史上最速で捨てられたシルバー   作:ねるねるねるな

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【二章】ホロウの外縁で…を語った?
シルバーの休日


 

 

 容易に四肢を失えるような災害が身近に存在し、しかし皮肉なことにその災害によって飛躍的に科学技術を進歩させてきた新エリー都に暮らす大多数の人間にとって、義手や義足に対する偏見はおおよそ減ってきている。

 

 もちろんファッションのようにはいかないが。

 花柄ピンクに可愛く染めたり、シールでデコったりしている義肢ユーザーがいればそれはそれで好奇の目で見られるだろう。

 

 そのデザイン性という観点で見れば、イオの両腕はこれ以上ないくらい悪目立ちする。

 一応形状だけは女性の腕を摸しているものの、軽量化の為か所々穴空きだったり、なんなら左右で若干デザインが違ったり、色に関しては両方とも真っ黒という趣味の悪さだ。

 

 イオがそれを気にするような性格じゃないのが幸いだった。

 というか本人はむしろイケてるとまで思っている、人々の視線を引くのもきっとこの腕が羨ましいからだろうと。

 救いようのないセンスの持ち主であったことが、逆に本人にとって救いになっている。

 

 

 イオの持つ義手が左右で若干デザインが違うのは簡単な話、落とした時期の差が理由である。

 イオは左右それぞれの腕をそれぞれ別の理由で失っていた。

 もしイオとそれなりの信頼関係を築けている者(この場合元シルバーの姉妹達かパエトーン兄妹辺りが妥当だろう)が両腕を失った経緯について質問すれば、心底嫌そうな顔をしつつ、彼女はこう答えるだろう。

 

 

「左腕は侵食された。右腕は自分で引きちぎった」

 

 

 それ以外に理由はないし、それ以上語ることもないと態度で示すイオとのコミニケーションは、それ以降微妙な空気に包まれるだろうが、それはともかく。

 

 具体的な時期を挙げるなら左腕はシルバー小隊を廃棄されてすぐ、右腕はレイダー稼業に専念する過程で落としたものである。

 どちらの義手も製作者は同じだが、それでも後に作られた分、右腕の方が左腕の機能をそのままに軽量化されている。

 右腕に合わせて左腕を新調しないのは、今更新しい義手に慣れるのは面倒という、イオの性格によるものだ。

 

 

 今回ツイッギーとAの義手の作成を依頼した人物は、イオの義手の作成者と同一人物である。

 その点で言えば信頼度は高いが、結果を見るまで決して安心はできないのは特注品の常である。

 

 〝人の見た目に近い義手〟というオーダーは完遂されているのかどうか、果たして─────

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 馴染みの義肢職人に妹二人の義手の制作依頼をしたのが二日前。

 つまり、今日手元に届いたばかりの義手は、たった二日で制作されたということ。しかも二セット。

 

 

「そりゃ早いに越したことはないけどさ……早すぎても怖いよ普通に……」

 

 

 急かしていい品ができるとも思えなかった私は、納期のラインをかなり緩めに設定していた。

 今すぐ必要なものでもなかったし。むしろその製作期間の間にまた何件か依頼をこなし、義手代で飛ぶ金を取り戻すつもりでいた。

 

 こういった義肢の支払いに関しては、後払いになるケースがほとんどだ。

 これを作った義肢職人に関してもその例に漏れず、よく本人が口にするのは、この先一生使うもので使用者が少しでも違和感を感じるようなら対価は受け取れないとのフレーズ。

 

 もちろん、最初からそのような違和感を感じさせない義肢を作る自信があった上での言葉。言ってしまえばただの飾り言葉だが、常識的に後払いの理由を考えるとだいたいそんな感じ。

 

 

