姫鬼   作:邪道キ

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シンフォギア×仮面ライダー響鬼

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姫鬼

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 ホトトギス。カッコウ目カッコウ科に分類される鳥類。日本では様々な文書でその存在が書かれており…。

 

 ある者は「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」と詠み、

 またある者は「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」と詠み、

 またある者は「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」と詠み、

 そしてある者は「八千八声、啼いて血を吐くホトトギス」と詠んだ。

 

 たった一羽。奇妙な鳴き方をする鳥が意味を変え、形を変え人々に知られている。それは我々人類、文化、価値観、そして世界そのものさえ同じく。

 

 一つの泡が在る。二つの泡が在る。三つ四つの泡、五つ六つ、七、八、九、十、百、千、万、億、兆。大きさも違う、表層に流れる虹模様も違う、その一つ一つの中に詰まった空気も違う。だが泡の中の住人は泡の外など知らないし、知る由もない。せめて見えるのは表層に流れゆく景色と風の行き先だけ。

 

 (がい)を超える世界が在る、(ごく)を超える人がいる。これは数多ある並行世界(バブル)の内の一つの物語。

 

 その世界には一人の少女がいた。彼女は胸の歌を信じ、人々を繋ぐ手を以って数多の壁を打ち砕いていた。

 

 ただ違うのは、この世界には彼女と同じ名前のバケモノがいた事。何の因果か、一つの世界に生まれ落ちた戦姫と戦鬼は、時にぶつかり、時に向かい合い、重なり合う歌は、響きは、大きく強く、世界を揺らし包んでいった。

 

 

 

 後にこの世界を観測した歴史の管理者は以下の様に形容した。

 

 

 

「―――少女の歌には血が流れ、異形の身には愛が宿っていた」と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――おい、死ぬな!頼むから、目を開けてくれ!―――

 

 胸の激痛を越えて、遠くから声が聞こえる。憧れたあの女性(ヒト)の。

 

―――生きるのを諦めるな!―――

 

 痛いはずの胸が震えた。うっすらと見えたあの女性(ヒト)は、どこか悲しそうに微笑んでいた。

 

―――いつか、心と体…全部空っぽにして思いっきり歌いたかったんだ…―――

 

 あの女性(ヒト)が遠ざかる。壊れた槍を掲げて。思い詰めたみたいに、けどかっこよくて。

 

―――だから…―――

 

 そしてその女性(ヒト)は、綺麗な歌を奏でながら、菫色の炎に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…いいか?ここにいろ。もうすぐ助けが来る―――

 

 何処に、行くんですか?あの男性(ヒト)は真っすぐと炎を見た。

 

―――俺はちょっと仕事行かなきゃいけなくなった。こんだけの騒ぎだ、必ず助けがいる―――

 

 そんな…すいません、俺のせいで…ぽろぽろ零れる謝意に、あの男性(ヒト)は笑った。

 

―――…心配すんなって。大丈夫!日々鍛えてますからっ!こんなトラブル軽い軽い!―――

 

 あの男性(ヒト)は立ち上がって小走りに歩き出す。振りむき様に右手をくるりと回す、何時もの挨拶を残して。

 

―――必ず戻る。信じて待ってろ―――

 

 今もこの言葉は響いている。ずっと、ずっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。暗かった世界に横一門の光が刺し、意識が浮上する。カーテンの合間から指す朝日に目がくらみながら、少年は寝床から体を起こした。

 足を床に付け立ち上がる。まだ眠気が残る顔を両手で拭いながら洗面所に向かい、寝間着を脱ぎ捨てる。顔を洗い、やかんを火にかけ、パンをトースターに入れると、少年はリビングの大きく空いたスペースにしゃがみこんで、両腕で上体を上げ始めた。

 

 肘を曲げて、伸ばして、曲げる。腕部と胸部に負荷をかけ、体の体幹を鍛える腕立て伏せを二〇回。その後片足幅に立ち上がって椅子に座るように膝を曲げるスクワットを二〇回。それぞれ三セットずつ行った頃にチン、とトースターがパンの食べ頃を告げた。少年は既に沸騰したやかんから手ごろなコップに湯を注ぐと片手でインスタント粉末を入れ、もう片手でパンを取り出し皿に乗せてテーブルに持っていくと、コーヒーを呷りながら置かれていたラジオのリモコンを操作した。

