影なき刃   作:洟魔

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お待たせしました。

前話の投稿から一気にお気に入りと評価が増えていったので驚きました。お気に入り登録や評価をしてくださった方、そしてこの作品を読んでくださっている皆様ホントにありがとうございます!



壁外調査③

 

 ───エレンside

 

 空に青色の煙弾が上がった――撤退の合図だ。

 

「どうやら終わったようだ。馬に戻るぞ、撤退の準備だ」

 

 グンタさんが落ち着いた声で告げる。

 

「だそうだ。中身のクソ野郎がどんな面してるか拝みに行こうじゃねぇか」

 

 オルオさんが立ち上がりながら言う。さっき女型に追われてた時とはまるで別人みたいに落ち着いていた。

 

「本当に……ヤツの正体が分かるんですかね?」

 

 俺が言うと、ペトラさんがふっと微笑む。

 

「ええ、エレンのおかげでね」

「いや、俺は特に何も……」

「私たちを信じてくれたでしょう? あの時 “私たちを選んだから” 今があるの。

 正しい選択をするって、結構難しいことだよ」

 

 ペトラさんの言葉に、胸の奥に溜まっていたものが少し軽くなる気がした。

 

 ――その時だった。

 

 エルドさんがふと前方を見つめながら口を開く。

 

「……だが、一つ気になることがある」

「え? 何がですか?」

 思わず聞き返すと、エルドさんは短く答えた。

 

「ルカのことだ」

「ルカが……?」

「今回の捕獲作戦。俺たち後列班は知らされていなかった。

 だが……ルカの動きだけは、明らかに“迷いがなかった”。

 まるで初めから何かを分かっていたようだった」

 

 グンタさんも頷く。

 

「奇行種が現れた瞬間にあの動き……普通じゃねえよ」

「間合いの取り方も、誘導の仕方もな」

 エルドさんの冷静な声が続く。

 

 俺は言葉を失っていた。

 

(……ルカが、作戦を知ってた?)

 

 その時、ペトラさんが「あ……」と小さく声を漏らした。

 

「そういえば昨日の夜、ルカと話したの。屋上で」

「な、何だとおお!?」

 オルオさんが突然爆発した。

 

「夜に!? 屋上で!? 

 ぺ、ペトラ! アイツと何を話したっていうんだ!!」

「ちょっ……! そんな大した話じゃないわよ!」

 ペトラさんは顔を赤くして慌てる。

 

「ただ……その時のルカ、妙に緊張してたの。

 あの時は“初めての壁外調査”だからだと思ってたけど……」

「…………」

「今思うと……

 “この作戦のことを知ってたから”じゃないかなって」

 

 その言い方は、確信に近かった。

 

 グンタさんが小さく息を吐く。

 

「……じゃあ、ルカは団長から何か任されてたってことか」

「誘導役……あるいは囮かもしれんな」

 エルドさんも補足する。

 

 オルオさんはふて腐れたように腕を組んだ。

 

「ハッ……お前ら、あいつを買いかぶりすぎじゃねぇのか? 

 まぁ……俺様ほどじゃねぇにせよ、あいつがやれるのは認めるがな……クソッ、あの野郎……兵長に気に入られるだけでも羨ましいのに更にペトラと夜に屋上で話しただと? 生意気な……

「別に話くらいいいでしょ? 

 それに私は……あの生意気な感じ、弟みたいで可愛いと思うけど? 後、ルカはオルオよりも頼りになるしね」

「ぐはぁぁぁぁぁ……!!?」

 オルオさんは目に見えてダメージを負った。

 

 俺は思わず吹き出しそうになる。

 

(……ルカが作戦を知っていた? 

 いや……あいつなら、あり得る)

 

 あの冷静さ、状況判断、あの行動力。

 どれも今回の“誘導作戦”にぴたりとはまっていた。

 

 もしそうなら――

 

(ルカ……お前、どこまで分かってたんだよ)

 

 胸の奥に、妙な焦りと安心が入り混じった。

 

 それから俺たちは、本隊との合流地点へ向けて巨大樹の森の中を進んでいた。

 立体機動装置の金属音が木々に反響し、風が顔を削るように抜けていく。

 

 その時だった。

 

 ――シュボッ! 

