もしもレゼにバディがいたら   作:かのけーき

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お気に入り、感想、評価ありがとうございます。
不定期投稿なので、気長にお待ちいただけると幸いです。  

11/18追記
色々と考え直した結果、2話の結末を変更いたしました。
変更以前の2話を読んでお気に入り登録、評価をしてくださった方には申し訳ありません。
ひとえに作者の力不足のせいです。


わがまま

日本に到着してから数日が経過した。

僕とレゼは来たるXデーに向けて、それぞれ別行動を取っている。

 

僕はチェンソーの悪魔の尾行と張り込み。

ルーチン、パトロールルート、交友関係を洗い出し、計画の精度を上げる役割を担っている。

彼女はチェンソーの悪魔を誘い込む根城、カフェ「二道」で普通の少女としてバイトしている。

二道は人目のつかない路地裏先にあるカフェで、チェンソーの悪魔と交流を深めるにはもってこいの場所である。

 

現在の時刻は21時過ぎ。

朝から続けていた尾行も、そろそろ終わりが見えてきた。

 

「チェンソーの悪魔、21時過ぎに自宅マンションに到着と」

 

メモ帳に一日の行動を記し、彼が二人の人間と共に部屋へ入るのを地上から見届ける。

チェンソーの悪魔と暮らしを共にしているのは恐らく魔人のパワーと人間の早川アキ。

国から提供された情報と外見が一致してるので、間違いないはずだ。

 

「よし、僕も帰りますか」

 

踵を返し、夜風の中を歩き出す。

僕と彼女は国が用意した空き家を拠点としている。

庭付きの年季が入った平家で、テレビや家具などは一通り揃っている。

庭は雑草が伸び放題だが、その人気のなさが僕達には好都合だった。

 

無線機を取り出し、彼女に連絡を取る。

バイトも終わり、今頃は拠点に戻っている頃だろう。

 

「今から帰るけど、夕食は何が食べたい?」

 

『食べられるものならなんでもいい』

 

無機質で欲のない返答。

この時間だと飲食店も閉まっているだろうからテイクアウトもできない。今日の夕食もコンビニ飯になりそうだ。

 

「おっけ〜。適当に買ってかえる」

 

列車内での彼女の無言は嘘のように、今では普通にコミュニケーションを取れるようになっていた。

ただ、先ほどの通り、彼女は任務以外にはほとほと興味関心がない。

毎晩、夕食の希望を尋ねても返ってくるのは「なんでもいい」の一点張り。録音を流しているのではないかと疑うレベルだ。

 

「監視がいないから、少しくらい気を緩めたって誰も咎めはしないのになぁ」

 

ぼやきながら、拠点から少し離れたコンビニへと足を運ぶ。

 

店内に入ると、弁当コーナーに色とりどりの弁当が並んでいた。

日本の食に対する意識の高さには感服せざるを得ない。どれも美味しそうで目移りしてしまう。

悩んだ末に、二人分の弁当をカゴへ。

 

そして、ここからが僕の至福の時間。

本棚コーナーの物色だ。

 

「あっ、新刊出たんだ」

 

先日買った週刊少年ジ〇ンプとやらの表紙が変わっている。恐らく、先週の続きが掲載されているのだろう。

日本のサブカル文化にはいい刺激をたくさんもらえて、能力の幅も広がる。これも買っておこう。

 

他にも面白そうな漫画が所狭しと並んでいる。

思わず手を伸ばしかけたところで、脳裏に彼女の声が蘇った。

 

『任務に関係のない行動は謹んで』

 

これまで僕のお母さんかと疑うぐらいに口酸っぱく言われてきた言葉だ。仏の顔も三度までという言葉があるが、優に三回以上は指摘されている。

制圧任務から列車に至るまでの間、彼女は冷徹なオーラを纏っていたが、根は割と仏以上の心の広さがあるのだろうか。

……流石にニ冊目はやめておくか。

任務が本格的に始まれば、読む時間も取れなそうだし。

 

と、レジに進もうとした時、視界の端でとある女性と目があったが気がした。

 

「……これは、ファッション雑誌か」

 

