もしもレゼにバディがいたら   作:かのけーき

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デンレゼです。
レゼ様がオリジナル悪魔くんを恋愛対象として好きになることは絶対にありません。


都会のネズミ

我が国では指導者が絶対だ。

よって、反乱分子には粛清が下される。

たとえネズミのようにコソコソと這い回り、きたるその時をうかがおうと、あらゆる手段を講じて事前に炙り出されるのだ。

 

「いやだ……いやだ……! こ、殺さないでくれ……!」

 

自分の運命を悟っているのか、男はえらく怯えた様子で命乞いをする。

窓から差し込む月明かりに照らされたその顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

彼もまた炙り出されたネズミの一人という訳だ。

 

「安心してよ、僕は君のことを殺さない」

 

「だったら、これはどう説明するんだ!? 悪魔の妄言は信用できない!」

 

男は床で這いつくばっている人たちを指差しながら、こちらの言葉を聞き入れない。

彼らは僕の力で眠っているだけなのだが、誤解するのも無理はないだろう。

 

「嘘じゃない、彼らは眠っているだけだ。信じられないなら脈を測ってもいい」

 

男は信じられないものを見るような目でこちらを見据える。決して、警戒心を解くことはない。

そして、半信半疑な様子で身近に横たわっている人の手首に指を押し当てた。

 

「本当だ……。 お、俺たちを殺しに来たんじゃないのか……?」

 

「少なくとも僕は違う。外にいる連中はどうか知らないけど」

 

窓越しに見えるのは建物を取り囲む武装集団。どうやら、外の見張り役もお縄についたらしい。

 

「く、くそぅ……! もう彼女に会うこともできないのか……!」

 

男もそれ察したのか、顔を覆い、膝から崩れ落ちる。このままだと彼の生涯は薄暗い一室で終えることになるだろう。

 

「会えるよ。君の愛しい人に」

 

だが、その終わりは僕の道理に反するのだ。

 

「ふざけたことを抜かすな……! 飼い犬のくせに俺を哀れむな!」

 

「そこの床で眠っている人たちは僕の力で夢を見ている。どんな夢だと思う?」

 

「知るかそんなこと!」

 

「彼らの顔をよく見てほしい」

 

「……笑ってる?」

 

「猫や犬が走る振りをするように、人間が悪夢を見るとうなされるように、夢の内容は反応として現れる。大人しくしていたら君が死ぬまでの数分、この先絶対に叶うことのない夢を見せてあげるよ。それも、対価なしで」

 

「う、嘘じゃないのか……?」

 

「あぁ、君が見たい飛びっきりのやつを提供する」

 

「わ、訳がわからない。戦場でどうしてそこまでの情けをかけられる……?」

 

「情けじゃない、ただのルーティンさ。で、満ち足りた幸せに包まれて死ぬ? それとも、絶望の淵で一人虚しく死ぬ? 前者なら僕の近くまで来てほしい」

 

問いかけに男は逡巡する。

国に仇なす人間として誇り高く死ぬか、普通の男として死ぬか、そんな選択。

迷いの末に男は僕に近づき、縋るように口を開いた。

 

「……し、幸せなまま死にーー」

 

瞬間、男の頭部が大爆発を引き起こす。

僕が提示していないはずの第三の選択、人間花火というなんとも酷い結末だ。

 

「アッツ! アッツ!」

 

その一方、僕はその余波をくらいあわや火だるま状態。

毛や服に触れた火花は、与えられた着火剤を全て燃やし尽くさんとしていた。

 

これ以上の引火は避けねばならぬと、僕は熱さに身悶えしながら地面にのたうち回る。

そして、地面に転がされる雪だるまのように何度も何度も転げ回った結果、無事に延焼は避けられた。

被害状況は毛という毛がチリチリになったことと、服に少し穴が空いた程度。我ながら最善の雪だるまムーブだ。

それにしても……、

 

「誰だよ……。目の前でド派手な花火をぶち上げるクレイジーなやつは……」

 

仰向けになりながら、顔も知らぬ爆弾魔にぼやく。

すると、こちらに近づく一つの足音が聞こえてきた。カツンカツンと響くその音は一定で澱みなく、無機質な人間像を思い浮かばせる。

 

「……」

 

足音の正体は無言で僕を見下ろす。

爆弾の頭に人型の体。その腹部から足元にかけては、黒いダイナマイトのようなものが複数連なった前掛けが垂れている。

先ほどの爆発は十中八九、彼女の仕業に違いない。

 

「見ない顔だね……。今の爆発は君がやったのかい?」

 

「こちらレゼ。目標の排除に成功。任務は完了した。司令部、応答を求む」

 

「おーい、無視ですか?」

 

「必要のない会話はしないだけ」

 

「あ、そうですか……。僕は話す価値もない虫ケラですか……」

 

最初のアイコンタクト以降、彼女はこちらに目をくれることもなく、会話にも応じようともしない。

……謝罪ぐらいしたらどうなんだね? いくら僕が悪魔で血を飲めば復活するとはいえ、もろに爆発食らったら死にますからね?