 

『…Good morning! おはようございます!横浜ベイラジオ、今日のお相手は電波の波より一〇〇〇%の高音質を、天津那智(あまつなち)です。清々しい朝ですね~。早速本日の一曲目は人気沸騰、最新気鋭のスカバンド「新都スカパラダイスオーケストラ」の新曲「はがれたレモン」…』

 

 若いがどこかねっとりと耳に残る口調のMCの紹介で最初の一曲、トランペットの軽快な主旋律より始まるポップな音楽がサラリと頭に流れてくる中、パンを加えて椅子の下に潜ると、黒いバックを引っ張り出す。半分ほど齧ったパンを一度置き口の中をコップで流すと、中のものをひっかきまわして不要なものを引っ張り出す。端々が折れた紙束を机の上に置くと、今度はコーヒー片手に束の中から数枚の紙を器用に引き抜くと、両端を整えてバックの中に戻した。

 

 残り四分の一を咀嚼し、バックのジッパーを閉じた時、MC那智が八時の時報を告げた。少年は立ち上がりクローゼットを開けると、今日の気分が乗るまま服を選び身に纏う。皿の上の最後の一欠けをコーヒーで流し込むと、皿を流しにつけバックを手に玄関へ向かった。スニーカーにつま先を入れ、踏んでしまった踵を元に直して立ち上がった時だった。玄関の軒先に写真立てが一枚、少し埃をかぶっていた。見えづらいが写っているのは二人、少年らしいがもっと少年っぽい子供と、ガタイの良い三〇代ほどの男性。男性が映ったそれを指で汚れを拭う。

 

「…行ってきます」

 

 少年―――姫矢大夢(ひめやひろむ)は写真から目を背けるように玄関から飛び出した。

 

 

 

 

――――――<1>――――――

 

 

 

 

 家を出た大夢が最寄りの駅から揺られること三十分。駅を出て少し歩いたところに小さなライブハウスがあった。近代化の進んだ都心にありながら、灰色のコンクリートと蛍光ネオンの看板が少し時代遅れな風体の小さなビル。だがそこには一部のものには確実に響く魅力がビンビンときていた。

 大夢は「JoySTAR!」と書かれた派手な看板のある正面玄関を押し開けた。受付に据え置かれたベルを鳴らし、入場を伝えると、窓口から髭面の男が顔を出した。

 

「おはようございます」

「……………おはよう」

 

 店長はこちらを一瞥すると、新聞を掴む指をヒョイと上げた。不愛想な対応だが特に気に留めず、すぐ側の事務所に入る。少し照明の暗い部屋の隅にたたずむロッカーを開けて荷物を放り込むと、中から黒字のTシャツを取り出した。ライブハウスの店員が着用する、店のロゴが印字されたTシャツだ。

 

「他の人たちまだですか?」

「早く来すぎたな」

「家近いんで」

布施(ふせ)なんかまだ来てないぞ」

「……今日布施さん達のライブですよね、大丈夫かな?」

「知らん…あ、ビールケースとか厨房はもう少し人が来てからでいい」

 

 分かりました、と着ていた服を脱ぎ、代わりにTシャツへ袖を通す。ペンキを雑多に付けたような「Joy!Music!」のロゴに着いた皴を手で軽く伸ばして、先に掃除だけでもと事務所の奥の扉に乱雑に置かれたバケツと箒を持つと事務所を出た。

 受付からホールまで続く廊下を、店の外へ吐き出していく。押し出されたホコリが風に舞うのを見て少し肌寒さを感じると、素早く奥まで戻って再び外へと手を動かす。3月も中旬に入り、幾らか暖かく感じる日も増えてきてはいるが、それでも外での作業にはほんの少しばかり抵抗がある。あらかた廊下を掃き終えると事務所内へ足早に戻った。

 次は楽屋でも掃除しようか、事務所入口の向かいにある「楽屋」の看板が立てかけられた戸に向かう途中で思わず足が止まる。事務所の壁にはいくつかのポスターが少々乱雑に張られており、数枚ほど被って見えなくなっている。その内の一枚、可愛いフォントとポップでファンシーな風貌のバンドが映るもの、今日ここでライブ予定のバンドだ。

 

