元殺し屋の先生   作:狐ノ陽炎

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二章 アビドス対策委員会
6話 アビドス自治区へ


「おはようございます!先生」

「ああおはようさん、アロナ」

 

今日も昨日と変わらない朝を迎える。相変わらずまともな仕事には手を付けてないからか、あまり早くない朝だ。キヴォトスに住み始めて約5日が経過したぐらいだ。

 

「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まってるみたいですし、他の生徒達から助けを求める手紙も届いています」

 

正直、先生としては特に何もしていない。アロナとユウカの言う通りというか、SNS上で私の行動が噂で広がっているだけだろう。

 

「良い兆候です!私達の活躍が始まるという事ですから!」

 

何か返事を返しても良かったが、これからやる事の多さを想像したくなかったし、見栄張って自身を鼓舞するような性格でもない私は、椅子に座りながら少し見上げた。

 

「ですがその中に……ちょっと不穏な、こんな手紙がありまして」

「……不穏?」

 

助けを求める手紙とはいえ、不穏という単語に少し引っかかる。アロナの方を向いて、少しだけ真剣に話を聞く。

 

「はい。これは先生に一度読んでもらった方がいいかと」

 

そう促され、昨日まで溜まっているシャーレへの郵便物の中から、アロナに指定された宛先の手紙を見つけ読む事にした。手紙の内容はこうであった。

 

 

 

連邦捜査部の先生へ

 

こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。今回どうしても先生にお願いしたい事がありまして、こうしてお手紙を書きました。単刀直入に言いますと、今、私達の学校は追い詰められています。それも、地域の暴力組織によってです。

 

こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。どうやら、私達の学校の校舎が狙われているようです。今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます……。このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。

 

それで、今回先生にお願いできればと思いました。先生、どうか私達の力になっていただけませんか?

 

 

 

「……穏やかじゃねーな」

 

生徒達が狙われるのではなく、学校が狙われている…か。私の中で、一つの疑問が頭をよぎる。……本当に学校の校舎が狙いなんだろうか?

 

「うーん……アビドス高等学校ですか……。昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました」

「街自体がか?」

「はい……私も本当に詳しい事情まではわかりませんが……」

 

地域の暴力組織…ね。本当にそれだけで済めばいいんだがな……。手紙の事もある、これは直接見に行く必要がありそうだな。どこまで助けるかは私の技量次第だが、どちらにしろ直接見ないとまるで分からない。

 

「アロナ、今すぐアビドス高校に直接運べる弾薬を出来るだけ用意してくれ。とりあえず今日中持っていける分だけでいい」

「わ、わかりました!」

「それで、私はアビドス高校に行くとしよう」

「すぐに出発ですか!?さすが、大人の行動力!」

 

とりあえず連邦生徒会への弾薬在庫の追加発注と、アビドス高校への支援書類を提出した。アビドス高校には何を持っていけば分からなかったが、とりあえず鞄には財布と『シッテムの箱』、閃光弾を二つほど持ち、シャーレを出た。

 

 

………。

そしてアビドスの自治区には着いたものの…。学校が見つからず何日も迷い続け、街のど真ん中で道に迷って遭難してしまった。

 

「マージか…広すぎだろ自治区……本当に街が厳しい状況になってるのか?」

 

広すぎるのも私にとっては問題だが、もっと大問題なのが……今、とてつもなく暑いという事だ。私の服は何度も説明してる通りお嬢様のような服だ。それがとてつもなく暑い……シャーレを出た時点では…いや、そもそもトリニティやゲヘナでも問題なかった服装だったんだが…。

 

「休憩するか……」

 

適当な日陰に座り込み、汗を拭う。こんなに暑いならタオルの一枚や二枚持ってくればよかったな……。当然飲み物なんて持ってきてなかった私は、暑さのせいか意識が遠のいてくる。睡眠はしっかりとったはずなんだが……いや、何日も経ってる時点でそんなの無駄か……。

