226年 5月
蜀漢軍の猛将張飛・黄忠・呂玲綺たちが渭水北岸側に集結するのを確認した魏軍総大将・司馬懿は自ら主力を率いて郭淮と合流、張飛の部隊と対峙するため移動を開始した。司馬懿の拙速を尊ぶ行軍は見事。
しかし、それは諸葛亮の掌の上で転がされていた。
「今です!関羽将軍に合図を出しなさい。本隊を東進、渡河させて敵本陣に攻撃を仕掛けるのです。」
天候が下り坂になり、日中でも薄暗く見通しが悪くなったこの瞬間。今か今かと待ち望んだ展開に諸葛亮は、司馬懿率いる魏軍主力が北岸への移動を見るや敵中枢たる本陣を撃滅するため、無防備になる時を狙いすまし号令を発した。
関羽率いる蜀漢軍本隊は猛烈な勢いで正面の川を越え、敵陣に突貫。その精鋭達は前面に武力を集中させた軍神に続いた。振るわれる青龍偃月刀の一太刀は魏軍本陣の救援にきた張郃・夏侯覇両将の守備隊をあわや灰燼に帰すほどの威力でもって戦線を大幅に押し込んだ。
小雨降りしきる中、敵の前線は引き裂いた。このまま敵陣を吞み込もうとするも敵将・張郃が横槍を入れてくる。相も変わらず冷静に地形を巧く使い戦線を維持させようと奮戦してくる。馬上から横目に見える右翼側では、前年の天水攻略戦にて蜀漢に降った姜維が夏侯覇の部隊を相手にしている。兄者と軍師殿も目を掛けているようだが、なるほど善く戦う若造だ。
だが、蜀漢の将とは我である。此の武でもってこの戦場、敵味方問わず証左と見せつけてくれよう。張郃なんぞの路上の小石でしかない。
関羽の気迫に当てられた将兵は宿将の周倉・廖化を筆頭に、耐えしのぐ張郃の部隊を徐々に徐々に切捨て、足元を赤黒く染めていった。
雲長やりますねぇスギ!
おれは関羽の快進撃を上方谷の陣から眺めて、内なる野獣を解き放っていた。そこだ、やれー!けちょんけちょんにしろ!!
「劉備様!敵総大将・司馬懿が本陣の戦線に戻ってきた様子です!!川向こうの前線に着陣した龐統殿より、関羽将軍に援軍を送るよう進言が来ております。」
かしこまり!孔明も何ぞこの谷で準備してるようだから、確認せんでもええやろ。
士元に強く当たってあとは流れで(好きにやってくれ)って伝えといてくれ。
承知しました!っと大きな声を後ろに聞きながら、司馬懿が参戦した戦場に目を戻した。このまま押し切れれば、五丈原を抜けれるだろうか・・・
補佐の趙累より司馬懿参戦の一報が伝えられ、数で勝る魏軍に前線左翼側が押し戻されてきた。兵の損耗を圧して耐え忍んできた張郃の戦術が薄氷を踏み渡ったと言えるのだろうか。こちらへの増援に龐統殿が黄忠(くそじじい)の渡河する手筈を整えているようだ。義勇軍立ち上げからの将として、十年そこら仕えた者と同列に扱われるのは気に入らないが、兄者と漢復興の大義のため陣列に並ぶことを赦さんでもない。まずは眼前の敵に注力せねば。
雨足が強くなる。立ちはだかる敵兵の影が日が経つ毎に増えていき、我等精兵が受け持つにも限界が近い。士気を高く維持したとて数で劣るは我ら、一人がより多く屠ろうとも戦い続けれる兵なぞ居ない。血染めの大地と共に敵に与えた恐怖すら降りしきる雨水によって洗い流されていく。
まだ援軍は来ないのか!
「関羽将軍!!」
天幕の外から参軍の王甫が呼びかけてきた、嫌な予感がするものだ。
「一大事です。連日の長雨により渭水ならびに武功水の河川が増水により援軍の渡河が間に合わなくなっております!このままでは我らは河川を隔てて前線に孤立してしまいます」
「なんだと!?であれば、同じくこちらに渡ってきていた龐統殿からの指示はどうなっている?まさか先に本陣に戻っているわけでもあるまい」
「龐統殿は現在こちらの後方にて本陣帰還のため順次渡河の手筈を、また姜維殿と木牛流馬を複数陣営内に散乱させると同時に、我らの後退を援護される様です。」
「敵大将を前にしながら口惜しいが仕方あるまい、我等も本陣まで退くぞ!この雨だ、敵の視界も悪いであろう、陣払いを急ぐのだ。」
しかし、なぜ輸送の為に軍師殿が開発された木牛流馬をみすみす敵に鹵獲させるように置いていくのだ。1体だけやけに角が立派で色が赤と金の派手な木牛があるが・・・何か考えがあるのであろうか。
ぐぬぬ、天気の事とはいえ司馬懿を押し切れんかったか。しかしこれで緒戦はおれ達に軍配が上がっただろう。一先ずは関羽たちが無事に後退できた事を喜ぼう、増水した河川が落ち着くまで無理に動くことは出来ん、ここから先は孔明たちの言う長期戦を見越すしかないのだから。
「やれやれ、勝負は時の運とはいえ困ったものですな」
そんな事をぼやきながら濡れネズミみたいに龐統が軍議を開く天幕に入って来た。
まずは前線部隊を無事に後退させた事を褒めてやろう、よくやった!!
っていう労いだけで済むとでも思ったか!おいこら、士元。なんでおれの木牛流馬を勝手に持ち出しておいて放棄してきてんだ!あれは皇帝専用装備だぞ。AIBOを返せよ!返してよ!!
「あれほど立派なモノです、良い戦利品として司馬懿の前に献上され、しかと検品されるでしょう。これも戦場の定め、失う覚悟も無しに目立つ木牛流馬を用意させるものではありません。奪っていいのは奪われる覚悟のある奴だけです」
どこぞの皇子みたいな事を言い放った鳳雛を余所に、傍にいた諸葛亮が次の策を諸将に伝えはじめた。木牛がどうこう色々話していたが、悲しみに暮れるおれは田豫に慰められながらも、耳には何も入ってこない。
長すぎた霉雨が明け、夏を迎えた頃。遠くに見える魏軍の陣営を往来する木牛流馬が目に映る。蜀漢の兵站事情を改善した絡繰りは、その有効性を持って司馬懿に量産され敵軍の能力向上に寄与していた。
一際目立つ木牛が忙しなく動いている姿を見ると視界がぼやけてくる、AIBOOOOO!!
CE版で始めからやり直したので初投稿です。