ナギちゃん視点です。
これは、あの夏の日の思い出。
「また、負けたーー!」
「ふふふ、また私の勝ちのようですね」
私とミカさんは、セイアさんが持ってきてくださった「ゲーム」に夢中になっていました。
「もう1回!もう1回やろうよ!」
「ええ、いいですよ。ミカさん、次も私が勝ちますから」
こうして、ミカさんと遊ぶのはいつぶりだったのでしょうか。昔に戻ったように、私もミカさんも自然と笑顔になりました。
「ふふ……、楽しめてるようで良かった」
ゲームをしている私たちを見て、セイアさんは満足そうな表情を浮かべていました。
「セイアさん、ありがとうございます。こういった遊戯は初めてでしたが、童心に戻ったように楽しめています」
「……そういって貰えると、用意したかいがあるものだ。私の友だちも喜ぶだろう」
「セイアちゃんも、一緒にやろうよ!勝ち逃げしたままなんて、許さないんだから!」
「そうだね。それでは、どれだけ強くなったか。見せてもらうとしよう」
セイアさんも加わったことで、さらにゲームが面白くなり、白熱した試合が続いていきました。そうなると、必然と時間が過ぎるのも早いもので、そろそろ寝ないと明日の活動に響いてくる時間になっていました。
「さて、盛り上がってきた頃だが、そろそろ寝る時間だ。ミカ、明日も帰るまで色々予定を詰め込んでいるのだろう」
「確かにー。でもなぁー」
時間を確認してくれていたセイアさんの言葉に、目を瞑って何か考えてる様子のミカさん。きっと、今日みたいに色々と用意してくれているのでしょう。
「ミカさん、ゲームはまたいつでもできます。今日は、ミカさんも準備で忙しかったでしょうし、明日に備えて寝ませんか」
「別に、今日でお別れというわけでもないからね」
私たちの言葉を聞いたミカさんは、花開いたような笑顔で私たちを向けました。
「本当に!約束だよ!」
「ええ、もちろんです」
「次は、もっと強くなってることを期待しているよ」
「あははは☆次は、絶対に勝つからね」
こうして、私たちは明日に備えて寝ることになりました。
セイアさんを挟んでミカさんと私。まるで、昔のように川の字になって寝る。
少し前まで、考えることが出来なかった。まるで、夢のような。その日一日が、夢のような日だと。
瞼を落とすのが惜しいくらい。いや、瞼を閉じたら最後、夢から醒めてしまうような。そんな名残惜しさがありました。
それはきっと、ミカさんも同じだったのでしょう。
「さて、みな横になったようだし……」
セイアさんが、明かりを消そうとした瞬間、
「恋バナしよう!」
セイアさんを引き留めるように、力強い声でそう言ったのです。
「なんだね。ミカ、君は静かにすることもできないのかね」
「いや、せっかくだししようよ!コ イ バ ナ!私たちが、こうやって一緒に寝ることも中々ないしさ」
セイアさんを挟んで向こう側にいるミカさんの方に顔を向けてみると、きらきらとした目で私とセイアさんを見ていました。
確かに、私たちが普段話している場所では、私的な内容を話すにはお堅い雰囲気ですし、周りには控えている関係者もおります。
「しかし、ミカさん。恋バナと言われましても、どんなことを話せばいいのかわかりかねます」
「それとも、私たちがミカの恋愛相談に乗ればいいのかね」
揶揄うセイアさんに、ミカさんは顔を赤らめながらも、顔を横に振りました。
確かに、セイアさんの言う通り、ミカさんの恋愛相談というのも、恋バナでしょう。
「そうですね。ミカさんが、先生のことが大好きなのは知ってい――」
「ナギちゃんダメー!」
私が言い終わらないうちに、ミカさんの羽が顔を覆い尽くしてしまいました。
「テントは違うけど、ももも若しかしたら、先生に聞こえちゃうかも知れないじゃん!」
「イタタ。まったく。私まで巻き添えを食らってしまった」
「ごめんごめん。でも、これはナギちゃんが悪いと思うな」
