創造魔法による生命創造のレポート   作:Belf

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【新暦68年5月7日(土)】side:茂田俊丞

 

 

「───モブセン!?」

 

 

 正直。最悪だ、と思ってしまった。

 それはなんというか、この状況そのものについて。

 

 まずはこんな休日に、こんなところで生徒と出会ってしまったこと。

 次にその場にみすずがいて、俺がいないうちに生徒と何らかの会話をしていたらしいこと。

 その生徒が楠木さん───まあ、俺を嫌っていて、尚且つ、所謂噂好きなタイプの少女だったこと。

 

 

 どうしたものか。間違いなくこの子は言いふらすだろうな。

 しかも見たところ、もう既にみすずと何らかの会話をしていた様子。

 一体何を話したのだろうか。というかそもそもなぜ二人は話しているのだ。

 

 状況が読めない。かといって、適当になにか話すのも怖い。みすずと違うことを言ってボロを出すのが嫌だ。

 

 助けてくれ、という意思を込めてみすずの方に視線を送ってみた。

 するとその意を汲んだのか、みすずがこちらに歩み寄ってきた。

 

 

「俊丞。この子のことをご存知なのですか?」

「あ、うん。うちの学校の生徒だよ」

「なるほど⋯⋯先程少しぶつかってしまい話していたのですが、不思議な偶然もあるのですね」

 

 言葉を切って、みすずは楠木さんの方へ視線を向けた。

 それに釣られて、俺も楠木さんを見てみると、彼女は愕然とした表情でわなわなと下唇を震えさせていた。

 

「⋯⋯⋯⋯っ!? モブセンが⋯⋯⋯ッ女の人をっ名前呼び!?」

 

 

 と思ったらとんでもないことを呟いた。

 ほんっっとに、このくらいの年の子達は男女問わずに失礼な生き物だ。それも元気の証と言えばそうだけども。

 

 

「それでは改めて。楠木さん、でよろしいでしょうか? 私は茂田みすずと申します。俊丞の姪でして、今年から俊丞の家に居候させてもらっているんですよ」

「アッ⋯⋯そ、そうなんですかっ、~~~~ッモブセンッ!! なんで授業中そういうの言わないのよ!!?」

「えぇ⋯⋯別に話すことじゃないと思うけど」

「こんな美人な姪と一緒に住んでるなら少しくらい自慢するものでしょ!!!」

「なんだそれ!?」

 

 

 聞いたことのない暴論に、思わず声を荒げてしまった。

 でもみすずが「姪と叔父」という関係を自然と作ってくれたおかげで、なんとかこの場は切り抜けることができそうだ。

 みすずの方を見ると、彼女は楠木さんに見えないように、小さくウインクをした。

 うん。可愛い。

 

 

「写真とかは?みすずさんと撮ってないの?」

「あ、それは撮ったよ」

「えっ!!見せてよモブセン!!!」

「あーごめん、携帯で撮ったわけじゃないから、今は持ってないや」

「えええ!? ありえなっ、スマホで連写して最高の1枚を待ち受けにしなさいよっ」

「いやっ⋯⋯⋯ええ⋯⋯⋯?」

 

 

 楠木さんの捲し立てに対して、俺はたじたじになるしかなかった。

 待ち受けの画像なんて、今のスマートフォンを買ってから一度も変えていない。

 でもそうか。若者の間だと、そういうのが普通なのかもしれない。

 イヤでも待て。今から若者文化に迎合するのっていいのか? 逆にイタいおじさんになってしまうのではないだろうか。

 なんて考えていたら、みすずが、俺と楠木さんの間にすっと割り込んできた。

 

 

「まあまあ。楠木さん、俊丞はそういうものに疎いんです」

「まいでいいですっ!」

「それではまいさん。俊丞には私から改めて教えておきますからね───それより。先程は何やら急いでいたようでしたが、大丈夫なのですか?」

「まいさん!?!? うおお────ハッ! そうだった!! ヤバい!!」

 

 

 

 楠木さんは、名前呼びに顔を綻ばせたかと思うと、突然顔を真っ白にして焦りだした。

 と思うと、首からぶら下げていたスマホを手に取り、何やらせわしなく操作しだした。

 

 

