今日も今日とて業務を終え、背中を伸ばす。朝っぱらからラーメンを食べたおかげか、いつもより早く仕事を終える事が出来た。
「あー、でも今日の夕飯どうしようかな」
私の中では朝は白飯、昼は適当、夜はラーメンが既定路線だった。昼ラーメン、夜ラーメンはよくやるんだが…朝ラーメンで夜ラーメンで締めるのもなんか違うな……。
「まあ、外出てから考えるか」
シャーレの建物を出て、夜風に当たる。アビドスの熱気とは縁が無いこの涼しさ。温度差も激しい…明日以降はもちろんだが、体調には気を付けないとな。
プルルルル…プルルルル‥‥
ポケットに入っている携帯が、音を鳴らして振動する。
電話か…誰だ?
「私だ」
『せ、先生!大変です!』
電話の相手はアヤネ。しかし朝とは違い、酷く焦っている様子が電話越しからでもよく伝わった。
「どうした?」
『セリカちゃんと…連絡が取れなくて…!家にも帰ってないみたいで…!』
「わかった、すぐに行く」
私はそのまま電話を切り、急いでシャーレのオフィスに戻る。念の為に『シッテムの箱』と、必要な武器と閃光弾を多めに持ち、オフィスの窓を開けそのまま別の建物の屋根へ飛び降りる。地面を走っていくより、この方が手っ取り早い。
アビドス自治区が近づくにつれて少し蒸し暑くなる。
「やっぱり少し暑いか…」
「おーい、先生ー」
汗を拭う為に一度止まったその時、下から見知った声が聞こえてきた。ホシノだった。
「ホシノ!」
私はすぐさま地上へ降り、ホシノのもとへ向かう。
「うへ~、まさか上からの登場なんて予想外だよー?先生」
「…どうしてここにいる?てっきり学校に居ると思ってたが」
「セリカちゃんの携帯、今電源が入ってないんだって」
アヤネの慌て具合と、ホシノがわざわざこれを報告する理由。つまり普段この時間セリカの携帯の電源が切れてるのはあり得ないって事か…。
「それで、セリカちゃんの携帯を逆探知とか出来ないかなーって思ってさ」
「……」
私は『シッテムの箱』を取り出し、アロナに聞いてみる事にした。
「……アロナ、出来るか?」
『はい!連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスして調べる事ができます!』
「じゃあ頼む」
『了解しました!』
『シッテムの箱』、持ってきて正解だったな。ホシノからは「誰と話してるの?」と聞かれた。そうか……『シッテムの箱』はもとより私にしか起動できなかった端末。私以外には見えているわけも声が聞こえているわけも無いのか。
その後私は、ホシノと共にアビドス高校の対策委員会の部屋についた。当然部屋にはセリカ以外の全生徒が揃っている。
「みんな、お待たせー」
私とホシノが逆探知して調べた事をホシノは事前に伝えていたらしい。
「ホシノ先輩!先生!」
「ああ、お疲れ」
「どうだった、先輩?」
「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた」
「セントラルネットワークに……先生、そんな権限までお持ちなのですね…」
「うへ~もちろんこっそりだけどね。バレたら始末書だよ~?」
アロナもどうやったか私の意図を読んでいたのか、こっそりアクセスしたというのは事後報告だった。こっそりアクセスできるアロナも凄いんだがな……。
「だ、大丈夫なんですか、先生?」
「……セリカの為だ。始末書がどうとか関係ねえよ」
「先生……」
「連絡が途絶える直前のセリカちゃんの端末の場所、ここだったよー」
「ここは…砂漠化が進んでいる市街地の端のほうですね?」
「住民もいないし、廃墟になったエリア……治安が維持できなくて、チンピラばかりが集まってる場所だね」
「このエリア、依然危険要素の分析をした際にカタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です」
このオペレーター、どこまで優秀なの……?やはりというか、カタカタヘルメット団の仕業で間違いないようだ。
「なるほどねー。帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分たちのアジトに連れて行ったって事かー」
「学校を襲うくらいじゃ物足りなくて、人質を取って脅迫しようって事かな」
……いや、むしろ学校を襲うのが難しくなったからこういう下衆な手段に出たんだろうな。今からここへ行くにはかなりの時間を要するが、まだ遅くは無い。一刻も早く出発する必要がある。