……まぁ寛大な心で許してあげますよ、どうせ一期一会の出会いだ。

 

『こちら司令部。状況を確認した。これより現場の制圧に移行する。なお、レゼおよび夢の悪魔は直ちに本部へ帰投せよ。新たな特命が下る』

 

「こちらレゼ。了解した」

 

「……え? 連日で? しかも……」

 

目の前の彼女と任務を共にすることになった。

戦場は取っ替え引っ替えが日常、この場限りの出会いだろうとたかを括っていたらこれである。

人生はなかなかどうしてこんなにも立ち行かないのだろうか。

 

▫️

 

次の戦場へと運ぶ寝台列車の一室。

反乱分子の制圧任務後、本部から新たな伝令が下った。その行先は異国の地である日本。

 

軍服姿の少女は対面のベッドに腰掛け、淡々と任務の説明をしている。

それに対して僕は寝転がり、休む暇もない働きバチであることに涙を流しつつ、現実逃避を兼ねて過去を反芻していた。

 

僕の歩んできた人生ーーいや、悪魔生は、大きく分けて三つに分類される。

 

幕開けは空っぽのコップ。

"悪魔"というコップの中身には、悪魔の生を楽しむための心が欠けていた。

同族は悪魔だけの特権とやらを謳歌していたが、そのどれもが自分にとっては退屈極まりない代物だった。

 

幕間ではコップが満たされていく。

初めて街に出て、人を知り、その文化と多様さに深く感銘を受けた。

人の多い都市部で生活していたこともあり、デビルハンターとのきょりもちかくなったが、多様なドリンクが注がれ、互いに混ざり合う感覚に酔いしれていた。

 

そして現在ーー訳あってコップの中身が蒸発しきるのを無気力に眺めている。

というのも、今の僕にはコップを満たすプライベートというものがなく、その身全てを仕事に捧げなければならないからだ。

家畜のように仕事をこなすだけの日々に、潤いなんてありゃしない。

 

当然ながら、仕事は発注するクライアントがいて初めて成り立つ。

そのクライアントがなんとも暴君じみたお方で、命令違反は拷問、重大過失は命で償うことになる。

いつまでもあると思うな命と人権、そんなスローガンが平然とした顔で闊歩するバイオレンスな職場だ。

誰かパワハラ、モラハラ、殺人、その他諸々の容疑で職場を訴えてほしい。

 

無論、クライアントだけが問題ではない。

マフィアにはシノギが舞い込むように、バイオレンスな職場には、バイオレンスなお仕事が舞い込んでくる。

誘拐、非人道的な実験への加担、戦場への派遣。血と涙と臓物、その他社会の理から外れたものと親しくなるにはうってつけのお仕事だ。

 

「はぁ〜」

 

自然とため息がこぼれ落ちる。

暴君クライアントにも、血生臭い仕事にも嫌気がさす。

 

「……聞いてる? 夢の悪魔」

 

少女の冷たい声が室内に響く。

無気力極まる態度を叱責する口調だ。

 

「ん? あぁ、聞いてる聞いてる。チェンソーの悪魔を殺す手筈だろ? バッチリさ」

 

寝転んだまま横目で彼女を見やり、ゆる〜くサムズアップする。

 

少女の名前はレゼ。今回の仕事をともにするバディだ。そして、僕の目の前で花火を打ち上げた張本人でもある。

その件に関しては、彼女から謝罪を受け取ったわけではないが、水に流すことにした。なんだかんだ生きているわけだし、モーマンタイといえばモーマンタイである。

 

なお、彼女に関してだが、曰く首のピンを抜くことでボム人間に変身できるという、国お墨付きの戦士らしい。

らしい、というのは僕が彼女のことをよく知らないからだ。

常に死が隣り合わせの職場という都合上、人の入れ替わりが激しく、ほぼ初対面でも任務に挑むというのは特段珍しいことではない。

僕が彼女に関して知っているのは、軍から与えられた任務遂行に必要な情報のみ。いわば、彼女の能力だけを知っている。

 

閑話休題、国が自慢の戦士を派遣したということは、殊更に失敗が許されないという意味でもある。

どれだけ入念に打ち合わせできたかが、今後の運命を大きく左右する。

 

そんな状況において任務へ消極的な僕へ向けられる視線には、強い批難の意が込められていた。

 

「ふーん、そう。なら、私が言ったこと復唱して」

 

「……あーっと、君がチェンソーの悪魔に色仕掛けするから、僕がいい感じにムードを盛り上げる」

 

舐め切った返答を聞くと、彼女は無表情のまま緩慢と腰に手をかけた。

 

「悪魔の矯正は初めてだけど、血がたくさん流れる場所を教えたらいいのかな」

 

