アロナによるPC扱い講座が無事終了し、私は人並みにはPCを扱えるようになった。その副産物か、リンが持ってきた書類も読めるようになってきた。はじめは文字が多すぎて読むのを躊躇っていたが、PCで書類のデータを纏めてみた際に書類を目に通す機会があったからだ。元殺し屋でもパソコンって扱えるんだなってしみじみ感じたよ。もしシャーレの先生をクビになっても、無事再就職先を見つけれそうだな。
アロナにはパソコンの他、キヴォトスの事、トリニティ総合学園やゲヘナ学園、ミレニアムサイエンススクールの事等々…。詳しい歴史は聞かなかったが、概要となるものは聞いておいた。詳しい歴史は実際にその学園に赴く時でもいいだろう。それと私がかなり気になっていた『シッテムの箱』の意識関係の事。結果から言えば、大方私の予想通りだった。
なんかアロナ、私がこれについて質問したら「そこに気付くなんて、流石先生ですね!」…とか言ってたけど…。
私じゃない奴が先生やっても多分聞くと思うんだよなこれって。意識がイチイチ移動するのは面倒な事も伝えたら、よほどの事が無い限り、普段は通信するときと同じようにアロナから現れてくれるとの事だった。通信するときと同じと聞いて最初はよく分からなかったが、連邦生徒会のタワーでリンが誰かに通信した時のように、通信ノイズみたいなエフェクトがかかったような状態で、アロナがパッと現れた。電話する時相手の姿がしっかり確認できるのはいいよなぁ。
その後、机に置かれた様々な書類に目を通した。ゲヘナ学園における犯罪もしくは騒動の数々、ミレニアムの予算、トリニティの派閥等々。まあ、どれもこれもイチイチ内容を読んでいてはキリがないものばかり。だがそれを解決していかなきゃいけないのが私、『先生』なのだとイチイチ自覚させられる。
一応シャーレの外にも出て、各学園の学区を少しだけ見てきたりもした。トリニティはお嬢様学校というからには気品の良い雰囲気を漂わせ、問題児の多いゲヘナは少し近づくだけで爆発音が聞こえてきた。ミレニアムも行こうとしたが、アロナ曰くセキュリティがとんでもないらしく、アポなしで行くのは辞めた方がいいとの事で結局行かなかった。他にももう一つ、ヴァルキューレ警察学校というものがあり、その名の通りキヴォトスにおける警察のような働きをしている……らしい。らしいとぼかしたのは、あくまでゲヘナではゲヘナ学園の風紀委員が対処するらしく、警察学校の生徒のような人物は見かけなかったからだ。まあ、予算事情とかも考えれば、他学区に入り込んで無理にでも対処しようとは思わないだろう。ゲヘナ学園自体と仲がいいとも限らないしな……。
そういえばそこでアロナにも指摘され、実際私もそう感じたことが一つ。どう考えても私が『先生』には見えない……との事だった。
アロナには「本当にその姿で仕事してたんですか……?」ってかなり疑われた。本当だよって言ったら「信じられません…」とも言われた。
やはりアロナは私の前職が殺し屋だった事は知っていた。聞けば連邦生徒会のごく数人も知っているらしい。恐らくリンをはじめとした数人だろう。ただ私の過去の事は当然プライバシーにも関係あるからと深く言及はしないとの事だった。私自身、別に前職が知られるのは構わないんだが、確かに『先生』である以上無暗に喋る事も出来ない。
……話を戻して、私が『先生』に見えないという事だが、トリニティに行った時にそれを実感した。私の格好は簡単に言えばお嬢様だ。それで身長が小さく、見た目もトリニティ総合学園の生徒によく似ていた。まあトリニティ総合学園には当然制服があるだろうから、あくまで似ている程度に留まっていたが…。良い意味で言えば私も生徒同様に振る舞える事から、わざわざ注目されずにトリニティを見れたってのもある。
けどアロナからは「もう少しなんとか大人らしく出来ないんですか?」と小言を言われてしまった。会社員はスーツ、学生は制服が正装であるように、私の仕事服は
4日程経ち、シャーレに「エンジェル24」とかいうコンビニみたいなものがオープンした。キヴォトス全域に展開されているチェーン店らしく、その日の夕飯から銃の弾薬まで……私には何もかも揃っている店だった。一番客は当然私で、私が持っている拳銃の弾と、しばらくの日数分の弁当とカップラーメン、閃光弾に使う材料をまとめ買いした。どこから雇われたのか、4日前に会った生徒達とは随分幼い女の子が店番をしていた。
私は自炊が全くと言っていいほど出来ない。だからこの3日間くらいは全て近くの飲食店で外食だったりしていたが、自分の勤める施設にこんな便利なものが出来たらそりゃー行くしかない。一応店番をしていた女の子には「これからもたくさんお世話になるからよろしくね」とは言っておいた。
さて、今は書類には目を通さず、私の武器の手入れをしている。