 

 近くの上空に、濃い緑色の煙が弧を描いて昇っていった。

 

「……緑の煙弾!」

 

 緑は“位置知らせ”。

 そしてこの距離、この方角……。

 

「きっとリヴァイ兵長だ! 兵長と合流するぞ!」

 

 誰より早くそれに気づいたのはグンタさんだった。

 彼はすぐさま腰の筒を引き抜き、同じ緑の煙弾を装填して空へ向ける。

 

 ――パンッ! 

 

 煙弾が上空で弾け、鮮やかな緑が広がった。

 枝葉の隙間から、二つの緑の煙が重なるように立ち昇っていった。

 俺たちは進行方向を合わせ、森の奥へと速度を上げた。

 

 森の中をしばらく進んでいると、風切り音に混じって……“もう一つの音”が聞こえた。

 

 ――シュッ……

 

 立体機動の音だ。

 

 俺たちのすぐ横、木々の影からひらりと姿が現れた兵士がいた。

 

 フードを深く被っていて顔が見えない。

 だが、その両手には“刃”が装備されている。

 しかも、あの姿勢……あの速度……ただの兵じゃない。

 

「ん? あれは……」

 

 先頭を走っていたグンタさんが気づいて振り向く。

 

 次の瞬間――

 

「リヴァイ兵長? ……いや、違う! 誰だ!」

 

 焦りの声が森に響いた。

 

 俺も前方にいたそいつを見た瞬間、ぞくりと背中が粟立った。

 

 “違う”。

 あれは兵長じゃない。

 兵長なら、こんな無言で近づくはずがない。

 

 その“兵士”は、こちらを確認した刹那――

 ワイヤーの角度を鋭く変え、一直線にグンタさんへと飛び込んできた。

 

「っ!!?」

 

 速い。

 速すぎる。

 人間の動きじゃない。

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 

 ――ザシュッ。

 

 斜め後ろから無慈悲に伸びた刃が、グンタさんのうなじを斬り裂いた。

 

「グンタさん!!?」

 

 俺の叫びより先に、グンタさんの身体が木々の間を弧を描いて吹っ飛んでいった。

 

 地面に叩きつけられ、微動だにしない。

 

 それは、あまりに一瞬の出来事だった

 

「おい! 止まるな! 進め!」

 オルオさんが立ち止まった俺の背中を押し、前へと放り出してくる。

 

 俺はアンカーを前の樹に撃ち込みながらも、吹き飛ばされたグンタさんから目が離せなかった。

 その間にも“そいつ”は、まるで俺たちの戸惑いを楽しむように、すぐ背後まで迫ってきている。

 

「ちくしょう……どうするエルド! どこに向かえばいい!」

「馬に乗る暇はない! 全速力で本部に向かえ!」

「クソ……ッ、よくも! かかってこい! 刺し違えても倒す!」

 

 先輩たちも必死に頭を回し、この最悪の状況をどうにかしようとしていた。

 

(女型が……そんな……どうしてだよ! 捕まったはずじゃなかったのか!?)

 

 思考が追いつかないまま――

 

 そして、次の瞬間。

 

 ――ピシャァァァァァン!! 

 

 稲妻のような轟音。

 後方の上空に“雷”が落ちたかと思うと、そこに巨大な影が生まれる。

 

 女型の巨人だ。

 

 信じられない速さで再び現れ、俺たちを追い立てるように走り出す。

 

「な……っ!?」

 

 呼吸が止まりそうになる。

 でも――俺には、この状況を打開できる“力”がある。

 

 俺は奥歯を噛みしめ、手を口元へ――

 

「今度こそやります! 俺が奴を――!」

 

「ダメだ!」

 

 巨人になろうとした瞬間、エルドさんの怒鳴り声が俺の思考を叩き落とす。

 

「俺たち三人で女型の巨人を仕留める! エレンはこのまま全速力で本部を目指せ!」

「納得できません! 俺も戦います!」

「ダメだ! これが最善策だ! お前の力はリスクが多すぎる!」

「なんだてめぇ! 俺たちの腕を疑ってんのか!?」

「そうなの? エレン……私たちのことがそんなに信じられないの?」

 

