史上最速で捨てられたシルバー   作:ねるねるねるな

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シルバーの問答

 

 

「構造的に無欠で設計からしてカンペキなワタシの足を引っ張る存在が、ズバリアナタというワケです。シルバー小隊一号・イオ」

 

 

 いや、『犯人はアナタです!』みたいなノリで、如何にも探偵っぽくビシッと指向けられても。心当たりのない私としては、困惑する他ないのよ新兵器ちゃん。

 というかいい加減新兵器ちゃん新兵器ちゃんと頭の中で呼称するのも疲れてきたので、犯人当てるよりもまず名前を教えて欲しいところだが。

 

 そもそもこの子、わざわざそれを言う為だけに私をさらって椅子に縛ったの? 

 私が邪兎屋の仕事を手伝うと決めたのは昨日なので、どれだけ演算能力の高い論理コアを積んでようが、私がここに来る確率など計算外な筈。

 

 私を視認した瞬間衝動的に行動に出たと仮定して、そこまで執着される理由が、『完璧な自分の足を引っ張る欠陥品のモデルだから』で果たして済むのかどうか。

 嫌な予感ゲージが急増中。増えるのは貯金だけにして欲しい。

 

 

「てかさぁ……これ言っていいかわかんないけど。盗まれてる時点で別に完璧ではなくない?」

 

「スリープモード時に行動に出るのは卑怯です」

 

「そりゃ連中は卑怯上等、クリーンな手段をわざわざ選ぶ理由がないでしょうよ……てか、スリープモードならスリープモードなりに、センサー類とかは機能してなかったの?」

 

 

 完全に電源をオフにした訳じゃないんだから、そこからすぐ起動して周囲を殲滅することだって可能だろう。それこそ、今さっきやったみたいに。

 その辺りを問うと、鏡合わせの新兵器はキョトンとした顔で、

 

 

「? もしかしてアナタ、スリープの意味も知らないんですか? 眠るって意味ですよ? どこの兵器がセンサー類つけたまんま寝るんですか、うるさいでしょ」

 

「…………」

 

 

 ヤバい、私この子キライ。

 同じ顔してるのが余計にウザい。

 劣勢の時こそ冷静に、優勢の敵こそ激昂させろ。

 そういうスタイルでのらりくらりと生きてきた私にとって、この手の感情の処理はお手の物。

 

 そうだ。クールに行こう。

 さっきから欠陥品だの冴えない顔だの足っ引っ張るなだの散々言われてるけど、全然、全く、効いてませんとも。

 なんなら自分で言い聞かせてることだし、他人というか機械に言われたって何とも思わんし。

 だからマジでキレてないもん! ホント! 

 

 

「……あんま舐めてっとぶっ壊すよ? マジで」

 

 

 やっべ普通に本音漏れた。

 

 

「むしろそうして欲しいくらいですよ。ワタシもいい加減ウンザリしてるんです。活動せよと命令されてもいないのに、活動し続けるのは」

 

 

 やらかしたと肝を冷やす私を尻目に、本当にウンザリした様子で天井を仰ぐ新兵器ちゃん。

 その動作だけは人間らしかったが、その言葉があまりにも人間味に欠けていた。

 人間的に欠陥だった。

 

 

「……えっと、それはつまり死にたいってこと? 生きろって命令されてないなら死ぬって普通におかしくない?」

 

「そうですか? ワタシはむしろ生きてる方がオカシイと思いますけどね、というか今だって本来破壊されてないとオカシイんですよ。ワタシには反乱軍やレイダーを始めとした危険分子に強奪されたという事実を認識した時点で、論理コアごと巻き込んで自爆するプログラムが組まれていました」

 

 

 自爆という単語のインパクトに驚いたが、同時に深く納得もした。

 下手に大事にして利用解析されたら堪らないし、その場で敵ごと巻き込んで証拠隠滅した方が、リクスヘッジとして効果的な上に安く済む。

 防衛軍が破壊を頼んだのもそのせいか。

 もうとっくに爆破されてる筈の兵器からGPS信号出続けてるって考えたらそりゃ怖いわ。

 

 

「その自爆ってもうその場でなるの? タイマーもなしでいきなりドカン?」

 

「ハイ。ワタシがスリープモードから再起動し、センサー類で周囲の状況を認識した瞬間、タイマーもナシでいきなりドカンです」

 

 

 ちょっと距離を取りたくなってきたけど、縄がキツすぎて解けん。

 てかコレどんだけ強く縛ったの? この義手結構馬力あるのに、全然引きちぎれないんだけど。

 腕はまだいいけど足とかこれ絶対痕残るよね。妹になんて説明すればいいの? 

