元殺し屋の先生   作:狐ノ陽炎

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一章 元殺し屋先生
1話 巨大学園都市キヴォトス


ついさっき、夢を見た。

 

今まで私が生きてきた中で、一番色づいていた夢。どこかで会った事あるような、無いような人が、私にずっと語り掛けてきた夢。でもその人は私を知っていて、なおかつ私より年下だった。

 

 

今私は、キヴォトスという巨大学園都市に居る。私の過去を全て忘れ捨て、一度も経験が無い新たな旅が幕を開けようとしている。

 

「ここが、キヴォトスか…」

 

思わず出た言葉には、目の前に聳え立つ立派なビル群を目にしたからだろうか。それとも色が無い世界でずっと生きてきた私にとってはあまりに似つかない、それはとても新鮮な世界だったからか。どちらにしろ、不安よりも楽しみで仕方ない感情が前を歩いている。ふふっ、そりゃーとても私らしくない。

 

これから私は、その巨大学園都市キヴォトスを管理する組織、連邦生徒会の居るビルへ向かっている。事前に用意された地図等は持っていないが、何となく私にはそれがどこか分かっていた。どうして分かったのか?って聞かれても説明のしようが無いが…まあ、なんでもいい。

 

ビルの入口の自動扉が開かれ、その先に居る受付員らしきロボットに、事情を説明した。連邦生徒会に呼ばれてここに来たこと、それでもって私はどうすればいいのかを聞いた。ロボットは何らかの確認作業をした後、エレベーターに乗って上の階へ上がってくれと言った。何階に行けばいいと聞けば、エレベーターが勝手に止まるからそこに降りてくれとの事だった。そりゃーとても技術の発達した都市だ。こんな事にイチイチ驚いている暇なんてこれから無くなっていくだろうね。

 

受付員に指示された通りエレベーターに乗った。ドアを閉めるボタンを押そうと思った瞬間に自動的に閉まり、自動的に上へ上へ上がっていく。下から見えた一種の威圧さえ与えてきた他のビルの屋上をも通り越し、今私の居るビルのだいぶ上の方まで昇り、エレベーターは止まった。ピンポーン!と内に軽く響く音と共にドアが開かれる。恐る恐る降りてみてもそこには誰も居ない。すぐ横に四、五人程度の長椅子を見つけ、とりあえず待てばいいだろうと思ってそこに座る。

 

ふぅ…、と一つ息を出して周りを見渡してみた。ここはガラス張りの大きな部屋のようで、正面には背もたれ付きの立派な椅子とデスクが一つある。

ふー…、と今度は長く息を出す。ここに来るまでどれだけ掛かったか、もう私はあまり覚えていない。いや、あまりというのは言い過ぎか、全くもって覚えていないが正しい。

 

「どなたですか?」

 

横から唐突に、女性の声が聴こえてきた。顔を向けると、黒の長髪、眼鏡をかけ、いかにも連邦生徒会のエリートたる人物がそこに居た。この人が連邦生徒会長っていう私をここへ呼んだ人なのだろうか?少し疲れていた私は、質問に対し何も答えなかった。

 

「あなたはどこの学園の生徒ですか?」

 

何も答えない私に少し苛ついたのか、もう少し詳しく聞いてきた。あー、私の容姿を見てそう判断したんだな。

 

「あ、いやー…学生では無いよ」

 

私の服はとてもこの連邦生徒会という組織においてはあまりに相応しくない。お嬢様のような服に厚底のブーツ、さらに頭には小さなリボンという格好をしている。それに拍車をかけるように私の身体が小柄である事からも、生徒だと思わせるには十分材料が揃っていた。女性はしばらく沈黙したのち、口を開いた。

 

「ではあなたが、私達連邦生徒会がお呼びした先生……ということですか?」

「うん、あってるよそれで」

 

連邦生徒会が私を呼んだのか?てっきり連邦生徒会という組織の長、連邦生徒会長が呼んだのかと思っていたんだけどな。

 

「それは失礼いたしました。私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」

 

ありゃ、ハズレ。この女性は連邦生徒会長ではなく幹部だったらしい。でも幹部という事は、それなりの権限と役職は持っているのだろう。

 

「私は神田アリスだよ。私がその……先生って事でいいのかい?」

「はい、おそらく……そのようですね」

 

おそらく…とは?とでも言いたげな顔を見たからか、女性は次にこう言った。

 

「…推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

 

そりゃーとても困った言い方だな。私は君が所属している連邦生徒会に呼ばれてきたというのにだ。

 

「混乱されていますよね…。分かります」

 

また私の顔を見てそう答える。私のよく顔に出る癖はどこに行っても治る事なんて無いんだろう。

 

「こんな状況になってしまった事、遺憾に思います」

 

遺憾という言葉が聴こえてきた。まるで私がその何かに対して既に知ってるかのような言い方だが、今は敢えて触れないでおく。私はよく顔に出る癖を持っているが、私も私で他人の表情はよく見る方だからだ。

 

「でも今はとりあえず、私について来てください。どうしても、先生にやっていただかなくてはならない事があります」

 

この女性から今感じ取れる表情は、焦り。表面上には一切出していないが、これは恐らく……。

 

「学園都市の命運をかけた大事なこと…ということにしておきましょう」

 

ああ、やっぱりね。

実際この世界はこの連邦生徒会がある事で十分成り立っていたはずだ。だがキヴォトスに関係ないまったく外部の私を何らかの理由で呼んだという事は、つまりそういうことなのだろう、と。女性はその後何も言わずエレベーターに乗った。私も有無を言わずにそのままついていった。

 

 

 

