姫鬼   作:邪道キ

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申し訳ありません、シカの相手をしていました。

やっつけ仕事ですが、アンケート1位の彼女が登場する第8話です、どうぞ。


断つ繋がり、断たれる道

──────<17>──────

 

 3週間が経った。

 

 都心を襲ったノイズ災害(・・・・・)の爪痕は大きく、新宿から渋谷を真っ直ぐ線で結ぶように広がった被災地域が政府により封鎖された。その範囲は直線距離約3キロメートルに及び、人命、物流、経済へ多大な影響を及ぼした。

 

 最初の1週間は人々の不安が煽られた。政府によって封鎖された街、現場から連絡が取れない家族や友人、或いは大切な人。そして現場で目撃された白い影。不確定な情報に不安が煽られ、在りもしない疑心を呼びこむ。中にはぶつけようもない気持ちを巻き散らす者もおり、最初の一週間は特に荒れた。

 

 しかしメディアがこの事件の死者数があのライブの惨劇以降最多(・・・・・・・・・・・・)であると報じてから世間の様相が変わり始める。政府はこれを契機に交通規制の一部解除、経済的被害を被った企業・自治体への援助を決定。次々と被災者支援のための施策を打ち出す手早い対応を前に、次第に人々の興味は「謎の究明」より「今目の前にある生活の修復・維持」へと移っていった。

 

 そうして怒涛の二週間の時が過ぎ、事件の渦中にいためぐみは今、新宿へ向かうバスの中にいた。

 

「風鳴翼、活動休止…ウソ、巻き込まれたの?」

 

 揺れる体を手すりで抑えてスマホの画面をスクロールする。ネットニュースは『都心横断災害』『新宿の悲劇』と呼称された一件の関連情報を主に取り上げているが、それ以外の情報も軒並み暗い印象のものばかりな気がする。よく見れば明るいニュースはあるのだが、どうも乗り気にならない。天を仰ぐように顔を上げると、電光掲示板が次の停車駅を示していた。

 

『次、止まります』

 

 誰かが降車ボタンを押したようだ。めぐみはスマホをポケットへ押し込んで肩からずり落ちてきたバッグをかけなおす。停車したバスから降りると、丁度待合の男が手元から顔を上げたところだ。

 

「……よ」

「早いじゃん」

「まぁ、今日はちょっと時間見て動いたし」

「そう…臨時ダイヤだっけ?」

「ああ、人でごった返してたわ。マジで苦しかった」

 

 藤二と合流しためぐみは目的地まで並んで歩きだす。お互い何も語らず、ただ歩を進めるだけ。時たま相手の横顔を見ると浮かない表情にどう声を掛けたらいいか逡巡し、そしてまた俯いて歩く。気まずい間に耐えきれなくなったのは藤二だった。

 

「アイツはやっぱり?」

「…………うん、連絡付かない。家にも帰ってないぽいし」

 

 藤二の問いに重々しく口を開いためぐみ。その沈痛な面持ちに藤二は臍を嚙んだ。うちのリーダーはドラマー(姫矢大夢)に肩入れしている、それも何かあれば自分を省みない程には。その事に柄も知れない苦味を覚えるが、藤二は顔を上げて明るく声を張った。

 

「…ま、大丈夫だろ。なんだかんだ言っても大夢だし。この間も無事だったし、ヒビキさんの時もアイツだけ────」

「藤二ッ!」

 

 ぴしゃりと突然、藤二の言葉がさえぎられる。振り返るとめぐみが眉を吊り上げてこちらを睨んでいる。力の籠る眼差しに藤二は思わず目を背けた。

 

「…何処ほっつき歩いてんだかなアイツ!」

 

 人一倍声を張り上げ、藤二は追われるように足を速めた。

 

 

──────<18>──────

 

 

「ご本人確認できましたので、こちらお荷物です。」

「ありがとうございます」

 

 受付の女性から荷物を受け取っためぐみは目礼した。受付を少し離れ、振り返れば長大な人の列が入り口を越えて通りまで続いている。すれ違い人々の顔を見てめぐみは凹んだキーボードケースを握り締めた。

 