冷徹な声と瞳。次の返答次第で、手にかけた得物で喉をかっ切るという意志がありありと伝わってくる。

 

「ごめんごめん、悪魔ジョーク。君はチェンソーの悪魔と二人きりになるよう行動。僕は君の合図があり次第、彼を眠らせる。殺害後は君の逃走援助、だろ?」

 

「……及第点かな。バディじゃなかったら、最初でやってたけど」

 

呆れた物言いだが、得物から手を離し、戦意を収めてくれたようだ。

今回のバディも血の気が多そうだ。

 

と、戦々恐々していると彼女の足元にある物が視界に入った。

 

「そこのキャリーケースには何が入ってるんだい?」

 

このまま目的地まで無言でもよかったが、今後を考えると少しでもコミュニケーションのハードルは下げておくべきだ。

まずはありきたりな雑談でジャブだ。

 

「偽造身分証、服、日用品が入ってる。日本では一般人として振る舞う必要があるから」

 

服、服かぁ……。人のコーディネートを見るのを楽しんでいたのは、一体いつだったか……。

 

「……何か気になる?」

 

彼女の声を聞いてハッと我に返る。

いつのまにか身を起こし、キャリーケースを凝視していたらしい。

 

「服を見るのが好きなんだ。昔はよく人のファッションを観察していたものさ」

 

「人の姿に近い悪魔は人に友好的……ね。その割には協力する気なさそうだけど」

 

「全く気の合わない二人がピンチの時に見せる想定外のコンビネーション、そういうのに憧れるだろ?」

 

「……」

 

場が静まり返る。

列車の揺れがやけに大きく感じられ、振動音は先ほどより鼓膜にズシンと響く。

ジョークで和ませ作戦はどうやら失敗に終わったようだ。

 

数瞬後、彼女は眉ひとつ動かさず、呆れたように口を開いた。

 

「現実がフィクション通りにならないこと、子供でも知ってる」

 

「夢の悪魔から夢を取るってことは、ハンバーガーからパティを抜くのと同義なんですよ……」

 

「……じゃあ、この任務が終わるまで、私たちは田舎のネズミと都会のネズミになる? 気の合わない二人になれそうだし」

 

田舎のネズミと都会のネズミ。有名なイソップ寓話だ。

口から出まかせの僕の夢を切り捨てた彼女がわざわざ話に乗ってきたとは考えづらい。言葉の裏に何か含みがありそうだ。

 

「……安全を重んじる田舎のネズミと、刺激を求める都会のネズミの話だっけ」

 

「そう。夢の悪魔はどっちにする?」

 

彼女は目を細め、僕の反応を静かに探る。

考えるまでもなく、答えは決まっている。

 

「都会のネズミに一票」

 

気のせいかもしれないが、彼女の動きがわずかに止まったかのように見えた。

 

「……そんなに意外?」

 

「その態度で都会を選ぶとは思わなかった。すぐ捕食されそうなのに」

 

「一言多いような気が……。田舎暮らしも悪くないけど、僕には合わなかった」

 

僕にとっての田舎、つまり悪魔としての生活。

人殺しに興味関心を抱かなかった僕は、人里離れた山の中で食べて、寝て、起きるを繰り返すだけの毎日を送っていた。

考えることはその日の食事と寝床をどうするかだけ。時の流れは緩やかで、誰にも脅かされることのない平穏な生活。

平穏とは対極の位置に立って、その安寧がいかにかけがえがないかは理解している。

 

それでも、一度都会の味を知ってしまった心は田舎の平穏では満たされない。

まぁ、都会での生活を満喫しすぎた結果、悪目立ちして身柄を拘束されてしまったわけだけど……。

 

「なら、あなたの夢を叶えることになりそうだね」

 

僕の返答に満足していないのか、その口ぶりには若干の棘が含まれている。

その証拠に、これまで無表情だった彼女の口元がわずかに歪んでいた。

 

「君は田舎のネズミ派か。……ん? 僕が田舎のネズミを選ぶ想定だったなら、田舎と田舎になるじゃないか。もしかして……」

 

「察しがいいね。田舎を選べば、くだらない夢物語を語る口を結ばせて、任務への姿勢を改めてもらう予定だった」

 

「……ま、回りくどい。……やることはやるから安心してほしい。命あってこその都会暮らしだからね」

 

「そ。ならいいけど」

 

彼女は僕への興味を完全に失ったようで、窓に取り付けられたカーテンを退屈そうに眺めていた。

だが、僕にはまだ知りたいことがある! 

そう、彼女が着る予定の服だ! 

久しぶりの栄養摂取だ!

 

「話は変わるけど、服見てもいいかな?」

 

「よそ者は村に立ち入らないでください」

 

あっさりと門前払いされた。

……口から出まかせで言った夢を叶えるためのロールプレイだよね? そうだよね? 

そうだと言ってくださいお願いします。

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