元殺し屋の先生   作:狐ノ陽炎

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9話 柴関ラーメン

翌日・アビドス住宅街

 

今日は朝一から連邦生徒会へ弾薬申請の書類を提出し、アビドス自治区に来ている。リンに書類を提出した際、用途について聞かれたがまあ、適当に答えといた。嘘をつく理由も無いが、アビドス自治区の状況について連邦生徒会が知らないはずもない。手助けも何もしない仕返しと言えば変に聞こえるが……まあ、私の個人的な理由で適当に答えただけだった。

 

昨日までの失敗から、今日はいつもより薄着で来ている。とはいってもお嬢様服は相変わらずで、アロナからも苦言を呈されたが私は特に気にしてない。「これが私の正装だ」と言えばだれでも納得せざるを得ないからだ。

 

それでもやはりここは暑い。砂漠やら異常気象のせい……自然にはやっぱり勝てんねぇ……。

 

私はこれからアビドス高校へ向かう途中だったが、見知った顔にばったり出会った。

 

「うっ……な、何っ…!?」

 

昨日ちょっとした言い合いの末、対策委員会の部屋を飛び出したセリカだった。

 

「おはようさん」

「な、何が「おはようさん」よ!馴れ馴れしくしないでくれる?」

 

これはこれは随分と嫌われちゃったねぇ。私の意見としては無理に私を好む必要は無いし、別にセリカも間違っているとは思わない。

 

「私、まだ先生のこと認めてないから!」

 

でもその言葉の裏には『自分以外が先生を認めてるからどうしようか迷ってる』…とも受け取れるんだよな。だからこそ普通にいつも通り、皆分け隔てる事無く接するのが基本だな。無理強いさせる必要が無い事も上手く利用してやるか。

 

「まったく、朝っぱらからのんびりうろついちゃって。いいご身分だこと」

「セリカは、これから学校か?」

「私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?朝っぱらからこんな所をうろちょろしてたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ?」

 

……あぶね、つい本音が出そうになった。『いい大人』とか『立派な大人』なんて、数えるほどしか存在しないって言いそうになった。相手が同じ立場ならともかく、セリカはまだ子供だ。現実を分からせるのはまだ早い。

 

「じゃあね!せいぜいのんびりしていれば?私は忙しいの」

 

セリカは砂埃を立てながら走り去っていった。忙しい……か、少しだけ気になるいい方したな。よく思ってない相手にとる言動としては普通だが、まるで学校以外の何か別の事をするような……。ちょっとだけ追いかけてみるか。

 

 

追跡がバレてさっきみたいな問答をするのも互いに面倒だし、少し距離を取りながら追ってみた。セリカが向かった先は、アビドス高校とはそこまで離れていない場所に位置する、ラーメン店だった。暖簾には『柴関ラーメン』と書いてある。ラーメンを食う事が忙しい事な訳が無いと思った私は、少しだけ中を覗いてみた。傍から見れば私の行動は怪しさ満点だが、ここはアビドス自治区、大して人影も見当たらない。……どうやら私の予想は当たったようで、セリカはこのラーメン屋の店員のような姿になっていた。少しでも借金返済に充てようとバイトをしているんだな。

 

一通り見終わった私は、再び店の前に立ち、ここへ入るか悩んでいた。朝一で書類を書いて連邦生徒会へ提出した経緯からまだ朝食を食べていない事、だが朝からラーメンというのは私自身あまり経験が無いものだった。カップラーメンなら経験あるんだがな……。

 

「おっ?先生じゃ~ん」

 

ふと横から、また見知った声が聞こえてきた。

 

「ホシノ…?いや、みんな揃ってどうした?」

 

ホシノの声が聞こえたからてっきりホシノだけかと思っていたが、そこにはシロコ、ノノミ、アヤネと……。今ラーメン屋に居るセリカ以外の全員が私の前に現れた。

 

「もしかしなくても、セリカちゃんいるでしょ?」

「あー……ていうか学校は休みなのか?」

「今日は自由登校の日なんですよ~☆」

 

自由登校か……私には学校というものがそもそもとしてよく分かっていないからな…。その辺も一から勉強し直しだな。

 

「さあさ先生、せっかくなら朝ご飯一緒に食べようよ?」

「ああ、そうだな。そうするか」

 

暖簾のすぐ先にある引き戸を開け、中に入る。

 

ガラララッ……

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで……わわっ!?」

「あの~☆5人なんですけど~!」

「あはは……。セリカちゃん…お疲れ……」

「お疲れ」

「み、みんな…どうしてここを……!?」

 

一瞬元気なセリカの声が聞こえてきたが、すぐに焦ったような声も聞こえてきた。つまりこの事誰にも言ってなかったのか。

 

「うへ~やっぱここだと思った」

「やっほー」

「せ、先生まで……ストーカー!?ストーカーなの!?」

「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ……!!ううっ……!!」

 