「じゃあ、行こうか」
「よっしゃー、そんじゃ行ってみよー!」
対策委員会の部屋を飛び出し、セリカが囚われているであろうエリアへ走って向かう。もう日を跨ぎ、そろそろ普段の疲れから眠気も激しくなる頃だろうが、そんな気も当然起こらない。一刻を争う事態だからというのもあるが、私としてはどこか懐かしさを感じたからだ。誰かを助ける為に、夜中に走り回った事なんて無いのにな。
「……ああ、あのトラックで間違いねーな」
例のエリアに到着した時には、もう既に空は明るくなっていた。徹夜なんていつ振りだろうか、寝れなくて徹夜になってしまった事はよくあるが……。
で、話を戻して、今はその付近でセリカを探し回っていた所だった。シロコから怪しい車を発見した報告が入り、私も丁度見ていた所だった。『シッテムの箱』、アロナの情報からもあのトラックの荷台にセリカがいる可能性が高いという。つくづく有能な奴らがいっぱいいるなこの学園都市は。手持ちの武器は多めに持ってきた閃光弾と、手榴弾2つ…それとハンドガンか。
「私がトラックの周辺を手榴弾で破壊して乱すから、シロコのドローンでトラックの運転席付近を攻撃しろ」
「ん…了解」
トラックの速度はあまり速くない事は幸いだな。私は手榴弾の栓を抜き、3秒ほど持ってトラックの200mほど前に投げた。シロコもほぼ同タイミングにドローンを起動し、トラックへ向かわせた。
「よし、私達も行くぞ」
私達も当然それらに続いてトラックへ走り出す。
すると私の作戦通り、トラック付近で爆破した衝撃でトラックの挙動が乱れ、運転手はハンドルを操作する事にいっぱいいっぱいになる。そこでシロコのドローンが到着、運転席付近……正確にはキャビンだな。攻撃されたトラックはエンジンルームを間接的にやられ爆発した。少し強引な手段ではあるが、セリカが後方付近で寝かされていた事を願うのみだ……。
『セリカちゃん発見!生存確認しました!』
アヤネからの通信が入る。誰よりも早くその場で通信が取れるそのオペレート力、私にも少しだけください。
「了解、敵の位置情報を調べてくれ」
『了解です!』
遅れてシロコ達も、セリカの無事を確認できた。私も一緒に居たから私もこの目で確認できた。
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」
「っ!?」
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
「う、うるさい!!な、泣いてなんか…!!」
「嘘!この目でしっかり見た!」
「泣かないでください、セリカちゃん!私達が、その涙を拭いて差し上げますから!」
「あーもう、うるさいってば!!違うったら違うのっ!!黙れーっ!!」
みんながセリカを弄ってセリカが恥じらいながら大声で返す。この流れがどうも私は好きみたいだ。
「無事でよかったよ」
「な、なんで先生まで!?どうやってここまで来たの!?」
ここは私も乗ってやるか。
私も自分からやるそういうノリは嫌いじゃない。
「悪党にさらわれたお姫様を助けるのは勇者の役目だからな」
「ばっ………バッカじゃないの!?」
予想以上の反応を見せるセリカに私は思わず笑っていたと思う。
「だ、誰がお姫様よ!!冗談やめて!!ぶ、ぶん殴られたいの!?」
これくらい大声で何か言ってるセリカが丁度いい。
「うへ、元気そうじゃーん?無事確保完了ー」
「まだ油断は禁物。トラックは制圧したけど、まだここは敵陣のど真ん中だから」
私が言わなくても重要な事はしっかり言ってくれるシロコは流石だな。
「人質を載せた車両が破壊されたって知ったら、敵さん怒り狂って攻撃してくるよー」
『前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!!さらに巨大な重火器も多数確認しました!徐々に包囲網を構築しています!』
「それじゃー、せっかくだから包囲網を突破して帰りますかねー」
「…気を付けて。奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ」
「知ってる、Flak41改良型」
私が退路を確保しようと思っていたが、確かに正面から突破した方が楽だな。まったく、私の思考回路読んでるんじゃねーだろうな?