「みっみすずさんっ! MY LIFE(流行りのSNSアプリのこと)はやってますかっ!?」

「あ、いえ⋯⋯」

「じゃあPROF(流行りのSNSアプリのこと)は!?」

「やってません⋯⋯」

「えっ、ならStS(流行りのSNSアプリ)は!?」

「それもやっておらず⋯⋯⋯」

「なぁぁ!? 全部やってないっ!? スマホは!?」

「も、持ってないです⋯⋯⋯」

「うわーーーっ!!!!」

「わあ。しゅ、俊丞。泣き出しました」

 

 

 楠木さんの目的は、みすずと連絡先を交換することだったようだ。

 だんだん涙目になっていって、最終的に泣きだしてしまった楠木さんと、困ったようにこちらを見るみすず。

 俺はというと、珍しいものを見たなーという感じで、我関せずを貫いていた。

 というか俺を見られても。若者のそういうのは分からないのだ。

 

 

 

「うっ⋯⋯⋯ぐすっ⋯⋯⋯じゃあっ、写真だけでも⋯⋯⋯駄目、ですか」

「そっ────」

 

 

 俊丞。どうしましょう。

 みすずの視線から、言葉にならないそんな問いかけを聞いたような気がした。

 

 写真。写真か。

 俺がここに来る前、二人の間で何があったのかは知らないけれど、そんなに仲良くなった⋯⋯ってことだよな。

 うーん。連絡先の交換とかになってくると、客観的に見て、生徒と教師の家族って関係性では良くない、と思う。

 でも出会った記念の写真ってことなら、撮らしてあげてもいいのだろうか。

 

 

「!」

「───!」

 

 

 数瞬の葛藤の末。俺は楠木さんには見えないように、小さくグッドサインを出した。

 それにみすずは小さく礼をして、楠木さんの肩を叩く。

 たちまち元気を取り戻し、パシャパシャと写真を撮り始めた楠木さん。

 俺はそれを見て、安心したような、でもこれからが少し不安なような。そんな気持ちになった。

 

 

「モブセン!! 突っ立ってないで撮影して!!」

「ああはいっ、操作の仕方教えてね!」

 

 

 

 

 

「良かったのですか?」

 

 

 それから。

 楠木さんと別れ、車を走らせていると、みすずがふと訪ねてきた。

 

 

「んー。何のこと?」

「俊丞。楠木さんとの写真のことです」

「そのことかー⋯⋯」

 

 

 考えて。信号が赤へと変わるのが見えたので、速度を落とし止まった。

 ウィンカーの音が車内に響く。

 ちらりとみすずを見れば、彼女はこちらをじっと見ていた。

 

 

「良かったんじゃない?」

「本当にそう思うのですか? 最終的に承諾する判断を下した私が言うことではないかもしれませんが」

「うん。別に写真を撮るくらいなら大丈夫でしょ。もしかしたら学校で暫く噂になったりはするかもだけど」

「そう⋯⋯⋯いえ。俊丞が良いのであれば、私も大丈夫です」

 

 

 

 ─────今となって思えば。この時の俺は軽率だったと思う。

 良くも悪くもみすずの存在が当たり前になっていて、彼女は俺が一から作った、本当はいないハズの存在だ、という事実を軽く捉えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【新暦68年5月7日(土)】side:小田原遥

 

 

 

「だぁーっ!!」

 

 

 やりきった。

 達成感と共に、手に持っていたシャーペンを机に放り投げる。

 七冊も積み重なった、GWの宿題という冊子達と、山盛りの消しカスをそのままに、疲れの溜まった右手をぷらぷらと揺らした。

 

 

 スマホに手を伸ばせば、時間はもう18時を回っていた。

 転校してからは毎日がそんな感じだ。

 そしてぼんやり「楠木さんたちと旅行に行こうかな」、なんて考えていた中学生最後のGWも『GWの宿題』なる存在で埋め尽くされてしまった。

 

 

 でもそれも仕方ないことだった。

 なんせ私が編入した国指定の中学校───名前を『国立日本大学付属中等教育学校』という───は、言ってしまえば日本一のエリート中学だったのだ。

 どのくらいのレベルかというと、例えば中学受験の倍率は毎年7倍を超えるとか。

 偏差値で言うと75。そんなとこに、私は一般公立中学から、殆どなんの前準備も無く入ったわけで。

 

 

「はぁ⋯⋯⋯」

 

 

