元殺し屋の先生   作:狐ノ陽炎

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2話 戦術指揮

外郭地区にあるシャーレに移動中、私が気付いた事は主に二つある。一つは首席行政官に続く各学園を代表する生徒達の体力。首席行政官の話では連邦生徒会から外郭地区まではおよそ30Kmもあり、私の知る限り学生であれば音を上げる距離である。だがここは私の知る世界ではない、むしろこれが普通なんだろうなぁと思うようにしておく。もう一つは生徒たちの持つ武器だ。全員当然のように銃を持っている。しかも全員しっかり自分の武器の手入れはしているな……なんか一人閃光弾持ってるし…。

 

 

 

銃声、爆発、悲鳴…。

耳の奥まで引っ掻き回しては傷をつけるような轟音、爆音を轟かせている戦争の地へと足を踏み入れる。ああ…懐かしいな……。

目的地に近づくにつれ、戦争の音がどんどん近づいてくるこの感覚。色の無い世界に居た私だからこそ、この空間は誰よりも心地よく感じられる自信がある。

 

「な、なによこれ!!?」

 

道路や建物、車などあらゆる物という物が燃え、銃声がどこからでも聞こえてくる。生徒達の驚きと一種の焦りからか、声を上げる子もいた。

 

「なんで私達が不良と戦わなきゃいけないの!?」

 

この世界の不良は随分といい武器に恵まれているんだな。私が同じくらいの時なんか短い刃物で後ろから奇襲をかけるのが精いっぱいだったというのに。

 

「痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

 

私は私で状況を分析していたがこれは驚いたな。どうやら銃の弾程度では彼女達は倒れるどころか血すらも流してはいない。違法なんとか弾だからなのか?いや…違法だと言うからにはこれでも威力の高い方なのだろう。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気をつけましょう。先生を守る事が最優先。あの建物の奪還はその次です」

 

その言い方だとキヴォトス外部の者は普通に血も流すし倒れもするって事か。私が生きてきた世界と同じようで何かが違う。この世界では私だけが違うのだろう。そういう考えに留めておいた方が幾分か楽だから。

 

「先生は戦場に出ないでください!私達が戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

私の頭の中で、一つの考えがよぎる。

今私の手元には戦力になる武器なんか存在しない。当然、今ここに来たばっかってのもあるし、キヴォトスに踏み入れた一歩目からは想像もつかない世界だったからだ。私はここに、何しに来たのか。ただ黙って安全な場所に一人残っていればいいのだろうか?

 

……愚問だったな。私は神田アリスという人物を少し甘く見ていたらしい。第一線にて動く事は出来ないにしろ、私も戦いたいという欲を抑えきれない。元殺し屋だからか?それとも、ただの好奇心か。

 

「先生…?」

 

これもまた、一度も経験のない旅の始まりか。悪くないな。

 

「いや、私がお前達の指揮をしよう」

「せ、戦術指揮をされるんですか!?」

「ああ、そうだな……」

 

私は服のポッケに入れてあった5個の小さな物を生徒の一人に手渡し、3階建て程度のアパートの屋根まで飛び登った。

 

「嘘…!?」

「……!!」

 

看板や外壁の小さな凹み、手すりや窓枠などを足場にして、軽々と登っていく。私はこう見えて軽いからな。無事屋上まで辿り着いた私は、下に居る生徒達に聞こえるように大声で呼びかけた。

 

「いいかお前ら、私がここからお前達に指示を出す。今渡したのは小型の通信機だ、耳に付けて使え」

 

元殺し屋という職業柄もあって、持ってこれるものは持ってきた。最初はいらねーな、使わねーなこれって思ってた第一候補だったんだが、旅とは面白いものだ。

 

『先生!装備したわ!』

 

立派な太ももをお持ちの生徒らしき声が聞こえ、それに応えようとした瞬間…。

 

「あっ…!?」

 

私の目の前から声が聞こえてきた。そこには屋上に置かれたその建物の構造物の陰に隠れ、これから生徒達を撃とうとしていただろう不良の一人。急に目の前に登って来た私にびっくりしたのか、思わず声を上げてしまった様子だった。

 

ズバーンッ!!