身体をしっかり休めるために、目を閉じて休憩する事にした。

 

 

 

「……ん?」

 

軽車両のブレーキ音と共に、小さな声が聞こえた。

 

「…あの……」

 

目を開けると……銀髪で犬のような耳が頭部に生えた女の子。背格好と声からして恐らく学生だろう。自転車に乗ったまま、私を心配してか、声をかけてくれた。

 

「……大丈夫?」

「………ああ」

「あ、生きてた。道ばたで座ってるから、死んでるのかと」

 

座ってるだけで死亡扱いはいささか気が早い気がするな……。私は私に声を掛けてくれた生徒であろうこの子に、今までの事情をある程度説明した。アビドス自治区だからアビドス高校の生徒の可能性が高いが、念のため先生であるという事は伏せて話した。

 

「……ただの遭難者だったんだね」

 

広すぎる自治区では道に迷う事でさえ遭難と言うらしい。

 

「こっちじゃなくて、もっと郊外の方に行けば市街地があるけど」

「いや…来たばっかだからさ」

「土地勘が無い?……なるほど、この辺は初めてなんだね」

 

なんというか、この子の表情はとても読みにくい。私の事を果たして年下だと思ってるだろうか……。一応大人だと思ってないことぐらいは分かってるが…。

 

「はいこれ、エナジードリンク。ライディング用なんだけど……今はそれぐらいしか持ってなくて。でも、喉を潤すには適任だと思う」

 

もう喋るのもキツかった私は、喉を使わないように軽く会釈して缶を受け取った。

 

「えっと、コップは…」

 

私はコップとか気にする前に、喉がカラカラでどうしようも無かった為、そのまま缶に口を付けて飲んだ。

 

「あ……それ……」

 

美味い……!

疲れてる時はもちろんだが、エナジードリンクだけは日常生活で常備しておいても何ら問題ない代物だ。こんなところでしょうもない死に方しなくてよかったよ……。

 

「ありがと。とても助かったよ」

「……うん。見た感じどっか他の学校の学生さんに見えるけど……こっちの学校に用があって来たの?」

 

あー……どう答えるべきかなこれって……。まあ、学生では無いって事だけ言っておくか。

 

「あー……学生じゃないけど、用があったのは本当だよ」

「もしかして……『アビドス』に行くの?」

「ああ、そうだよ」

 

この子から警戒心らしきものが見られないな。私の雰囲気とか、言動とかで判断してる子なのかな…。どちらにしろ、一切疑われずにアビドス高校に行けるなら面倒事が無くて助かる。

 

「……そっか、久しぶりのお客様だ。それじゃあ私が案内してあげる。すぐそこだから」

「ああ、本当に助かるよ」

 

この子は自分の乗っていた自転車を手で押しながら、私と同じペースで案内してくれた。ただの私の勘だけど……この子はとても表情は読みにくいけど…とてもいい子だな。うん、いい子だ。

 

だからこそ、アビドス高校の今の状態を見なければならない。『必要がある』のではない、『必要でしかない』のだ。

 

 

アビドス高校の校舎は、とても追い詰められているとは思えないほど綺麗な状態を保っていた。……あくまでも一部の外見判断だが。この子に連れられて、そのまま学校のとある教室へ案内された。

 

「ただいま」

「おかえり、シロコ先輩……?…え?後ろの人は……」

 

なんかこの子、先に入って私の事紹介してくれるのかなって思ったら普通に扉全開にするから……。当然のように私も他のアビドス生徒に見られちゃって……さ。

 

「わあ、シロコちゃん。どうしたんですか後ろの可愛い子は」

「……ん、うちの学校に用があるんだって」

「お客さんってこと……?」

「そうみたい」

 

どうやら私をここまで案内してくれた子はシロコというらしい。で、そのシロコの他に、猫みたいな耳を持つ黒髪の騒がしそうな子、赤い眼鏡をかけた黒髪の子。えっと……これ何色だ?ベージュだったか?ベージュのロングの髪型で……いかにも私よりお嬢様やってそうな子……。不思議な組み合わせだな。

