元殺し屋の先生   作:狐ノ陽炎

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11話 変わってゆく事

「みなさん、お疲れ様です」

 

あれから私は追手を警戒していたが、アビドス高校まで来る気配も無く、無事にセリカを連れて帰ってきた。徹夜したとは到底思えないぐらい私は元気だが、ホシノやシロコも同様にそう見える。今はアドレナリンが出ているだけだろうから、すぐ休息が必要になるとは思うが…。

 

「セリカちゃん、ケガはない?」

「うん、私は大丈夫。見てよ、ピンピンして……」

 

言葉とは裏腹に、彼女の身体がぐらつき、糸が切れたように倒れこむ。

 

「セリカちゃん!」

「私が保健室に連れていく」

 

気絶して寝てたとは言え、私達に助けられて泣いてたくらいだし、何かを思い詰めていたのかもしれない。その後には包囲網を抜け、警戒しながらここまで帰ってきた。私達も不眠で助けたが、実際に拉致されたセリカの疲労は到底計り知れないだろう。

 

「……緊張の糸が切れたんだろうな」

 

深く言及はしない。セリカの為にも、このぐらいの言葉で十分だろう。

 

「うん、ゆっくり休ませてあげよー」

「大変な事になるところでした。先生がいなかったら……」

「うんうん。先生のおかげでセリカちゃんの居場所を逃さず追跡出来ました。やっぱりすごいです☆」

 

私がって言うよりシロコとアロナの手柄だと思うな。

 

「確かに、ただのストーカーじゃなかったってことだね」

 

いや、ただのストーカーに留めてもらえると助かるんだけどな……。

 

「…それと、皆さんこれ見てください」

 

アヤネが私達の前に見せたのは、戦闘中に回収した散らばった戦車の部品だった。如何せん私には普通の部品もしくはガラクタにしか見えなかったが……。

 

「これは現在、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました。もう少し調べる必要がありますが……ヘルメット団は、自分達では入手できない武器まで保有しているそうです」

 

やっぱりか……。

私が考えていた可能性の一つ、ヘルメット団の上に誰か別の個人または組織がいて、それがヘルメット団を使ってアビドス高校の邪魔をしている。普通に考えて、負け続けているにもかかわらずこの学校を狙い続けている事。弾薬消費をさせる為と言えば理由にはなるが、9億の借金を抱えた学校に対して行う行動ではない。

 

嫌な予感というか、私としてはただ『ヘルメット団が馬鹿だった』で済ませたかったんだが……。そういう訳にも行かないな、これは。

 

「うん、わかった。じっくり調べてみよっかー」

 

対策委員会の方針は決まったらしい。ヘルメット団の武器の入手ルートから裏に隠れる組織を暴くとの事だった。

 

「……日を跨いでいるからな、少しは休めよ。身体によくねーから」

「あはは……確かに、すっかり忘れてましたね…」

「うへ~、キリがついたらそうするよ。先生」

 

 

私はその後、校舎の余った教室を一つ借り、6時間ほど寝た。教室の床に余っていた布を軽く敷いただけだったから寝心地の良いものじゃなかったが、前職の時よりは十分寝れたほうだった。私も私でセリカを救出出来た事に安心したんだろう。そして、久々かどうかわからない徹夜に思いのほか疲れていたんだろう……と。

 

昼過ぎにはもう眠気は取れていたが、疲れのせいか思ったより身体が動かない。とりあえず上体を起こしたものの、上手く頭が回らない。

 

「よっこらせ……ぬあ~!」

 

堅い床だったから横向きに寝ていたせいか、背中が痛い。

 

「あ~あ、こりゃしばらく頭回んないねぇ」

 

とりあえず立ち上がり、教室を出る。邪魔にならないように対策委員会の部屋とは少し離れた教室を借りていた。

 

「少し時間あるからなー。この校舎、全部見回ってみるか」

 

シャーレに帰ってからの書類仕事とか、直近の目の前の出来事は一旦置いといて、アビドス高校の現状を見てみる事にした。見たからと言って何か変わるわけじゃない。私がどうこうできる問題でもない。けれどホシノ達はこの学校に通っている。だから知りたい、ただそれだけの理由だ。

 

 

気が付けば日は完全に落ち、砂漠でも綺麗な夜空を描くアビドスの空を眺めながら、私は保健室前に居た。たまたまと言えばそうだが、セリカの様子が気になったというのも嘘ではない。

 

ガララッ……

 

保健室に入ると、浮かない顔をしているセリカがいた。よかった、少なくともどこか怪我をしているわけでは無さそうだ。

 

「あ、れ…?先生!?ど、どうしたの?」

 

セリカも私に気付いて、驚きの声を出す。

 

「やっほ、お見舞いに来たぞ」

「……ああ、私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし」

 

無理はしてほしくないが、セリカの性格的に無理するし、それに上手く気づかないだろうと思った。

 

「アヤネちゃんや他のみんなも心配してるし……バイトにも行かなきゃだし」

 

ほらね。

 

「だ、だから、お見舞いとかいいから!ほら見て、元気だし」

 

それが強がりから出てるセリフだってのもよく分かる。だけど私は、先生だ。セリカがしたい事を、止める権利なんて無い。無理をすると分かっていても、セリカだったら応援したくなっちゃうんだな。

 

「それはよかったよ」

 

だから止める事はしない。

 

「………」

 

今はただ見守ってやるのが正しいと思う。

 

「あ、あの!!」

「…どうした?」

「……え、ええとね……。そういえば、先生にちゃんとお礼を言ってなかったなあって、思って……」

 

お礼をされるような事はしていない……と思っているが、それを素直に受け取るのも悪くない。

 

「あ、ありがとう……色々と…」

 

多分私も、キヴォトスに来て、少しずつ変わりつつあるんだろう。

 

「…でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか必ず返すんだから!」

 

いーつものセリカに戻った。そうだな、セリカはやっぱりこんなふうじゃないとな。言われた事は別に普通の事なのに、ちょっと嬉しくなって笑みが零れた。

 

「な、何よ!?何ヘラヘラ笑ってんの!?」

 

そうだな、こんな日常も悪くないな。

 

「はあ、まったく……。じゃあ…また明日ね!」

「ああ、また明日」

「……えっと」

 

「せ……先生」

 

……。

 

生徒が少しずつ成長して変わるのも……悪くない、か。

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