帰り道は敵に会う事も誰かに会う事も無く、無事に帰ってきた。
「お帰りなさい。皆さん、お疲れさまでした」
「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ」
私も充分俯瞰で見ていたと思うんだが、流石に本職には敵わないな……。まあ、私の本職はどちらかっていうとホシノみたいな先陣を切るタイプだったし……。
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」
妙だな、私はてっきり弾薬が足りないとか、カタカタヘルメット団の襲撃に困ってるとか、そういう問題だけかと思っていたが。
「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
「…………」
「ありがとう先生!この恩は一生忘れないから!」
「……借金返済とはどういうことだ?」
「……あ、わわっ!」
どうやらセリカにとっては漏らしてはいけない秘密の事案だったらしい。安全がしばらく確保され、目の前の問題を予想以上の速さで片付いたのに安心したんだろうな。出てしまった単語を、私は聞き逃さなかった。
「そ、それは……」
「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」
「…!!!」
なるほど、確かに重要な問題だ。私に言いたくない気持ちも分かる。
「…いいんじゃない、セリカちゃん。隠すような事じゃあるまいし」
「か、かといって、わざわざ話すような事でもないでしょ!」
「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私達を助けてくれた大人でしょー?」
「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼していいと思う」
ホシノとシロコは借金の事を私に話してもいいというが、セリカは納得しない。
「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」
この後ホシノが諭してみたものの、セリカは結局納得せず、部屋を飛び出してどこかに行ってしまった。すぐさまノノミが様子を見てくると言って部屋を出て行ったが…。今の会話で聞こえてきた気になる単語……『今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めた事なんてあった!?』だ……。という事は、これはアビドス高校の生徒達が抱える問題では無く、この学校が抱えている問題だという事がよく分かった。そしてそれは……本来なら生徒達が全く関係ない事も意味している。
しばらく沈黙が流れ、ホシノが口を開いた。
「えーと、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で……9億円ぐらいあるんだよねー」
おおよそ私の人生の中では扱ったことの無い単位だな。
「9億6235万円、です」
詳しい金額も教えてくれてありがとね。
「アビドス……いえ、私達『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃坑手続きを取らざるを得なくなります」
あまりの膨大な金額に、私は脳を回転させている。間違いなくこれは……近くても数年前程度から借金している。年々膨れ上がっていったとしても、
「借金が出来た原因は?」
「理由ですか?それは……」
アヤネの話によると……数十年前に学区の郊外にある砂漠で砂嵐が起きた。以前から頻繁に砂嵐が起きていた地域だったが、その時の砂嵐は想像を絶する規模だったとの事だ。
つまり自然災害が元凶か……。
学区のいたるところが砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい、その自然災害を克服するために、アビドス高校は多額の資金を投入せざるを得なかったとの事だ。
今この高校には『対策委員会』と銘打ってはいるが、当時はそれとは別か同じか、アビドス高校の生徒会もあったはず。もしこれら二つが全く別物だった場合、やはり『対策委員会』は本来関係が無いはずだ。
アヤネの話に戻そうか。……しかしこんな片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず、結局悪徳金融業者に頼るしかなかったそうだ。
「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います」
当時のアビドス高校の生徒会の……判断が悪かった……?
しかし自然災害である砂嵐はその後も、毎年さらに巨大な規模で発生し……学校の努力もむなしく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどった……。
「……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです…」
「………」
「私達の力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」
………。
「……まあ、そういうつまらない話だよ」
つまらない話……か……。そういうホシノが、この問題に一番長く向き合っているのに、か……。
「もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金の事は気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」
「そうだね、先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」
迷惑……ねえ?
「一応……聞いてもいいか?」
「ん……もちろん」
私はここで、私のただの疑問というより、今この場で
「その借金はさ、お前らアビドス対策委員会に降りかかってんのか?それともアビドス高校か?どっちだ?」
「……!」
アヤネの言葉、これらも私はしっかり漏らさず聞いていた。上手く『『対策委員会』が返済しなくてはならない金額』と修正していたが、その前に『アビドス』という単語が別で聞こえてきていた。
「アビドス高校……ですね」
「正しくは、アビドス高校の生徒会、だろうな。当時の」
「そこで気になったんだが……この膨大な借金、お前達に返済する義務は無いんじゃねーのか?」
「………!!」
「正確に言えばこれは学校そのものが抱えた借金、他の生徒が引っ越したりしている事からも分かる通りだが」
「そ、それは…「どうしてお前らがそんなに抱えて払おうとしてんだ?」……」
私は敢えてアヤネの言葉を遮ってまで気になる事をぶつけた。当然、私は真剣に聞いている。ふざけてもいないし、バカにしているわけでもない。……その私の表情をくみ取ったか、相変わらず表情の読めない彼女はいつもより声を大にして言い放った。
「ここは私達が通っている学校。当然愛着もあるわけだし……」
「………」
「私達が……私達の学校を守ろうとするのは当然の事」
「…………」
シロコの言葉には、その言葉の意味以上にこのアビドスを救いたいという強い意思を。
言葉こそ発さなかったが、のんびりした雰囲気が完全に消え、誰よりもこの学校に対する想いが強いホシノ。
アヤネは私やシロコの表情を心配そうに見ているが、書類を持つ手にはしっかりと力が込められていた。
「……ならなおさら、私も対策委員会の一員として頑張んなきゃならねーな」
「……先生?」
「変な事を悪い聞き方して悪かった。お前達の
「………」
「期待以上だ。だからこそ私も全力で取り組む、これからよろしくな」
今まで表情がほとんど読めなかったシロコはやっと私でもわかるくらいに驚いているのが分かった。ホシノはいつもののんびりさがいつの間にか戻っていた。
「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒な事に自分から首を突っ込もうなんて」
「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私達も、希望を持っていいんですよね」
「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」
私としては絶対に希望で終わらせるつもりなんて無い。9億だろうが9億6000万だろうがしっかり返済してやるつもりだ。どんな手を使うかは今後考えるとしても……。
まず私のやる事の……大きな一つ目が決まった瞬間だった。私のこの言葉が、扉の向こうで聞き耳を立てている彼女に少しでも響けばいいなと思いながら。
先日ワイルドハントミドリゴリラを手に入れました。130連でした。(途中でハナエ(クリスマス)とカズサもお迎えしました)