私とセイアさんから、羽をどけたミカさんは、私の方をじーっと、抗議の目を向けていました。
「すみません。私も無遠慮でした。ですが、ミカさん、いくら何でも羽で顔を塞ぐのやりすぎではないのですか」
「あははは、いつもロールケーキを突っ込んでくるのは誰だっけなー☆」
「はいはい、二人とも。それくらいにしておこう。本当に寝ないと明日も大変だ。それにわかっただろ。私たちに恋バナは早いのだ。また、次に持ち越そう」
「ふふふ。セイアちゃん、何言ってるのかな?私が気になるのはセイアちゃんだよ~」
淡々と私たちを寝かしつけようとするセイアさんを見て、獲物を思い出したかのように、ミカさんが言いました。
「ほら、いつもセイアちゃんと一緒にいる。男性の獣人いるでしょ。私、あの人との関係がとても気になっているんだあ」
「ああ、メグミのことか。彼とはそうだな。君たちと同じような関係だ」
「幼馴染ってこと!昔から一緒にいるんだね!」
「ミカには、申し訳ないが、別に彼とはそういう関係ではない」
何かを察したセイアさんは撤退の構えを取りましたが、ミカさんの追撃は止まりませんでした。
「またまた~。昔から気になっていたんだ。セイアちゃんが出かけた時の写真。いつも少し視線が高いし、カップル限定のメニューだったり、時々ドキッとしちゃうような表情していたし」
「はぁ、そこまで見られているとは、私はミカのことを甘く見ていたようだ」
「確かに、私も気になりますね。メグミさんですね。今、初めて名前を聞きましたが、トリニティ内でセイアさんと歩いている姿は何度も拝見しました」
「やっぱり、ナギちゃんも気になるよね!結構、トリニティ内でも噂になっているよ」
トリニティでも、獣人の方を従者として雇うことは別に珍しくもありません。しかし、どうしてセイアさんとメグミさんが噂になっているかというと……。
「【いつもセイア様に付き添っているカッコいい狼の獣人は何者だ!】ってね!」
「はぁ、その噂はもちろん知っていたが、君たちまで興味を持つとは」
「それはそうだよ!ね!ナギちゃん!」
「もちろんです!今日はその話を聞くまで、私は寝ることはできません」
「はぁ、分かった。二人を寝かすための御伽噺として話そう。正直、面白いとはいえるものではないが」
きらきら目を輝かせるミカさんと、きっと同じくらい目を輝かせている私に挟まれて居たたまれなくなったのか。それとも、熱意に負けたのかわかりませんが、セイアさんは語り始めました。
「彼の名前は、相川メグミ。ナギサならわかるかな。トリニティ学園とも提携を結んでいる相川病院の跡取り息子だ」
「ええ、何となく聞いたことはあります。そこまで詳しくはありませんが」
「それもそうだろう。病院といっても、数多くあるうちの一つであるし、関わりが深かったのはティーパーティーよりも、救護騎士団だからね」
「ふーん。そういえば、【救護騎士団のミネ団長と密会していた!】みたいな噂話もあったけど」
「ああ、薬品の流通や患者の受け入れなど相談していたようだ。それに、彼も医療を志すものだ。ミネ団長との会話はとても有意義だろうね……」
どことなく含みを持った物言いをしたセイアさんの表情には霧のかかったように感じました。
「そうだな。私も、二人を頼ってみるとしようか」
少し恥じらうように頬を赤らめるセイアさんの瞳が、ミカさんと私を交互に捉える。
「彼の名前は相川メグミ。相川病院の跡取り息子で、私の父の友達の子で、幼馴染で、目付け役で」
「許嫁だ」
一呼吸置いてから、発した言葉は、今日のセイアさんから発せられたどの言葉よりも重く、彼女の覚悟を感じるものでした。
「私は、今彼との関係に大きな悩みを抱えている。だから、それを解決すための助言をしてくれないだろうか」
私たちは無言で頷き、セイアさんの紡ぐ恋バナに耳を傾けるのでした。