拳銃はともかく、拳銃以外の撹乱武器が欲しかった。手持ちの手榴弾2個じゃ心許なかったからとても助かっている。スズミが持っていた人を気絶させる閃光弾はさすがに作れないが、普通の閃光弾程度だったら前職でよく作ってたいた。わざわざ材料を調合して作っていたが、後にアロナから「地下にある3Dプリンターで量産できますよ?」って言われた時には普通に絶句した。どちらにしろエンジェル24にはこれからもお世話にはなるだろうけど……。
シャーレ・午後
今日はなんと午後から外出の予定がある。というのも数日前、私がここ、『シャーレ』に来た際にお世話になった羽川ハスミ、彼女にお礼をしようと思っている。他の生徒もお礼をしたかったのだが、予定が空いている、もしくは連絡を取れる生徒が居なかった為、とりあえず今日はハスミだけだ。アロナに事前に聞いていたが、ハスミは『正義実現委員会』という……組織なのかわからんが、そこに所属しているとの事だった。
一応ついさっき連絡をしたら、どうやら向こうも出先にいるらしい。なんでもトリニティ自治区にて不良が騒ぎを起こし、その対処をしている途中との事だった。幸いというか、私もイマイチ無断で学園に入っていいかどうか迷っていたから……その辺は運がいい。
アロナにその事を相談したら「先生も下手したらトリニティ生徒に見えますよ?」とか意味の分からん事をほざいていたが……。
で、場所は大雑把な位置を聞いていただけなんだが…。特に目印は無い、だがそれでもよく分かる。もう不良との戦闘は終わったらしく、銃撃のような音は聞こえてはこない。しかし……まるで戦車……いや、戦車以上の何かが通ったような……。ビルや建物は破壊され、車は当然のようにひっくり返っている。炎も所々に広がり、不良生徒がゴミのように転がり散らしている。こんなのでも死者が居ないのがキヴォトスの不思議なところ、私の居た世界では到底理解しようとしても理解できない現実だ。これらを全て『正義実現委員会』がやったのだとすればそれはもう一種の戦争兵器か何かか……。
一つの大きな瓦礫を抜けると、私の探していた人物はそこに居た。向こうも私に気付いたようで、私が声を掛ける前に声を発する。
「先生、お早い到着ですね。ご無事で何よりです」
至って普通に話しかけてくる彼女に、私はすぐに言葉を返せなかった。多分、よく顔に出ていたと思う。
『正義実現委員会』
その場に居る全員が首元にチョーカー、赤いラインの入った黒色のセーラー制服を着ている。そして何故か分からんが異常に黒髪率が高い。お嬢様学校と聞いていた私のイメージとは全く異なる……それこそ私の予測していた【組織】か何かだろうか……。緑髪で、トリニティ生徒とよく似ている私を見て、ハスミ以外の生徒達は私をどう思うだろうか。
「…ああ、不良生徒の鎮圧、お疲れさん」
「すみません。本当はしっかりとした場所と時間が取れればよかったのですが……」
一切表情と会話のトーンを変えない、この状況下で。恐らくこれが『正義実現委員会』の日常なのだろう。
「しょうがねえよ。事前に言わなかった私が悪い」
「ですが……」
「はいこれ、お礼の菓子。正義実現委員会に居るってのは知ってたんだが……まさかこんなに人数が居るとはな…」
トリニティ総合学園の生徒数なんて把握してなかったし、『正義実現委員会』の人数なんて当然知らない。まあ10個くらいで良いだろうと思って持ってきたが、明らかに足りなかったな。
「いえ、まさかあの程度でお礼を頂けるとは思ってもいなかったので……ありがとうございます。先生」
これだけで終わるのも勿体ない。私はこの場に残る疑問点をとりあえず聞いてみる事にした。
「これはお前達がやったのか?」
今この場には私を除き約30名ほどの『正義実現委員会』が居る。多いと言えば多いが、街がこんな風になるにしては少ない人数だ。
「いえ、私達は後始末に来ただけで…」
しかし、私の予想とは裏腹に、衝撃の事実が伝えられる。
「これをやったのは委員長である剣先ツルギです」
………。
私はその言葉を聞き、多分とても愉悦感溢れる表情をしていただろう。こんな時だけ自分の表情がよく分かるもんだ。やっぱり居るんだな、圧倒的な力を持った生徒が。
「委員長か。一応私も先生だし、挨拶ぐらいはしてもいいか?」
挨拶の意味に深い意味も、何もない。ただ一つ意味があるとすれば、見ておきたい。一人でこれだけの破壊力を持ち、なおかつ『正義実現委員会』という組織に属している生徒を。表から裏まで、全て。
「構いませんよ。どうぞこちらへ」
瓦礫や残骸の中案内された先、一つの大きな破壊の山の上に、佇む一人の生徒が居た。もう敵は誰も居ないのに、周囲180度に殺気をまき散らし、その風貌だけでも実力がよく知れる。戦闘狂、もしくは狂人の一種だろうか。とても猫背かつ……やはり黒髪の持ち主でもあった。
「ツルギ、貴方に挨拶をしたい方が」
背を向けていた彼女は、ゆらゆらと私達の方向へ振り返り、こちらを見る。彼女も
