡したこっちが嬉しくなるくらいで、むず痒い心地よさで胸が一杯になった。

 どうしろってんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

【新暦68年4月3日(日)】:side茂田俊丞

 

 

 

「行きましょうか、俊丞」

「うん」

 

 

 心の中にある小さな不安を押し殺して、玄関のドアを開ける。

 するとすぐに、肌寒いんだけどどこか暖かい、心の奥底をくすぐられるような春の雰囲気に身を包まれた。

 

 

 かちゃりと後ろ手にドアを閉め、鍵をかける。

 思えば、みすずと暮らし始めてからは、鍵をかけるということをめっきりしなくなったように思う。

 

 だからだろうか。鍵をかけるという、たったそれだけの行動が、ひどく強調して感じられた。

 そして。

 ポケットに鍵を閉まって、ハンカチと携帯、後は首に、インスタントカメラをぶら下げたのを確認して、みすずと隣合って歩きだした。

 

 

 

 50mくらい歩いて、赤信号に引っかかった。

 立ち止まり、車が左右に通り過ぎていくのを眺めていた。

 ちらりとみすずに目をやる。

 すると彼女は、次から次へと現れては消える車を、只管に目線で追いかけていた。

 

 その可愛らしさに、こっそりと笑みをこぼす。

 

 

 ここに来るまでに⋯⋯⋯というか家を出てから暫く。みすずはしきりに周りを見渡し、キョロキョロと目に映るものを観察していた。

 いつになく熱中しているその様子に水を差してしまうのが申し訳なく思った。

 だから俺達はここまでの道を、最低限の会話だけしながら歩いていた。

 

 

 信号が青に変わる。

 

 

「⋯⋯⋯みすず、行くよ」

「はい、俊丞」

 

 

 みすずは丁寧に、こちらに視線を向けて返事をする。

 でも一瞬ともたずにその視線は、電柱の上の烏に向かい───危なっかしささえ感じたので、咄嗟に手を伸ばし、そして繋いだ。

 

 

 ⋯⋯⋯そこにはドキドキや、緊張といった感情はちっとも無かった。

 強いていうなら安心感。圧縮魔力でできた、ひんやりとした柔らかさの手に、自分の手が握り返されたときに、なにか、受け入れられたような。そんな気がした。

 

 

 

 

 ほどなくして公園に辿り着いた。

 夫婦設定なんてものを必死に考えたが、いざ外に出てみれば、誰かに声をかけられるなんてことはなかった。

 レジ袋を持った主婦。小さな自転車で駆け抜ける少年達。何組かの人とすれ違ったが、その誰もが、みすずにちらりと視線を向けるだけで、話しかけて来るようなことはなかった。

 

 みすずと二人、桜の木を眺める。

 

 

 

「綺麗だね」

「はい。とても⋯⋯」

 

 

 風が吹いた。

 薄桃色の花びらが、雪のように絶え間なく降ってくる。

 

 どのニュースも口を揃えて、桜の満開日は先月末だということを話していた。

 だから少しだけ不安だった。

 でもそんな杞憂を吹き飛ばすくらいに、この名前も知らない近所の公園は───その中に佇んで、空を見上げるみすずは美しかった。

 

 見惚れることしばらく。ふと、ここに来た目的を思い出す。

 

 

 

「そうだ、写真。写真撮ろう」

 

 

 胸元に手を伸ばし、インスタントカメラを手に取る。

 このために持ってきていたのに、すっかり忘れていた。

 

 それをみすずに向けて、ぱしゃり。ぱしゃり。

 二度、三度と続けているうちに。レンズの中のみすずがこちらに少しずつ近づいてきた。

 

 

「俊丞」

「うん? あ、ちょっと近いかも」

「いいえ⋯⋯一緒に撮るんですよ。一緒に撮りたいです」

「え?」

 

 

 呆けている間に、カメラがみすずに取られた。

 珍しいことだ。みすずが何かをしたい、なんて口にするのは。

 でも、それはもちろん俺にとって嬉しいことだから。

 少し照れくさいけど、みすずが求めてくれるなら。

 そう考えて、彼女の方に身を寄せる。

 