ホシノ、私がストーカーなのは間違ってない。とか思いながらニヤニヤしていると、奥からこの柴関ラーメンの大将と思われる人物……いや、人じゃねえな。……犬大将が奥から出てきた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう…はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」

 

セリカに案内され、4人掛けのテーブル席についた。左側にホシノ、シロコと、右側にアヤネ、ノノミがそれぞれ席に着いた。一見して4人掛けだと思った私は、隣のテーブル席へ目を向けた。

 

「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」

「……ん、私の隣も空いてる」

 

二人とも隣を開けてくる。4人掛けだと思ったテーブル席は思ったより広く、もう一人分座れるスペースが出来ていた。生徒の誘いを無下にするのも良くないと考えた私は、左側と右側、総合的に考えて広い方の左側を取る事にした。

 

「……」

「ふむ……」

 

いや、狭いが…?広いと思ったのは気のせいだったか……?

 

「狭すぎ!シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

「いや、私は平気。ね。先生?」

 

いや、じゃない。多分私は今顔に出てるから、狭いって顔してるから。

 

「何でそこで遠慮するの!?空いてる場所たくさんあるじゃん!ちゃんと座ってよ!」

「わ、分かった……」

 

少しシロコは残念そうにしていたが、私から離れホシノ側に少し寄った。私のすぐ隣がそんなに良かったのか……?

 

オーダーを聞きに来ただけのはずのセリカは、それぞれからの質問を大量に浴びていた。バイトをユニフォームの好みで決めるタイプなのかとか、いつからバイトを始めたのかとか、バイト始めたのは一週間くらい前からで…とか、セリカのユニフォーム姿を写真に撮って売りさばこうと考えるシロコとか…。ここだけ聞けばとても9億もの借金を抱えている学校の生徒には見えないくらい微笑ましい光景だ。これが彼女達の本当に本当の日常かもしれない。

 

「も、もういいでしょ!ご注文は!?」

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

「私は塩」

「えっと…私は味噌で……」

「私はねー、特性味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!」

 

メニューは見ていなかったんだが、聞いてるだけで種類が多いんだな。あまりラーメン屋というのも行かないから、私が知らないだけかもしれんが。

 

「先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー!アビドス名物、柴関ラーメン!」

 

そうか、なら遠慮なく。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

「あーうん、そりゃーもち………え?」

 

いやちょっと待って?メニュー眺めるのに夢中になっている隙に今なんて言ったこいつ?

 

「……初耳なんだが?」

「あはは、今聞いたからいいでしょ」

 

まずい、今月はもうすでに色々物を揃えたりしててあまり余裕が無い。てっきり自分のぶんだけだと思って油断していた。ここは逃げるしかない

 

「おっと、そうはさせないよー」

「ばっ…バカ、ホシノ!離せって…!」

「うへ~、いくら先生でも私に力では勝てないって」

 

あまり本気で抵抗しなかったから、あっさり捕まってしまった。まあ……なんとかなるか。

 

「じゃあ改めて、私の注文だが…」

 

正直迷う。

朝から豚骨は普通にキツイ、この後が心配だ。朝だからって理由で味噌もあまり好きじゃない、味噌は絶対夜にしか食わないと決めてるからな。なら無難に醤油か…?いや、ここはやっぱり……。

 

「塩の大盛りを頼もう」

「大盛り……!?」

「あ、ご飯もつけといてくれな」

 

塩ならニンニクを入れなくても胡椒だけで十分味付けできる。ホシノの言う通りめちゃくちゃ美味いなら入れないという手もありだ。そして……口座の金額なんか知るか。

 

 

この時、先生以外の皆は思った。誰よりも小さいこの身体のどこに、その量のラーメンと、白飯が入るのだろう……と。

 

 

 

「うへ~大人のカードがあるじゃん。これは出番だね」

 

遂に運命の時が来てしまった。私がお金を払うという時間がっ……。

 

「大人のカードを使うような場所でもなさそうですが……」

「先生としては、カワイイ生徒達の空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」

 

いや、言い方悪すぎかよ。そんな事言われなかったら普通に困った顔もせず払うんだけどな。今絶対変な顔してるぞ私。

 

「先生、こっそりこれで支払ってください」

 

突然耳元で、ノノミが小声で言ってきた。手元には、ノノミが持つカードがある。これがセリカの言っていたよくみんなを奢っている例のカードか……。

 

「……いや、大丈夫だよ」

「でも……」

「払いたくないわけじゃないし、顔に出てるのは私も分かってるから」

「………」

 

 

みんなの分まで会計を済ませ、外に出た。よし、今の口座の中と支払い金額なんか見てないから知らんぞ私は。

 

「いやぁー!ゴチでしたー、先生!」

「ご馳走様でした」

「うん、お陰様でお腹いっぱい」

 

ホシノたちに出会った事でわざわざアビドス高校に行く必要が無くなった。私はホシノたちに今回の用件だった明日以降の弾薬を申請したからもう弾薬を気にする必要が無い事、私の携帯の連絡先を伝え、帰路についた。

 

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