「助けてくれてありがとうございます、私、立花響ですっ」
「姫矢大夢です。さっきは君もあの子猫も怪我無くて良かったホント」
「はい、降りられなくなってたから助けなきゃって…でも私がどうやって降りるかまでは考えて無くって…」
「あるある、体勝手に動いちゃうよね、色々考えるより」
「はい!助けなきゃって思って、降りるときのこと忘れてましたアハハ…やっぱり呪われてるかも」
「気にしなくていいよ、俺無駄に鍛えてますから!あれくらいじゃ怪我とかしないし、なんならこの間背骨折れたことあるし」
「え!?それはそれで大丈夫なんですか?」
「うん、この通り!ね?」
コロコロ表情の変わる子だなぁ、と頭をさすりながら大夢は呑気に思った。明るく笑ったかと思ったら大夢を尻で踏んだことを思い出してトホホと肩を落とす。そんな彼女を元気づけようと大夢が大きくその場で体を回すと、五体無事を感じた彼女────立花響はホッと頬を緩ませた。
根はいい子なのだろう、子猫の為に我が身を顧みないことや自分の身を案じてくれたことといい、何となくだが親近感が湧く。大夢は笑う彼女に吊られるように浮ついた心を抑えるように歩を踏みしめた。
「大夢さんって音大生なんですか?」
「うん、一応フリジアン音大ってとこに」
「フリジアンって、リディアンの大学ですよね!?」
「お!?うん、そうだけど……」
「すごいじゃないですか!リディアンと同じくらい入るのが難しくて、有名なアーティストとかが一杯出てるって!」
「うん、うちにもリディアンから来たって人結構いるし、皆レベル高くてさ。鍛え方も心持も違うな~って感じる」
「それじゃあ大夢さんもアーティスト志望なんですか!?」
「…俺はそんなんじゃないよ、アーティストとか。俺より上手い人はごまんといるし」
キラキラとした視線を払うように大夢は手を振った。向けられる純粋な尊敬の念に気恥ずかしさと後ろめたさを感じて額を掻く。
「めぐm…俺の幼馴染はこの間事務所のスカウト受けてさ、ライブの腕次第じゃプロデュースを前向きに考えてくれるって話だったんだよね」
「スカウト!?結果は?幼馴染さんデビューできたんですか!?」
「ううん、色々あっておじゃんになった。」
「あ、ごめんなさい変なこと聞いちゃって…」
「まぁ色々不幸が重なったというかなんというか…大丈夫だよ、めぐみはまた走りだすだろうし」
大夢の言葉を聞いた響ははっとした顔をして俯いた。年下の女の子に気を遣わせんな馬鹿、頭の中のイマジナリー幼馴染の罵倒が聞こえる気がする。大夢は何でもないと手を振るが響の表情は晴れない。何とかしなくては、居たたまれなくなった大夢は声を上ずらせた。
「……えっと、立花さんは今年受験だよね?何処受けるの?リディアン?それともほかのとこ?」
「あ、実は…まだ進路迷ってて、リディアンも偏差値高いし…」
「確かにね、幼馴染も一回受けたけど、難しかったって言ってたし」
「やっぱり難しいんだリディアン…行けるかな私…」
しまった、不安にさせてどうするか。大夢は内心毒付いた。背中ににじむ寒気に不快感を覚えながら、先の明るい彼女とは真逆の様相に大夢は思わず問いかけた。
「リディアンに行きたいんじゃないの?」
「はい…でも私が行ってもいいのかなって」
「いや、良いでしょ行っても」
「私、お母さんやお祖母ちゃんにあんまり迷惑かけたくないって言うか…この間まで私のせいで一杯迷惑かけちゃったから、その…」
「遠慮してる?」
大夢の疑問に響は遠慮がちに首肯した。
「…今まで家族とか、幼馴染にも今まで一杯助けてもらったんです!だから呪われてるって思っても平気だって言えるんですけど…これからのことってなると、なんか自信がないていうか、あと一歩踏み出せないな~って」
あはは~と力なく笑う彼女はとても寂しそうに見えた。自分で自分を縛るようで痛々しく、そして胸を締め付ける寂寥感に大夢はどこか懐かしさを感じた。
この時期の自分はどうだっただろうか?こういう時、あの人はどうしただろうか?少しの試案の後、大夢は改めて響へ視線を落とした。
「やっぱり幼馴染と一緒の学校に行きたいんでしょ?やっぱり」
「…でも」
「不安なら話してみようよ、お母さんとお婆さんと、未来ちゃんと」
大夢の言葉に躊躇いを見せる彼女だが大夢は構わず言葉を続ける。
「大丈夫。自分を信じてみれば、少なくとも今迷ってる自分よりは強くなれる…かも?」
「自分を、信じる…」
「知り合い、の受け入りなんだけどね。でも響ちゃんがそれが出来るくらいには強くて良い子だっていうのは、さっき会ったばっかりの俺でも解ってるから」
猫一匹の為に体を張る優しさを身近で知る人が、彼女の気持ちを迷惑と思う筈がない。まだ一歩踏み出して胸の内を吐き出せばまだ間に合う筈だから。
「迷ってるなら、もう迷うのもういいやってなるまで諦めずに頑張っても良いんじゃない?」