 ぶっちゃけ私が使うものなら多少の違和感くらいなら全然気にせず無視しちゃうけど、流石にツイッギーとAちゃんが使うのなら話は別だ。

 どんな些細な事でも不満が出たならクレームとして叩きつけてやるつもりだった。

 どれだけ仲が良かろうと命の恩人だろうと逆に救っていようと借りがあろうと逆に貸していようと、全く、全然、関係ない。

 普通に公平な目線でレビューはさせてもらう。

 

 

「……で、どうよ? 新しい腕つけて見た感じは」

 

「思ったよりも……いえ、ここは素直になりましょう。想像以上ね。関節の可動域も広いし、指の細かい動きも滑らか。それにこんなに肩が軽いのは久しぶりだわ」

 

 

 感動したように腕の動きを一通り試すツイッギーに、喋るのが苦手なAちゃんも目を輝かせてブンブンと首を縦に振っている。

 わざわざ重ねて聞くまでもなく、評価は満点の星五のようだった。

 私も一応レビュー書いとくか。『義手の善し悪しは分かりませんが。とりま喜ぶ妹達が可愛かったです。星五』

 

 

「見た目だけじゃなく質感まで本物の腕そっくりね……こんな腕のいい義体師とどうやって知り合ったの?」

 

「知り合いのツテでね。若干厨二病入った怪盗と一緒に仕事した時に言われたのよ。スマートなやり方じゃないとか何とか」

 

「スマート? なによそれ」

 

「いやマジでなによそれ案件だよね。なんでも私のやり方は優雅さに欠けるんだとさ。その頃の私は片腕しかなくてさ、それで身軽な分防御をハナから捨ててる所とかも、もう見ていられないくらい痛々しいんだと……って、これもどっかで聞いたセリフだね」

 

 

 確かアンビーが言ったんだっけ。私が見てて痛々しかったとか何とか。

 特に心当たりがある訳じゃないけど、強いて挙げるなら発現した前世の記憶との折り合いが上手くつけられなかった時期とかは、確かに痛々しかったかもしれん。

 自分をちょっと見失っていたというか。まぁ若い頃の話だ。

 

 

「それでまぁ、あまりに好き勝手言うもんだから私もキレちゃって、文句あんならお前が義手用意しろつって作ってもらったのが今使ってる左腕。で、そこからその義肢職人とのツテもできた」

 

 

 もちろんその時は貰えるともまして本気で欲しいとも思ってなくて。

 だからマジで貰った時は正直、嬉しさよりも心配な気持ちが強かった。

 この義手と引き換えに何を私は要求されるんだろうって。

 あんな胡散臭い男に借りを作るのがとにかく嫌すぎた。

 まぁ実際に義手と引き換えに何かを要求されたりはしなかったからいいけど。

 

 

「あなたのその腕、人体と接続する為のアタッチメントはないの? まさか傷の断面と直接縫い付けてるなんて言い出さないわよね?」

 

「え? 直接縫い付けてるけど?」

 

「…………」

 

「いやいや。そんなドン引いた顔しないでよ。仕方ないじゃんそういう義手なんだから。アタッチメントを介さずに直接人体と結合することでより早い動作と精密性を実現……とか何とか」

 

「神経と筋肉に直接繋いでるならもうそれ一生取れないじゃない。メンテナンスはどうしてるの?」

 

「義手だけ外して見てもらうってことができないからね。その時は普通に私も行くよ」

 

「普通に不便ね」

 

「まぁそもそもが頑丈な義手だからさ。メンテナンスだってそんな毎月やるようなもんでもないし。そんなに困ってはないかな」

 

 

 義手で取り立てて困る事と言えば……ああ、そうだ。

 なんか私の前世の記憶によると、こういう義手遣いには幻肢痛やら何やらが付き物とかいう偏見があったが、実際そういうもんなのかな。

 失くした腕に痛みとか違和感とか、少なくとも私は特にそういったものを感じたことはない。

 

 

「ツイッギーはそういうのある?」

 

「? あるって何が?」

 

「ごめん主語飛ばしてた。幻肢痛みたいなのを感じたことがあるかって聞きたかった」

 

「幻肢痛……ああ、それならあるわよ」

 

「あるんだ」

 

「イオはないの?」

 

「全然ないね」

 

 

 それはもう悲しいくらいにない。

 悲しいくらいに悲しめない。

 自分の腕のことなのに、自分にしか掴めない感覚なのに。それでもどこか他人事のように感じるのはきっと私が欠陥品だから? 