 

「お客様がいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね」

「そ、それもそうですね……でも来客の予定ってありましたっけ……」

 

あー……なるほど、アロナの言っていた懸念がここでより一層浮き始めるとはな。私が先生に見えないから、他校の生徒の訪問だと思われてるって事か。まあ、アビドス生徒に先生であることを隠すつもりは無いし、普通に挨拶するか。

 

「……シャーレの顧問先生の神田だ。よろしく」

 

私の言葉を聞いた瞬間、シロコ以外の3人はあからさまに反応を見せた。

 

「え、ええっ!?まさか!?」

「連邦捜査部「シャーレ」の先生!?」

「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

「はい!これで……弾薬や補給品の援助が受けられます」

 

ああ、この赤眼鏡黒髪の子がアヤネだったのか。

 

「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」

「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」

 

猫の黒髪の子がダッシュしてそのホシノ先輩とやらがいる部屋に行った。

……その時だった。

 

ダダダダダダンッ!!!

 

どこからか複数の銃声が響いた。

 

「じゅ、銃声!?」

「あいつら…性懲りもなく……!」

 

どこを狙ったのか見てないから詳しく分からないが、恐らく校舎そのものを狙ったのだろう。ふーん、あれが地元の暴力組織か……。やけに人数が多いが……アビドス高校の弾薬が底に突きそうという事も考えると、向こうもここで決めに来たのか。少し面倒だが、今は挨拶からアビドス高校の現状を聞くという大事な用事が後に詰まっている。

 

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで起きて!」

「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらはシャーレの先生です」

「ありゃ~そりゃ大変だね……あ、先生……?なんかやけにちっちゃく見えるけど……よろしく~。むにゃ」

 

とてつもなくやる気が無いというか……ピンク色のロング髪の生徒…。こいつがホシノって子か。しかしなんだ…?こいつのやる気に対して……気配が合っていない…。

 

「先輩、しっかりして!出動だよ!装備持って!学校を守らないと!」

「むにゃ、おちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー」

「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分」

 

まだ届いてないけど……いや?そんな事無いな、私数日街で迷ってたわけだし……。まあ……だとしてもこの後予定は詰まっている。それにあの程度の敵で弾薬を無駄にしたくはない。

 

「いや、お前らはそこで大人しく待ってろ。少々面倒だが、今ここで弾薬を使いたくないしな」

「え……でもどうやって……?」

 

私は鞄に入れていた閃光弾二つを取り出し、その状態のままこの部屋の窓を開け、飛び降りた。……幸いそんなに高さは無い。後ろからは驚きの声が聞こえてきたが、私は何も気にしなかった。

 

いきなり目の前に現れたヘルメット団の数人は、私を見るなりこう言った。

 

「な……お前今…どこから飛び降りて……」

「お前誰だ!?アビドス生徒じゃないな!?」

 

ふぅ……。

一度息を小さく吐き、対峙しているヘルメット団の奴らに私の殺気を浴びせる。

 

「ああ、私は先生だよ」

 

当然殺気なんてものは目に見えない。だが、ヘルメット団は何かが見えたんだろうな。明らかに私に怯える奴らが多い。

 

「せ、先生だと……!?」

「お、おい!先生ってあの……シャーレの先生か…!?」

 

「この後予定が詰まってるんでね……邪魔するなよ、馬鹿共が」

 

私は言葉を吐き捨てると閃光弾のピンを抜き、目の前に落として軽く蹴り上げた。私の殺気に気押されたヘルメット団は一瞬反応が遅れた。

 

目の前に激しく光る閃光で、「うわっ!?」っと騒ぐ声が良く聞こえてくる。うん、いい反応だな。その間に私は敵のど真ん中へ上から飛び込み、スカートに仕込んであった銃を取り出し、4発撃つ。確実に頭を狙い、まず4人が倒れこむ。銃の弾も例のエンジェル24で補充したおかげで十分に持っている。

