影なき刃   作:洟魔

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お待たせ致しました!

アンケート回答にご協力頂きありがとうございました!!
ヒロインはクリスタ(ヒストリア)に決定します!
なお他の2人やそれ以外のキャラとも関わりは持たせる予定ではありますのでそこも含めて引き続きお楽しみください!


血と灰の街で

 

 トロスト区の空気は、まだ血の匂いで満ちていた。

 巨人を全て駆逐したはずなのに、街中にはまだ、死の影があった。

 焦げた瓦礫と、崩れた壁。道の端には、名前も知らない兵士たちの亡骸が積まれている。

 

「……これで、やっと終わりか」

 誰に言うでもなく、吐き出すように呟いた。

 

 あのリヴァイとの巨人の掃討の後、調査兵団が合流。そして巨人の生け捕りに成功したらしい。生け捕りにされた二体の巨人は拘束され、ハンジという変人めいた兵が狂気じみた目で観察していた。

 だが俺たちの仕事は、その“勝利”の裏側を片づけることだった。――死体の回収。

 

 俺は地下街出身だから、死体を見慣れている。

 だが、それでも胸の奥が冷たくなる感覚は消えなかった。

 瓦礫の隙間に埋もれた仲間の腕、焦げた装備、潰れた立体機動装置。

 どれも、さっきまで息をしていた“誰か”の証だ。

 

 そんな中、妙に静かな影が目に入った。

 アニだった。金髪が煤にまみれ、制服の袖が破れている。

 彼女は誰かの死体の前で呆然と立ち尽くしていた。

 

「……アニ」

 呼びかけても、返事はない。

 近づくと、小さく何かを呟いているのが聞こえた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんな、さい……」

 

 その声は震えていて、まるで壊れかけた人形のようだった。

 俺はそっと肩に手を置いた。

「アニ、もういい。回収は終わった」

 

 彼女は俺を見上げた。

 涙を流しているわけでも、取り乱しているわけでもない。

 ただ、心のどこかが完全に折れているような、そんな目をしていた。

 

「……なんで、こんなことになったんだろうね」

 その言葉に、俺は何も答えられなかった。

 

(なんで、か――そんなの、誰にも分からねぇ)

 

 俺たちはただ、命令通りに戦い、命令通りに人を捨てた。

 “正しさ”なんて、どこにもなかった。

 

「……行けるか」

「……うん」

 小さく頷くと、アニはゆっくり立ち上がった。

 その横顔には、怒りも涙もなく、ただ“空っぽ”だけがあった。

 

 それからどれくらい経っただろう。

 日が落ち、街の片隅に小さな焚き火が灯り始めたころ、俺はようやく息をついた。

 

 すると、背後から小さな声がした。

「……ルカ」

 

 振り返ると、クリスタが立っていた。

 両腕に包帯と薬を抱え、目の下には深い隈。

 それでも、無理やりいつも通りに振舞おうとしていた。

 

「こっちにも怪我人が多くて……薬、足りなくなりそうなの」

「そうか。お前も休め」

「ううん、休んでたら泣きそうになるから」

 

 そう言って、彼女は俺の隣に腰を下ろした。

 焦げた匂いが風に乗って漂う。

 遠くで、誰かが名前を呼んでいる声がした。

 

「……死体の顔、もう見たくないな」

 クリスタが小さく呟く。

「さっき、まだ温かい人もいたんだよ。

 名前を呼んでも返事がなくて……でも、目だけが開いてて……」

 

 言葉が途切れた。

 俺は黙って空を見上げる。

 ――壁の向こうの空は、いつもより赤かった。

 

「……抱え込みすぎるんだよ、お前は」

 俺がそう言うと、クリスタは小さく瞬きをして、それからいつものように柔らかく笑った。

 

「そんなことないよ。怖くても、泣きたくても……みんなが無事でいてくれたら、それでいいの。

 私より辛い人がたくさんいるんだもん。少しくらい無理しなきゃ、誰も救えないでしょ?」

 

 その口調は穏やかで、完璧だった。

 誰にでも優しく、誰も責めない。まるで“聖女”みたいだ。

 だが、俺には分かった。――それは“作られた優しさ”だ。

 無理に微笑んで、誰かの痛みを自分の中に押し込めてる。

 

「それを抱え込みすぎって言うんだ」

 

