姫鬼   作:邪道キ

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前話に続き、皆様申し訳ございません。
お気に召さなければプラウザバックしてください。

何故彼女が前回あのような行動に出たのか、それは必ず明かします。
それまでどうか本作を読んでいただければ幸いです。

感想・評価お待ちしています。


微睡む過去

――――――<8>――――――

 

 上る。

 一段。

 階段を、登る。

 

 一様に敷き詰められた石畳の僅かな凹凸を踏みしめて、木漏れ日へ顔を上げる。大分上ったと思ったのに、天まで届くのではと思えるほどの長さが残っている。しかしにじむ汗をぬぐいバッグから水を一杯煽ると、膝をつき息を整えてからヨシと息込んで登頂を再開した。

 

 登り続けていると、木の葉の揺らぎと風のそよぎに雑じってドンと震動が聞こえて来た。連続的に響いてくるそれは段々と大きくなり、やがて自然音をかき消して山そのものを包んでいく。そして最後の一段を上り切った時、鳥居の端に一人の男が見えた。

 

 “彼”は四方を柱で囲まれ、屋根で蓋をされた場所で一心不乱に太鼓を叩いていた。夏空の下、タンクトップ1の下で隆起した筋肉から汗が滴り蒸気が立ち上っている。目を見張るほどの大きさの大鼓を叩き続ける様は大きく、熱く、そしてどうしようもなく惹かれるものがある。だが大夢が“彼”に近づいたのに気づいたのか、演奏はピタリとやんでしまった。

 

 ────よ!少年。よくここまで登ってきたな

 

 振り返った“彼”に大夢は会釈する。喜びと申し訳なさに顔を歪める大夢に“彼”は気にするなと笑いかけた。落ちていたタオルを手渡し、汗を拭く“彼”に大夢はと修行ですかと問いかけた。

 

 ────そ、夏に向けての鍛え直しってとこかな?

 

 “彼”が何の仕事をしているのか、初めて会った時に聞いてみたが“人の役に立つ仕事”とは語った。具体的にどういうことをしているのかははぐらかされ続けているが、あの太鼓の熱量は尋常じゃない。ここでしていることの大切さとどれほど続けているのか、取っ手が擦り切れたバチを見ればわかる。きっと大事なことなのだろうというのは察した。

 

 すると“彼”は不意に立ち上がると、本殿へ駆け足で向かっていった。どうしたのかと開け放たれた扉を見ていると、“彼”が手元に何かを持って戻ってきた。何を持っているのかと目を子田スト、白く長い棒が輝いている。“彼”は駆け寄ると大夢と視線を合わせるようにかがみこんだ。

 

 ────やってみるか?少年も

 

 そう言ってバチを渡した“彼”の腰で、金の音叉が輝いていた。

 

――――――<9>――――――

 

「────?」

 

 目を覚ました大夢が最初に感じたのは倦怠感だった。鉛のように重い体の上で見慣れた天井に黄ばんだ電灯が輝いている。この光景を知っている?軋む体に呻きながら、起き上がった大夢は散漫とした動きで体をペタペタと触った。

 

「ちゃんと腕ある…斬られてない」

 

 何故上半身裸かは分からないが、照らされた体に傷はない。二の腕も、目も、体中を見ても、痛みを感じたと思ったところは何もない。パンツ一枚だけしか着ていないのは可笑しいが無事に逃げ切ったらしい。

 

 嘆息しながらベッドの端に足をつける。何か服を着ようと重い尻を持ち上げた時、体から何かが零れ落ちた。ゴンと金属音が床に伝い、足の小指の辺りで止まる。大夢はそれを恐る恐る持ち上げると、半ば開きかけたそれを完全に伸ばしきった。

 

 描かれているのは確か巴太鼓といっただろうか?勾玉を三つ並べたような装飾をあしらった柄頭。そこから延びる黒い柄と、その先についたくすんだ金色の鬼の顔。そして鬼の額からまっすぐと伸びた二本の角を模した音叉。

 

 慌てて音叉を折りたたむ。思い出した。この音叉の顔と目が合ったと思ったところで意識が途切れて、気が付けばビルの中で姿が変わっていたのだ。そして彼女に切り裂かれ────。

 

「お、起きたか!」

 

 頭上から声が振ってきたように思った。顔を上げると半開きのドアから藤二が服を抱えて来ていた。

 