 今警察署に来ているのは自分のように現場に荷物を置いて行ってしまった者か、或いは本人の代わりに受け取りに来たのか。代理で来た人は、と考えた先に行きつくものを想像してめぐみは目を逸らすように警察署を出た。

 

 藤二は既に荷物を引き取ったのか、ギターケースを側の電柱に立てかけて待っていた。駆け寄る足音に気づいたのだろう、荷物を取るとめぐみの横に黙って並んで街を歩きだす。不安と焦燥の喧騒から離れ、警察署の角を曲がったところで、二人の前に見知った顔が見えた。

 

「……お前らか」

「てんちょ!無事みたいっすね」

「どこ見て無事に見えてんだよ、ったくあの野郎…」

「いやでも全然マシっしょ命あるだけ」

「イヤミか、鏡見て来い。こっちゃあ足折れてんだぞ」

「ちょ、つぇ、杖!突いてんじゃないすか」

「うるせぇ!」

 

 喜ぶ藤二をあしらう店長の足には包帯が分厚く巻かれている。崩落に巻き込まれたのか、それとも違う要因か。ともかく半ば片足立ちして松葉杖で藤二を突く店長を見てめぐみは少しだけ安堵した。

 

「あーもう心配して損したわ~」

「何だとお前?もうちょっと労われジジイを!」

「いや元気じゃないすか!今日だって一人で荷物取りに来たんでしょ?」

「あ、おう、そうだな?…足が痛むのも惜しんで、この人ごみに来たんだぞ?もっと敬えホレ」

「あの、大丈夫なんですか?お店」

 

 それでも聞かずにはいられなかった。少し大げさ気味に頷いていた店長はめぐみをちらと見ると、ふうと松葉づえをついた肩を落とした。

 

「────店な、閉めることにした」

「っ」

「あちこちガタが来てたのもあるが…あんだけ死人が出たんだ、直したって誰も来やしねぇよ」

「そんな…アソコなくなるなんて、店長の若いころからやってた思い出の場所でしょ?」

「良いんだよ、正直潮時とも思ってた。世の中見渡しゃ、やれ歌ってみただ、やれヴァーチャルだストリーミングだ…わざわざライブハウスに来なくても音楽に触れる機会は多い。終わらせるにゃいい機会だよ」

 

 閉店の報を聞いた藤二の驚嘆に店長はにべもなく鼻を鳴らした。やはりという気持ちとズキリとした痛みに、バッグを握る手に力が籠った。

 

「でも、寂しいっすよ。アソコなかったら俺バンド組んでなかったと思うし」

「ライブハウスだって、まだ必要としてくれる人がいますよ!私らだって、布施さんたちだってまだ!」

 

 引き留めようと詰め寄るめぐみだったが、店長の目を見た。いつも此方を睨むように細目だったはずだが、今はぱっちりと見開かれている。黒い光彩も、その奥に宿るものも、はっきりと見えるようだ。

 

「そう言ってもらえるだけ儲けものだったな、JoySTAR(俺の未練)も」

 

 力が抜けるように笑う店長はそう言って二人の間を進む。行列へ一歩ずつ進む小さな背中を、二人は近づくことが憚られた。

 

「これからどうするんですか?」

「さぁな…テメェらは自分の心配しろ。楽器も無ぇし、欠員が出てる。また一からやり直しだろ?若ぇんだから、苦の一つくらい背負ってみろってんだ」

「…ヒロ、見かけませんでした!?」

「…………さあな、」

 

 首を逸らし、ゆらゆらと手を振る。めぐみたちは差し押さえられていた荷物え視線を下ろした。

 

 埃で煤けたギターケースとキーボードケースが地面へ力なく項垂れている。あるはずのミュージシャンの魂はそこにはなく、ライブハウスの下にあるだろう。夢を続けていくに必要なこと、めぐみと藤二は顔を見合わせると警察署に背を向けて歩き出した。

 

 遠ざかる二人の背後からぬっと何かが出た。それは小走りすると行列に並び始めた店長の肩を叩いた。

 

「てんちょ」

「……っ、テメ、ジジイ脅かすんじゃねぁ痛たたたた…」

「す、スイマセン大丈夫ですか…手貸します」

「テメェの手は借りねぇよ!」

 

