208年 8月
雄大な長江に望む丘から、沈む夕陽を眺める。
先の協議から劉琦さん及び派閥の臣下達が劉備軍に吸収される形で仕えてくれる事になった。長坂坡の窮地を脱し一息つけるようになると、嫌な現実に直面させられる。
独りにさせてくれ、と伝えたのに馬鹿な兄弟たちが近くに佇んでいる。二人して掛ける言葉も見つからないくせに近くにいる、本当におれには過ぎた義兄弟だ。
甘えていた。これまで本来去るべき者、死んでいく者達が共に生き続け、これで充分なのだと都合良く解釈し分かっていたつもりだった。
だが、天は不充分であると応えた。糜氏はもとより甘氏まで失うことになるなんて思いもしない、とはこの事か。今までは本来よりも良い事が、然しこれからはそうではないのかも。それが恐怖として圧し掛かる。
昔、黄巾の乱が終わった時に、歴史に沿うなどと簡単気に誓ったが、この世との向き合い方を変えろという事なのかもしれないな。
ーーー死して後に已む。か、、、
「曾子の言葉ですか、、、何か決心された御様子ですね」
いつの間にか諸葛亮と徐庶まで近くに来ていた。諸葛亮が、おれの独り言を目敏く掬い取って話しかけてくる。
まぁ、ちょっと今まで遠慮していた事を止めようと思ってね。心機一転というやつだ。
「そうですか、気落ち激しいかと危惧しておりましたが不要な心配でしたね」
ナチュラルに煽ってくるなコイツめ!と思ったが、いつも通り怒れなかった。いかん、こいつらには見透かされているな。
とりあえず何しに来たんだ、と言ってお茶を濁す。
「この江夏の県令(役人)に私達と同じように才を持つ者がおります故、劉備様に迎えていただきたいのです。その者の名は龐統、鳳雛と称される逸材です」
諸葛亮と徐庶が言うには、龐統は碌に仕事もせずに毎日酒に飲んだくれてるらしい。しかも、やるべき仕事をしていないので無理やり連れてきても構わないと言い切った。コイツら学友を簡単に売りよる、、、だが好都合だ。
先ほどから聞き耳を立てている関羽と張飛にさっそく声をかける。
雲長、翼徳!ここの役人に龐統っていう仕事をサボってる奴がいるから連れてこい!孔明の時の様な遠慮はいらんぞ、ケガだけはさせるなよ!!
斯くして二人は、麻縄でぐるぐる巻きにされた鳳雛・龐士元を捕まえてきた。
龐統・劉琦・伊籍・霍峻・向朗その他配下が仲間になった!
孫呉からの使者である魯粛は、劉備が使えるのかどうか見定めに来ていた。曹操による荊州陥落後は揚州・孫呉への東進と分かりきっているため、国内の降伏を唱える臣下を抑える材料を探しに来ていたのだ。実は魯粛も諸葛亮と同じく天下三分の計を考えた名士。だが、諸葛亮よりもこの時代にそぐわない先進的な考えを持つ異端児だったが、今はまだ語るべき時ではない。
魯粛のお眼鏡に叶ったのか、おれに孫呉との共同戦線を持ち掛けてきた。また、孫呉内での抗戦派の周瑜を手助けするため、孫権に使者を送り目通りして欲しいとも。
おれは孫権と同盟を結ぶべく、軍師・諸葛亮を派遣。諸葛亮は揺れに揺れている孫呉の降伏派を、はい論破!しまくり、ここに周瑜が勝機の弁舌を振るった。
孫権は開戦を決断。父そして兄から引継いだ古錠刀で机を斬って意思を示した。ここに孫劉同盟が結ばれる。
決戦は冬、江陵の東・鳥林の湿地帯に面した長江中流、今はまだ赤壁と呼ばれていない場所。
208年 10月 赤壁の戦い
孫呉の命運を託された都督・周瑜は孫呉水軍を率いて長江を遡上、曹操の大船団と対峙する。
決戦の前準備として、周瑜は曹操軍が手に入れた荊州水軍を弱体化させるため、偽の密書を作成し謀反の疑いを掛けさせ曹操に蔡瑁たちを処刑させた。さらに攻勢を仕掛け、烏林に誘き寄せるために意図的に後退する。これにより曹操軍を疫病の蔓延する湿地帯に呼びこんだ。
そして孫呉の宿将・黄蓋の偽装降伏を信じ込ませるため、苦肉の策により火計の手筈も整える。
一方おれ達は、周瑜の火計を成功させるため、所属が割れていない龐統を曹操陣営に向かわせ謀略を仕掛ける。龐統は曹操軍の隙の糸・水軍の調練不足を逆手に取る。
龐統は曹操に甘言を囁く。
ーーー水上に不慣れな貴軍は船同士を鉄の環で繋ぎ、足場をその上に作って波風に揺れないようにすればいいのですよ、さすれば船酔いに苦労はしないでしょう。
此処に燃え渡る火から逃さぬ、連環の計が成る。
これであとは東南の風が吹くのを待つ。
決戦は冬の訪れを伝える風、木枯らし吹く眩い満月の夜であった。
おれ達は周瑜の勝利を信じ、曹操の撤退するであろう進路に待ち伏せを掛ける。決戦の地が見渡せる丘の上、長江より日が昇る様に燃え上がる炎をみた。赤壁は炎上したのだ。
周瑜の火計は成功し、曹操の大船団は天下統一を目前に、その野望と共に灰燼に帰した。
あとはおれ達が曹操の首を討ち取るだけ。