 頑張らなくちゃいけなかった。

 周りは魔法エリートが八割、私のような特異属性持ちが二割。で、その得意属性持ちの内、五人だけが今年から編入したスカウト組だ。

 もう環境からして全然違った。もちろん転校するにあたっての手厚いサポートは受けれたが、それはそれとして私自身が頑張らないと話にもならなかった。

 

 特別ってのはしんどい。それが私が身にしみて学んだことである。

 

 

 

 そんな毎日を過ごす中。私には最近心の支えにしている存在がい。

 言わずもがな、それは元中の友達のことだ。

 サトコをはじめとして、小学校から仲の良かった子たち。クラス替えで離れてしまったけど、転校するってなってまた話す機会が増えて、距離が戻った子たち。

 後はまいちゃんたちみたいに、転校ギリギリで知り合って、たくさん話す前に離れてしまった子たち。

 

 なんか。環境が離れて、初めて友達の大切さに気づいた、みたいな。

 友達の更新されたSNSを見たり、何気ない愚痴をチャットしたり、勉強の隙間に会いに行ったり。

 そんな小さな日常たちが、今の私に頑張る気力を与えてくれているのだ。

 なんてね。

 

 

「うおーっ」

 

 

 ぽふり。

 スマホ片手にベッドへと飛び込む。枕元に置きっぱなしだったカチューシャで前髪を上げて、仰向けになって『PROF』を開いた。

 

 

 『PROF』っていうのは、私達くらいの年代で流行っているらしいSNSアプリのこと。

 らしいって言ったのは私自身、まいちゃんに教わるまで存在を知らなかったから。

 でも離れた今では、特に仲の良い友達以外とはほとんど『PROF』を通じて色んな人と繋がりを保っていて、手放せない必需品ってやつになっちゃった。

 

 

「───あ」

 

 

 『PROF』を開くと、最新の投稿一覧に、まいちゃんのものが載っている。

 それはユーザー限定機能ってのがあって、沢山いるまいちゃんのフォロワーの中でも、親しい人しか見られない設定になっていた。

 まいちゃんから「仲良し」認定されていることが嬉しくて、一人ニヤつきながらその投稿を確認してみる。

 

 

『MIKOTOで神美女と会った!?』

 

 

 載せられていたのは一枚の写真だった。

 まいちゃんが見たことのないようなとろけた笑顔で、人形みたいに綺麗な女の人と並んでピースをしている。

 

 

「でも⋯⋯確かに神美女だぁ」

 

 

 こんな雑に、というか集合写真みたいなシンプルな撮り方でもここまで可愛いなんて、まいちゃんの見つけた神美女は本当に神美女なんだろう。

 写真をじっくり眺めて、ほうとため息を吐いた。

 それから隣のまいちゃんと神美女を見比べて。

 思わずぷふ、と小さく笑ってしまった。

 

 

 ⋯⋯⋯なんか。顔面がとろとろなのだ。

 よっぽど神美女と写真を撮れたのが嬉しかったんだろうけど、普段のまいちゃんだったらNGだろうなって感じの表情だ。

 というか普段とは画角が全然違うし、フィルターも少しかかってるけど、ほとんどないようなもの。イマドキっぽくそういうのにこだわっているまいちゃんにしては珍しい。

 ということは。

 

 

「よっぽど自慢したかったんだろうな」

 

 

 彼女にとって、SNSはそういうための場所だ。

 自分が素敵だと思ったものを発信する。知ってほしい。それで沢山の人に知られて、自分にとっての素敵が褒められるのが嬉しい。

 少しデリカシーがなかったり、ちょくちょく色んなことをやらかすけど、それでも穂高さんを初めとした色々な人に好かれているのは、そういうところが本当にピュアで素直だからだ。

 

 だから。彼女にとって、MIKOTOで偶然出会えた神美女は、盛れを後回しにするくらいに素敵なことだったんだろう。

 なんか、そういう生き方っていいよなぁ。まいちゃんから見た世界って、とってもキラキラしていそう。

 

 

 ───とはいえ。

 

 この写真普通に載せちゃってるけど大丈夫なんだろうか。

 

 

「まぁ流石に許可くらいはとってるかぁ」

 

 

 なんて考えたあたりで、お腹が空腹だったことを思い出してぐううと鳴った。

 時刻は18時半。丁度リビングの方からカレーのいい匂いも漂ってきたので、一度携帯を机に置いて、晩御飯へと自室をあとにした。

 

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