 驚いた店長はどなろうとするが、傷に響いたのか顔をしかめる。すぐに伸ばした手を振り払われた姫矢大夢はそれ以上何も言わずに店長の側へ寄り添った。

 

「たく、お前ひとりだけ隠れやがって、ごまかすのに苦労したぞ」

「すいません、退院したばっかりなのに。」

「ホントだよお前。病室に変な格好で乗り込んできたと思ったら全裸になるわ服よこせだの、しまいにゃ二人の様子を見てこいだァ?顎で使いやがってよぉ」

「ホントにごめんなさい、家の鍵無くして入れないし、服は無くなってるし、ほかに頼れる人が思いつかなくて…」

「閻魔様からお迎え来たかと思ったぞ!こっちの気持ちも考えろよ!」

「いや心配だったんですよ、あの時店長見えなかったし」

「瓦礫の下にいたからな。運よく足だけで済んだが…」

 

 平謝りしながら大夢はこの三週間を回想する。あれから人目につかない場所まで逃げたはいいが、家には入れないわ空腹には襲われるわ迂闊に人前に出れないわで最初の数日間は不便を極めた。更に時間が経つごとに皆ののその後が心配になり、夜な夜なこっそり病院を一軒ずつのぞき込んでいたら店長とばったり遭遇、驚きのあまり発狂しかけた店長を黙らせようと裸で取っ組み合う羽目になった。

 

 思い返すと二週間大変だった、と嘆息する間に順番が回ってきたようだ。店長と共に身分確認を終え、押収されていた荷物を受け取る。外は大分ボロボロだが中身は大丈夫そうだ、中身をまさぐりスマホを探り当てると電源を入れた。

 

 満タンの状態でバックにしまっていたが残りの残量は20%以下、先ほどバッグの底に家の鍵もキラリと見えた、何もしなければ家まで持つだろう。そう考えていた時スマホが震えた。

 

 写された名前は「滝川めぐみ」。

 

「あ」

「そら見ろお前、さっさと出てやれ無事だって…」

 

 大夢は店長とスマホを交互に見ると、逡巡の末にスマホの電源を落とした。スマホをポケットにねじ込み、手持ち部沙汰になった手を太もも辺りにこすりつける。その様子を見た店長は大夢をにらみつけた。

 

「良いのか?」

「もう無理ですよ、会わないって約束しましたし、会ったらお互い嫌な思いするだけですから」

「あのカッコのこと言ってんなら気にすることねぇだろ、ぱっと見分かんねぇよお前」

「俺が嫌なんですよ、とにかく!もう俺のせいで迷惑かけたくないですから、死んだらシャレになりませんし」

 

 だがしかし、と何か言いたげな店長にお世話になりましたと一礼、そのまま踵を返して大夢は走り出した。

 

「せめてお前、たちばなに連絡は入れて────」

 

 何かを言っていたような気がしたが、聞かないふりをした。今は離れたい。誰にも自分の胸の中に入り込んでほしくなかった。

 

 どれだけ走ったか、ふうと息を吐いてバクつく心臓を抑える。近くの木に手をついて周囲を見渡していると、がさりと木の葉が振ってきた。

 

「…?」

 

 何かがいる、見上げてみると木の上に細い足が見えた。靴や靴下のデザインからして女の子か?と考えているとゆらゆらしていた足がガクリと落ちた。

 

「…って危な!?」

 

 とっさに両手を広げ、揺れた先へ体を差し出す。落ちて来た体を受け止める。背中に走る衝撃、ゴンと響く頭。ちかちかする視界に目を細めながら大夢はぐっと閉じた腕を緩めた。

 

「あっててて…だ、大丈夫です、か?」

「はい…ありがとうございま、ってそっちこそ大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫大丈夫!無駄に頑丈だから」

「そうですか!?でも人踏んづけちゃうなんて…私呪われてるかも…」

「そんなに悲観しないの、ね?怪我無くてよかった」

 

 呪われてるのはこっちの方、という言葉は呑み込んで、大夢は目の前の明るい髪色の少女を見た。




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(今後の展開)死亡キャラ生存はいる?

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