 

一発。

今、彼女達は銃声を耳にした。たった今先生が登って行った建物の屋上から。

 

「せ、先生…?」

 

通信機から返答は、無い。

 

 

 

「あ…あ…」

 

その弾道は、緑髪のなびく小さな軽い身体にはかすりもせず、今銃声を放った彼女の目の前に神田アリスは立っていた。その銃の引き金を押さえつけながら……。

 

「使い方を間違っているな」

「……あうぅ……」

 

私は私を撃ってきた奴のおでこに、私のおでこをくっつけた。

 

SR(スナイパーライフル)は遠距離の敵を撃つものだ。こんな短距離で使うもんじゃない」

「……ああぁ……」

 

私は目の前に居る彼女がもう恐怖心で銃を持ちきれていないと判断し、それを奪い取る。

 

「だがどうしても近距離で撃ちたいというのなら……敵の身体に押し当てて使え」

 

ズバーンッ!!

 

もう一発。屋上から銃声が鳴り響く。神田アリスを撃った不良の身体は後ろに吹っ飛び、下へ落下していった。

 

不良とは言えキヴォトスの生徒、あれくらいでは死なないだろ。

 

『先生!先生!!』

 

ここで返し忘れていた通信の返事を返す。

 

「悪い、たった今ここでSR(スナイパー)持った一人と鉢合わせただけだ。銃は私が奪ったし、私が一発ぶち込んどいたからここは制圧済みだ」

 

当然この屋上も見渡し気配も人影もない。隣、そのまた隣の建物も同様だ。私の声を聞いたからか、何を言ってるか分からないにしろ生徒達は安堵の声をあげていた。

 

「だがしかし丁度欲しかった物が手に入った。これでお前達の行動をよく見れる」

 

実際裸眼だけでは限界がある。スコープを覗くだけでも十分視野は広がるし、その分細かい指示も出しやすい。

 

「お前達は好きに動け。細かい指示は私が出してやる」

 

さてさて、改めてお前達の実力を見せてもらおうかな。

 

「行け」

『『『『はい!!』』』』

 

 

 

こちらは僅か4人と少数だが、不良生徒達の数なんてまるで気にならない程の実力揃いだ。建物の障害物へ、もしくは道路に散乱した物体に身を隠しながら、確実に不良生徒を倒していく。銃の攻撃力を最大に発揮させる命中率も極めて高い。へぇー、私が学生の頃よりも十分やるじゃんかこいつら。いかんせん不良生徒との実力差がある事から指示する必要も皆無かと思った。

 

「………あー、なるほどな。同じ学園ならともかくなー」

 

七神リンの言っていた通りこいつらは強いが、あくまで()()()を代表する生徒。今まで共同訓練なんか行ってこなかったんだろう。明らかに連携の取れていない動きを何回か繰り返していた。

 

「敵の多さには少し合わないか」

 

このまま黙って見ていても恐らく大丈夫だとは思った。だが指揮を執ると言い出した事も、こいつらの先生をやるからには多少なりとも生徒達の被害は最小限に留めたい。少し敵に揺さぶりをかけてやるか。

 

「おい銀髪、聞こえるか?」

『守月スズミです。はい、聞こえます!』

 

指示する相手は戦術訓練を繰り返し受けた兵士でもなければ殺し屋でもない。生徒なんだ。できるだけ分かりやすく、それでいて正確に伝えなければならない。

 

「ああスズミ、お前が今隠れてる遮蔽物の前…約30~40mってところか。閃光弾投げてみろ」

『…了解です!あの精肉店の看板あたりですか?』

「ああそれだ。真っすぐ投げろよ」

 

腰付近にぶら下げていた一つを取り出し、栓を抜いて振りかぶって投げた。一瞬眩い光が不良が数名いた場所を照らし、ここから数秒見えなくなる。

 

「………こりゃー、大したもんだ」

 

光が捌け、その場には突っ伏した不良生徒が3~5名ほどいた。たかが閃光弾だと思っていたが、まさかキヴォトスの人を気絶させるほどの威力を持つとはな。一体何の素材を配合してるんだか…。

 

あっと言う間に第一陣は突破し、第二陣へ突入する。敵の数はあまり変わらないが、より一層混乱の多い場所だ。……陣というのは少しおかしいか、戦争経験の多い私だからこそ一塊を陣と思ってしまうのも私の癖か。シャーレのある建物が近いのだろうな。