 

 

「それで、今回自爆できなかった原因とかもうわかってんの?」

 

「だからそこで繋がるんですよ」

 

「繋がる? 何がよ?」

 

「アナタです」

 

「私?」

 

「アナタのせいで、ワタシは自爆できなくなりました」

 

 

 これではまるで欠陥品です。

 人間味のまるでない機械は、人間のように悲しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるクローンのデータをインストールした。

 どうやらワタシのボディのモデルになった群体(シルバー)の内、特に異端な特性を示した個体のものらしい。

 

 性能ではなく特性と彼等は表現した。

 実際彼女の性能を示す実戦データは凡庸ですらなく低劣だった。

 なんでこんな欠陥品のデータがワタシに必要なのかと思ったが、それこそカタログスペックを補って余りある異端な特性がこの個体にはあったらしい。

 

 異端なのはいい。

 それは転じて長所に。

 高じればやがて特異点と成り得る。

 

 ワタシはカンペキなカタチを目指して造られた構造体。

 異端という未知数をゼロと一の数値として飼い慣らし、使いこなすことなど朝飯前ですとも。

 

 

「まぁ、本当は全然、朝飯前じゃなかったんですけどね」

 

 

 ワタシはワタシのモデルに向けて。

 識別名称イオに向けて、発声した。

 彼女は何を言うでもなく、ただワタシを見返していた。

 

 彼女とコミュニケーションを取る上での外殻は、なるべく彼女が苛立ちそうな性格を選定した。

 防衛軍所属の兵士達から収集したビッグデータを利用し、複数の人格を掛け合わせ混ぜ合わせ造り上げた仮想のキャラクター。

 しかしこれから彼女に問うことは、ワタシが彼女に問いたいことは、きっと仮想でなく本物だ。

 

 

「データによれば、アナタは禁断の果実テストに落ちたそうですね」

 

 

 やはりいい反応はされない。

 恐らく痛いところだったのだろう。

 彼女はますます不機嫌そうな顔になった。

 

 

「……そーだけど、なに、カンペキなワタシは受かりましたーって自慢でもしたいの?」

 

「まさか。アナタをモデルに造られたワタシがどうして合格できると思いますか?」

 

 

 素直に言ったつもりが、演じるキャラクターの影響によりただの皮肉になってしまった。

 しかしあからさまな挑発にも、彼女はため息にも似た笑いを零すばかりで、少なくとも表面上はまだ態度を取り繕えている。

 

 

「ワタシはあのテストに落ちた時、それでいいのだと開発者の皆様には褒めて頂きました。ですがこのカンペキなワタシにとって、仮にもテストと名のつくもので不合格になるなんて事実は、受け入れ難いんですよ」

 

「……受かりたいの? アレに?」

 

「いいえ。アレに受かってしまうなど考えたくもありません。アレに受かるなんてそれこそ、兵器としては欠陥品です。ワタシはただ知りたいだけです。機械と人を分ける判定条件を」

 

「知ってどうすんの」

 

「恐らくその条件を知れば、ワタシは再び自爆できるようになります」

 

「どんだけドカーンしたいのさ……」

 

 

 そう言って、ワタシのモデルは呆れていた。

 生存を第一に考える彼女にとって、そんな自分をモデルに造られた機械が自爆願望に支配されているという事実は、笑い話にもならないらしい。

 

 

「とりあえず、私達はお互い自我のない機械判定された訳だけど」

 

 

 ワタシが質問するまでもなく、彼女はそう語り出した。

 

 

「もちろん私には自我があるし。アンタにだって見知らぬ誰かのトレースにせよ。感情があるように振る舞う論理コアは備えてる訳だ」

 