 俺がそう言うと、クリスタは一瞬だけ目を伏せ、長いまつげの下で唇を噛んだ。

 静かな空気が流れたあと、かすれた声でぽつりと漏らす。

 

「……でもね、ルカ。

 本当は、怖いの。

 誰かを助けられなかったら……自分がここにいる意味がなくなる気がするの」

 

 その一言に、胸の奥がチクリと痛んだ。

 今まで誰にでも見せてきた“完璧な優しさ”とは違う。

 そこには、怯えと、孤独と――ほんの少しの本音があった。

 

「……そんなの、抱えすぎだろ」

「うん。でも、こうでもしなきゃ、私……自分を保てないの」

 

 微笑む彼女の顔は、いつもと同じで――それなのに、なぜか痛々しかった。

 俺は一瞬、何も言えずに彼女を見つめた。

 まるで、壊れそうな硝子を前にしたような気分だった。

 

「……お前さ」

 俺は小さく息を吐いて、目をそらさずに言った。

「優しすぎる奴ってのは、長生きできねぇぞ」

 

 クリスタはくすりと笑う。

「そっちこそ。誰かを守るために無茶するくせに」

 俺は鼻で笑って肩をすくめた。

「俺がそんなことするか。……俺はいつだって自分優先なんだよ」

 

 その言葉に、クリスタは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「……そういうふうに言う人ほど、誰かのために動いちゃうんだよ」

 

 その笑い方が、どこか“いつもの仮面”じゃなかった。

 柔らかいけど、少しだけ本気の色が混じっていた。

 

 ――少し沈黙。

 夕陽が差し込む窓からの光が、彼女の金髪を淡く照らす。

 彼女は少し黙ってから、ぽつりと呟いた。

「ねぇ、ルカ……」

「ん?」

「ルカは……死なないでね」

 

 その一言に、俺は口の端をわずかに上げた。

「……死ぬかよ」

 

 短くそう返すと、クリスタは少しだけ目を丸くして、それからふっと笑った。

「うん……そう言うと思った。じゃあ、私はその“死なない人”を支えるね」

 

 その背を見送りながら、俺は心の中で小さく呟いた。

(お前は少し変わったな……だが、悪くない)

 

 

 クリスタとの会話が終わった後、少しの沈黙が流れた。

 彼女はまだ壁の方を見つめていた。沈む夕陽の光が髪を金色に照らし、その背中がどこか遠く見えた。

 

 俺は軽く息を吐き、腰を上げた。

「……行くわ」

「うん」

 短く答えたクリスタの声は、少しだけ寂しそうだった。

 

 クリスタと別れた後、俺は夕陽の差す廃れた道を一人歩いていた。

 静けさが街全体を包み、さっきまでの喧騒が嘘のように消えている。

 焦げた石の匂いだけが、まだ戦場の名残を主張していた。

 

 ――この静寂の中でようやく息がつけると思ってたのにな。

 そう思いながら瓦礫を避けて歩いていると、

 前方から黒いマントをなびかせて走ってくる調査兵が見えた。

 

「……ルカ・クロイツ訓練兵!」

 大声で名前を呼ばれ、俺は眉をひそめる。

「なんだよ、そんな急いで。俺が何かやらかしたか?」

「エルヴィン団長が貴様を呼んでいる。至急、本部北棟の会議室へ向かえ」

「……団長が? 俺を?」

「命令だ。理由は知らん。すぐに行け」

 

 ぶっきらぼうな口調。けれどそれだけで十分だった。

 どうせ面倒事に巻き込まれるのは間違いない。

「了解……いや、分かった。ありがとよ」

 兵士は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに敬礼して去っていった。

 

 俺はしばらく空を見上げた。

 西の空が赤く燃え、崩れた壁の影が長く伸びている。

「……まったく、休ませる気ねぇな」

 そう吐き捨てて、足を本部へと向けた。

 

 会議室の前に着いた頃には、空はすでに暗くなり始めていた。

 扉の前で深呼吸を一つ。どうせ碌でもない話だ。

 だが、行かないわけにもいかない。

 

 ノックもせずにドアノブを回し、扉を開ける。

 

 中には五人。

 机の中央に座るのは――エルヴィン・スミス。

 隣にはリヴァイ、そして何やら興奮しているメガネをかけた女

 壁際に腕を組んで立つ大柄の男

 そして端の椅子に、疲れ切った表情で座るエレン。

 