 

『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました』

 

前線には出ず、私と同じように身を隠してなるべく戦闘に参加していない七神リンが通信機を通して報告してくれた。

 

『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

第二陣に突入する直前にその事を聞いた私には、どこをどう気をつければいいのかは何となく分かった。つまり誰かしらの迷惑になろうが構わず暴れる問題児というわけだ。

 

……まるで昔の私みたいだな。

 

大方ここで騒ぎをわざわざ起こしたのは連邦生徒会への当てつけか…復讐のつもりか…。どちらにせよその本人となれば閃光弾程度の揺さぶりは通用しない。例え人を気絶させるような危険な物であってもだ。

 

『騒動の中心人物を発見!対処します!』

 

色々と考えていると、黒髪からの報告が聞こえた。

 

「了解、確認する」

 

一応返事をし、スコープから覗いて様子を確認した。赤と白を基調とした狐のお面を付けた奴だ。お面のせいで表情は見えないが、あれが私であれば気分はかなり高揚しているだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と……。

 

……。

なるほど、つまりあれはただのフェイクか。

どうする?揺さぶりをかける為だけに私がここから一発撃つか?距離にして約1Km未満、風はほとんどなく、障害物も存在しない。SR(スナイパー)なんて久々だが、むしろ外してもいいと考えるなら十分な想定だ。

 

引き金に指をかけ、無線を入れようとしたその時、ワカモはその場を離れ、離脱した。

 

「まあ、そう上手くはいかないか」

 

その場に居る生徒達には、彼女がただ逃げただけ。そう映っただろうか。しかしここで逃げられ見失うのはあまりよくないな。元が四人では別動隊も出せない…だが彼女がもし私で……私が考えるなら……。

 

その間、私は特に指示は出さなかったが、生徒達はシャーレの奪還を優先し、ワカモを追おうとはしなかった。賢明な判断だ。たとえ誰かが私に聞いたとしても私は同じ指示を出しただろう。

 

『よし!建物の入り口まで到着!』

 

ーーーーゴゴゴゴゴゴゴ!

 

青髪太ももが私に報告をしたところで謎の轟音が響く。シャーレの入り口からかなり離れた私の所でさえ地響きが聞こえ揺れる。

 

『…この音は………』

 

『気を付けてください、巡行戦車です…!!』

 

後方支援を担当していた茶髪眼鏡からは見えたのだろう。

巡行戦車だと……?そんなのが町中をうろついていても大丈夫なのかここの都市は…。いや、あくまで違法的に流れたものだと信じたいが。

 

『クルセイダー1型……!私の学園の制式戦車と同じ型です』

 

『不法に流通された物に違いないわ!PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも!つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわ!行くわよ!!』

 

いや、戦車って結構お金かかるんだけどな?もう少し丁重に扱うってのは…まあ、敵だから無理な話か。

 

今私の脳裏には、先程戦線から離れ私や生徒達からの視界には居ないワカモの事が気になっていた。あの生徒は私ではない。だが私の直感が正しいなら、あの生徒は昔の私の思考によく似ている。自分の実力を過信せず、状況判断を適切に行い、常に相手の思考を読み、裏をかこうとする。

そうすれば自身には少なからず快感を得られ、任務遂行出来れば尚の事だ。……なら、私なら高い金を払ってでも使っている今目の前に存在する戦車をどう使うか。これはこれで主力にもなりうる存在だが、青髪太ももの言う通りならどこかから流れてきたもの。そんな信用に足らない物を主力には…私なら使わない。これも一種の目くらまし……それこそ陽動以外の他ならない。ならその間(ワカモ)ならどうする……?

ワカモの目的は…?一体何のために、大人数の不良生徒を、戦車を、そして自分を動かした……?