「…布施さんのバンドって何でパジャマーズなんですかね?」

「…お前、それ“ロックに何でギター使うの?”レベルの問いだな。」

「いやビジュアル系なのは分かりますけど――――」

「――――いいか?どんなミュージシャンにもたった一つの武器、個性ってもんがあんだよ。演歌は浴衣、アイドルはフリル、布施はパジャマ、そんだけだ」

「……………歌じゃないんですか?」

「歌も、だ」

 

 重そうな腰を上げ、受付から事務所に移る店長。仕立てのよさそうな赤い燕尾服と黒いネクタイを着ているが、着古したのかよく見ると少々くたびれている。そのせいか実年齢より10年は老けて見える印象の男だ。

 

「…けどな、どんだけ歌詞が気取ってても、メロディノリノリでも、客に響かなきゃ意味がねぇんだ。だから耳じゃねぇ別の場所にまで響かせる何かがいるんだよ」

「二ノ太刀、ってことですか?」

「だからビジュアルバンドだ。ドーンと着飾ってガツンと目から耳から響かせるんだ。ほら、二年前にもそんな感じのユニットいたろ?ナンとかウイングって別嬪さんたち」

「いやあの人たちはボーカルユニットですけど…」

 

 ボソリと呟かれた指摘も、似たようなもんだと切り捨てられる。何か腑に落ちない違和を感じながら、これもジェネレーションギャップというものなのか?としみじみ感じながら楽屋へ足を踏み入れた。

 

「お前にゃそういうのねぇのか」

「え?」

 

 突然こんなことを聞かれ、大夢は間の抜けた声を上げた。

 

「お前確か三人バンドだよなぁ?担当は…」

「…ドラムです、一応」

「じゃあお前の武器はドラムだ」

「そんな…武器っていうほど上手くないですよ」

「ドラマーがドラム否定すんなよ…この後練習すんだろ?」

「まぁ、時間貰ってるんで」

「そこで叩いてみろよ、じゃあ」

 

 そういって店長は背後を指さす。事務所を出て左をまっすぐに進めばフロアだ。中のステージにはパジャマーズの為に既にドラムが用意されている、時間さえあればいつだって叩くことが出来るだろう。しかし大夢は遠慮がちに首を縦に揺らすだけだった。

 

 楽屋掃除も簡単に終え、箒とチリトリを元のロッカーに戻す。一人で出来る仕事はここまでだろう、バイト仲間でも待とうかと椅子を引き寄せた時、窓口から長い髪がサラリと見えた。

 ドアが開くと青いジーパンに黒いダウンを着たポニーテールの少女が入ってくる。大夢は椅子を仕舞うと、滝川めぐみに笑いかけた。

 

「おはよ、一番乗り」

「早く来過ぎたくらい」

「その割には時間通りじゃん」

「電車遅れるって言ってったから…藤二は?」

「遅れるってさ…こなかったらアタシらで先に始めちゃう?」

「いいよ。あ、厨房手伝って」

 

 ひらひらと手を振った滝川(たきがわ)めぐみは事務所に駆け込むと程なくしてTシャツ姿で出て来た。たたたと駆ける背中を追って厨房のビールケースを出し、新たなそれを中に引き込んでいく。二人掛かりの厨房作業は予想の半分ほどの時間で終わり、さぁ練習しようとロッカーへ歩き出した時、店のドアがバンと開け放たれた。

 

「悪ぃーーーー!電車遅れた!」

「知ってる、走ってきたの?」

「そっち昨日大変だったんだって?」

「あぁ、線路の、炭掃除に、時間が掛かったってよ。こっちの都合も、考えてほしいよな~《ノイズ》にも」

 

 膝に手を着き、肩で息を整える頭上で切りそろえられた短髪が揺れる。上がっていた息を徐々に落ち着かせると、横から差し出されたボトルを乱暴に受け取った。

 

「それは無茶ぶりじゃん」

「あざっず!祈ったらどうにかなんねぇかな?神様仏様ノイズ様ァ!って」

「無理無理、ていうか同列にしちゃダメでしょあいつ等」

 

 桐谷藤二(きりやとうじ)の喘ぎにめぐみが苦笑いする。その様子を横目に大夢はドラムスティックを指先で弄んでいた。

 

 

 

 前奏曲(プレリュード)にはまだ早かった────。

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