 ぱしゃり。みすずの手でシャッターが切られた。

 

 

「む⋯⋯画角が少し⋯⋯」

「そう? いいと思うけど」

「いえ。俊丞、もう一度近くへ⋯⋯今度はもっと」

「お、おお」

 

 

 

 ぱしゃり。

 ぱしゃり。

 

 

 ぱしゃり。

 

 

 

 

 

 ───それから、みすずによる何度かの調整を受けて、彼女のお眼鏡に叶う写真が撮れた。

 欲しいというので、その写真を現像にかける。

 

 写真を現像している間は、同時に撮影をすることができない。

 手持ち無沙汰になった俺達は、想定していたよりも時間が経っていたというのもあり、家に帰ることにした。

 

 

 帰り道。

 

 

 

「⋯⋯⋯なんか、どう、とか、ある? 初めての家の外だけど」

 

 

 隣合って歩いて、幾ばくか。

 じじじ、というインスタントカメラの音が響く中、俺達は無言で、歩幅だけを互いに合わせて、ゆっくりと歩いていた。 

 何かを考えているのだろうか。続く無言にいたたまれなくなった俺は、隣のみすずに声をかけた。

 

 

 

「そうですね⋯⋯⋯」

 

 

 みすずは返答しようとし、言葉に詰まった。

 それに俺は驚いた。なぜなら、彼女が言葉に詰まるようなことは、今までになかったからだ。

 

 

 ⋯⋯⋯ややあって、みすずが口を開く。

 

 

「不思議な感覚です。今自分が感じていることを表現する言葉は確かに知っているのに、私にはそのどれもが少しずつ間違っているように思える」

 

「私が外を歩いているという事実だけではなく。桜の花びらや車の騒音、ゲオスミンや植物の芽吹きに起因する化合物の⋯⋯いわゆる春の匂い。無限に広がり、複雑に重なるそれらの情報が、私を中心に一枚の絵を作り上げているような。私の知っている言葉で表現するなら、それが一番『近い』です」

 

「ただ、どんなに言葉を尽くしてもそれを表現できる気がしない。全てを表現し尽くすには言葉が足らないし、表現し尽くそうと、理解しようとする間に、刻一刻と世界は切り替わっていく」

 

 

「───凄いです。家から窓の外を眺めるのとは、私が、みすずがその当事者でいるという点で全く違う。俊丞⋯⋯⋯人は、これが当たり前なのですか?」

 

 

 そう言って振り向いたみすずの顔は、いつも浮かべる豊かな表情とは違って、全くの真顔だった。

 

 その意図は分からない。でも、直感的に俺は、みすずが表情を作ることを忘れてしまっている、そのくらい、世界に対して必死なんじゃないか。そう思った。

 

 だから。精一杯誠実に考え、答えることにした。

 

 

 

 

「───当たり前、なんだと思うよ」

「⋯⋯⋯はい」

「だから、人間は無意識のうちに手に入れる情報を選別する。そして、古くなった情報を緩やかに忘れていく」

 

「⋯⋯それは」

「うん。人間の視野の狭さ、忘れるという本能。ともすれば非難されがちなそういうものは、生きるための機能でもある」

 

「はい。わかります」

「うん。みすずは⋯⋯⋯思考部分がAIだから。消去しない限り記憶は消えない。なんていうかな。初めて今、『実感』しているんじゃない? 人間との、違いみたいな部分を」

 

 

「なるほど⋯⋯⋯」

 

 

 そう言うと、みすずはすっかり黙りこくってしまった。

 かける言葉が思いつかなくて、俺もそれに倣うように、無言で帰り道を歩いた。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 

 

 

「ん?」

「? どうかしましたか?」

 

 

 ふと、みすずが何かを呟いた。様な気がした。

 聞こえなくて、聞き返したけど。気のせいだったのかもしれない。

 

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