 先輩たちは誰一人として譲らない。

 俺を“このまま逃がす”という判断を変えようとしない。

 

 俺は自分の歯を噛み締めながら、拳を握った。

 

(信じろ……って、そう言ってるのか……)

 

 胸の奥が苦しくなる。

 

 でも――

 

「……我が班の勝利を信じてます。ご武運を!」

 

 俺はそれだけ言って、前を向いた。

 本部へ向けて進むことを選んだ。

 その俺の言葉を聞いた先輩達は安心したような顔をした後に覚悟を決めた表情で後ろの女型に向かって行った。

 

 その決断の未来が絶望とも知らずに……

 

 

 ───ルカside

 

 風を切る音だけが耳に残る。

 木々の間を縫いながら、俺はガスの残量と位置を頭の中で何度も確認していた。

 

(急げ……間に合え)

 

 胸の奥をざらつかせる嫌な予感は、まだ消えない。

 むしろ近づくにつれて、どんどん強くなっていく。

 

 木の幹を蹴り、次の枝へ。

 ワイヤーを打ち込み、軌道を変える。

 視界の端を流れていくのは、巨大樹の森の濃い緑と、まだ薄く漂う蒸気の名残。

 

(エレンが狙いなら、あいつは絶対に一度じゃ終わらせねぇ)

 

 そう考えた直後――

 

 遠くで、雷が落ちたような轟音が響いた。

 

 ――ピシャァァァァァン!! 

 

 俺は歯を食いしばる。

 嫌な予感が、確信に変わった。

 

(来やがった……!)

 

 その方角へ一気に進路を変える。

 ワイヤーの角度を浅くし、速度を殺さずに加速。

 木々の間を抜けるたび、風圧が頬を叩いた。

 

 やがて、前方の木々の隙間から影が見えた。

 女型だ。

 そして、その前方には――エレンと、リヴァイ班の三人。

 

 間に合った。

 だが、状況は最悪だった。

 

 エレンは前へ進み、後方ではエルド、ペトラ、オルオの三人が女型を迎え撃っている。

 すでに一人足りない。

 グンタの姿がない。

 

(チッ……遅かったか)

 

 それでも、まだ終わってはいない。

 俺はすぐに進路を切り替え、エレンのいる方へと飛んだ。

 

 枝を蹴り、ワイヤーを巻き取りながら一気に距離を詰める。

 エレンはまだ前へ進んでいたが、その動きには迷いがあった。完全に置いていくつもりなら、もっと速度が出ているはずだ。

 

 俺はエレンのすぐ横に着地し、そのまま並走する。

 

「エレン!」

「ルカ!?」

 

 エレンが振り向く。顔色が悪い。呼吸も荒い。

 無理もない。目の前で仲間を殺され、しかも女型がまた現れたんだ。

 

「状況は!?」

「グンタさんがやられた! そのあと女型がまた現れて……先輩たちが俺を逃がして――!」

 

 短いが、それで十分だった。

 今の状況は把握した。最悪だが、まだ手はある。

 

 俺はすぐに後方――戦闘の中心へ視線を向ける。

 

 エルド、ペトラ、オルオの三人が、女型を相手に連携を取っている。

 

 その動きは見事だった。

 エルドが注意を引き、ペトラとオルオが左右から目を潰し、さらに肩周りの筋肉を削いでいく。

 女型はうなじを庇い、木を背にしている。

 

(……押してる)

 

 そう思った。

 このままいけば討てる――そう判断しかけた、その時だった。

 

 女型の片目が、ぬるりと開いた。

 

「……ッ!」

 

 嫌な予感が背筋を貫く。

 俺とエレンは、ほぼ同時にその異変を見た。

 

 そして次の瞬間――

 

 エルドが喰われた。

 

 歯が閉じる。

 血が飛ぶ。

 身体が、噛み千切られる。

 

 時間が、一瞬だけ止まったように見えた。

 

(……は?)