「藤二、何で…」

「こっちの台詞だよ。店の裏で倒れててさ」

「店の裏?ビル街じゃなくて?」

「ああ、しかもマッパで」

「まっぱ」

「すっぽんぽん。めぐみがスゲェ声上げてたぞ、ズボンは履かせたけどそれ以外は自分で着ろよ」

 

 腕に下ろしていた服を投げられ、危うい手つきでそれを受け取る。広げてみると店のロゴ入りパーカー。多分藤二の私物だろうと思いながら上を着替え、ズボンのすそに足を入れて立ち上がった時、胸が締め付けるような感触を覚えた。

 

 急に体制を変えたからか、胃の辺りがぎゅっと縮こまり、食道を焼けるような痛みが上って来る。これはまずい、ズボンを急いで引き上げた腕で口をふさぎ、藤二を押しのけるように部屋を飛び出した大夢はトイレの個室へ駆け込んだ。

 

「うぉえ!あおぉ…うぅぉえ!」

 

 開けっ放しの便器に顔を突っ込み、唇でせき止めていたものを解き放つ。腸まで出す勢いの吐き気が収まり顔を上げると、便器の中は真っ黒に染まっていた。

 

「炭?…ノイズの、あの時食べた炭かコレ」

「おい!体調悪いなら今日はもう帰るか?」

 

 訝しんでいると藤二の声が近づいてきた。口元を拭い便器を洗い流すと個室から顔を出す。だが勢い良く顔だけ出すつもりが、半ば倒れるように両手をついてしまった。四つん這いになった大夢に駆け寄り藤二は背中をさする。だが大夢はその手を振り払おうと力なく手を振った。

 

「…ぃや、いい。やろう練習」

「いやそれどころじゃねーだろ」

「いやでも、一日でも無駄にできないし…」

「でもお前吐いてるし、めぐみもお前のこと心配して…」

「じゃあ猶更やんなきゃ…」

「どう見ても無理だって!ロクな練習できねーよ!」

 

 両手をついて立ち上がろうとした大夢の両肩を藤二は掴んだ。顔を合わせると藤二の顔がくしゃりと歪んでいる。不安が見える表情に大夢は閉口した。

 

「そりゃ三人でデビューできるかもしんないチャンスだけど、そう思うなら今休んでくんね!?これで練習やられても迷惑っつーか…」

 

 迷惑、という言葉が嫌に響いた。大夢は壁によりかかると力なく頽れる。

 

「ごめん」

「水要る?」

「うん」

「おっけ、部屋で寝てろよ?歩けるな?肩貸すぞ」

 

 藤二の肩に手を回され部屋に誘導される大夢は下唇を噛んだ。今日は迷惑をかけっぱなしだ。遅刻して、ノイズに遭遇して、有名人侍に斬り捨てられ、吐いて、心配されて。自分にほとほと嫌気が刺す。

 

「ごめん」

「いいよ…無事なら」

 

 それでもだらりと下がっていた腕を肩に回しためぐみを見て、大夢は少しだけ怠さが消えた、気がした。

 

──────<10>──────

 

「認めない…」

 

 カツッ、カツッ、高い足音が白い廊下に響く。

 

「あのような軟弱者が…天羽々剣に怯え竦む奴が、アイツのの同類など…」

 

 思い起こされるあの姿。あの透き通るような体色、鍛え上げられた筋肉、歌舞伎の化粧のような顔立ち、額に伸びる二本角と腰に下がっていた飾り。どう見てもあの個体と同じ、そう直感が告げている。

 

 だが異形のモノがこちらの向ける殺気に両手を上げた時、自分の中で何かが切れた。こんなにも弱弱しく人のような(・・・・・)化物が、二年前の個体(・・・・・・)の同族だというのか。

 

 こんな奴に私は…上ってくる激情を前に叔父の咎めがよぎる。

 

 

『────敵を間違えるな。俺たちはまだ彼を、彼らを何一つ知らないんだぞ?』

 

 

 知っている、アレは許されざる存在だと言いかけた。だが何故か言葉は出ず、彼女は叔父から目を背けるようにその場を去るだけしか出来なかった。

 

「もう何も奪わせない。私が人々を守る、剣だ」

 

 それでも風鳴翼は止まらない。胸に歌を宿して。

大夢君は今後、誰と絡んでほしい?

  • ×響
  • ×翼
  • ×クリス
  • ×未来
  • ×フィーネ
  • ×弦十郎
  • ×めぐみ
  • ×藤二
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