今日はアビドス高校へは行かない……というか、行けない。
アビドス高校に通っている間は当然シャーレを空けるわけだが、その間シャーレに仕事は溜まっていく。てっきりシャーレに届く手紙とか、依頼とかそういうものだけだと思っていた……が、現実は甘くない。ちょっと前にリンが言っていたが、『連邦生徒会は連邦生徒会長を探す事に全力を尽くしている』と。昨日溜まった書類を仕分けしていた時、ちゃっかり連邦生徒会の仕事が混ざっていた事に気付いた。キツイなーと思いながらも、大人だからしゃあなしかーと、不思議と納得してしまっている自分がいる。
「えーっと?とりあえずシャーレで対応できるのはこんなもんか?」
少なくとも今私の優先度はアビドス高校が上位に来ている。その為に数日以上掛かってしまう依頼やらはとりあえず内容を確認してから対処している。
今手元に残ったのは……まあ、大したことじゃない。それを説明している時間も今は惜しい。
「次はー、連邦生徒会関連行きますかー」
連邦生徒会関連。
まあ主に不良生徒の対応だとか、各学園の不満やら苦情だとか
とてつもなく簡略して言うなら、【特別教育】という名の【騒動鎮圧】だ。とは言っても鎮圧できる範囲はシャーレ近郊からミレニアム自治区くらいだ。これから増えるかもしれないが、現状はそれくらいしかない。いや、少なくあってくれ、頼む。
私から直接連邦生徒会に書類を提出する事も少なくない。最近で言えばアビドス高校への弾薬補給と補給ルートの確保。私自身の補給はシャーレにあるエンジェル24で事足りるが、学校規模の補給となると連邦生徒会という機関を通す必要がある。
……。
まあ、でも最近はそんなもんしかない。
そういえばミレニアムで思い出したが、初日に会ったユウカと再び会うことが出来た。ミレニアム自治区における不良生徒の対応から、偶然出会った。私は知らなかったんだが、どうやらユウカは『セミナー』というミレニアムの生徒会に属しているとの事。会計を担当しているとの事だったが、そういえばミレニアムは財政難の助けの手紙を少し前に見た気が……。まあ、気のせいだろう。
コンコンッ……
「先生ー、居ますかー?」
今日は来客の予定は無かったが、まあ誰か居て困るような事は無い。
「ああ、居るぞ。開いてるから入ってこい」
オフィスの扉は基本施錠していない。いちいち鍵をするのも面倒だしな。
「失礼しまーす」
「ああ、ユウカか。どうした?」
そういえばユウカにはまだお礼の品を渡していなかったな。ある意味丁度良く来てくれて助かったか。
「この前のお礼をしたくて……ですね。何か手伝えることはありますか?」
ありゃ、ユウカも私に対するお礼をしに来たのか。じゃあ帰り際に渡すのがいいかもしれんな。そうだな……手伝う事か……。
「少し連邦生徒会の仕事が多くてな。頼んでもいいか?」
「はい!任せてください!」
先生は私の言葉を聞き、机の上に置いてあった書類の一部を私に手渡してきた。
「そういえば椅子が無かったな」
先生は立ち上がり、オフィスの端に片づけてあった良質そうな椅子を持ってきた。私がミレニアムのセミナーで使用しているのと同等の物だった。
シャーレのオフィス。ここはとても太陽の光が良く入る。
窓は空いていない、電気で部屋の灯りは一応ついてるけど、それすらも必要ないくらいに明るい。眩しいとまではいかないから、書類作業するにはちょうどいい明るさだと思った。
私が3枚ほど終えた後、先生は一度立ち上がり、これまた部屋の端に置いてあった機械の電源を入れた。
『今日はキヴォトス全域で晴れの予報となっており、外で過ごすのはとても快適な気温です……』
ラジオだった。先生はこの静寂が気になって流したのだろう。私にとってはどちらでもいい。ラジオで流れる音声程度では私の集中力は乱れたりしない。席に戻ってきた先生をチラッと見る。書類の進み具合まで確認できなかったけど、ラジオを気にしている様子は無い。私の考えてる事と同じなのかしら。
書類を進めているのに集中していてすっかり時間を見るのを忘れていた。外の陽が傾いてきているのを見て、ああ、もうこんなに時間たったんだ……と内心思った。連邦生徒会の仕事がこんなに多いんだとか、中々終わらない事に苛つきとか、焦りを抱いていない自分に少しだけ違和感を感じた。まだ私の前には書類は残っている。これでも少なくなった方かもしれない。でもそんな事も覚えていないくらい集中していた。先生は私に任せてから何も言わなかったから、というのもあるのかもしれない。あれからずっとラジオも流れっぱなしで、今は明日の予報が流れている。手伝っているだけなのに、こんなにも心地よくて、なおかつ苦にならない事があっただろうか。セミナーに居るうちは、破壊活動から来る予算問題やら問題を抱える部活の対処に追われている。そこに休息なんて生温いものは存在しないから、より一層心地いいのかもしれない。