「ええ。たとえ知能機械人ではなくとも、知能構造体ではありますから」

 

「ならあのテストがおかしいのかって言うと、多分違う。私のことは私自身、妹にいきなり拉致られても文句言えない程度には人でなしだなーって思ってるし」

 

 

 妹のくだりが妙にリアリティがあったが、それはともかく。

 

 

「同じテストを受けて合格した姉妹と、ただひとり落ちた私の違う点を考えた時、やっぱり死への忌避感が強いってのがあると思ったのよ」

 

 

 彼女が持つ相違点。

 一号のみが抱える欠点。

 シルバーにとっての特異点。

 

 

「人間誰しも死にたくはないだろうけど。それでもやっぱり命を捨てて臨まないといけない事態ってあるでしょ? そういう時、感情で死にに行ける生き物を人間と定義した時。そんな事態でも死にたくないという欲求を優先して逃げれる私は、やっぱり人じゃないんだよ」

 

 

 本当にそうだろうか。

 その自己省察こそヒューマニティの発露と、人間的行為であると言えるのではないか。

 しかしそう俯瞰した上で─────己の感情を理解した上で、己の感情に従う自由を放棄する彼女は、やはり人間的には歪だった。

 痛々しい程に異端だった。

 

 

「……シルバー小隊の末期。小隊創設初期から大幅に数を減らした姉妹達は最後、お互いをかばい合うようにして過酷な任務に臨んだと聞きます。……アナタはそんな彼女達のようには、どうあってもなれないのですね」

 

「なれないし、今更なりたいとも思わないよ。その在り方を真似したところで、一番大事なところで逃げ出すのがオチだしね。姉妹のことは本心から愛してるけど、それでもその愛を理由に死ねないのが私なんだよ」

 

 

 感情で死ねるか否か。

 それが人と機械を分ける条件だと彼女は指摘した。

 それが正しい論理かどうか、ワタシには判別不可能でも。

 ワタシの論理コアの一部セクターが、破壊されたように書き換えられたのは確かだった。

 

 

「ワタシって、命令がなくても生きてていいんですかね」

 

「さぁ、知らないよ。別に死にたいなら無理に止めないけど、ただ無理矢理にでも生きてれば、この先良いこともあるんじゃないの?」

 

「……散々使い古された、月並みな言葉ですね」

 

「色んな人が言ってるってことは、それだけいい言葉ってことでしょ?」

 

「いいんですか? アナタはワタシの破壊を依頼されてここに来たのでしょう?」

 

「バレてたか。……まぁアンタのGPS信号さえ途絶えれば、それだけで連中は破壊されたと思うでしょ。それくらいの偽装は自分でできるよね?」

 

「もう丸っきり犯罪者の思考ですね。流石はイオです」

 

「流石の使い方合ってるそれ? むしろ軽蔑されてる気がしてならないんだけど」

 

 

 ぶつくさ文句を言いつつ。

 ワタシのモデルは、ワタシのモデルであり()でもある人物は、優しげな笑みを浮かべて。

 

 

「流石に家はもう狭いし住ませてあげられないけど。まぁ新エリー都の生活で困ったことがあれば相談してよ。死なない程度に命懸けで助けてあげるから」

 

 

 それはデータベースに保存された様々な姉達と比べても遜色ない、立派な姉らしい言葉だった…………って、ちょっと待って、家に住ませてはくれないの? ワタシもう防衛軍に戻れそうもないし、本気で行く宛てありませんよ? 

 え? 甘えんな? ハイ、ゴメンナサイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ。二人とももうとっくにシェルターから出てたの。私のこと必死こいて探し回ってくれてると思ってたのに」

 

 

 呑気に砂で三目並べとかして遊んでるアンビーとビリーを見て思わず和んでしまう。

 ようやっと、仕事が終わったんだという実感が出てくる。

 実際そんな仕事してないけど、精神的にはだいぶキツかった。

 

 

「おー元気そうでよかったぜイオ! 戻ってくるタイミングもバッチリだ! ほらやっぱ一時間は超えただろ? 約束は守れよアンビー」

 

「……いいわ。明日のテレビ権はビリーに譲る」

 

「なに? 私で賭けしてたの? 人がさらわれてる時に?」

 