 エルヴィンの隣の女が、俺を見るなり目を輝かせた。

「おおっ、君が“ルカ・クロイツ”だね! ねぇねぇ! リヴァイとはどういった関係なの?? 一緒に戦ってたよね!」

 ……テンションが高すぎる。

「誰だお前」

「私は調査兵団で分団長をやってるハンジ・ゾエ! よろしくね!」

 さらに彼女は、隣の大男を親指で指した。

「で、こっちは同じく分団長のミケ・ザカリアス。彼は初対面の人の匂いを嗅いでは……鼻で笑う癖がある。まぁ多分、深い意味はないと思うね!」

「…………」

 紹介が終わるより早く、ミケは一歩前に出て俺の肩口に顔を近づけ、鼻を鳴らした。

「……悪くない匂いだ」

「評価が雑すぎるだろ」

 

 リヴァイはそんな二人を無視して、短く言った。

「座れ、ルカ」

「はいはい」

 椅子に腰を下ろすと、エルヴィンが静かに口を開いた。

 

「ルカ・クロイツ。君を呼んだのは、正式な配属のためだ」

「配属?」

「リヴァイ班への所属を命ずる」

 思わず眉を上げる。

「……なんで俺が?」

 

 エルヴィンは机上の書類をめくりながら言った。

「理由はいくつかある。まずは――その“力”だ」

「力?」

「巨人化したエレン・イェーガーが二十体前後を討伐しているのに対し、君は生身で三十体近くを仕留めている。討伐補佐を含めれば四十にも届く」

「……数字だけ見ると俺が化け物みたいだな」

「化け物で結構だ」とリヴァイ。

「その結果が事実なら、評価は当然だ」

 

 エルヴィンは続ける。

「次に、君がエレンと同期であるという点だ。

 エレンはまだ未熟だ。未知の力を抱え、孤立しかけている。

 同じ立場の者が隣にいることは、彼にとって大きな支えになる」

「……なるほど。見張り兼話し相手か」

「どちらでも構わん。君はそのどちらもできる」

 

 エレンが小さく顔を上げ、こちらを見た。

 怯えの奥に、ほんの少しだけ安堵が見えた。

 

 エルヴィンは間を置かずに言葉を重ねた。

「三つ目の理由――“上下関係”だ」

「は?」

「君は誰に対してもタメ口を使う。それは君の育ちと気質の問題だろう。

 しかし直属の上官に対してまでその口調では、いずれ摩擦が起きる」

「……直すつもりはねぇぞ」

「だからこそだ。リヴァイの下につけば、そうした問題も最小限に抑えられる」

 リヴァイが腕を組みながら口を開く。

「つまり、俺が“矯正役”か」

「“制御役”と言った方が正しいな」

「ふん。悪くねぇ」

「お前ら、人をペット扱いするなよ」

 

 ハンジが横から手を叩く。

「でも確かに、リヴァイの下が一番安全かもね! ルカの性格的に!」

「おい、どういう意味だ」

「褒め言葉だよ?」

「嘘つけ」

 

 その軽口を無視して、エルヴィンは最後の一言を告げた。

「そして――最大の要因は、リヴァイ本人からの推薦だ」

「……お前が?」

 リヴァイは腕を組んだまま、静かに俺を見つめていた。

 しばらく無言のまま、わずかに口角を上げる。

 

「そうだ。俺の隊に置いとくのが一番早いと思った。こいつなら、いざという時に迷わねぇ」

「……へぇ、褒め言葉か?」

「まだお前が死んでないって意味だ」

「ずいぶん回りくどいな」

「それが俺の褒め方だ」

 

「……ったく、素直じゃねぇな」

 俺は軽く肩をすくめ、鼻で笑った。

 そのやり取りにハンジが「いいねぇ、この二人の空気!」と嬉しそうに割り込んでくるが、俺もリヴァイも完全に無視した。

 

 沈黙のあと、エルヴィンが立ち上がる。

「これが我々の結論だ。君に拒否権はない」

「分かってる。……どうせ断るつもりもねぇしな」

 

 立ち上がり、軽く敬礼する。

「リヴァイ班所属、了解。……足引っ張んなよ、上官」

「どの口が言ってんだ」

 

 ハンジが爆笑し、ミケは小さく笑い、

 エレンはその様子を見て少しだけ息をついた。

 

ヒロインは誰がいい?

  • クリスタ(ヒストリア)
  • アニ
  • ペトラ
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