私は小休止しようと一度背を伸ばし、先生の方を見た。
「先生……?」
先生の手が止まっている……ように見えた。私が自分で思っているより遥かにいいペースで終わらせた自覚があるからか、3秒程度しか眺めていなかった先生の手が止まっているように見えた。
「ん……?ああ、手が止まってるように見えたか?」
私は先生に思考を読み取られてしまった。先生も私が次々に書類を片付けていくのは見えていなかったわけじゃないはず。だからこそ顔に出ていた私の思考を読み取って、私の疑問に全て白状してくれた。
「先生になって初めてこういう書類仕事するようになってね」
そう言われても意外さは無かった。初日に私達を戦術指揮した戦場の理解度の高さ。
「一応一通りの事は出来るようになったんだけど、まだ分からない事もたくさんあるんだ」
つい数日前にミレニアム自治区の不良鎮圧の時もそう。初日みたく私達に指示を出し、先生は戦場に出ないかと思ったら……愕然とした。
「だから、ね。一枚一枚終わったら確認を何回かしているんだ。それで手が止まっているように見えたかもしれないね」
ヘイローが無く、一つの銃弾でも命の危険が及ぶというのに。先生は最前線に立ち、私達に指示を出しながら不良生徒を鎮圧したからだ。
「あ、でもちゃんと進んでるよ。半分以上は終わってるし、ユウカよりちょっとだけ遅いかもだけど」
私は正直、この先生に勝てる部分なんて何一つないのかもしれない。書類仕事は初めてだと言っておきながら、こんな短期間で仕事として成り立つくらいの異常な物覚えの速さ。戦術指揮は当然の事、自身の身体能力も極めて高い。
……でも、これは多分、先生に対する嫉妬とかじゃない。単純な、憧れなんだろうなと…思う。
「……ユウカ、聞いてるか?」
「あ……はい……。聞いてます…」
私は『私の思考』を頭で並べていて、先生の言葉に何も返せていなかった。そのせいか、幾分不自然な返し方をしてしまった。
「先生は……好きな人とかって居た事あるんですか?」
………。
意外だった。今度はしっかりと意外だった。先生が持つボールペンが金縛りにあった様に止まったからだった。ほんの数秒、だけれどその数秒が、私にはとても長く感じた。
「急にどうした?私の事が好きなのか?」
そんな数秒がまるで存在しなかったように先生はニヤニヤしながら私に逆質問を返してきた。
「いえその……先生って、とても素敵な方だなって思ったので……」
「………。そうか……」
先生は私から視線を逸らし、少しだけ違う方向を見た。私には、思ったより嬉しくて顔を逸らしただけだと思った。しばらくラジオの小さな音だけが聞こえる時間だけがゆっくり過ぎ、先生は再び口を開いた。
「居たよ。10年位前までね」
「え……」
相変わらず私とは目線を合わさないまま、オフィスの席からちょうどよく見える夕焼けを見ながら言った。
「と言っても同性だけどね。異性は……一回も無いかな~」
再びにこやかな顔で、先生の特徴であるそのジト目を向けてきた。誰よりも背が小さくて、服装とかもそう……一番子供っぽく見えるのに……。どうしてだろう……この時一番、先生が大人に見えた。
「さてさて、そろそろ続きやろうか」
「……。は、はい!」
傾いていた日もすっかり落ち、窓の外には濃い青空が広がっている。私は最後の一枚を終わらせ、目の前から右側に出来ていた書類の山に置いた。ふーっと息を吐き、先生を見る。
「終わりました。先生!」
「ああ、こっちも丁度確認が済んだところだよ」
私は集中していたから気付かないのは当然だったんだけど、いつの間に追いついていたんだろうって思った。先生は立ち上がり、今オススメの一曲が流れているラジオの電源を切った。
「静かすぎるとむず痒くなっちゃうからね……邪魔じゃなかった?」
「い、いえ!まったく気になりませんでした」
さっき私は、ラジオが流れていてもいなくても、集中できると思った。でも多分、静かだったら先生に何回か話しかけていただろうとも……思ってしまう。それで作業が進むかはともかく、今よりは遅くなったかもしれない。先生はそれでも、怒らないだろうけどね……。
「遅くまで付き合わせちゃってごめんね。下まで送るよ」
シャーレの建物の入口で、先生はお菓子を手渡してきた。初日に助けてくれたお礼との事だった。私はあの程度でお菓子を貰えると思っていなかったから、少しだけ戸惑ってしまった。でも……先生の顔を見て、受け取る必要があると判断したから貰ってしまった。
「今日はありがとさん。それでなんだけどさ……」
「今後も多分、連邦生徒会の仕事は増えると思う。それで、ユウカが良かったら、これからも手伝ってもらってもいいかな?」
先生は、私にとってこれ以上ない言葉を口にした。
「はい……!もちろんです…!」
返事に、嘘は無い。もっと
ちょっととてつもないイベントが発表されてしまったので石集めの旅に出かけます。全部引いて見せます。