 

閃光から目が慣れたのか、閃光弾が光った場所から遠かったヘルメット団の一部が銃を構えてくる。私は背中でそれを聞き、すぐさま振り返り私の掌で一人の頭を掴み、勢いよく他の奴らへぶつけてやった。当然手加減なんかしなかった私の攻撃に堪える事が出来なかったのか、3人は気絶して倒れこみ、他数人はバランスを崩して倒れこんだ。ふむ……どうやら私の攻撃でも十分キヴォトス人にも通用するって事か。

 

「な、なんなんだお前は…!!?」

 

さあて、そろそろケリを付けようか。大人数対一人は別に戦いにくいわけじゃない。私の実力がこいつらより上なら実際の所楽に終わる。ヘルメット団の中にリーダーっぽい奴を見つけた。体制を低くして素早く移動し、他の奴らの弾を上手く避ける。

 

アサルトライフル相手に上手く避けれるか不安だったが、ヘルメット団も学生。プロじゃないから全くと言っていいほど私に当たらない。

 

「お前だな、ここのリーダーは」

 

一発胴体に銃弾をぶち込み、体制を崩した。リーダーは私と銃弾に驚いて倒れこみ、私は片方の手でリーダーの手を押さえつけた。

 

「ぐぁッ!?ぐぅぅ……!!」

 

それを見た他のヘルメット団の奴らは、一度の躊躇いを見せた。やっぱりな……。

 

「動くなよ?私は大人で先生だが、誰に対しても優しいわけじゃない」

 

「は…離せ!離せよ!!」

 

ここで私は、他の奴らの戸惑いが()()()()()()()()()()()()では無い事に気付いた。小さく聞こえる他の奴らの声だった。意図していなかったが、私はリーダーの頭の上、『ヘイロー』と呼ばれるもののところに銃を突き付けていた。『ヘイロー』の説明はアロナから軽く聞いてはいたが……なるほど、もしかしてこれを破壊すると、こいつらは死ぬのか……。しかしアロナから「ヘイローは物理的に存在しない」と聞いていたが、どうなんだろうか。

 

……だがさすがに殺す気があるわけでは無いから、私は内に在る殺気を抑える事無くリーダーを脅すだけにした。

 

「……ヘイローも持たない私にやられているようじゃ、アビドス高校の生徒達に一生勝つ事なんて出来ないな。もっとも、お前らみたいな馬鹿共に戦略とかがあるとは到底思えないが」

「……くそ!離せって!!」

 

私はリーダーのヘイローにわざと銃口を近づけた。リーダー自身の反応は特になかったが、やはり周りはもっとざわついたのが分かった。私が持っているヘイローの情報とキヴォトス人が理解するヘイローの認識が違っている可能性があるのか…。そこらへんは、やっぱりアロナがさすがだと思わざるを得ないな…。

 

「ここでお前達がとる行動は二つだ。今すぐ尻尾撒いて逃げるか、それとも敵わない私に立ち向かってくるか。さぁ、どうする?」

「……分かった!逃げるから!!もう離せ!!」

 

私は騙し討ちの予測を取った上でリーダーを即刻離した。しかし私の攻撃と殺気で騙し討ちなんて心にも思ってなかったのか、他の奴らと共に一目散に逃げて行った。やはりというか、頭のいい連中では無いのは確かだな。

 

 

「先生……!!」

 

他のアビドス生徒よりも数分間だけ聞き慣れた声が私の背後から呼んだ。

 

「……シロコか」

「…ごめん。待っててって言われたけど……いつもより数が多かったから…」

 

まあ、アビドス生徒からすれば当然の反応か。シロコならこうするだろうとか、他の生徒とか、一切予測はしていなかったが。でも意外だった。一番読めなかったから。

 

「でも……先生凄い……これが大人の力……!」

「あー、まあ私の事はともかく……さっきの部屋に戻るか。それで……話してくれるか?」

「うん。わかった」

 

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