 

 思考が追いつかない。

 さっきまで確かに優勢だった。あと一歩だった。なのに――

 

 いや、違う。止まるな。

 

 今、優先すべきことは何だ。

 

 俺は強引に思考を切り替えた。

 エルドはもう助からない。なら次だ。最も優先すべきは――

 

 エレン。

 

 俺はすぐにエレンへ向き直る。

 

「エレン、お前は――」

 

 そう言いかけた時には、もう遅かった。

 

 エレンは半ば正気を失ったような顔で、女型の方へ体を向けていた。

 目の焦点が合っていない。怒りと絶望だけで動いている。

 

「エレン!?」

 

 俺の制止も聞かず、あいつは女型の方へ飛び出した。

 

「おい、待て!!」

 

 叫んでも止まらない。

 クソッ……あいつの性格を考えれば、こうなるのは分かってたはずだろ。

 

 俺は舌打ちし、すぐにエレンの後を追う。

 エレンを追いながら、横目で同時にペトラたちの方へ目を向けた。

 

 ……止まってる。

 

 エルドが殺されたせいで動揺したのか、二人とも明らかに動きが鈍っていた。

 特にペトラはひどい。女型に一番近い位置にいるくせに、まだ体勢を立て直せていない。

 

(このままだと……次に死ぬのはあいつだ)

 

 そう頭では分かった。

 だが、それでも優先すべきはエレンのはずだった。

 

 エレンさえ失わなければ、俺たちにはまだ希望がある。

 なら、このままエレンを連れて撤退するのが最善だ。

 それが正しい判断だ。

 

 ……なのに。

 

(なんでだ……)

 

 胸の奥が、嫌に苦しい。

 

(なんで俺は……エレンじゃなくて、ペトラの方を見てる?)

 

 自分でも分からないまま、身体が勝手に動いていた。

 

 地面を蹴る。

 ワイヤーを撃ち込む。

 ガスを一気に吹かし、エレンを一瞬で抜き去り女型へ向かって軌道を変える。

 

「ッ……!」

 

 踏み潰される寸前のペトラへ、女型の足が振り下ろされる。

 そのわずかな隙間へ、俺は強引に滑り込んだ。

 

 刃を逆手に持ち替え、回転しながら足首から膝裏へと斬り刻む。

 肉を裂く音。蒸気。血飛沫。

 勢いのままさらにもう一撃。足の筋肉を削ぎ、動きを止める。

 

 女型の巨体がわずかに止まった。

 

(今だ!)

 

 俺はその瞬間にペトラの身体を抱えるように引き寄せ、ワイヤーを横の樹に撃ち込んだ。

 一気に距離を取る。

 風が頬を叩き、女型の爪先が空を切るのが見えた。

 

 なんとか、間に合った。

 

 樹の枝に着地して、俺はペトラを支える。

 そのまま女型から距離を保ちつつ、呼吸を整える。

 

(……何やってんだ、俺は)

 

 戸惑いが胸に残る。

 エレンを追うのが正しかったはずだ。

 なのに、気づけばこっちへ飛んでいた。

 

 すると、助けられたペトラが俺を見上げて、微笑んだ。

 

「ありがと、ルカ」

 

 そう言うとペトラは限界だったのか気絶した

 

 その言葉を聞いた瞬間――

 不意に、別の声が頭の奥で蘇った。

 

 

 

『……そういうふうに言う人ほど、誰かのために動いちゃうんだよ』

 

 

 

 ……クリスタの声だった。

 

 思わず、口元がわずかに緩む。

 

(……ふっ)

 

 どうやら俺は、地下から地上に来て随分と弱くなっちまったらしい。

 地下街にいた頃の俺が今の俺を見たら、きっと腹を抱えて笑うだろう。

 

 ……けど。

 

(悪くねぇ)

 

 この胸の苦しさも、勝手に動いた身体も。

 全部ひっくるめて、今の俺だ。

 

(今は……この衝動に身を任せる)

 

 俺は刃を握り直し、女型を睨んだ。

ヒロインは誰がいい?

  • クリスタ(ヒストリア)
  • アニ
  • ペトラ
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