 

 

 肩をぽんと叩かれた。

 振り向くとAちゃんがジェスチャーゲームで遊んでいた。

 いや、遊んでるんじゃなくて普通に本気のコミニケーションだ。

 えっと……指で何かをつまんで、それを自分の口元まで運ぶ動作……でもそれがめちゃくちゃ滑って苦戦してる……ああ、この前のスナックのリベンジがしたいのか。

 

 

「いいよ。またポテト揚げてあげる。というかこの際良い機会だし。パエトーンのとこ行って映画でも借りに行こうか」

 

 

 念願の義手の早すぎる完成報告も兼ねて。

 それからなんか最近アカウント消えて忙しいらしいパエトーンを、私の都合に付き合わせてしまった感があるので(もちろんお互い仕事でやっているが)、その恩をビデオ屋の売り上げに貢献して返したくもあった。

 

 

「映画借りに行くの? それなら『ラスト・フライト』借りてきてくれる? 気になってたのよあれ」

 

「え? あれ、まさかお姉ちゃん一人で行くの?」

 

「そうじゃないの? そもそもこの義手が軽すぎて逆に歩きにくいし、慣れるまでしばらく遠出は無理よ。Aだってそうよね?」

 

 

 またブンブンと首を縦に振って肯定するAちゃん。

 どうやらマジで独りで出かける流れらしい。

 結構好感度稼げてると思っていたがやっぱりそれは思い込みに過ぎず。

 安易なデートイベントに突入する程には、溜まっていないのだった。ぴえん。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「なるほど、それがあってイオはここに来てからもずっと不機嫌そうに、頬を膨らませてるんだね」

 

「そうなの。妹にフラれた私を慰めてよアキラく~ん……」

 

 

 店のカウンターに突っ伏して店長に絡む私の姿はどっからどう見てもDQN客。

 でも自分が一番DQN客であることを自覚してるから問題はない。

 いや問題しかないけど、店長とそこそこ仲が良いのと他に客がいないからこそ可能なDQNプレイだった。

 

 

「そもそもフられたという前提からしておかしいんじゃないのかい? イオの話を聞く限りだと、妹さん側にもちゃんとした理由があったみたいだし」

 

「家に残るなら残るでいいんだよ別に。ただ本心ではめちゃくちゃ行きたいって態度を見せといて、でも仕方ないから家に残るみたいな。そういう葛藤を見せて欲しかったワケよ。お姉ちゃんとしては」

 

「天秤に負けたようなものか。安静を取るかデートを取るか。可哀想に、妹さん達との好感度が足りなかったんだね」

 

 

 だからその天秤にすら乗せて貰えなかったんだって私は。

 あと好感度足りない言うな。アキラ君が言うとマジに聞こえるから。

 

 

「あー、最初は冗談のつもりだったのに段々本気で惨めに思えてきたー……ムカつくから頼まれてた『ラスト・フライト』じゃなくてホラー映画でも借りてやろうかな。一人でトイレも行けなくなりそうなやつある?」

 

「その人のホラー耐性で話はかなり変わるけど……僕と同程度ならともかく、リンと同じかそれ以上ならちょっと厳しいと思う」

 

「冷静に考えてアキラ君が一人でトイレ行けない図ってめちゃくちゃおもろいな」

 

「流石に冗談だけどね。妹さんがホラー慣れしていないのならこの辺りがオススメだよ」

 

 

 カウンターにずらっと並べられたホラー映画は錚々たる面々。

『ザ・ビッグ・ホロウ』に『静寂の谷』それから『ポッターヒル』と、全てどこかしらの媒体で見覚えのあるタイトル名だった。

 