 

…………。

 

「お前ら、少し作戦変更だ」

『先生…!?』

 

「今から私が一方的に内容を説明するから、黙って聞いておけ。まずお前達には眼前のクルセイダー戦車一台と、その他不良生徒を相手してもらう。その隙に私は……今回の主犯、ワカモと相対する』

『危険です!!先生単身では……先生に何かあっては…!!』

 

七神リンは大きく反対する。当たり前か、ここはキヴォトス。生徒達とは違い私はか弱いからな。だが戦争においては、このような選択を迫られる事も当然ある。私自体は負けるつもりは毛頭ないし、殺されるつもりも毛頭ない。この提案をするのは、お前達に一つ教える為だ。

 

「リン…。今回の目的はなんだ…?そして、ワカモの目的は?」

『…ッ!!で、ですが…!!』

 

私も彼女も、ワカモの本当の目的なんぞ知る由もない。この場面の状況証拠から、決めつけているだけだ。私は先生だからな、当然教える為にやっている。

 

「私を信じろ。もちろん死ぬつもりは全くない。今日お前達を見て、お前達の先生をやるって事の意欲がとことん湧いた。だから安心しろ」

『……わかりました』

「その代わり、お前達には今ここで最後の指示を与えておく。その通りにしておけば何ら問題はない。全て終わった後、シャーレの建物の中に入ってこい」

『『『『……』』』』

 

生徒達からの返答は帰って来ない。私の言葉を信じて、黙って聞いているのだろう。

 

「まず立派な太ももをお持ちの青髪」

『はー!?私の事ですかそれ!!?』

「ああそうだ、お前はさっきから黒髪の邪魔だ。少し右に避けろ」

『早瀬ユウカです!!覚えてください!今すぐ!!』

「わかったよ。それでユウカ、お前はクルセイダーの右側に居る不良を撃て。クルセイダーもとりあえずお前を撃ってこないから安心しろ」

『はい!!』

 

「で、黒髪」

『羽川ハスミです、先生』

「じゃあハスミ、ユウカに当たらないように敢えて右斜め後方に位置取っていたのは正しい。その遮蔽物から動かずに、クルセイダーだけを狙え。他の不良の事は一切考えるな、しっかり集中して一発ずつ確実に撃ち込め」

『わかりました』

 

「で、次はスズミだな。お前はその得意の万能閃光弾でクルセイダーの左側の不良に向かって投げ続けろ。右はユウカが対処するから一切気にするな」

『了解です!クルセイダーにも当たるかもしれませんが…』

「構わん、問題ない」

 

不良共ははじめから4人に歯が立っていない。だからその半数で対処しても何ら問題はない。クルセイダーは狙うとしても近距離すぎるユウカを除いて二人だ。だが一人は閃光弾で場を荒らし、もう一人は確実に撃ち抜いてくれる。ハスミの射撃の精度はとてもいい。本当に学生か?と疑うほどにな。あれほどの戦車となれば装填には時間が掛かり、操縦技術も高くないと正確に当てるのは難しい。兵士ならともかく、学生であれば多少の時間さえあれば大した傷を負う事無く終われるはずだ。

 

「それで、茶髪。お前は何ができる?」

 

当然後方支援だろうと戦力は戦力だ。お前の力も当然必要だ。

 

『私は栄養剤を持っています。言わば回復薬です。あ、あと私は火宮チナツです!』

 

ほーう、これはこれは良い事を聞いちまったな。むしろこの作戦はお前がいないと成り立たないとまで言えそうだな?

 

「チナツ、お前はユウカもしくはクルセイダーの砲撃を受けた奴に回復薬を与えてやれ。ただし攻撃を受ける頻度はユウカが高い。迷った時はユウカを優先しろ」

『は、はい!』

 

大方指示はこれで十分だ。こいつらはこれだけで必ずやり遂げれる。

 

「よし、私からの作戦は以上だ。リン、この場が落ち着いたら4人をシャーレの……どこに行くかは知らねえが案内してやれ」

『わかりました。それと、先生が向かってほしい場所なのですが…』

「ああ、()()だろう?」

『ええ、その通りです。ならもう一度伝える必要はありませんね』

 

よし、ここからシャーレは…屋上を飛び移りながら行けば着きそうだ。

 

「じゃあお前ら、後で会うぞ。その時はお前らの自慢話でも聞いてやる」

『『『『はい!!』』』』

 

 




チュートリアルを見返して思ったのですがこの時の先生ってまだシッテムの箱持ってませんよね…。
どうやって指示出してたんだろう()
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