原作キャラはまだ出てきませんが、感想、評価お待ちしています。
叩く。
打ち付ける波紋が耳奥に届き、鼓膜に余韻を残す間も置かずまた打ち付ける。跳ね上がるドラムスティックを指先でコントロールしながら風切る空間を震わせる。
叩く。
鍵盤の上を指が走り回る。軽妙なリズムと音階が弾けるように広がり、ステージを飛び越して客席を覆いつくしていく。
叩く。
弦を弾いてピックを揺らす。スピーカーを通して低音が地を這い、足元から曲の深みへと三人をいざなっていく。
三者三様の響きが溶け合う一つの世界。互いが互いの音を干渉し合い、ぶつけ合い。三人の間でボルテージが上昇していく。しかしそれはパンパンと乾いた音に防がれた。
演奏を止めて顔を上げる。客席となるホールの入り口にもたれかかった影は此方へと歩いてステージにその姿をさらした。
「布施さん!」
「ちっす!」
「おはよう、の時間じゃないですね。こんにちは」
「邪魔しちゃってごめんなさいね、今日の衣装が全然来なくて大変だったわよ~」
「え、可愛いじゃないですか!」
「でしょでしょ?苦労して取り寄せた甲斐あったわ~!」
不意の闖入者はめぐみからの賞賛に、その場で得意げにくるりと回る。ライトに反射する白いパジャマの光沢は目にも眩く、良い材質を使っていることが分かる。短く切りそろえた髪を波打たせバンドで固定した布施の姿は、とても寝間着とは思えないほど清廉に見えた。
「及第点ねアンタたち、でも!さっきの演奏ちょっとパンチ足りてないわね~?」
「あ、やっぱり?」
「折角の曲が台無しよ、もう少しメリハリのある演奏をしなきゃ…貴方のことよ」
眉を逆立たせた布施がピンと立てた人差し指を大夢に向ける。鼻先に当たるか当たらないかのところで制止された指摘に大夢はわずかに目を揺らした。
「俺、ですか?」
「スリーピースは個人の音が出やすい。バレバレよ姫ちゃん、もっと自分を出しなさい!」
「はぁ…もっと強めに叩くか…」
「違う違う、そうじゃないの!あなたも主役めぐちゃんも主役じっくんも主役なの!」
「もっかい行っとく?」
「こっちもまだ全員集まってないし、時間は全然無問題よ」
そうまくし立てた布施はステージから降りて行った。大夢は憮然としながらも練習を再開するべくスティックを叩き合わせようとすると、背中からめぐみがこちらを覗きこんでいた。呼吸が耳にかかり、ちょっと動けば頬が触れ合いそうな距離だ。めぐみの案じるような視線に大夢は口角を上げた。
「ヒロ、大丈夫?」
「うん。ごめんね、もうちょっとちゃんとやるから」
「次、通したら休もっか」
「本番、一週間後でしょ?足引っ張りたくないよ」
「だからって焦ったらダメでしょ、兎に角これ終わったら休憩ね。藤二も良いわよね?」
彼女の言うことも一理ある、めぐみの提案に大夢は反対しなかった。心配をかけてしまったな、とバツの悪そうにスティックを軽く指で揺らし、確認を取られている藤二の方を向くと、目を半分まで閉じて薄ら笑いを浮かべている。どうしたのだろうか、ふと視線を横にずらすと布施が口元を抑えているが、目の下に肉が盛り上がっているのが見える。ホントにどうしたのだろうか。
「「何?」」
「なんでもねっ、早く始めようぜ」
「「そう」」
生暖かい笑みを向けられ、めぐみと大夢は首を傾げた。
電車を降り、改札を出る。既に時計は深夜をさし示そうとしており、街の明かりも小さい。バックを肩にかけなおし、暗がりの道を駆けだした大夢は浮かび上がった街を抜けて家にたどり着いた。
鍵を閉め、明かりをつけると、荷物を落としていきながら風呂場へ向かう。今日はよく汗をかいた、と重くなった服を籠へ投げ込んだ。
シャワーを浴び汗を洗い流した大夢は水を拭きとり、下着を履き替え寝間着をまとう。リビングに出てラジオをつけると今朝も聞いた声がやたらネイティブな発音をしていた。
『…Presented by AMATSU NACHI…続いてのお便りは川崎市在住のペンネーム「You-A」さんから。こんばんわ天津さん、最近上司が同じ服ばかり着てウザイです。毎日毎日真っ白な…番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。川崎市でノイズが出現────』
「またノイズ…」
突然挟まった内容に大夢は声を潜めた。
「明日出なきゃいいけど…」
ラジオの音を背に廊下の荷物を取りに行く。明日も練習で集まるのだ、準備をして早めに寝ようとバックを取って踵を返そうとして立ち止まった。
玄関の写真立て、その裏の巾着袋が目に入った。そういえば埃が溜まってたなと思い至り、ついでに二つとも手に取る。胸に写真立てをこすりつけ埃を取りながら、持つ手には力が籠っていった。
昼間の布施の言葉がリフレインする。もっと自分を出せ、三人とも主役なのだ。大夢はそこまで我を強く出すのは烏滸がましく思えたが、今のままでは本番は上手くいかないかもしれない、自分のせいで。
「迷惑だけは、掛けちゃだめだ」
映る自分ともう一人がはっきりした写真立てを机の上に置くと、その正面に大夢は座る。袋の緒を広げ、ふちを掴んで小さく振ると出て来たのは金属の感触。折りたたまれた中身を展開し先端を指ではじくと、高めの音が耳を優しくなでていった。
胸がカッと熱くなる感覚、全身に満遍なく熱が行き届く感覚をかみしめながら音叉を置いてスティックを取り出す。広げた譜面を背景に大きく息を吸うと、ドラムスティックを振り下ろした。
机のぶつかる前にスティックは制止し、反動で別の方へまた振り上げる。体にしみ込んだ感覚を頼りに記憶の中のドラムを叩き、脳裏によぎる譜面を頭の中で響かせる。
その様子を、音叉の瞳が見つめていた。
前奏曲の準備は刻一刻と進む────。
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