「なるほど、お前が正義実現委員会の委員長の剣先ツルギか」
「…………」
その表情は一切変わらない。動きも変わらずゆらゆら揺れているし、殺気も当然出ている。
「私は神田アリス。よろしくな」
「………?」
敢えて私は先生だという事を言わなかった。彼女の『裏』がとても気になったからだ。
「………」
「ツルギ、貴方も挨拶しなさい」
「………?」
「先日伝えたではありませんか。シャーレの先生ですよ」
「…!!?」
『シャーレの先生』という単語を聞いた瞬間、目まぐるしい勢いで表情が変わる。まるで変顔大会でもやっているかのような感じだ。そうか、こいつ……。
「せ、せせせ先生!!?」
「ああ先生だよ。お前、可愛いな」
「!!!!?」
可愛いと言われてその通りに受け取ったのか、アワアワしてどうすればいいのか分からない表情をしている。でも私は、これでも本当に思った事を言った。銃世界であるキヴォトスにおいて圧倒的な戦闘力を持ち、なおかつ私が敵かどうか冷静に見分ける判断力も高い。本当の狂人であれば私が挨拶をした瞬間、襲い掛かってきてもおかしくはないからな。今この瞬間だけだが、ツルギが委員長をやっている理由がよく分かる。もっと言えば自分の立ち位置をしっかり理解し、そのうえで効率よく動き回っている。へぇー、結構頭いいんだな。
「これからもキヴォトスの平和を、トリニティの平和をよろしくな」
「は………は、は、はいぃ……!」
やっぱりな、可愛い。
「じゃあハスミ、今日は帰るとするよ」
「分かりました。では、お気をつけて」
とてもいい生徒を見つけることができた。あの子は私としてもとても応援したいし、応援してやりたい。その気にさせる今の立ち振る舞いと彼女の苦労がよく見て取れる。戦ってる姿だけじゃなく普段の彼女も見てみたいものだ。
「ちょっと、いいっすか?」
「……?」
『正義実現委員会』の
「あ、私は正実の2年、仲正イチカっす」
正実……『正義実現委員会』の略称か……。確かに黒髪だし黒セーラー制服、ツルギやハスミと違うと言えば他の子と同じように少しスカートが短いくらいか。
「……私に用か?」
「用っていうか、ちょっと気になっただけっす」
気になった…?
私はお前の事は一切気にならなかった。ハスミの後ろに居たかもしれないと言われればそうだが。
「なんか、私の思ってた先生と違うなって」
「……そうか?まあ、私は多分他の大人と違って背が低いが」
「そんなあからさまなもんじゃないっすよ」
「…じゃあなんだよ」
「ここらへんを破壊したのがツルギ先輩一人だって言われて、驚かないんすね」
そんな事誰も言わないだけで皆気付いてるだろ。まあ、ツルギ本人は気付く気付かない以前の感じだったが。
「で、初見のツルギ先輩相手にあの態度。どう考えても
ここでめんどくさい奴なら普通の定義を聞くが、私はそんな事は聞かない。生徒の視点に立ってみて普通を考える……だからこそよく分かるんだな。
「先生……一体何者なんすか?」
私はこの時、さも興味無い奴を見る酷い顔をしていただろうな。まあ、今のコイツには興味なんか湧くはずもない。だが心内で思っていてもコイツには伝わらない。だから分かりやすく伝えてやるとするか。
「……私の事が知りたいなら、お前からその気になってもらう必要がある」
「どういう事っすか」
「お前の【裏】を全部見せてくれたら話してやるって言ってるんだ」
「……何言ってるか分かんないんすけど?」
声のトーンが少しだけ変わったな。
「なら一つだけヒントを教えてやる」
「………」
「【裏】を隠す事が悪いとは言わない。だが、お前の場合は長くは持たない」
「………」
「人の深淵を知りたいなら、お前自身も同じ場所に来る必要がある」
「……だから何言って」
「その顔だよ」
「……!!」
私に質問してる間、コイツはずっと笑っていた。正確には、理性的に動いていたと言った方が正しいだろう。だが今はその余裕が無くなったのか、少し苛立った顔をしていた。……無意識だろうな。
まあコイツの場合、話し方でよく分かる。普段から理性的に、かつ冷静な自分を演技している。私はこういうヤツはあまり得意じゃない。私は常に裏側を晒し続けているというのに、こういうヤツはいつまでも本当の自分を見せようとしない。まあ……コイツのせいかって聞かれると怪しい部分はあるけどな。
「私の【裏】を知りたいなら、全てを隠し通す覚悟が出来た時か、全てを曝け出す覚悟が出来た時だ」
「…………」
「だがもし、それ以外の選択を取るというのなら……」
「……」
「シャーレに来い。私はそこで待っている」
イチカの反応を見ずに、そのまま帰路へ戻る。敢えて後ろは見なかった。どの選択を取るのか、この先に全てを任せたからだ。
さて、今日の夕飯は何にするかなー。
一番推しているわけでは無いのですが、ツルギはだいぶ推してます。