表紙を飾る女性は流行りであろう服を見事に着こなしており、気づいた時にはファッション雑誌を鑑賞していた。

ページをめくるうちに、自然とバディにはどんな服が似合うのかを考え始めてしまう。

 

「あの服も彼女が選んだものじゃなかったんだよな〜」

 

彼女が着ている服。

それは、彼女の意思が反映されたものではなく、すべて国から支給されたもの。初めて着替えを見た時の衝撃も、「自分で選んだわけじゃないけど」という一言で半減した。

その空白を埋めるように、雑誌を捲る手は止まらず、彼女に似合う服の妄想が止まらない。

よし、これも買おう。漫画と比べて読むのにはさして時間はかからないはずだ。

 

最終的に、カゴの中には弁当二つ、漫画一冊、ファッション雑誌一冊が入っていた。

 

「ご来店ありがとうございましたぁ〜〜」

 

会計を済ませ、夜道を歩くこと十分。

拠点に到着し、インターホンを鳴らすが返答はない。

が、ほんのわずか待つと玄関のドアが開いた。

ドアスコープ越しに来訪者が部外者でないことを確認していたのだろう。

 

「ただいま〜」

 

「おかえり! 今日もお仕事お疲れ様!」

 

髪を下ろした寝巻き姿の彼女が満面の笑みと労いの言葉で出迎える。

外から見れば、まるで同棲している男女にしか見えないはずだ。

 

「遅くなってごめんね〜。今日はカレー買ってきた」

 

「ありがとう! 飲み物は準備してるから、温めて食べよ!」

 

玄関に足を踏み入れ、廊下を歩く。

彼女の後ろ姿は玄関での溌剌とした声とは正反対に落ち着き払ったものだ。

 

そして、居間に入ったところで彼女の方から声をかけてきた。

 

「帰ってくるの少し遅かったね。何かあった?」

 

先ほどの柔らかな笑顔はどこへやら、いつもの無表情に戻っていた。

この切り替えを初めて体感した時は、湯船の上から冷水をぶち撒けられるような感覚を得るとともに非常に感心した覚えがある。

夢でたぶらかす僕とは異なり、技術で欺く彼女。

そのあり方の根本には通じるものがあり、何となくシンパシーを感じざるを得ない。

 

「コンビニで本を物色してただけさ」

 

「……口うるさく言いたくはないけど、任務に関係のない行動はなるべく謹んで。尻尾は少しでも掴まれたくない」

 

「安心してくれ。僕は周囲から曖昧な存在として認知されているから、誰かの記憶に残ることはない」

 

彼女の抗議の目線を流しながら、居間に併設されたキッチンのレンジで弁当を温める。漫画とファッション雑誌に関しては、居間の中央にあるちゃぶ台にとりあえず置いておくことにした。

 

(弁当が温まるまで漫画でも読むか)

 

テーブル前に敷かれた座布団に腰掛け、漫画を捲る。

と、斜め前から甘い石鹸の香りが漂ってきた。顔を上げると、同じく座布団に座った彼女が視界に映る。

 

「また漫画……、それに、女性向けのファッション雑誌?」

 

「それは僕の妄想用。君にどんな服が似合うかなぁ〜って思って買ってきた」

 

「……まだ引きずってるの。服なんて誰が選んでも一緒でしょ」

 

「全然違う! 誰かの恣意が入るのと入らないのでは、まるで別物だ! 君の個性が僕に伝わってこない!」

 

「個性ね……。まぁ、私が選んでも変わらないと思うけど。男が好きそうな服装だし」

 

「……駄目だ、骨の髄まで任務に染められている。……そうだ。この中から着てみたい服を選んでよ」

 

僕はファッション雑誌を手に持ちながら表紙をバシッと指差す。

が、彼女の反応は相変わらず無関心の域を出ない。

 

「モルモットに許されてるのは命令通りに動くことだけ。余計な行動は慎むべき」

 

「今は檻から飛び出してるんだぜ? 好きにしてもいいんじゃないかな」

 

「何もしなければネズミ用の檻に戻れるけど、厳重な檻には入りたくない」

 

「……僕の一生のお願いを叶えてください。なんなら契約します」

 

