リンに連れられ、地下を出る。連邦捜査部「シャーレ」について、改めて紹介してくれるそうだ。
「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎える事になりましたね」
連邦生徒会長がここに私を連れてこようとしていたのは結構前になるのか?いや、そもそも行方不明になる前と考えたら妥当な時間の過ぎ方ではあるか……。
「そして、ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」
一見すると会社のオフィスにも見えなくはない。私は会社のオフィスで仕事なんかしたこと無いが、前職の関係で潜入した事はある。……なんというか、私には向かない事……と記憶している。ただの潜入で言うほどPCに触れなかったというのもあるが……少なくとも使い方はあまり分かってない。一応聞いてみるか。
「なあ、私はこれから何をすればいいんだ?」
リンはしばらく考え込み、このシャーレの現状を私に話した。
「……シャーレは、権限だけはありますが目的の無い組織なので、特に何かをやらなきゃいけない…という強制力は存在しません」
そういえば連邦生徒会長が何らかの理由で設立させたのがこのシャーレだったな。何らかの理由というあたり、リンやその他連邦生徒会のメンバーはその理由も知らないのだろう。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒達を部員として加入させることも可能です…」
「……つまり、単純明快な話、私が好きに好きな事をやっていいって事か?」
「ええ……そういう事になりますね」
そんな事を言われて困るのは私なんだけどな……。
「シャーレを設立させた本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私達は、彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
おい、この流れ……なんか嫌な予感がするぞ…?
「もしかしたら、時間が有り余っている「シャーレ」なら、この面倒な数々の問題を解決できるかもしれませんね」
あー……不味い流れだな……。
「その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください」
待って?いつ置いたんだ?それとも最初から置いてあったのか?だとしたらとんでもない策士だな……。リンなのか、それとも連邦生徒会長なのか……。
そんな私は今、顔に出ていたかもしれない。だがリンは、私の事なんか一切気にしないかのように続ける。
「すべては、先生の自由ですので」
気が向……いや、たくさんと聞いて気が向かない、向くはずもない。PCの扱い方も大して知らない私が、これからどうやって仕事して問題を解決しろというんだ?
「それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」
嫌とかめんどくさいとかやりたくないの前に、まずどうやって仕事をすればいいかを誰かに聞かなきゃいけないな…。かといってリンは連邦生徒会の仕事でどうせ忙しいだろうし……。連邦生徒会長を探すのに全力らしいからな。
「あー、見送るよ」
色々考えがまとまらないから、とりあえずすべきことをする選択をとった。
シャーレの外に出ると、ユウカやハスミ達が居た。やっぱりというか、周囲の警戒に当たらせていたんだろう。さっきまで戦争が起きていた場所だ、当然と言えば当然だ。
「ええ、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻した事を確認したわ」
ユウカは恐らくユウカが所属しているであろう学園に電話をかけている。
「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど……すぐ捕まるでしょう。私達はここまで」
仮面のせいで表情は見えなかったが、一体何に慌てて私の前から去ったのやら。私自身、あえて威圧しないようにしていたんだが……。でもあの感じは威圧感に押されたわけでは無さそうだったんだよなー。
「お疲れさまでした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
「あはは……」
元殺し屋は注目を浴びるのに慣れてなさすぎなんだぞ?それにSNSって……あれだろ?ソーシャルネットワークサービスとか言う…。その辺もほとんど扱った事ないジャンルなんだが…?
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生」
ハスミとスズミはその場で一礼した。そういえば名前だけ聞いて所属する学園は聞いてなかったな。トリニティ総合学園か……アロナなら知ってるだろうし、後で概要だけでも聞いておくか。生徒を知る前にまず学園自体知っとかないと失礼だからな。
「私も、風紀委員長に今日の事を報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」
チナツはゲヘナ学園ね。
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」
ユウカはミレニアムサイエンススクールね……。チナツもユウカも一礼し、その場を去って行った。
キヴォトスは学園都市だと聞いた。つまり、これら以外もまだまだ何かしら学園がいくつも存在するという事か……。
これは骨が折れそーだぞ?
私自身記憶力は悪い方じゃないが、それでも覚える事は苦手だ。なんというか、覚えようとする行為に対して面倒だと思っちゃうというか……。いや、私はもう先生なんだ、殺し屋でもなんでもない。苦手なことでもやってかないとな。
一度背中をのびーっとして、シャーレのオフィスに戻った。
オフィスの席に着き、アロナに色々聞くために『シッテムの箱』を手に取る。するとまた不思議な感覚が身体全体を包み込み……気が付くとアロナの居る水に包まれたような空間の教室に居た。ここに来るのはたった二度目だが、気付いた事がある。私がここに居る間、リンは別に慌てるような態度は取ってなかったと思う。気が付いたら
「あはは……なんだか慌ただしい感じでしたが……ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れさまでした」
「ああ、アロナもお疲れさん」
「はい!でも、本当に大変なのは、これからですよ?」
言われなくても分かってますよーっだ。恐らく今座った席の真ん前、デスクの上にはリンが大量に持ってきた書類やらなんやらが置いてあるだろうから。
「これから先生と一緒に、キヴォトスの生徒達が直面している問題を解決していくのです……!単純に見えても決した簡単ではない…とっても重要なことです」
しかし、
まるでアロナが、
「それではキヴォトスを、シャーレをよろしくお願いします、先生」
「……シャーレを任される前に、一ついいか?」
「はい!なんでしょうか!」
「PCの扱い方をまず……教えてくれ…」
「はい!……はい…?」
一度は元気よく返事をしたアロナだったが、すぐにすっとんきょうな声を出し、目を丸くした。
「せ、先生……?パソコン、扱えないんですか……?」
「いや……詳しい事を知らないだけなんだが……何せ数回しか使った事無いし…」
まるで信じられないような物を見るような目で見てくるアロナ。やめてくれ…お前は私の秘書だろーが……。
「わ、わかりました!仕事に取り掛かる前に、このスーパーアロナちゃんが教えます!」
「ああ、頼む……」
こうして、約1日半をかけたアロナ先生によるPC扱い講座が始まった。
先生のプロフィール
名前 神田 アリス(かんだ ありす)
性別 女
年齢 ----
身長 143cm
体重 不明
前職 殺し屋