彼女と一緒にエレベーターを降りると、どうやらここはレセプションルームだった。一応こんな時にでも私は歓迎されているのかなと思った矢先、なんだか騒がしい。明らかに歓迎ムードではないし、やけに人が多い。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

「首席行政官、お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

嫌な予感というか、面倒な予感というか……。横に居るのは子供と判定された私には目もくれず、七神リン、彼女に数人の生徒が詰め寄っている。

 

「ああ……面倒な方たちに捕まってしまいましたね…」

 

その諦めのような言葉は私に言ったのか、それともあまりの面倒くささに出てしまったのか。その答えはともかく、相手にもされなかった私はここに至る経緯を黙って聞く事にした。

 

今彼女に詰め寄った数人は、各学園の生徒会や風紀委員会、その他暇を持て余している生徒らしい。そしてやはりというか、この学園都市キヴォトスはあらゆる理由から混乱に陥っているとの事だった。数千もの学園自治区が混乱に陥り、学校の風力発電所がシャットダウンした事。連邦矯正局?というのだろうか。停学中の生徒たちが、一部脱走した事。不良生徒が優良生徒を襲う頻度が急激に高くなり、治安の維持が難しくなった事。出所が不明の武器の不法流通が2000%以上増加した事等々…。

 

確かに頭が痛くなる内容だし、今すぐ帰りたくなりそうだね。そもそも彼女はこれらを私に任せると言っているが、元殺し屋の私一人で本当に何とかなるんだろうか。不良生徒の鎮圧はともかくとして、学園の混乱を収められるほどお人好しじゃないんだけどな。そして今もなお姿を見せない連邦生徒会長について。どうやら何週間も姿を見せていないらしい。

 

「………正直に言いますと、行方不明になりました」

「…えっ!?」

「やはり…あの噂は……」

 

行方不明。

連邦生徒会長に会えると思っていた私すら、多分顔に出ているだろうな。私だけじゃなくて、当然彼女に詰め寄っていた生徒達も驚いている。連邦生徒会長が行方をくらました事により、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態との事だった。サンク…なんとかタワーって言ったか?そこの管理者が連邦生徒会長だったという。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」

「それでは、今は方法があるということですか?首席行政官」

「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

彼女が私に視線をやると、今まで私の事をただの生徒かもしくは視界に入らなかったであろう生徒達は、一斉に私を見た。そしてその驚き方は私にとっては結構失礼なものだった。まあ、こんな格好してるし、納得しろと言われればそこまでだけど……。

 

「この子…いえ、この方が?」

 

私自身がフィクサーになる事よりも、目の前に居る私よりも背が高い生徒達からの視線に耐え切れずにいた。どんな顔してんだろうな私。

 

「ちょっと待って!そういえばこの子……いえこの先生はどなた?どうしてここに居るの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが、先生だったのですね」

 

私の見た目からしてやはり年下感が否めないのだろう、子ども扱いしかける生徒もちらほらいるし、何なら大人かどうか疑ってそうな生徒もいる。

 

「はい。こちらの神田先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名した…?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

そんなの私もだから安心しろ。七神リン、彼女の話は続き私は元々、連邦生徒会長が立ち上げたとある部活の担当顧問としてキヴォトスに来る事になっていたとの事。

 

その名も、連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活動ではなく、一種の超法規的機関。キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を、制限なく加入させることが可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行う事も可能との事だった。

 

……。

元殺し屋の私が言うのも何だけどさ、それって大丈夫なのか?キヴォトスに元からいた人物ならともかく、まったくの外部の人間が持つ権利にしてはちょっと大きすぎる気がするんだが……。

 

「シャーレの部室はここから約30Km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます」

「……とある物?」

「はい。そして先生をそこにお連れしなければなりません」

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

 

どこから通信器具を取り出したのか、ここに居ないであろう生徒の名前を呼び、通信を開始した。

 

『シャーレの部室?ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』

 

急に通信ノイズみたいなエフェクトがかかったような状態で、人の姿がパッと現れた。ここキヴォトスでは通信方法はこういう形らしい……。普通にびっくりしたんだけどな…?

 

「大騒ぎ……?」

 

さっき誰かが言っていた矯正局とやらから脱走した誰かを中心に、騒ぎを起こし戦場になっているとの事だった。連邦生徒会に恨みを抱いた停学生徒の仕業との事だ。連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしい。ここって普通に町中に戦車とかいるのか……普通に骨折れるじゃ済まないんだけど?

七神リン、彼女の表情がどんどん強張っている。面倒に面倒の縦続きだ、分からんでもない。しっかしまー、元殺し屋という特殊な人生を歩んでいる私からすれば、この程度の判断は取るに足らないものだ。

 

「つまり、強行突破しろって事か?」

「………ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいますので…ええ、その通りですね」

「えっ?」

 

青髪で立派な太ももをお持ちの生徒は、きょとんとした顔をしている。しかしそんな事はお構いなしに、彼女は続ける。

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

そういうと、すたすたと出口の方へ向かっていく。

 

「ちょ、ちょっと待って!どこへ行くのよ!」

 

首席行政官に続き、数人の生徒も1秒遅れて後について行く。

 

「……へぇ?」

 

つまり、『こいつらを使って戦わせろ』って事か?学園都市でありながら銃器や戦争は当たり前ときた。今までの私であれば、間違いなく生徒の立場からの視点しか知らない。この世界の大人………いや、私がシャーレの先生ということでいいのかは分からないが…。

 

「これはちと…面白そうだな」

 

まだ首席行政官について行かなかった生徒が周りに数人いたが、私は気にする事も無く言葉を発した。そう、私の……大人としての初仕事だ。じっくり見させてもらおうかな?この世界を、これから続く私の旅を。

 




今年の夏よりブルアカ始めました。

新任のシャーレの先生です。よろしくお願いします。
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