「……はぁ、わかった。今回だけね」

 

「感謝感激雨あられ」

 

彼女は渋々といった表情で僕からファッション雑誌を受け取る。

しばらく、紙が捲れる音を聞きながら待っていると、ピタリと音が止んだ。

これまで退屈そうに眺めていた表情がわずかばかりに揺れる。

 

「これかな」

 

彼女は机に開いたファッション雑誌をしなやかな手つきで軽く指差す。

 

「お、学校の制服か。想像しただけでご飯3杯はいけそうだ……! どうしてそれにしたんだい?」

 

「一度でいいから着てみたいなぁって」

 

「……え?」

 

思わず聞き返したところで、やり取りが止まった。彼女の視線は宙をさまよい、まばたきの回数だけが妙に増えている。

自分の一言を、巻き戻して聞き直しているーーそんなふうに見えた。

 

数秒の沈黙のあと、彼女はようやく自分の言葉の意味を理解したかのように、ゆっくりとした動作で口元を手で覆う。

俯いた姿勢で「……捨てたはずなのに」と漏らすその横顔は、他でもない彼女自身が一番驚いていると物語っていた。

 

「君は何歳からここに?」

 

「……覚えてない。物心ついた時には居場所はここだけだった」

 

動揺を拭いきれないのか、いつもの淡々とした声音はわずかな揺れを伴っている。

 

「……もしかして、君は」

 

最後まで言いかけて、途中で言葉を止めた。

彼女の発言から推察されるその生い立ち。

国が秘密の部屋と呼ばれる場所にて、身寄りのない子供たちをモルモットにして戦士を作るーーそんな噂を聞いたことがある。

そして数年前、アメリカのジャーナリストによってそれが事実だと証明された。

彼女の発言とこの事実を擦り合わせると、彼女の人生は秘密の部屋で弄ばれたという線が濃厚になる。

 

世の中の酸いしか知らず、当然ながら自由もない。

彼女の人生の色は、無色透明ですらない。第三者に黒く塗りつぶされ、他の色が混じる余地すら許されていない。僕のように下地となる色すらなく、最初から真っ黒。

 

流れる沈黙。静寂さに終止符を打ったのは僕からではなく、件の彼女であった。

 

「今のは忘れて。お弁当ありがとう」

 

そう言って立ち上がり、そそくさとレンジの方に向かう。

 

「……なぁ、一緒にゲームしない? 二人プレイにも対応してるからさ」

 

「気を使わなくていいよ。命令を遵守すれば満足してくれるし、痛みにはとっくに慣れたから」

 

彼女の顔はキッチンに阻まれ、居間からは確認できない。が、その言葉には自分の運命を受け入れているかのような諦観が滲んでいた。

 

「いや、そういうことではなく……。昨日僕がやってるの後ろから眺めてたろ? わがままを一度も言えない人生なんて普通じゃないぜ?」

 

「今日は遅いからもう寝る。明日もシフト入ってるし」

 

温めたカレーを手に、自室へ向かう背中。

僕はただ、その姿を見送るしかなかった。

だが、部屋の扉が閉まる直前、彼女がぽつりと呟く。

 

「私は、わがままになれない」

 

弱々しい音ともにドアは閉められた。

それが、彼女の選択なら僕は無理強いしない。

なりたくてもなれないのか、最初からそのつもりがないのか、どっちが本心かは他人にはわからないのだから。

ただし、一つ言えることがある。

 

「本物の幸せを掴んでほしい〜」

 

聞き手のいない願いは物静かな居間に同化していった。

 

僕の能力はまだ先がある人間にとってはいくらでも毒になる。

偽物の夢から覚めた後も、現実で苦しみが続くからだ。命からがらで辿り着いたオアシスが幻覚だったーーそんな絶望を味わせるほど趣味は悪くない。死に際の人間に最後の夢を見せるのとは訳が違う。

ゆえに、僕には彼女を幸せにする力はない。

それでも、せめて彼女の幸せを願うくらいなら、許されてもいいだろう。

記憶の中で生き続ける君にそうしたように。




次回から原作突入の予定です。
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