 

「それから『ラスト・フライト』だったかな。なんだかんだ言いつつ、やっぱり借りていくんだろう?」

 

「そりゃね。なんならこのホラー三本セットも借りてくよ。義手の件ではお世話になったしね」

 

「お世話になったって、君と僕の仲じゃないか。ビジネス関係以前に君は大切な友人なんだ。もっと気軽に頼ってくれていいんだよ」

 

 

 邪気のない笑みを浮かべるアキラ君。

 こういうのホントやめてほしい。

 もっと好きになるから。甘えたくなっから。

 私が前世持ちで男に対して重度の偏見を持っていなければ落ちてた。私には妹がいるのに、危ない危ない。

 

 

「でもそう言われると頼りたくなるよね。ちょっと聞いてくれる?」

 

「相談事かい? 構わないよ」

 

「ありがと。今私ってレイダーやってるけど、世間的に見れば立派な無職じゃん? やっぱり妹二人を養わないといけない姉としては、明日も知れないレイダーじゃなく、安定した職につきたいわけよ」

 

「先に断っておくと、今ビデオ屋に人材の空きはないよ。仕事はあってビデオの宣伝くらいかな」

 

「うう先回りされた……てかビデオの宣伝ってそれ私がたまにタダで手伝ってるやつじゃん!」

 

「ああ、いつも感謝してるよ」

 

「そりゃよかったよ! ……でもそれならそれで、いい感じの仕事知らない?」

 

「僕にできる仕事の紹介なんて、それこそ裏のものに限るよ。僕が持つ求人票に、君が求めている表の仕事はないな」

 

「だよねぇ〜……」

 

「……それか邪兎屋はどうだい? あそこならアンビーもいるし、紹介してもらえそうじゃないか」

 

「いやだから表って言ってるじゃん。あそこも社長のポンコツ加減に騙されがちだけど、めちゃくちゃにレイダーよ?」

 

 

 まぁそこで邪兎屋を出す気持ちもわかるけど。

 真っ黒なレイダーにしては社長の人が良すぎるし。

 かと言って丸っきり白と断言するには、やってる仕事が危なすぎる。

 レイダーとして身を固めるならその選択肢も悪くないが、まだクリーンなシルバーでいたかった。

 

 

 クリーンとか言って治安官のお姉さんふん縛ったけど、なんならその後も定期的にやり合ってるけど。

 私の手の内も段々割れてきてるし、だからこんな危険な橋はさっさと降りたいというのが本音だ。

 

 

「まぁまだ義足の件もあるし、そんなにすぐレイダーを辞めるつもりもないけど、ちょっと心当たりがあったら教えてよ」

 

「了解したよ。実は今もとある重工業会社から依頼があってね。もし仲良くなれればそっちで仕事を紹介できるかもしれない」

 

「助かる。やっぱ持つべき友は伝説のプロキシだね」

 

「まぁその伝説も垢消ししたから。今じゃすっかり無名プロキシだけどね」

 

「お互い一から再スタートって感じだもんねぇ。ま、ぼちぼち頑張ってこうよ。パエトーン」

 

 

 最初は普通にDQNだったけど、最後はそうして爽やかに別れた。

 借りた映画を紙袋に入れてビデオ屋を後にする。

 六分街はいい街だけど、あんまり長居すると知り合いとバッタリ遭遇しかねないから怖い。

 

 

「────あら奇遇ね、イオ。ビデオ屋から出てきたけど、先生の所でビデオを借りたの? …………なんで映画を見るのに私を誘わないの?」

 

 

 ほら、ちょうどこんな感じで。

 もちろん偶然の遭遇が嫌な訳はないし、私も現無職だから人のこと言えないけど、平日の真昼間から暇してるのは流石にどうかと思うよ? お姉ちゃん。

 

 

 

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