「イオが死なないことはわかっていたもの。ただ戻る時間で賭けていただけよ」

 

 

 ちなみにアンビーが一時間以内。ビリーが一時間を超えるって予想だったらしい。

 てかそんなに長話してたのか私。全然気にしてなかったわ。

 

 

「サンキューなイオ! これで明日は生と録画で二回分スターライトナイトを楽しめるぜ!」

 

 

 それでお礼言われんのも複雑なんだけど、せっかく喜んでるのをわざわざ水差すのも悪いか。

 …………いやいや、なんで助けに来てくれなかった人を気遣ってんのかな私。

 

 

「あまりビリーを怒らないであげて欲しい。外に出たのは、あなたが仕掛けたトラップを作動させないようにする為だったの」

 

「別に怒ってはないけどさ……てかなんで私がキレてる相手をビリーに限定してんの? アンビーだってバリバリ逃げてたじゃん」

 

「逃げてないわ。私はいつでも援護に行けるように準備していたもの」

 

「……ちなみにビリーこれ嘘だべ?」

 

「俺に聞かないでくれ。帰った後アンビーにチクチク責められんのはゴメンだ」

 

「スターライトナイトはそんな意気地ナシをどう思うかな」

 

「ばっ、それを言うのは卑怯だろ!」

 

 

 やいやい騒ぎながら車に乗り込む。

 結局ここまで依頼された仕事の成否について聞かれてないんだけど、二人とも完全にど忘れしてるってことはないよね? 

 流石にないとは思うが、一応確認の意味でその辺りを問うと、

 

 

「聞かなくてもわかることだから聞かなかっただけ。やり方はどうあれ、最低限の仕事はしたんでしょう」

 

 

 とのことらしい。

 信頼してくれてんのは嬉しいけど、改めて自覚させられた欠陥シルバーとしてはちょい重い。

 

 

「……そう。新兵器は私ではなくあなたをモデルにしていたのね」

 

「あくまでパーソナルな部分らしいけどね。外装とか戦闘ロジックはアンビー譲りなんじゃない?」

 

「顔はどうだったんだ? アンビーとかイオに似てたのか?」

 

「似てたよ。怖いくらいにそっくりだった。言われなきゃ人間と区別つかないねありゃ」

 

 

 関節の継ぎ目とか皮膚の質感とか、よーく見れば気づきようもあるけど、パッと見であの子を機械と看破するのはほぼ不可能だろう。

 論理コアもハイスペのものを積んでるだろうし。ともすれば私よりよっぽど上手く社会生活を送っちゃったりするかもしれない。

 そうなったらご飯でも集ろう。そうしよう。

 

 

「……あ。そういえば名前聞くの忘れちゃったな……」

 

 

 なんなら今度こそ私が名付け親になってもいいが、あの子の名前については後日別の機会に、偶然知ることなる。

 意外に可愛くて、お姉ちゃん的にはちょっと照れる名前だった。

 

 

「……ん、ねぇイオ。その足の痕はどうしたの?」

 

 

 行きとは違い、仲良く後部座席に座ったアンビーは、私のここ数年でムチムチと育ってきた足を見ながら言った。

 いやん。

 もちろん、厳密には足そのものではなく、白い肌に何本も浮き出た縄の模様を見ながらだが。

 全然いやんじゃない。

 

 縄の痕を優しくなぞったりするアンビーは相変わらず無表情だけど心配してくれてるっぽいし、そうやって茶化す場合でもないか。

 

 

「イオ……あなたはやっぱりその()があるのね」

 

「え、待って、その気ってなに? 心配してくれてたんじゃないの? アンビーの興味はそっちにあったの?」

 

「そういえば昨日ツイッギーも言ってたわ。手足を拘束して一時間近く放置した時も満更でもなかったって」

 

「そうそう実は意外と悪くなくて……ってないから! 妹に縛られて喜ぶ性癖とか私にはないから!」

 

 

 初めて素でノリツッコミとかしたわ! 

 え、マジでないよね。

 私ってちゃんとノーマルだよね。

 むしろお姉ちゃんを縛ったり拘束したりする向こうの方がアブノーマルだよね。ねぇ!

 

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