「私は随時指示を出すから、聞き逃すなよ」
「おっけ~」
「了解」
ホシノを先頭に、敵陣へ真っすぐ向かっていく。私はみんなに私の位置を伝えなかったが、最後尾を確保しておいた。理由としてはアビドス生徒達の連携の邪魔にならない場所である事。敵の動作が見えやすい為に指示が出しやすく、もし銃弾が来ても避け切れる自信があるからだ。
包囲網を抜けるには第一にスピードが命だ。少しでも敵に躓けば一気に囲まれ窮地に陥る可能性が高い。
「シロコ、ドローンの準備ができ次第起動しまくれ。ノノミはドローンが倒せなかった敵を順に倒していけ」
「了解!」
「は~い☆」
ホシノが前線で耐えてくれている。本来ならホシノに指示を出す必要は無いが……。
「ホシノ!敵の固まりがある。再装填して撃ちまくれ」
「りょーかい」
普段なら俯瞰で見えているだけだが、今はその俯瞰と目と鼻の先の情報を一気に処理しなければならない。こりゃー頭パンクしそうになるなー。
「先生!右後ろ!!」
「あぁ、助かるっよ!」
すぐさま障害物に身を隠し、銃弾を2発放つ。こういう状況で大きい声の奴は非常に有能だ。セリカの状況判断も悪くない。まだ1年生だというのに、良い事良い事。
「アヤネ、ホシノが居る付近に回復薬だ」
『了解です!』
パッと見でホシノの体力が分かるわけでは無いが、動きを見ていれば何となく分かる。
「サンキュー、助かるよ先生」
「…!Flak41改良型戦車を確認!」
「了解。ノノミ、ホシノ、戦車を重点的に撃ちまくれ。周りの敵はシロコと私が対処する」
本当はセリカにも周りの敵を対処させようとしたが、無意識か…セリカの居る場所は戦車にとって一番見えにくい場所だった。戦車は恐らく撃ってくるノノミかホシノを砲撃するはず……。セリカには一度そのまま待機して最後を決めてもらうか。
戦車の砲撃がホシノを直撃し、ホシノが一瞬よろけた。まずいな、戦車が壊れる前にホシノが危ない。
「いや~、持ってきて正解だったね~」
……!
ホシノめ、応急手当のセットを持ってきていたのか…!まったく、本当に……強いな……。
「今だセリカ、再リロードして戦車に全弾撃ちまくれ!」
「えっ!?でも……」
「お前ならやれる。お前が決めろ」
「っ~!!やぁっ!!」
セリカが弾を装填し直し、全弾を戦車へ浴びせる。全て戦車に命中し、戦車から爆発音が聞こえる。敵が一瞬怯み、隙が出来た。私はその隙を見逃さず、正面の戦車以外の方向へ向けて閃光弾を投げた。
「全員、走れ!!」
敵は私の閃光弾の光をモロに食らい、攻撃が一斉に止んだ。その間に私達は全力で走って包囲を抜け、気が付けば追手が来る気配の無いところまで来ていた。
「……追って来てない」
「よ~し、じゃあ帰ろっか~」
セリカは手を膝に付け、息を切らしていた。
「セリカ、いい判断と射撃だった。お疲れさん」
「……先生、私…」
「話は帰ってからだ。ゆっくり聞いてやる」
「……うん」
私も後方を確認し、追手が来ていない事をもう一度認識した。色々あったが……セリカが無事でよかった。
作戦……作戦…?まあ、問題ないでしょう。