そう言って大夢はひとまず言葉を区切った。これで大丈夫だろうか、自分の発言を口の中で転がして振り返る。僅かに呻る大夢の前で、響は大夢の発言を僅かに反芻すると、バッと顔を上げた。その表情にもう陰りは無く、眩しさすら覚える笑顔に大夢はわずかにのけぞった。
「諦めない…うん!私、話してみます!」
「元気戻ってきたね、響ちゃん」
「はい!もうへいき、へっちゃらです!あr────」
そこから続く言葉は、脳幹を刺すような警告音にかき消された。
街中を包む警報に人々は弾かれるように走り出す。すぐ横をすれすれで走り抜ける人々に響は当惑した。見上げれば青く染まった空を、黒く塗りつぶしそうな黒煙が立ち上っている。
「ノイズ…?」
「またか」
眉をひそめた大夢はカバンを肩から降ろすと、響の方へ放った。慌てて掴んだ軽い感触に本気で困惑した響は人込みから逆進して遠ざかる大夢へ大声を上げた。
「ごめん!コレ邪魔だったら捨てといて!」
「え…ひ、大夢さん!?そっちは」
「避難所が近くだから!そこに逃げて!」
引き留めようと手を伸ばす響の姿が人だかりに呑まれていくのを後ろに見やりながら大夢は進む。人込みはどんどん薄れ、避難の為に乗り捨てられた車の間をかいくぐった先、無人の道路に脅威は歩を進めていた。
「見つけた…」
ノイズの群れを見据えて、大夢はポケットの中をまさぐった。指先に当たった冷たい感触をつかむと、折りたたまれたボディを伸ばす。近くの車で叩こうと音叉を掲げる手は震えていた。下ろした手を掴む。震えは止まるどころか全身へ広がっていく。
思えば、音叉を自分の意志で使うのは初めてだ。最初の一回は偶然、二回目は半は無意識だった。どちらも途中の記憶が明瞭ではないし、はっきりした後も嫌な思い出しかない。だが確実に何か悪いことがあったのだろう。音叉を使って鬼の姿になり、また知らず知らずに不幸を巻くことになれば…
逡巡する大夢の前にノイズが迫る。触れれば最期の絶死の一撫で、まるで握手でもするように伸ばされたそれを見て、大夢の震えが止まった。
「迷うの面倒になるまで…頑張って…いや、そもそも迷うことじゃないなこれ────」
体に突き立てられる腕を音叉ではじく。キィン、と鳴り響く音叉の音に世界が熱く染まった。紫炎に包まれる世界、頭が煮え滾るような感覚に意識がどんどん遠のいていき────
一瞬、日のような彼女の笑顔が見えた。惹かれるように優しい輝きを秘めて歌うあの子の笑みも
瞬間、世界が拓けた。真っ直ぐと突き出されたノイズの腕を殴り、そのまま全身を砕く。炭化して頽れる体から出て来た自分の腕は白い体を鮮やかに彩る藤のような紫だった。
「…ちゃんと白い、よし変わった!」
自分の変化を確認すると大夢はノイズへ向かって体当たりを仕掛けた。風切る音と共に白い弾丸と化す大夢、だがそれはノイズの体をすり抜けて車の一台へ激突する。大きくひしゃげたボディに沈む体、ノイズたちは容赦なく分解の刃を振り下ろした。
大夢はとっさに腕を上げて攻撃を防ぐ。分解されないとはいえ数に押されて、徐々にかすれたタイヤ痕が広がっていく。大夢は車のドアだったものに手を付くと、ぐっと体を持ち上げて止まない攻撃を振り払った。振るわれた衝撃でノイズたちは大きくのけぞり、何体かはそのまま炭化して消滅する。びりびりとしびれる腕を数度振るって異常を確かめると、ついていた腕を伸ばして上体を起こした。
「あのさ、特異災害でしょ?ダメじゃんちゃんと炭にしなきゃ」
「じゃあアタシが跡形もなく消し炭にしてやろうか?」
精一杯の強がりをあざ笑う声が突然振ってきたのはその時だ。反射で振り向くと、一番近く、最も高い建築物の上に人影が見える。
太陽は沈み、代わりに登り始めた月明かりに晒されたその姿は、少女。
全身を纏う銀色の輝きが見るものを圧倒し、両肩から突き出た棘のような装飾が他の一切を近寄らせない威容を誇る。顔は翡翠のバイザーでよく見えないが、二つ流れる銀の髪は思わず見入りそうな艶やかさがある。
この子は、危険だ。なのに、目が離せない。風鳴翼の洗練された殺気とはまた違う、ぎらつくような剝き出しの敵意。後ずさる白鬼を見た少女は、三日月のように頬を吊り上げて笑った。
「よぉ……化物」
「レオタードの仲間の人?」
「どこがレオタードだ!これは鎧だ!てか自分のナリを鏡で見てから言いやがれ!」
パッと見じゃあ分かんないよきっと。
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(今後の展開)死亡キャラ生存はいる?
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いる!
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いらない!